表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノルド・ドラゴン  作者: 本藤侑
15/15

15.アルシング7

「ところでリコネル、この枝を割ってくれ」


 焚き火が弱まってきた頃、なんの躊躇もなくエギルが枝を差し出してきた。

枝をはリコネルの手首の倍はある太さもある。普通なら素手で折れる筈もない。


 だがしかし、リコネルは少なくともふつうではない。(恐らくは)ラヴァンケノスの竜の血を通して肉体が強化されている。

ならばこんな枝切れ一本くらいどうってことない。


 せーので力を込める。えいや!


「……!?」


 もう一回。せいや!


「………くっ!?」


力いっぱいやっているのに。


「どうしたリコネル?」


「な、なんでもない…」


 今度は足も使ってやってみる。


「ぐぬぬぬ…」


 木の枝はうんともすんとも。全く折れる気配がなかった。


「あの…ごめんなさい。わたしじゃ折れない…」


 双子は目を見開いて驚いた。リコネルでさえ折れないその木の枝の硬さに。



「一体どういうことなんだよ?いや、それが普通なんだとは思うけども」


 リコネルがギブアップした後、試しにエギルが折ろうとしたところ、枝は思いの外簡単に折れたのであった。


 リコネルの謎の怪力は失われていたということだ。そして今のリコネルの力は年相応、又は見た目相応であると双子は結論づけた。


 新たに燃料を手に入れた薪は勢いよく燃え上がる。空はすっかり暗くなり星が瞬き始めていた。


「それが私にも分からなくて」


 それは嘘であり本当でった。少女にとってこの問題は心当たりがないというわけではないから。

 ラヴァンケノスの血による影響ではないかという考察。あくまで考察であり、確信が持てるものではない。


 それに話したって信じてもらえるはずがない。よって確証が無い以上知らないのと同じだと考えた。


 困った顔の双子は何やら2人だけで話し合い、そして2人なりの答えを導き出した。


「リコネル、お前さ、誰かに薬盛られたか術をかけられたんじゃないか?」


 概ね間違いではないと思う。竜の力云々は関係なく、ラヴァンの魔法によってという線もあり得るのだ。さっきまで出来たことが出来なくなった。それは魔法の効果が切れた時の状況と似ているからだ。


そもそもラヴァンが出来ることなんて全て把握してさえいない。ラヴァンが筋力を上げる魔法を知っていても不思議ではない。


 でもズルするのは誰よりも嫌いな性格だからなぁ。

数ヶ月の間、ラヴァンと一緒に暮らして感じたラヴァンの性格である。


 それを踏まえると…。


 真剣勝負を好む性格からして今回の件はラヴァンの意図した範疇の外なのだろうと考える方が妥当だ。


 ラヴァンは犯人じゃないと主張したい。


 しかし、残念ながらラヴァン以外の心当たりは全く無い。そんなこと出来る”人”をリコネルは知らないのだ。

 一応、少女は”人”に全くに心当たりがないことを双子に伝える。ラヴァンのことは言わなかった。


「まぁいいんじゃないか?強化魔法を掛けることはそもそもルール違反じゃないし。こみいった話はいいわな。凄く気になるし推理も楽しいけど、犯人探しはまた後日。とりあえず今は進み続けることが大事だ。明日は早いし、寝よう」


 あらそーなの、ルール違反じゃないの?

少女の素直な感想はこんなとぼけたものであった。


 エギルは話短く語ってくれた。かつてフシス族にいた強大なドルイド(既に故人)は決闘大会中にフシス族志願者に強化魔法を掛けたらしい。そして、フシス族志願者はその年の優勝を果たした。


 それが問題になり、族長と長老が集まって会議をしたらしいが、出た結論は【魔法なんてよく分からないからまあいいんじゃね?】というなんとも言えないものだった。

以後、強化魔法は暗に認められたらしい。


 厳しいルールのはずが途中から基準がガバガバになるのもヴァイキングの特徴らしい。

良く心当たりがある。実際ヴァイキングは直情的であり、深く物事を考えるのが苦手だ。


 厳しいようで、厳しくない。特に魔法への理解が乏しい為、得体の知れないものとしてそもそも考慮に入れない。受け入れないと思いきや投げ出してしまった。


 エギルの持論は凄く悪意のある言い方だった。エギルはヴァイキングのことをどう思っているのだろうか?

馬鹿どころか単細胞だと思っているのではないだろうか。


 名誉云々含め、ヴァイキングの固定観念に疑問を抱く彼にとって基準無しのその場の雰囲気で全てが決まるヴァイキングの単純さを愚かだと思っているだろう。


 まぁ今回はそんなガバガバ基準の抜け穴を抜けた形になる。

 だが、ルール違反ではない以上、問題は誰がどうやってなのだ。エギルの言う通り、気になることだが今考えることではない。



 もし、原因がラヴァンではなく容疑者X(仮呼称)でもなく、竜の血の能力の具現だったらなんて説明すれば良いものか。


 まあラヴァンが犯人だったとしても説明なんか出来ないのだが。困りもので頭痛のタネだ。


 そして、なんだかいけないことをしているみたいで後ろめたくなる。秘密なんて持つべきではないなと感じる。持ちたくて持ったものでも無いのだが。


 別に隠したい訳でもない。ラヴァンが秘密にしろと言った訳でもない。しかし、リコネルの独断専行でラヴァンの存在を隠している。


 話しても現実離れ過ぎて信じてもらえないだろうし、仮に信じて貰えても、倒された筈の邪竜王ラヴァンケノスの復活を好感的に思う人はなんてそもそもいないだろうから。


ぶっちゃけリコネルが復活した時のことを誤魔化した時点でもう後には戻れない。



 ふと、リコネルの頭の中の”基準のあるルール”というワードについての古い記憶が蘇る。これは…過去に読んだ本に書いてあったこと。そして父が直接教えてくれたことだったはず。


 確か父はこう言っていた。


「私のいた国ではね、全ての人は平等なんだ。貧富の差が無いという平等では無いけどね。つまり、悪いことをしたらどんな人であれ、同じ罰を食らうんだ。感情に流されずに法によって裁かれるんだよ」


 不思議な世界を知りたいと思ったきっかけの一つ。

 未だに意味を理解しているわけではないが、基準のあるルールって言うのが父の言う”法”なのかも知れない。


 エギルは普段からこんなこと考えて生きていたのだろうか。ヴァイキングの常識から考えると異端だと思われていないだろうか。なんだか心配になる。苦労しているに違いない。



 リコネルは焚き火の脇で横になる。

エギルは寝ようと自ら進んで提案したくせに「俺たちは見張りするからリコネルは寝とけ」と言う。


 そして、少女は言いたい。決してそれに甘えたわけではないと。


 余りにも頑固に寝ろと言うのでしょうがなく2人に見張りを任せるだけなのだ。

 本当に2人は勝つ気が無いのか、と改めて感じた。なんか2人を利用しているようで勝手に罪悪感だけが蓄積していく。


 それでも身体は正直だった。どんなに悩んで苦しんでも疲労した身体は休息を求めて身体の支配権を奪った。


 空に流れ星が流れると同時に、少女は深い眠りへと沈んでいった。



「もうぐっすり寝てんな、リコネル」


とエギル。


「深い眠りだね」


とユギル。


「深すぎて深海のバケモノに襲われてるかもな」


「プライミーバル種の古代魚とか?」


「そう、それそれ。今頃夢の中で逃げまわってるかも」


「それは…酷い悪夢だね…」


 実は冗談が面白くないのは双子の致命的欠点だったりする。つまらないというよりは多くの人にとって意味が分からないものだった。


 2人の探究心と好奇心、そして知識によって2人だけの世界に浸ることがある。その世界では双子は素晴らしいセンスを持っているのだ。


 それからも双子基準のハイセンスな状況を言いながら魔物や獣の襲撃がないか見張りを続ける。

 エギルはふと美しい星空を見上げた。そして空の色と雲の移り変わり様から朝が近づくのを見て、自身の焦りを感じた。


「俺たちの選択は正しかったのかなぁ」


 それだけ、ぽつりと呟く。


 2人は明日部族の名誉に背いて決闘大会から降りるつもりだった。諦めないといつ部族の名誉を穢す行為だ。説教では済まないだろうし、下手すれば追放だ。面汚しとしてこれからを生きていくことになるだろう。


 だからこそ選ぶ選択が正しいかを考えるのだ。分からず屋の部族と関係を断ち切れて清々することができるだろうが、その先の未来に希望を持っているだけの無計画な行動でもある。


 そしてエギルは悩むのである。

はたして、ユギルを巻き込んで良かったのだろうかと。弟を悲しませたくないし、自分も後悔したくはないのだ。


 そんなエギルに対しユギルは笑って返事した。


「間違っているわけない。僕たちならなんだって出来る。あの人みたいになりたいって思った時から決まってる。僕はエギルについていく」


 ユギルにとって当たり前の事だった。あの時からずっとそうだった。あの時、どこから来たのかも分からない痩せぎすの医者に救われて、憧れた日から。

2人で自身たちが望む未来は敵を倒す戦士ではなく、人々を助けるドルイドだと感じた。


 目指すべき目指したい未来を選んだ。


 2人で決めたこと、それを目指す為ならば、いつだって兄弟の為に働き、兄弟の為に悩む。ユギルにとって至極当然なことである。


「そうだな。そうだったな。ありがとうユギル」


 エギルも思い出した。エギルは1人で悩む必要がないのだ。初めから一心同体のようなもの。2人で一つ。2人で決めたことは2人で悩んで解決するのが一番なのだ。


 今回だって2人で決めて少し変わった少女(リコネル)に協力すると決めた。

 少女が怪我した時は2人で魔力を出し合い、治療した。既に魔力不足でフラフラな2人は海を泳ぎ切ることが出来ないだろう。


 だからこそ決闘大会を降りることも決めたのだ。2人で。部族に反発する為に自分たち自ら状況をわざと追い込んだとも言える。たった今している見張りだってそうだ。

 ゆえに2人の責任であり、1人で溜め込む必要はない。


 これからの見えない未来も2人で選択して切り拓けばいいのだ。


 エギルは兄弟を大切に思うあまり、自分しか見えなくなっていた自身の愚かさを反省し、これからに生かせるように日々努力しようと決めた。


 ユギルも兄に任せすぎていたと感じた。そして、これからはより良い片割れとして成長しようと決めた。


 双子は改めて覚悟を決めた。ついに残す未練も振り切れた。準備万全である。



 長い夜は更けていく。朝になればエン島とはお別れだ。そして今度は競争を繰り広げることになる。


 東の空から徐々に世界が照らされていく。素晴らしい朝がやってきた。


 サバイバルの後はスポーツだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ