学園編 -進級- Ⅳ
「ケンゼルはシギルとしてなら何が出来る?」
ロイヤルワークというのが始まって、俺だけ微妙な目線を貰いまくった。
なんでストライダーがこの場に居るのかってヒソヒソ聞こえたけどな。
ネザゼルにそう質問されて、前世で一応は一通りやったことはある事は伝える。
だけど俺のスタイルに合わなかったから辞めただけなんだよな…
「武器云々なら一通り使える。スキルも覚えれば使い方は知ってる。」
「ほう?」
「後は他の職との掛け合わせが出来るぐらいだけど…俺はダガー使いだが、それを双剣に変えても出来る。
前世の兄貴のプレイスタイルぐらいは真似できるからな…」
「前世の兄貴ってーのはシギルだったのか?」
「ゼルエルと同じオールラウンダーだよ。だけどソード主体のウィザードって感じだな。マジックナイトだ」
「あぁ…お前の意味が解らん回答は見たがな…今度説明をして欲しい所だ。」
「へーい。」
また説明か…って思うと、一覧書いておいたほうがいいか?
記録媒体に残しておけないからこそ失伝した情報も多いだろうしな…
「さて、お前の実力見せて貰おうか?」
「ソードスタイルでか?」
「動きを確認したい、いつものやり方でかまわん。実際に実力を見たことが無いからな。獲物を倒した後しか知らん。」
「了解~」
訓練場の端の方で、ゼルエルに審判してもらう形でネザゼルと相対する。
武器は互いに木剣と木ナイフ。
シールド神柱だけど、スタイルがソードだ…双剣か。
「不思議か?」
「あぁ…シールド神柱になるぐらいなんだろ?」
「俺の家はシギル系の家系で、子供の頃からどちらも学ぶ。俺に合ってたのがシールドってだけで…ファイター相手にはこっちの方が良いからな。」
「おー。解ってんなぁ…シールドは硬いだけで、ファイター相手にカウンターが狙いにくいの知ってたか。」
「仮にも前線で戦ってたからな。アサシンスタイルの龍族とやりやった事もあるさ」
キチっとした高位貴族なら教育もしっかりされてるって事か?
それでもまともな対人が出来ると思うと心が踊る。
ひとまずは初見潰しだな。
「用意は良い?」
「問題ない。」
「ああ、いつでも初めてくれ」
「わかった…始め!」
ゼルエルの開始合図と同時に≪瞬身≫でネザゼルの後ろへと回る。
そして両手のダガーをネザゼルの首目掛けて振り下ろす…
ガッ!
「~♪初見で止めるとはさっすが♪」
「お前…えげつないな。」
対処されたことに喜びで心が舞い上がる。
双剣が少し動かされて、その双剣の腹にダガーが阻まれる。
そのままヒットアンドアウェイに切り替える。
「うっへ、やっぱ防がれるか。」
「当たってるだろーが」
「致命傷全部避けられてる時点で防がれてるって事じゃん。」
「ったく…」
「シールドタイプじゃやっぱ削れねーな…」
「速さ重視で攻撃に力入れて無いからだろ。手加減してんじゃねーよ」
「ん…バレた?でも手数多くがファイターだろ?」
「スキル乗せてから言え」
「へぇ~ぃ」
打ち合いしながら、このシールド神柱はかなりレベルが上なのがわかる。
300レベル程度なら俺は今倒せる自信があるからな。
その後はひたすら速さで打ち合いをする。
ダメージは与えて行くが、レベル差がかなりある問題で1割も削れん。
流石にシールド神柱持ちだと硬すぎるな。
「流石にやるな…防御で手いっぱいだ。」
「全然HP削れない時点で余裕癪癪のくせにっ…!」
数十分本気の速さで動き続けると流石にSPが減ってくる。
減り始めると同時に息が上がっていく。
ゲームでは息が上がるのは緊張感がありすぎるときにリアルの体が心拍上げた時だけだ。
しかもそれが続くとヘルギアで安全装置が発動してゲーム終了になる。
だがこの世界はSPの減少でそれが起きる。
ここまで必死に動くのはかなり前…それこそ最初の強敵、クロトラの時以来だ。
つまりはこの神柱は、クロトラの何倍も強い。レベルがかなり上だから当たり前だろうけど。
前の戦いは被害を出さないようにを最大限考慮しての戦い方…安全マージン取りまくりの戦い方なのは見て分かったからな。
「そろそろ攻撃系スキル見せろ、それで終わりだ」
「ん…へぇ~い。」
何にするかなー?って思いながら、ノックバック発生させることが出来る≪一撃の重み≫にすることにする。
この世界でファイターとして使われやすいスキルなのは学生たち見てれば解るからな。
俺はほんの少しだけ距離をとる。
それを見たネザゼルが双剣の構えを変えた。
逆手に変えて、腕をクロスさせて受け止める体制に入った。
全力で行ってみるか。
「天恵【一撃必殺】発動。」
グっと拳を握ってスキルを放つ姿勢。
ほんの少し魔力を込めれば天恵効果でMPガリっと削れるが、慣れた感覚になったもんだ。
「≪一撃の重み≫!」
スキルを放てば魔力により推進力で身体が前へ動く。
ネザゼルが構える2本の剣が交わる中心に拳を打ち込む。
バギィ!ドッ!
木剣が割れた音と同時に、スキルの魔力が一気にぶち当たって、ネザゼルを数十メートル吹っ飛ばした。
向こうはスキル無しで受け止めたから完全なノックバックが発生。
「マジか。これで倒れないとは流石…」
吹っ飛ばしたが、受け止めた姿のまま止まった場所に立っている姿に驚いた。
だが、これでHPが3割削れたのは結構いい感じじゃね?って思って口角が上がる。
「師匠!!」
「流石にいってーなぁ…ゼル、回復頼む」
「≪完全回復≫!」
んっでもってゼルエルが使ったスキルに俺は目を見開くほど驚いた。
いや、翼を得られれば覚えられるけど、それでもキュアの回復最高峰スキルを使うにはキュアのスキルを特化して覚えないとダメなわけで…
「大丈夫っすか…?」
「ん?ああ、お前が悪い事したわけじゃねぇんだから、んな変な顔するな。」
「いや、考え事だからそっちに悪いとは思ってない…」
「んっ…正直だな…考え事って?」
近く行けば回復したネザゼルは俺撫でながら聞いてくる。
完全に子ども扱いだよな…いや、ネザゼル達にしたら確かに子供なんだけど。
「ゼルエルが≪完全回復≫を使える理由がわからん。」
「ん?コレの母親はキュアだから…ではないのか?」
「いや、それでもおかしい…≪帰還の輪≫と≪完全回復≫は普通は被ることは基本不可能なんだ…」
「あー…難しい話は別の場所で良いか?人の耳があるからな…」
「ん、あぁ…少し考える…」
その後は俺等の戦闘云々に関しての質問の声が大きすぎて、その場が大騒ぎになったのを宥めるのに教師達が右往左往する。
俺とゼルエルはネザゼルに首根っこ掴まれてその場を逃れた。猫じゃねぇ!!
「お前今住んでる所どこだ?」
「ん、パーティーメンバーと家借りてる。」
「なるほど。ゼルも随分楽しそうだしな、良ければ下宿なんぞどうだ?とな」
「あ~…それも楽しそうだな…俺は別に良いぜ。今家賃も払ってないし」
「ん?パーティーメンバーに頼ってんのか?」
「俺があげた装備が良すぎるからって家賃払う言われたんだよ」
「なるほどな…」
にしてもMP減らし過ぎて頭痛い…俺はイベントリから飴出して口に入れる。
そうしてると呆れた溜息つかれた。
「ケンゼル、一応上位者の前でいきなり食い物を食うな。」
「MP…あー…魔力減りすぎて頭痛いから回復してんですよー」
「ん?回復…?薬なのか?」
「菓子でもあるけど、魔力回復するように作ったんすよ…どーぞ」
2個出してネザゼルとゼルエルに渡す。
ゼルエルはそれを鑑定して、確かに魔力回復する物だってネザゼルに伝えて、2人して飴を口に入れた。
ネザゼルはなぜか微妙な顔して、エイっと口に嫌々入れてたけど…
「んま!んだこの菓子はっ」
「アメ?って言ってたよね。美味しい」
「………この世界飴も無いのかー!!!」
後日グレッブ達に聞いたら、貴族にはこういう菓子があると思って感動してただけで、飴は知らないと言われた。
ただ、形状で薬に飴はあるらしく、最初食べたときは物凄い恐る恐るだったらしい…強烈に不味い薬の飴は知ってたからとのこと。
んでもって、ネザゼルもその不味い飴を知ってたから食うのを最初躊躇ったらしい。
「ホント…この世界の食事情が滅茶苦茶悪くて辛い。」
「そんなになの?」
「おう…正直シチューとかに飽きてきてたけど、龍界素材が送られてきたから少しだけ取り戻してた。」
「龍界素材なぁ…兄さんたちに聞いてみるか?ゼル…」
「え?」
「お前が生まれる前、かなり龍界に居たらしいからな。」
「そうなんだ…」
「そこで食事云々出来るように素材採集もしてたって言うから、聞いてみろ」
「うん。ケン、家っていつ来れる…?」
「あ~…一度帰って、説明したら…だから今日行けるっちゃ行けるけど…間は空けた方がいいだろ?」
俺が言えばゼルエルはネザゼルを見て、判断を仰いで、3日後の休みの日から下宿開始するとなった。
部屋の用意やら、ゼルエルの両親にリアティエルって神柱にも話を通しておくらしい。
「ひとまずお前等は一緒に監視しといた方が良いからな。ケンゼルも、ルゼルにあんま迷惑かけんなよ?」
「何が迷惑になるんすか。」
「授業態度云々といったところか…一応保護者枠がルゼルになってるはずだからな」
「……保護者とかいらねーのに」
「学園じゃどーあっても必要なんだよ。っま、ゼルと仲良くしてくれんなら、俺にその枠変えても良ーけどな。」
「ん…」
「んでもそーすると、引き抜きだーとか五月蠅そうではあるけどな」
ネザゼルに頭撫でられる。ゼルエルと一緒に子ども扱いされて、そんでもほんの少しだけ…
ルゼルとは違って心地良さを感じた。
この人は本当に善意で言ってるのが解ったから。
ゼルエル基準で考えてるけど、ゼルエルの周りを保護してるんだな…って、そう感じた。
この世界の身体はまだ16才になるって歳なだけで、意外と体の年齢に精神的なものも引きずられているのがわかっているから、少しくすぐったく思いながら撫でられるのをゼルエルと一緒に受けた。




