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カイコ  作者: カリヤモモ
7/14

新星

 どうしてこんなことになってしまったんだろう。


いつもの店の一番奥の席で、一人、強いカクテルを飲んでいる。

今日はママが心配そうに聞いてきた。

「何かあったの?」

私はカウンターに顔を埋めて、大きな溜息を吐いた。

ママは苦笑して、私の頭を撫でた。


送別会は滞りなく進んでいった。

会社近くのお洒落な居酒屋で、部署のみんなで楽しく。

みんなそれぞれにお酒を飲み、ご飯を食べ、本当に何事もなく…。

何事もなく…。

最後に彼女の一言が無ければ…。


「え〜。では〜。締めに、高橋先輩。一言お願いします。」

幹事から促され、彼女は席をたった。少しお腹を気にしながら、

「本日は、私の為にこのような会を開いて頂き、ありがとうございます。

 もう少し、会社には出社致します。休暇中皆さんにはご迷惑おかけしますが、

 よろしくお願いします。」

と挨拶をした。このまま終われば何事もなかったのに。


送別会の間、私は彼女にも、部長にも近づかなかった。

近づきたくもなかった。

そんな私を知ってか、知らずか、彼女は私に近づいてきた。

「幸せは自分の力で勝ち取るのよ。」

彼女は私の目を見ず、そう言い放ち自分の席に向かった。


 幸せ…?幸せって…?

彼女の幸せは、結婚なのだろう。じゃあ、私は?


「では、宴も(たけなわ)となりましたが、この辺でお開きとさせて頂きます。」

幹事から締めの言葉が発せられ、みんなそれぞれに帰る準備などをしていた。

私は立ち上がり、部長の前に立った。

「私。会社辞めます。」

「えっ。」

聡は動かなかった。酔っ払っていた裕子も伊藤君に絡むのを止めていた。

聡の隣で楽しそうにしていた彼女も、微動だにしなかった。

「有岡君。急に…そんな…。」

聡は狼狽していた。

「その話は、また後日。」

聡の言葉を無視して、私は笑顔で彼女に言っていた。

「高橋先輩。お幸せに。自分がしたように、他の人に取られないように。」

彼女の顔が見る見る変わっていくのが分かった。

私は自分の荷物を取り、裕子に

「じゃあ、またね。」

と手を振った。裕子は微笑しながら、手を振った。みんなの顔が固まっているのが分かった。

私は何事も無かったように

「お疲れ様でした。」

と挨拶をして、店を後にした。


彼女の叫ぶ声が店の外まで聞こえていた。


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