新星
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
いつもの店の一番奥の席で、一人、強いカクテルを飲んでいる。
今日はママが心配そうに聞いてきた。
「何かあったの?」
私はカウンターに顔を埋めて、大きな溜息を吐いた。
ママは苦笑して、私の頭を撫でた。
送別会は滞りなく進んでいった。
会社近くのお洒落な居酒屋で、部署のみんなで楽しく。
みんなそれぞれにお酒を飲み、ご飯を食べ、本当に何事もなく…。
何事もなく…。
最後に彼女の一言が無ければ…。
「え〜。では〜。締めに、高橋先輩。一言お願いします。」
幹事から促され、彼女は席をたった。少しお腹を気にしながら、
「本日は、私の為にこのような会を開いて頂き、ありがとうございます。
もう少し、会社には出社致します。休暇中皆さんにはご迷惑おかけしますが、
よろしくお願いします。」
と挨拶をした。このまま終われば何事もなかったのに。
送別会の間、私は彼女にも、部長にも近づかなかった。
近づきたくもなかった。
そんな私を知ってか、知らずか、彼女は私に近づいてきた。
「幸せは自分の力で勝ち取るのよ。」
彼女は私の目を見ず、そう言い放ち自分の席に向かった。
幸せ…?幸せって…?
彼女の幸せは、結婚なのだろう。じゃあ、私は?
「では、宴も酣となりましたが、この辺でお開きとさせて頂きます。」
幹事から締めの言葉が発せられ、みんなそれぞれに帰る準備などをしていた。
私は立ち上がり、部長の前に立った。
「私。会社辞めます。」
「えっ。」
聡は動かなかった。酔っ払っていた裕子も伊藤君に絡むのを止めていた。
聡の隣で楽しそうにしていた彼女も、微動だにしなかった。
「有岡君。急に…そんな…。」
聡は狼狽していた。
「その話は、また後日。」
聡の言葉を無視して、私は笑顔で彼女に言っていた。
「高橋先輩。お幸せに。自分がしたように、他の人に取られないように。」
彼女の顔が見る見る変わっていくのが分かった。
私は自分の荷物を取り、裕子に
「じゃあ、またね。」
と手を振った。裕子は微笑しながら、手を振った。みんなの顔が固まっているのが分かった。
私は何事も無かったように
「お疲れ様でした。」
と挨拶をして、店を後にした。
彼女の叫ぶ声が店の外まで聞こえていた。