第七話 遊園地
インターホンが鳴る。炉薔薇が門を開けた。
「はい、どなたでしょうか……、あっ」
「よっ! 久しぶりだね、炉薔薇ちゃん♡」
そこに立っていたのは、伊江出るのだった。
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「いやー、久しぶりだね! この前泊めてもらったお礼にシュークリーム持って来たんだ。お金持ちの舌に合うか分からないけど、ボクのお勧めさ」
そう言うと、綺麗な箱が入った袋を手渡した。
「うわあ、ありがとう! そんな、いいのに」
「ううん、このままじゃボクの気が済まないからさ。受け取ってよ」
「伊江出さん、ありがとうございます」
「炉薔薇さんも一緒に食べてね!」
「! ありがたく頂戴させていただきます……!」
「あ、それと……」
るのはポケットを探った。
ポケットから出て来たのは、二枚の遊園地のチケット。
「えっ……チケットまで、いいの?」
「遊園地なんて子供っぽいかなーとも思ったけど、きっと恋人と二人で行ったら楽しい物だよ」
「いや、だから恋人じゃなくて……!」
「♡」
炉薔薇は麟太郎の腕をぎゅっと抱いた。
「じゃ、お幸せに!」
るのはそう言うと、手を振って行ってしまった。
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次の日曜日。
賑やかな声。カラフルなアトラクション達。二人は遊園地に遊びに来た。
「炉薔薇さんの私服、久しぶりに見た気がする……。とっても似合ってて可愛いよ」
炉薔薇は今日のために買った白のワンピースを着て来た。オフショルのパフスリーブが可愛らしく、清楚な感じが炉薔薇に似合っている。
「うふふ……ご主人様ったら……。ご主人様も、シンプルな服装がご主人様の全てを引き立てていて……その、カッコいいです!」
麟太郎の服装は、シャツにジーパンだった。実にラフである。
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二人はまず、近くの回るティーカップに挑戦した。
「うわー! ごめん、ちょっと回し過ぎた!」
「ごっ、ごしゅ、ご主人様がよく見えません……!」
炉薔薇は蚊取り線香のように目をグルグルに回している。
二人はフラフラになりながら、ティーカップから降りた。
「はあ、はあ、はあ……」
「ごめん炉薔薇さん、大丈夫……?」
「ら、らいりょうぶ、れす……」
二人は肩で息をした。よろよろと歩いて行く。
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次はジェットコースターに挑戦。
「子供向けのミニコースターだから、今度は大丈夫だと思うよ」
炉薔薇は震えていた。
「……ごめん、大丈夫? 無理そうなら一人で乗って来るけど」
「いえ、ご主人様と一緒でしたらどんな乗り物も大丈夫です……!」
(これからの人生、二人で歩んで行くんですからこの位……!)
二人はジェットコースターに乗り、レバーを下げられた。
「それでは行ってらっしゃーい!」
スタッフがそう言うと、ジェットコースターは結構な速度で動き出した。
「早っ!?」
「ひっ!」
子供向けのミニコースター。見てる分では分からないが、意外と最初から早かったり、レールが短いからかして何周もする物が多い。
「うわー!」
「……! ……!!」
炉薔薇は声を上げる事すら出来なかった。
しばらくして、二人はジェットコースターを降りた。
「……ごめん、こんな速いとは思わなくて……しかも5週もするとは……」
炉薔薇はぜえぜえと息を切らし、瀕死状態だった。
「ちょっと飲み物でも買おうか──」
すると、炉薔薇は突然目の色を変えて一直線に走った。
「ご主人様、これ! 次はこれにしましょう……!」
「え」
炉薔薇が目をキラキラさせて指差したその先は──お化け屋敷だった。
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お化け屋敷に入った二人。暗く冷たい空気に、肩を寄せ合う。
「……炉薔薇さん、こういうの……好きなの?」
「ふふふ……大好きです……。はあ……堪らない……」
炉薔薇はうっとりとした目で血塗れのドクロを見て、深くため息をついた。
「僕はその……、どっちかと言うと苦手なんだけど……うわっ!」
「ォオオオン!」
お化けが物陰から飛び出し、炉薔薇へ襲いかかる。
「きゃああ! こ、怖い! 凄い! ちゃんと怖い! 素晴らしい……!」
炉薔薇は顔を赤らめ、恐怖に感動していた。
そのよく分からないリアクションに、お化けも困惑する。
(僕は何を見せられてるんだ……?)
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二人はお化け屋敷から出て来た。
「うふふ……いい収穫でしたね、ご主人様……♡」
「う、うん、そうだね……」
(よく分からないけど、話を合わせておこう……)
空は夕暮れに染まり、観覧車のライトアップが始まっていた。
「そうだ、ご主人様。最後に観覧車に乗りませんか? そうしましょう!」
「うん、それいいね!」
(ともあれ、ヘトヘトだった炉薔薇さんが元気になってよかった)
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二人は観覧車に乗った。ゆっくりゆっくりと回っていく。……そろそろ頂上だ。
遊園地は夕暮れで赤く染まり、地平線に見える海はキラキラとオレンジ色に輝いていた。
「わあ……綺麗だね、炉薔薇さん」
「そんな、いきなり綺麗だなんて……。ご主人様ったら……♡」
炉薔薇はニッタリと笑い、照れた。
(夕日の事を言ったんだけど……。まあ……)
確かに夕暮れに染まった炉薔薇も、普段は真っ黒な瞳がキラキラと輝いていた。
(炉薔薇さんも綺麗だけど)
「ご主人様……」
「? ……うわっ!」
炉薔薇は、ドサッと麟太郎を押し倒した。
「うふふ……、もう逃がさない……。ご主人様……♡」
炉薔薇はニタリと笑い、麟太郎のシャツのボタンに手をかける。
「えっ!? ちょ、ちょっと!?」
次は、自分の服に手をかける。するりとオフショルダーを下げ、下着が露わになる。
「待って待って、炉薔薇さん!」
「ずっと、こうしたかったんです……。ご主人様……」
炉薔薇はうっとりとした表情で、自分の顔を麟太郎の顔に近付ける──その瞬間。
「……お客様、他のお客様のご迷惑になるので、そういうのはちょっと……」
「!!」
観覧車はいつの間にか、頂上から真下まで回っていた。降りる順番だったのだ。
他のお客さんは二人をガン見していた。
「ママー、お姉ちゃん達何してるのー?」
「シッ! 見ちゃいけません」
二人は身を隠すかのように、そそくさと観覧車を降りた。
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「……炉薔薇さん、大丈夫?」
「……」
炉薔薇はあまりの恥ずかしさで、数週間立ち直れなかったらしい。