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第一話 メイド

挿絵(By みてみん)


 両親が死んだ。事故だった。

 成木麟太郎なりきりんたろう、16歳にして天涯孤独の身になる。


 遺産は膨大だが、一人で住むには広すぎる豪邸。

(誰でもいい。誰か、僕のそばにいてほしい……)

 麟太郎は、住み込みの家政婦を雇う事にした。


 ────


 インターホンが鳴る。麟太郎は門を開けた。

「……あれっ!」

 そこに立っていたのは──黒く長い髪に、吸い込まれそうな真っ黒な瞳。口元は三日月のようにニタリと笑い、頬を赤らめている。……麟太郎のクラスメイトだった。

炉薔薇ろばらサキ……さん?」

「うふふ……こんにちは♡」


(クラスで目立たない炉薔薇さん! 確か……僕の後ろの席だった気がする。いつもニヤニヤしてて怖いからちょっと苦手なんだよな。それより、何で僕の家を知って……)


「麟太郎くん。家政婦って、まだ募集してますか?」

「ああ、えっと、してるけど。何か用?」

 炉薔薇はじっと麟太郎の顔を覗き込み、ニヤリと笑った。


「私を……メイドにしてくれませんか?」


 !?


「え、え、えええっ!?」


 ────


「……で、どうして急に家政婦……、メイドに?」

 炉薔薇は俯き、手をもじもじとさせた。

「それが、……その」

 しばらくの間、沈黙が流れた。


「私、家ではいつも怒鳴られてて……“役立たずは出て行け”って言われるんです。産むんじゃなかった、とか。恥晒し、とか」

「それは……児童相談所とかに連絡した方がいいよ!」

 児童相談所は18歳以下対象なので、ギリギリセーフだ。

「ううん……悪いのは私。私が出て行けばいいんです。それに、麟太郎のお役に立てるなら……私、何でもします! だからお願いです。私をメイドにしていただけませんか!」


 今ここでメイドとして採用しなければ、炉薔薇は酷い家に逆戻り。また虐待されるだろう。いくら炉薔薇が苦手であっても、麟太郎にそんな事はできなかった。


「うん、炉薔薇さんは……ここにいていいよ」

(それに、今は……誰でもいいからそばにいてほしい)

 炉薔薇は顔を赤らめ、ぱああと明るくなった。


「では、早速自前のメイド服に着替えてきます!」

「えっ、じ、自前……!?」

「今から着替えさせていただきますので、お部屋を借りますね。覗かないで……ううん、麟太郎くんになら……覗かれてもいいです♡」

 炉薔薇はそういうと、顔をさらに赤らめ、両手で顔を覆い隠した。

「いや、覗かないから!」

(今まであんまり話した事なかったけど、不思議な子だな……)


 ────


 炉薔薇はメイド服に着替えてきた。ミニスカートにフリル、いわゆる乳袋、ニーソックス、と明らかにコスプレ系のメイド服だった。豊満な胸の谷間が乳袋から覗く。

「こ、これは……」

(──エロい)


「では早速、麟太郎くんのお手伝いをさせていただきます。よろしくお願いします、麟太郎くん……いえ、ご主人様♡」

「ご、ご、ご主人様!?」

 目立たないクラスメイトにご主人様と呼ばれる背徳感は、何とも言えない物であった。


 炉薔薇は溜まった洗濯物を干し、食器を洗い、紅茶を出し、お風呂の準備をした。


「ご主人様、お風呂の準備ができました。どうぞ、冷めない内にお入りくださいませ」

「あ、ああ。ありがとう。でも、そんなにかしこまらなくてもいいんだよ?」

「いえ、メイドとなった私とご主人様は主従関係。どうぞ思う存分、こき使ってくださいませ♡」

 炉薔薇はミニスカートの端を軽く上げ、お辞儀をした。

(そんな事、急にクラスメイトに言われてもなあ……)


 ────


(でもお風呂を沸かしてくれるってのは、本当に助かるな)

 麟太郎はお風呂場で体を洗う。

(これから、炉薔薇さんとずっと同じ屋根の下で過ごすのか……何か、緊張するなあ。大丈夫なのか……?)


 ──その瞬間。


「失礼いたします」

「うわああっ!?」

「お背中を流しに参りました♡」

 そこに現れたのは、バスタオル一枚の炉薔薇。大きな胸がバスタオル一枚の向こうに感じられる。


「い、いや、さすがにまずいって!」

「いいえ、ご主人様のためならこのくらい朝飯前です!」

 背中をスポンジで優しく洗われ、背中を流された。

(いくら何でも、やり過ぎだろ! ──というか)


「炉薔薇さん、何でここまで色んな事をしてくれるの……?」

「うふふ、ご主人様ったら……。忘れちゃったんですか?」


 ────


 ある雨の降る日──

 傘を忘れてびしょ濡れの炉薔薇。そんな炉薔薇に傘を差し出した人物──麟太郎。


「よかったら入りなよ。風邪ひいたら大変だからさ」


 炉薔薇を傘に入れたせいで、麟太郎は肩が半分濡れてしまった。カバンの中のテストもぐしゃぐしゃ。でも、最後まで笑っていた。


 ────


 麟太郎はお風呂を上がる。炉薔薇もメイド服に着替えた。

「その時のご主人様の優しい言葉、明るい笑顔、傘の色全てが理想的だったんです……」

 炉薔薇はうるうると目を潤ませ、頬を赤らめた。

(か、傘の色……?)

 ちなみにビニール傘だった。


 炉薔薇にとって、それは誰かに初めて優しくされた瞬間であった。


「それからあなたに一生仕えたいと思ったんです。──私だけのご主人様♡」


 麟太郎と炉薔薇のドタバタスローライフが始まる!


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