第四話 家出少女
6月、梅雨。外は雨が土砂降りだ。
そんな時インターホンが鳴り、炉薔薇はお風呂掃除中で、麟太郎が門を開ける。
「はい、成木です。どなたですか?」
「ボクは伊江出るの。しがない家出少女さ」
茶髪のぱっつんショートヘア。雨で濡れて、Tシャツからは下着がスケスケだった。──水色の縞模様。
「!?」
「あはは、ごめんね、傘壊れちゃって。どうせお邪魔するなら豪邸がいいでしょ? ちょっと雨宿りさせてもらえないかな」
麟太郎の目は避けた下着に釘付けだった。
「興味ある? 代わりに何でもしていいよ。エッチでもいいし」
「ご、ごめん! そんなつもりじゃなくて、ただ、びっくりして」
「ボクみたいな子じゃ嫌か。はは」
お風呂掃除を終えた炉薔薇がメラメラと燃えていた。
「可愛い恋人がいるみたいだしね」
炉薔薇はとたんにニコニコになった。
「でもボク、キミになら何されても逃げないから」
こそっと耳元で囁く。麟太郎は心臓が跳ね上がった。
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「ごめん炉薔薇さん、早速だけどお風呂沸かしてくれない? 風邪ひいたら大変だから」
「いいよいいよ、自分で出来るから。宿を借りてる身な訳だしね」
「明日は晴れですし、一日干せばお洋服も乾くと思います」
「はいはーい、ボクが干しまーす!」
るのは洗濯物をついでにみんな干し、お風呂を沸かして入った。
(知らない女の子が自分の家のお風呂に入ってるって、何か変な感じするな……)
もんもんと変な事を考えていると、るのはお風呂から上がってきた。
「……何お風呂の前でニヤついてるんだ? あ、もしかして覗いてたかー?」
「ち、違う! トイレに行く途中だっただけで……」
「じゃあ立ち止まってないで、さっさと済ませなよ!」
るのは麟太郎の背中を叩き、手をひらひらさせてリビングへ向かった。
──炉薔薇は影から見て、メラメラしていた。
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「うん、すっごく美味しいよ! 久しぶりにちゃんとしたご飯が食べられたね」
麟太郎は体が温まるようにとポトフを提案し、悪いからとるのが炉薔薇と一緒に作った。
炉薔薇は、誰にでも優しい麟太郎にモヤついていた。
(ご主人様、誰にでも優しいから勘違い女が惚れちゃう……そんなの、絶対ダメです!)
「居候の分際で……」
炉薔薇は聞こえないようにぼそり、と呟いた。
「ん? 何か言った?」
「……伊江出さん。ご主人様が困ってるので、身を引いていただけませんか?」
「別に僕、困ってな……」
炉薔薇は果物ナイフでリンゴを真っ二つにした。
──目がやばい。
しばらくすると、るのは笑い出す。
「あはは、あっははは! 大丈夫だよ炉薔薇ちゃん。ボクはどっちかというと主人公より、炉薔薇ちゃんみたいな子がタイプだし」
「!?」
二人は、固まった。
「髪も長くて綺麗だし、顔も可愛い。ボクのお嫁さんになってほしいな」
予想外の事に赤面する炉薔薇。
「か、考えておきま……じゃなくて! 私にはご主人様がいるんです! 一生仕えるのが私の使命なので」
(メイドは別に一生仕えないだろ……)
麟太郎は心の中で突っ込んだ。
「家事もできるし、主人思い。いいね、大事にしてやりなよ? ご・主・人・様」
「わ、分かってるよ」
「ご主人様……!」
炉薔薇はキラキラと目を輝かせてニッタリ笑った。
────
翌日。土砂降りが嘘だったかのように空は晴れ晴れとしていた。
「じゃあボクはこの辺で。またいつかこの日のお返しをするよ!」
「うん、元気でね!」
「風邪をひいてはダメですよ!」
「じゃあ、今世はダメだとして、また来世でね。炉薔薇ちゃん?」
炉薔薇の耳で囁く。炉薔薇は耳まで真っ赤になってわなわなと震えた。
「……凄い子だったね」
「……ええ」
二人はるのの背中が小さくなるまで見送った。