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ノルド・ドラゴン  作者: 本藤侑
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1.プロローグ

 私の旅は父によってもたらされた。



 私はノルドの最北西部に位置するフィヨルドで生まれた。どこの国にも属さないヴァイキングの村だ。


 ヴァイキングは略奪と戦争によって繁栄を謳歌していた。しかし、現在ではその行為も殆どしなくなった。今のヴァイキングはむしろ周辺国の傭兵として生活をしていたのだ。

 しかし、流石に文化までは未だ廃れていない。ヴァイキング的常識や価値観を子供たちは叩き込まれて成長していく。

少なくとも私と同年代はみんなそうだった。


 教育が人を作る。つまり父は私がヴァイキング色に染まって育つのを意識的か無意識か、どっちにしろ阻止したことになる。


 父はヴァイキングではない。痩せぎすで眼鏡をかけていた。とてもヴァイキングの見た目とは言えない。しかし一番の相違点はやはり常識の違いだろう。


 父はよく私に人のモノを盗むな、人の命を奪うな、と語って聞かせた。しかし、ヴァイキングたちの略奪と戦争の歴史は特に否定しなかった。父曰く「それが彼らの文化だ。人の文化を否定するのも良くないからね」だそうだ。


 つまり、父はヴァイキングじゃない。ここに根付いた文化が自身のものではないとはっきり言ったのだから。


 そして、ヴァイキングの母を持ちながらも父の教えを受けて成長した私も根っからのヴァイキングでは無かった。


 父はこの村で医師をしていた。ヴァイキングは力至上主義だが、父は先生と呼ばれてかなりの尊敬を集めていた。医学のみならず多方面での知識で人々の役にたっていた証である。


 そんな父は教育も熱心だった。私は午前中を同年代の子たちとの訓練に勤しみ、暗くなったら父に勉学を教えて貰った。

 医師である父の元にはたくさんの本があった。読み耽ってロウソクを無駄に消費してしまったこともある。


 そんな幼少時代だった。今考えればどれも全ていい思い出だ。



 この生活は段々と崩れていく。

ある日、父はいつものように1人で近くの国、ソジャット王国まで赴いた。新しい本を買う為だ。

 そして、2度と帰ってこなかった。


 その時はなぜ帰ってこないのか分からなかったが、母はしばらくの間、しくしくと泣いていた。

 ソジャット王国から運ばれていた大きな箱を地面に埋めているのを見ても、何をしているのかさっぱりだった。


 それからは母との二人暮らしだった。母は優しかったが、父のような人じゃない。ヴァイキングの人間だから。私は父の遺した本を読みまくった。


 またある日、村を凶悪な炎竜が襲った。ちょうど昼下がり、私が子供たちと遊んでいたときである。


 村の屈強なヴァイキングの男たちは総出で炎竜と戦い、なんとか追い払ったが、犠牲は大きかった。


 このとき初めて"死"について知った私は母の死を嘆き、なぜ父が戻ってこないのかを理解した。

 並んで立った墓に手を合わせ、強く生きることを決意した。


 そして、両親を亡くした私は父と仲の良く、母の兄である村長の家に住まうことになる。


 それから1年。私は12歳。季節は冬。村で一番大きな行事、"試練"がやってきた。



「今日、早朝から呼び集めたのは今日が大事な日だからだ。

これから、貴様らには大事な試練を挑んでもらう。これはこの村に長年伝わる試練であり、きっと貴様らも待ちに待っていたことだろう。ついに貴様らも使い竜を持つべき歳になったと言うわけだ。貴様らには資格がある。今日の為にいままで訓練を積んできたのだからな!」


 教官は朝から大きな声で生徒たちに張り上げる。ガサツにぼさぼさの髪を掻き、自身の使い竜を呼ぶ。

 毛むくじゃら髭に丸太のように太い腕。屈強でガッチリとした肉体。そんな教官でさえ村の中だと一般より少しだけ荒々しい程度だ。


 ヴァイキングの男たちのたくましさは突き抜けている。各国が傭兵として良く雇うわけだ。


 教官の口笛が鳴り響き、すぐに大きな生物が空を飛んで近づいて来た。

 使い竜はふんっと煙を吐くと自慢気に地面に降り立ち、教官に頭を撫でてもらっていた。とても心地好さそうな顔をしていた。



 そのドラゴンの種類は二足炎竜と呼ばれる炎竜だと上位炎竜種に分類されるドラゴンだ。

 体長5mと、炎竜種にしては比較的小型であるが、気性が荒くアグレッシブであり、この村の使い竜の中でもトップクラスの強さを誇っている。


 この二足炎竜、実際は二足では無く、四足の足を持っている。しかし、四足+翼の構造ではなく、長く伸びた前足に薄い膜を広げているという翼の構造をしている為こう呼ばれる。小型種に多い構造である。


 飛膜には神経や筋肉が張り巡らされており、膜の形状を変化させることにより高度な飛行制御が行える。



 教官の二足炎竜は誰もが羨ましがるほど優秀なドラゴンなのである。


 よって、試練は誰もの憧れ、待ち焦がれた行事。誰もがやってやるぞと熱意に、言い換えれば人よりも良い使い竜を手に入れるという野望に満ちていたのだ。もちろん私も。


 教官は指揮十分な子供たちを見渡し、目を輝かせる。そして怒号の一言。


「貴様ら!いつも通りにやったれぃ!」


 どこか怒り口調なのは調子に乗るなよというサインなのだろう。



 かくして試練が始まった。








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