第九話 サバイバル
青い海。白い雲。眩い太陽。
麟太郎、炉薔薇、なじみ、れいは、夏休みにリゾート地の島へバカンスに行く事になった。
ヘリコプターに乗る四人。
「……凄い、もうあんなに遠くに……」
「あたし、ヘリコプターに乗るの初めて!」
「あら、庶民は大変ですわね」
「今日は誘ってくれてありがとう、悪八九さん」
「いいえ、とんでもありませんわ! オマケが着いて来たのが少し残念ですけれども」
「オマケって何よ、オマケって!」
「オマケではなく、ご主人様のメイドです」
炉薔薇は黒いオーラを纏った。
──その瞬間、ヘリコプターがガクンと傾いた。
『エマージェンシー、エマージェンシー!』
警告音が鳴り響く。
「なっ、何ですの!?」
「きゃーっ!」
「ご主人様、大丈夫ですかご主人様!」
「だ、大丈夫じゃないー!」
パイロットによると、緊急事態のようだった。
「仕方ありませんわ、背中にパラシュートがあるでしょう? ギアの底にある丸いハッキーを引っ張ると開きますの!」
「こ、これ!?」
「一人ずつヘリから降りて、パラシュートを開きますのよ! さあ、麟太郎さんから行ってらっしゃいませ!」
「えっ!? ぼ、僕から!? ──うわああ!」
四人は次々とヘリから出てパラシュートを開き、小さな島へと降りて行った。
────
目が覚めると、目の前は海。
どうやら、無人島に着地したらしい。
「……! 炉薔薇さん、なじみ、悪八九さん!」
「う……ん」
どうやら四人は無事だったらしい。
「ご主人様! よかった……ご主人様の身に何かあったら、私……」
「みんな無事で何よりですわ……」
「……電波は通じない、か。お約束だな……」
「ちょっとこれ、どうなってんの……!」
どこまでも続く地平線と空。
「……まずは水と食料の調達、かな」
「凄い、何かそれっぽいわね……!」
「ナイフなら、いつも持ち歩いています……!」
「ナイスだよ炉薔薇さん! 後はのろしとして焚き火も出来るといいんだけど」
「見たところこの無人島は植物が多いから、水が土壌に蓄えられてるはずだ」
麟太郎は地面に穴を掘り、流れ着いていた空のペットボトルとビニールシートと石を組み合わせて、装置を使った。
「……何、これ?」
「この辺の土は湿ってるから、水蒸気を集められる。この石が重りになって、切ったペットボトルに水が溜まる仕組みなんだ」
「す、凄いですわ!」
「ご主人様、天才では……!」
「ははっ、全部ゲームの知識だけどね」
「凄いじゃない! で、どの位待てばいいの?」
「えっ? そ、それは……」
ゲームではすぐにクリアになって、詳細は分からなかった。
「何よ、もしかして何日も待たないと行けないの!?」
「うう……ごめん」
────
次は焚き火を作る事になった。
「はい、麟太郎! 木の枝、いっぱい集めて来たわよ!」
「ごめん、あんまり湿ってると火がつかないんだ。乾いてるの探してくれないかな」
「そうなの? もう、せっかく集めたのに……」
「どのような大きさの物がいいのかしら?」
「細めの枝と、太めの枝があればいいかな」
「ご主人様、持って来ました♡」
まずは細い枝を集め、ナイフの火花で火をつけた。
「まずは細い枝に火をつけると、空気の通りがいいんだ」
「ご主人様、偉いです♡」
「へぇー……あんた、結構やるじゃない!」
「空気が通ると火が燃えやすい訳ですわね!」
その次に、太い枝をくべた。
焚き火は見事成功し、のろしが上がった。
────
次は食料を調達する。
「ご主人様、ジャングル的な場所にバナナがなっていました!」
「凄いよ炉薔薇さん! これで食料は大丈夫だ」
「やりましたわ! これで食事にありつけますわね!」
「もうお腹ペコペコー!」
四人はバナナを貪り、その甘味に感動した。
「バナナがこんなに美味しいなんて……!」
「うちのシェフのスイーツと同じくらい、美味しいですわ……!」
「お腹が満たされていくこの感覚……!」
────
次は寝床作りだ。
「ごめん、寝床の作り方はゲームで無かったから分からない……」
「何よ! 使えないわね!」
「葉っぱを敷いてそこで寝るのはどうでしょうか?」
「あーん、お家のベッドが恋しいですわ!」
ヤシの木の葉っぱを沢山敷いて、ギリギリ寝れるくらいの柔らかさになった。四人はそこで寝そべる。
空はすっかり夕暮れに染まっていた。
「……今頃、使用人達はわたくしを探しているのですわ……」
「のろしも立てたし、きっと見付けてくれるよ」
「私は、ご主人様と一緒なら永遠にここでもいいのですよ……?」
「えっ……?」
「まあ、あたしも学校面倒くさいし、あんたといれるならここでもいいわ」
「まあ、それってロマンチックですわ!」
(ロマンチックなのか……?)
しばらくの間、四人は夕日で煌めく地平線を眺めた。
「それにしても、色々あって疲れたな……ん?」
三人に目をやると、疲れからかすやすやと寝息を立てていた。
(──無理もないか)
麟太郎も、今日は眠る事にした。
────
「……様……」
「お……様……」
(何だ……? 騒がしいな……)
「お嬢様ーっ!」
空は真っ青。彼方遠くから、れいの使用人が駆け寄って来た。
「まあ、セバスチャン! どうしてここに!?」
「はあ、はあ。探しましたぞ! まさかリゾート地のの島の裏側で遭難しているとは。ご無事でなにより!」
「え!?」
「「リゾート地の島の裏側!?」」
四人は声を合わせて言った。
「なによ……、それ」
「そんな事が……」
「……無人島じゃなかったんだ。ちゃんと歩いて確認すればよかった……」
次第に、へなへなと力が抜けて行った。
(でも、ご主人様がご無事でよかった……)
炉薔薇はニッタリと笑い、麟太郎の手に自分の手を重ねる。
夏休みの思い出は、何ともしょっぱい物となった。