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その日の夜~フェリシティの場合~

 



 フェリシティ・グレース・テイラーは悩んでいた。



「うーん。やっぱりこっちかな? いやちょっと地味? じゃあやっぱりこっち? ちょっと派手? んー」



 鏡の前に立ちながら、両手に掴んだ2種類の服を交互にあてがう。こんな状況はかれこれ30分以上は続いている。

 ただ、夕食の後からクローゼットを漁り、この2択にまで絞り込むまで約2時間程。そう考えると、幾分かましなのだろうか? 



「うぅ……いつもならフィーリングでパパッと決めれるのに……」



 いずれにせよ彼女自身、服装の事でここまで迷うのは初めての事だった。

 嬉しさと緊張と不安。それらが入り混じる程、拓都とのデートはフェリシティにとって大きな意味を持っている。



「はっ、初めてのデートってなると……決められないよぉ」


「うーん。そっ、そうだ! アリスお姉ちゃんに相談しよう!」



 そう呟くと、フェリシティは急ぎ足で部屋を後にし、真向かいのドアをノックした。



「夜遅くにすいません。今良いですか?」

「ん? フェリス? どうぞー」



 そして聞こえて来た返事を確認すると、ゆっくりとドアを開け部屋の中に。

 そこに居たのは……



「なんかあったのー?」



 ベッドに座る女性の姿。

 するとフェリシティは一目散にその人の前へ歩み寄ると、藁をもすがる様に口を開いた。



「アリスお姉ちゃん! こっちとこっち、どっちが良いですか!?」

「ちょっと、いきなりどうしたの? 服?」


「はい。どっちが良いと思いますか?」

「どっちって……服のセンスならフェリスの方が断然上じゃない? てかむしろ、いつも私が服のコーディネートお願いしてるのに、逆パターンって!」


「そんな事ないの! 大人の女性として、アリスお姉ちゃんの意見を聞きたいの! 決めてもらいたいの」

「えぇー! 本気で言ってるの?」



 ベッドに座り、慌てふためいている女性。

 彼女の名前は不思木(ふしき)アリス。フェリシティがお世話になっている不思木家の一員だ。

 とはいえ、その髪色はもちろん、顔の雰囲気はフェリシティと似ている。

 隣に並べば、まさにお姉ちゃんだと言われても自然なほどに。


 従姉同士なのだから、なんら不思議はない。ただそれでも、親しみを込めてフェリシティはアリスをお姉ちゃんと呼んでいる。

 まぁ幼い頃にアリスがそう呼んで欲しいとお願いしたのが始まりなのだけど。



「本気だよ! 教えてよぉ」

「あなたがそんなに混乱するなんて……はっ! もしかしてデート!?」


「えっ!? ……うぅ」

「くぅぅ。顔赤くしちゃってぇ。何なに? 算用子君と? やるねぇ」


「かっ、からかわないでよぉ」

「ふふっ、ごめんごめん。そういう事か。だったら、あんまり参考にならないお姉ちゃんだけど、頑張るぞっ!」

「ほっ、本当!? ありがとう」



 ちなみに、アリスがなぜ拓都の事を知っているのか。それには理由がある。

 1つは彼女の勤務先。彼女の勤務先は黒前高校。そこの保健室で養護教諭として働いている。つまり、生徒である拓都の事は知っていると言う訳だ。


 そしてもう1つ。アリスとフェリシティは従姉だ。つまり幼き日にフェリシティがここ黒前で経験した事は、直接耳にしている為知っている。

 そして何を隠そう彼女こそ、フェリシティに【大事な人にするお願い・約束】を教えた張本人なのだ。


 だからこそ、余計に記憶に残っていた。

 だからこそ、フェリシティがその約束を果たす為に日本に来ると言った時は喜び、自分の両親を説得した。


 そして彼女は知っている。

 フェリシティがどれだけ拓都を思っているのか。


 そして彼女は知っている。

 高校に入学してからの拓都の行動や人柄、独自に調査をした結果……悪い評判もなく、クラスメイトや先輩後輩に好かれている好青年だという事を。


 そんな若い2人の恋路を応援したい。

 本当の妹の事に、アリスの心は昂っていた。



「ありがとう! じゃあどっちが良いかな?」

「えっと? シャツにパンツスタイルかぁ、フェリシティにはバッチリだけど高校生かと言われると大人び過ぎてるかな?」


「だよねぇ?」

「こっちはカットソーにスカートかぁ……ちょっと上半身のシルエットが目立ち過ぎないかな? それに脇もちょっと開いてる。フェリスはおっぱい大きいし、たぶん算用子君の視線が大変な事になると思うよ?」


「えっ? そっ、そうかな?」

「あなたねぇ? 女優さんしてたんなら自分の体の特徴ぐらい覚えなさいよ? てか少し分けてもらいたい位よ」


「でもアリスお姉ちゃんは身長高いし、胸も形が綺麗でお尻のラインもスラッとしてるじゃない」

「はぁ……男の子は大きい胸と大きいお尻の方が好きなのよ? って、言わせないでよっ!」


「ほっ、本心だよ?」

「ふふっ、ありがとう。どうせなら敢えて武器にするのも有りか? でも初デートで攻めすぎは良くないから……」


「どっ、どっちかな?」

「……よしっ、今から買いに行くよっ!」


「えぇ!?」

「駅前はデートするかもしれないからダメだとして……うん。車で行けば友達がやってるブティックなら大丈夫」


「でっ、でも……」

「なぁに言ってるの? 早く行くよ? それに参考の意見は多い方が良いのよ。準備しなさい?」


「ほっ、本当に良いの?」

「もちろん! 可愛い妹の為に頑張らせてちょうだい?」


「あっ、ありがとう……アリスお姉ちゃん」

「ふふっ。あっ、そうだフェリス?」


「うん?」

「どうせならランジェリーも見る?」


「ラッ、ランジェリー?」

「いや、ほら万が一……」



「おっ、お姉ちゃん!!」」



 フェリシティ・グレース・テイラー。

 そんな彼女の1日は、まだ……終わる気配を見せない。




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