第八話 花火大会
「お待たせしました、ご主人様♡」
ニッタリと笑う炉薔薇は浴衣姿。そう、今日は花火大会だ。
清楚な雰囲気の朝顔が描かれた紺色の浴衣で、長い髪は後頭部で纏めてお団子にしており、うなじが見えてなんとも色っぽい。
浴衣は、今日のために麟太郎がプレゼントした物だ。れいに着付けしてもらった。
「うわあ、よく似合ってるよ!」
「なによその浴衣、可愛いじゃない!」
なじみの浴衣は可愛らしい薄い水色で、百合の花が散りばめてある。髪型はいつものツインテールだ。
「あら、わたくしも負けてなくってよ?」
れいの浴衣は白地に紫陽花が描かれた物だ。美しいカールヘアは、今日はポニーテールで纏っている。
「みんなも凄く綺麗だ」
「はぁ!? お、お世辞なんかいいわよ!」
なじみは分かりやすく赤面した。
「うふふ♡ 当然ですわ♡」
れいは自信満々だ。
「それより麟太郎、あんた喪中でしょ? 花火大会って、いいの?」
「色々調べたんだけど、四十九日は過ぎてるから大丈夫って。それに、一度炉薔薇さんに見せたかったからね」
炉薔薇は花火大会が初めてだという。
「花火ってその、手で持つ奴しか見た事なくてですね……大きい物はテレビでなら見た事あるんですけども」
「それは見たとはいいませんわ!」
「すっごい綺麗なんだから、ビックリして腰抜かさないでね!」
「大きな花火を見たら、たまやー! かぎやー! って花火屋の名前を叫ぶのですわよ!」
「えっ、たまやって花火屋の名前なの?」
「ちなみに花火一発、20号玉で80万しますのよ」
「ひえー、ブルジョアね」
────
花火大会会場へ来た四人。屋台が立ち並び、提灯の灯が夜を包む。
「まだ時間あるから、屋台でも回ってみようか」
「はい、ご主人様!」
「射的しよ、射的!」
「負けませんわよー!」
なじみのリクエストで射的から挑戦。
「よーく見てなさいよ……、どりゃあっ!」
次々と的を倒していく。
「やっぱりなじみは、昔から射的が上手いな!」
「ほら、あんたもやりなさいよ!」
「分かった分かった、……とうっ!」
的を外れ、店長に跳ね返った。
「痛えな!?」
「す、すみません!」
「あはは! あんた才能よ今の、あっはは!」
二人がイチャついていると、炉薔薇が銃を構えた。そして的を狙い──
物凄い勢いで全ての的を破壊した。なじみはぱくぱくと口を開けて呆然としている。
「……ふう。ご主人様を盗ると、どうなるか……お分かりですね?」
銃をかかげ、煙を息で吹く。
「あ、あんた何者……。この辺じゃあたしが一番射的が上手かったのに……」
二人は恐れ慄いた。
────
お次は金魚掬い。
「金魚ってヌルヌルしていて、ちょっと苦手ですわ……それっ!」
金魚は見事ポイの上に乗った。
……所まではよかったが、勢い余って浴衣の中に入ってしまった。
「きゃあ! ああん! いやぁん!」
突然色っぽい声を上げて体をくねらせるれいを見た周りの人は、皆赤面した。
「お、落ち着いて! えっと、どこかな……」
麟太郎は周りの目を気にして、金魚を取ろうとれいの豊満な胸元をまさぐる。
「あっ、麟太郎さん! そこはダメぇ♡」
「えっ? ご、ごめん!」
そうすると、ぴょんと金魚が胸元から飛び出し、水槽の中へと戻った。
「──何をしているのですか、ご主人様?」
炉薔薇はポイを力一杯握りしめ、変形させていた。
「ち、違うんだ! これは誤解で……」
「私という存在がありながら……ご主人様、許しません……」
ゴゴゴと黒いオーラを纏う。
「あっ、そうだ! たこ焼き奢るよ。ねっ?」
そう言うと、炉薔薇は瞬く間に顔が明るくなった。
「たこ焼き……!」
炉薔薇は満足そうにたこ焼きを頬張る。
────
騒めく会場。
「そろそろ花火が始まる時間だね」
「ちょっと混んできたわね……麟太郎、手繋いであげるわ!」
「麟太郎さん、炉薔薇さんはどこに行きましたの? 見当たらないのですわ」
「えっ!?」
確かにいない。さっきまで近くにいたのに、人の海に飲まれてはぐれたのかもしれない。
「炉薔薇さん、炉薔薇さん!」
ざわざわと騒がしい周りの声に混ざり、炉薔薇に聞こえそうになかった。
── 一発目の花火が打ち上げられた。
「麟太郎、花火始まっちゃったわよ!」
花火も見ずに炉薔薇を探す。
「炉薔薇さんと一緒に見ないと、意味ないよ!」
「麟太郎……」
────
一方その頃、炉薔薇は一人で迷子になっていた。
(うう、一人で花火なんて、悲しい……ご主人様、どこにいるんですか!?)
今にも泣き出しそうな顔だ。
(このまま一生会えないんですか……!? ご主人様……!)
「ご主人様ーっ!!」
花火にも負けない大きな声で、麟太郎を呼ぶ。
が、周りの人が不思議そうな顔でガン見している。
「何だ? この子……」
「ご主人様……?」
「変な子ねぇ……」
「あっ……いえ、その……。た、たーまやー」
れいから教わった知識を活かして誤魔化した。
────
「今、炉薔薇さんの声が聞こえた! こっちだ!」
「麟太郎さん、はぐれてはいけませんわよ!」
(体調が悪くなって倒れた? 変な男に声をかけららた? とにかく、心配だ)
しばらく人をかき分けて探すと、炉薔薇がしゃがみ込んでいるのを見付けた。
「炉薔薇さん! 大丈夫!?」
「ご、ご主人様ぁ……!」
炉薔薇はぽろぽろと涙を流していた。
「よかった、見付かって! ほら、一緒に花火見よう!」
「心配したんだから!」
「ご体調もよさそうでよかったですわ!」
四人は夜空を見上げ、打ち上げられる花火を見た。
「きれー……です」
ドン、という音と共に炉薔薇の真っ黒な瞳に花が咲いた。
「炉薔薇さんと見れてよかった……」
「ご主人様……」
炉薔薇は麟太郎をぎゅっと抱き締めた。
「あっ! 抜け駆けはずるいわよ!」
「わたくしも、ぎゅっ!」
「こらー! 離れなさいっ!」
四人は抱き合った後、もう一度花火の上がる夜空を見上げた。