世界に愛を教えなかった神様のお話…を、何度も繰り返し読む令嬢のお話
神様は世界を作った。
独りぼっちは寂しかった。自分とそっくりの姿の生き物を作った。
神様は自分とそっくりの生き物を人間と名付けた。
神様は人間に「知恵の実」を食べてはならないと告げた。
人間は頷いてみせた。神様に絶対の忠誠を誓った。
…ある日から人間に変な感情が芽生えた。
人間は神様にその感情がなんなのか問う。
神様は決して答えを教えなかった。
蛇が人間を唆した。
「その感情がなんなのか知りたいのなら林檎を食せ」
人間は知恵の実を食べた。
人間は愛を知った。
神様はそれを知って絶望した。
人間が愛を知らなければ、自分だけが愛を知っていれば、独りぼっちになることはないはずだったのに。
神様の想像通り人間はお互いだけを愛するようになった。神様はまた独りぼっちになった。
「…。知恵の実、ね」
本を読んでいた手を止める。私にとってはこの感情そのものが知恵の実だ。
「レイチェル様?」
「なんでもないわ。気にしないで」
従順な執事。愛おしい人。決して私のものになってくれない人。
この感情を齧ってしまったから、私は平穏な楽園から追放された。優しい両親、頼りになる兄、従順な執事、公爵令嬢という立場、溢れるほどの富。満たされていたはずなのに、この感情のせいで決して満たされない愛の飢えに苦しむことになった。そこはもはや楽園ではなかった。
「…」
「マリッジブルー…というものですか?大丈夫。私がついております。どこへでも、私がお供致します」
私は明日とある侯爵令息と結婚する。けれど、彼は私が結婚してからもずっと私に仕えることになっている。私はきっと、一生何も知らない彼に囚われ続けるのだろう。想いを告げることすら叶わないまま、一生。
「さあ、明日は早いですよ。もう寝ましょう」
「わかったわ」
楽園を追放された始めの人間は、愚かだったのだろう。では、独りぼっちになった神様は、愚かだったのだろうか?私には、もう何もわからない。
ただ、始めの人間は楽園を追放されたが愛を手に入れた。神様は、独りぼっちになったが今度は信仰を得た。私には何もない。この愛という痛みしかない。…ああ、どうして。
そうして私は目を瞑る。明日が来ないことを祈りながら、全ての感覚を遮断した。




