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カイコ  作者: カリヤモモ
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白虹

「はぁ〜。」

隣で深い溜息が聞こえた。裕子だ。

裕子は、パソコンに向かっては溜息と吐き、椅子に凭れては溜息を吐いていた。

私が理由を聞かなければ、ずっと溜息を吐き続けているかも知れない。

5回目の溜息を聞いた後、私も小さく溜息を吐き

「どうしたの?」

と、問いかけた。

裕子は椅子をくるっと私の方に向けて、

「だって、今日じゃない。送別会。」

と、周りを気にしながら小さな声で言った。辺りは慌しく動いていた。


すっかり忘れていた。今日は送別会だった。

聡の…新しい奥さんの…送別会。

「あぁ…。忘れてた。」

私が小さく呟くと、すかさず裕子が

「伊藤君の話だと、高橋先輩。あっ。宮元先輩かぁ。育休とってまた復帰つもりなんだって。」

と棘のある口振りで続けたので、私は辺りを見回し、裕子と給湯室に向かった。

「そりゃ。妊娠してるんだから、育児休暇とって。ってのが普通だけど。

 今、休む事ないんじゃない。」

裕子の怒りは収まらない。それもそのはず、彼女が休む事で、裕子に仕事が全部回ってきたのだ。

裕子は仕事熱心で、正確で綺麗な資料を作成する。人望も厚いし、人懐っこい。

私と仲良くしているのが、不思議なくらいだ。

裕子は今、大きなプロジェクトのアシスタントをしている。これ以上仕事が増えてしまったら、

「ストレスで太っちゃう。」

裕子は、チョコを食べながら私に訴えた。

「戻ってきたら、今と同じポストに付く訳でしょ。私より上じゃない。納得いかない。」


 給湯室でコーヒーを入れ、お菓子をポケットにいっぱい忍ばせて休憩室で話していた。

午前中にこの休憩室を利用する人はなかなか居ない。

案の定、今日も誰一人、入ってくる気配はなかった。

裕子が落ち着くまで、私はずっと話を聞いていた。

「不倫して、略奪して、妊娠して、よく戻ってこれるよね。」

「まだ、出産には時間があるから、ギリギリまで働くって言ってたけど。その間に引き継ぎだよ〜。」

「よりによって、こんな忙しい時に…。」

沢山あったお菓子が、裕子の口の中に次々と運ばれて行った。

話が一段落すると、私はゆっくりとコーヒーを啜りながら

「でも…。私には回ってこなかったよ。その仕事。」

と裕子の目を見て、続けた。

「裕子だからなんだよね。」

そして、裕子の持っていたチョコを奪って微笑った。

裕子もコーヒーを啜り、

「チョコまだあるよ。」

と、手の中いっぱいのチョコを見せびらかした。

私達は、仲良くチョコを分け合ってから、席に戻った。

 

 健一に謝らないと…。


私は、少し言い過ぎたと反省していた。

 健一が頑張っていたのは良く知っていたのに。健一のショックも私なら理解出来たのに…。

聡への不信感と、何もない、何も出来ない自分への苛立ちを健一にぶつけてしまった様に感じていた。

あれから、健一からの連絡は一度もなかった。


席に座ると裕子は

「ありがとう。」

と椅子のまま私に近付き、

「それと、この話内緒ね。」

と人差し指を口にあて小さな声で言った。

「伊藤君の話だと。宮元部長。他に彼女がいたんだって。」


 今日、送別会が終わったら、健一に連絡しよう。


私は心に決めていた。

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