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ノルド・ドラゴン  作者: 本藤侑
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6.試練5

 古代竜のほとんどは影の魔物や破す神によって死に絶え、僅か数えるばかりしか生き残らなかった。


 しかし、神はその魂の破片を使い、地上に人間を創造した。それこそが新時代の始まりだった。

 神は誰が地上を支配するように望んでいるのか。それを暗示させる行動だったのだ。


 人間は増え、ついにはドラゴンの生活域にまで進出していった。

自分たちの縄張りに侵入者がいるのだからもちろんドラゴンたちは追い出そうとするだろう。

 しかし、群で強い人間は逆にドラゴンの方を追い出していった。


 ドラゴンは生活域を失い、最後には大陸守護者に助けを求めるようになった。


 ノルド大陸でも同様の現象が起こった。人間たちはゴスターク山脈を越え、ついにドラゴンたち最後の安寧の地へと迫ってきた。


 ラヴァンケノスは救いを求めてやってきたドラゴンたちを率いて人間の侵略を阻止しようとした。


 人間の町を焼いた。


 人間の開拓者のキャンプを襲った。


 人間を沢山殺した。


 それでも数で勝る人間は一向に勢いを落とす気配はなく、むしろ逆上して一層勢いづいた。


 ついに、人間の王、ドタール王はラヴァンケノスの住処であった戦斧せんぷ山に進軍した。


 道すがら沢山のドラゴンを倒し、中腹の巨大な洞窟でついにラヴァンケノスと対峙した。


 ラヴァンケノスの灼熱のブレスによって人間の軍隊は壊滅した。しかし、ドタール王だけは決して倒れなかった。


 彼は神より受け賜った特別な輝きを放つ鎧や劔を装備していたのだ。中つ神の力が込められており、中つ神によって創造されたものにとっては致命的だった。いくら最強のドラゴンであるラヴァンケノスであっても例外では無い。


 炎竜王ラヴァンケノスとドタール王はお互いに互角の闘いを繰り広げた。一進一退の攻防が続いたが、段々とドタール王が優勢となっていった…。



 ノルドに伝わるドタール王叙事詩ではドタール王と邪竜王ラヴァンケノスの決闘によってラヴァンケノスが倒れ、人類に平和がもたらされる、というシナリオとなっているが、ラヴァンケノスから話された内容はそれとは異なっていた。



『私はドタール王に負けた。私の人生で最初で最後の敗北だった。敗者である私は首を差し出したが、奴は私の首を切ることはしなかった。奴なら出来たというのに。

 奴は劔を放り投げ、私に話しかけてきた。「ドラゴンたちが故郷を守る為に戦っていたのを私は知っている。しかし、私も王として民草を守っていかなければならないのだ。ドラゴンが人を殺すなら、私もドラゴンを殺さざるを得ない。本当は私もそんなことはしたくない。よってお前は敗者として私の条件を呑め。」とな。

 すなわち、人間は戦斧せんぷ山には攻め込まない。だから逆にドラゴンが人間の住処に攻めてきたら容赦なく殺すということだ。

敗者として受け入れざるを得ない。よってドラゴンの領域は戦斧せんぷ山だけとなった』


 ラヴァンケノスは殺されていなかったのだ。

 ラヴァンケノスの話す話はドラゴンたちの目線からであるため、少女には新鮮に感じた上、驚きも感じた。ドラゴンを無条件に悪だと認識していた今までの自分を反省したくなった。


 戦争を国と国がするとき、そのどちらも自らの正義を持っているという。

 しかし、結果にそれは反映されない。勝者が正義で、敗者が悪なのだ。


 ドラゴンの話によってそんな世界の悲しい現実を思い知らされた。


 ただし、破す神が持っていたと思われる正義、もとい信念は間違いなく地上生物に対して悪として作用するだろう。間違いなく。おそらくその信念とは闇の魔物の繁栄で、人間は滅ぼされるに決まっているのだから。それだけは公平な目で見ろといくら言われても譲れない。


 ラヴァンケノスの話はまだまだ続く。



 ドラゴンと人間との戦いが終わり、ドラゴンたちは息を潜めるようになった。

人間は文明が発達し、繁栄を謳歌していた。


 そんな頃、ラヴァンケノスの元へドタール王がひょっこり現れた。

 ドタール王はラヴァンケノスを町へ招待すると言いだした。その強い推しに負け、ラヴァンケノスは権能の幻術で人間に化け、ドタール王と共に人間の町を見学して回った。


 そして人間の協力して生活を営む姿や娯楽や手工業を覗いて、ラヴァンケノスは人間の生活に強く興味を持った。

 ドタール王と長く付き合ううちに1人と1匹はかけがえのない親友となった。


 それから年月が経ち、ドタール王は亡くなった。人間の一生はラヴァンケノスにとって非常に短く、親友の死は心に寂しさを抱かせた。


 そんなラヴァンケノスも神代から生きていた身。冠位により不死身ではあったが、肉体再生期を迎え、長い眠りについた。



 そして、つい最近のことである。


 たったの500年ほどの眠りからラヴァンケノスは眼を覚ました。


 肉体の異変が無いことを確認する。ボディは問題ないが、能力はどうであるか分からない。

その為に試運転をした。

 洞窟の奥に向かって全力のブレスを吐いてみた。とても良好であった。


 ドラゴンはその威力に満足し、次に何をしようかと考え始めたころ…


 洞窟の天上から人間が落ちてきて……硬い地面で"砕けた"。



 少女は思わず吐き戻しそうになる。

ショックだった。薄々感づいてはいたが確信が持ててしまってショックだった。

やっぱり自分は死んだんだと。


 生き返った人間なんて普通の人間じゃないよ。


 ドラゴンは心配そうに声をかけてくれて、もうこれ以上は止めようかと言ってくれた。しかし、今からが確信だというのに聞かないのは許せない。


 とりあえず気持ちを飲み込み、話の続行を支持した。



 ラヴァンケノスは生き絶える直前の少女の記憶を覗いた。そして、自身のブレスによって足下の氷が溶けて砕けて、運悪く落下死したと分かった。


 ラヴァンケノスはそれを自身のせいだと考える。偶然でも無益な殺生をしたのだ。可哀想な少女を救うために何かしたいと考えた。


 そして、自身の指を深く切り、溢れ出した血を少女にかけた。


 冠位ドラゴンは不死身の権能を持つ。すなわち寿命が無い。さらに身体の傷も癒すことができる。

そこに着目し、自身の血によってその権能の再現を試みたのだ。


 結果想像以上に上手く行き、少女の肉体はぐちゃぐちゃの肉団子状態から外傷ひとつない姿へと変化した。傷が癒えたのだ。


 その後、血みどろの少女の肉体を湖で洗い、濡れた衣服を脱がし、キャンプファイアを起こした。


 少女はなかなか目を覚まさなかったので、起きたときに空腹に襲われないように食料を確保してやろうと思った。


 そうして狩りに出て、魚を捕まえ、洞窟に戻った。そこで少女と鉢合わせた。そして少女が問題なく動き回れたことに満足し、思わず笑みを浮かべた。


 しかし、ドラゴンは責任を感じていたので謝るべきだろうとも思った。



『以上だ。私の全てを話した。まあそれなりに抜粋しているかもだが』


「……ぁりがとぅござぃます……」


『ん?なんだって?』


 ドラゴンは耳に相当する部分に手を当て聞こえないぞとポーズをする。


 少女は感じた。このドラゴン、調子に乗りやがっていると。


「ありがとうございます!!」


『うむうむ。良いのだ、妹よ』


違う。調子に乗ってるというより兄貴風吹かしたいんだ。きっと。


「ところで、なんで私は妹なんですか?」


 これは素直に気になる話だ。さっきの話のどこから妹というワードに繋がるのかさっぱりだった。


『あれ?話して無かったか。何を隠そう私は不死身だ。冠位の権能によってな。その代わりに一部の機能が完全に喪失した。例えば生殖機能だとか。つまり私には家族が出来なかったのだ。人間でいう血の繋がり、血族を示す家族がな。だが、君は私の血を受けた唯一の生物だ。今の君には私の血が流れている。ほら、血族の誕生だ。家族の誕生だ。君は竜の血を受けた人間だ。そして私の妹となったのだ。これからは敬語なんて使わずにもっと親しく話しかけてくれて結構だぞ!』


 なるほど…。純粋な人間じゃないというのはそういうことか…。嬉しいような悲しいような。

 ドラゴンのせいで死にドラゴンのせいで生き返り、ドラゴンに勝手に家族認定された。うーん…悪いことでは…ないだろう。


 結局少女もなんだかんだで現状に不満は無かった。炎竜王ラヴァンケノス、もとい兄のことはよく分かったし仲良くしていけそうな気がする。


 しかし、不満は無いが引っかかることはいくつかあった。


 一つ目は今後のこと。試練のこと。


 二つ目は村に帰れるかということ。


 三つ目は生きていることの説明。


 そして四つ目、今一番に気にすることがある。


 自分はこのドラゴンに記憶を探られて血をかけられて、裸まで見られた。

 ラヴァンケノスを兄だという認識を抵抗なく受け入れられるのはなんとも不思議ではあるが、そう考えると、とてもじゃないが兄貴許すまじ。


「私の裸を見ましたね?……」


『だからなんだと言うんだ。悪いことか?』


「配慮が足りませーん!こっちの気持ちを考えて下さい!!」


『たかが裸ではないか。何が悪いというのか!!』


「乙女のポリシーですぅ!嫌なものは嫌なんです!」


 なんだか恥ずかしくってしょうがない。

 少女は言ったこともないことを並べてラヴァンケノスが再び謝るまで非難し続けた。

自分のことを乙女だと思ったこともないのに。


 しかし、少女はなんだかんだでこのドラゴンの兄と仲良くやっていける気がした。


 少女に頭を下げながらドラゴンは小さく文句を呟くのだった。


『私なんて常に裸だというのに…』


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