一話 「付き合ってもらえませんか?」
轟音の雨が街に落ちる。
切り裂く風が街を殴る。
飲み込む暗闇が街を包む。
『台風十七号は非常に強い勢力で神奈川県に上陸し、関東を北上中です――』
夜の十時を過ぎたのにも関わらず、ニュースキャスターはテレビの中で繰り返し現状を伝えている。
どの家も雨戸を閉め、窓ガラスを養生して籠る。
そんな中、耕一は自動販売機の前で空を見詰めるクルミを見つけていた。
「クルミ……」
耕一はクルミの姿を見て、動くことができなかった。
想いを壊され、心が壊れたクルミは儚い美しさで包まれる。
満ち満ちた明るさは何処かに消え去り、歪んだ愛が笑顔を磨り潰してしまった。
「……こう、いちさん?」
嘆くことさえ忘れ、現状の認識だけが可能な状態だ。
孤独から救うべきと一歩を踏み出すと、クルミは涙を溢れさせた。
「クルミ!」
駆け寄り小さな体を包む。
熱が感じられない程冷たい体を守るように包む。
「こういちさん……くるみは、くるみはこわれません」
「もう何も考えなくていい……俺が連れ出すから」
小さく短い呼吸音がゆっくりと延びていく。
「だいじょうぶです……くるみはつよいから…………くるみは――」
クルミの全てが頽れた。
◇◇◇
台風が過ぎた九月のある日。
午後三時半。
快晴。
暑さに心まで焼かれてしまいそうになっている男が一人。
詩丘耕一、二十歳。
高身長だから太陽に近くてツライ。
と、わけのわからない理由を脳で構築して太陽に向かって一度中指を立てた。
社会人として働き始めて二度目の夏が終わりを見せるのと同時に、会社からクビを告げられた。
不況。と一言で片を付けられてしまう解雇だった。
その瞬間は項垂れた耕一だったが、会社事情による解雇の為手当は支給され、ひと月かふた月程遊んで暮らそうと思っていた。
久しぶりに外に出たが、趣味も無い耕一にとってはただの散歩と何も変わらなかった。
それよりも暑さで後悔までしていた。
「あちぃなー……台風一過、流石だな」
自動販売機で水を買い、乾いた口を潤して毒を吐いた。
「帰るかぁ……」
目的もなく疲労感だけが残った外出を終わりにしようとアパートに向けて歩き始めた。
「あのっ」
耕一に向けて声が放たれた。
「ん?」
勧誘か何かだろうか? と耕一は振り返った。
そこには赤いランドセルを背負った少女がひとり。
近くの私立小学校の制服、ゆとりのある低めのツインテール。
幼さを残した容姿に、年齢の差以上の老いを感じる。
「付き合ってもらえませんか?」
申し訳なさそうにもじもじとしている。
小学……五年生くらいか? と身長や落ち着き具合から少女の年齢を推察した耕一は優しく返す。
「付き合うって何をしてほしいのかな?」
「一緒に来て欲しいところがあるんです」
美人局。と言葉を浮かべ、小学生相手に馬鹿馬鹿しいと思った。
何かの遊びだろうから暇つぶしに丁度良いと耕一は引き受けることにした。
「わかった、いいよ」
「ありがとうございます」
快諾を受け、ぴょんと跳ねるように一歩目を踏み出した少女の後を追う。
ふと送られた視線に哀愁を感じ、唇が小さく震える。
世界は何も知らず、気付かず、変わらず……いつも通り回る。
こんにちは、
下野枯葉です。
読んでくださりありがとうございます。
まだ読んでいない方は、是非読んでみてください。
『胡桃割人形』とタイトルを付けて、クルミという少女を登場させる。
なんのギャグだよ。
と突っ込みたくなってしまいますが、この作品を描いた理由が果実で一作品作りたいという
単純な気持ちからできたからです。
本来はギャグ作品を描くつもりだったんですが……。
ちょっと変わりました。
耕一とクルミが『人間関係』をテーマに生きていきます。
下手クソな文で描く作品ですが、気に入って頂いたら今後も読んでください。
基本的に週に一回投稿をしていますのでよろしくお願いします。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。