訓練と友達作り
部屋に漂うは、冷気と孤独感と奇声のみ...
早朝、港町は、朝日に照らされて白くぼんやりと想的な風景を作り出していた。海面は黄金のように輝き、光の粒を浮かせながら穏やかに波を打っていた。
「うぅ...寒い...」
暁は、肌寒さを感じた。特に足が寒い。何故ハイソックスを持っていないのかと過去の自分を恨んだ。
「さあ、行きますよ」
「えぇ...」
「さあさあ、走り終わった後のご飯は美味しいですよ♪」
どうしてこういう状況になったのか暁は考えた。確か、夜に自己紹介や雑談が終わったあと前田がサラリと、明日から訓練だと言っていた。しかし、暁と夕日は、早朝から訓練の一環として港町を走るとは思わなかった。今、思い返すと前田から酒の匂いがしていた気がする。考えれば考えるほど訳が分からない。
「あれ...?」
気が付けば置いていかれた。暁は、母親を追う子供のように自分よりも少し年が低い少女達を追った。
六人の少女達が、朝日に照らされた港町を駆けていく。暁の横には未だに寝ていそうな夕日が走っている。
前には、艦隊で護衛をしてくれる少女達が、二列で走っている。
「そういえば、さっちゃんッ、なんでッ、私たちはッ、走っているのッ?」
走りながら暁は、自分の前を走る少女に質問した。息切れで、言葉が詰まる。
「そりゃ、艦長さんがッ、いざとなったときッ、息切れしていたらまずいだろとッ、提督の判断じゃないですか?」
答えた少女は、この護衛艦隊の旗艦の艦長だ。言うなら、暁の前を走る四人組のリーダーである。しかし、名前を皐月しか言わず姓は分からない。知っているのは司令しかいないという噂がある。
「あともう一つッ、質問していい?」
「いいですよ?」
「何でッ、この服装なの?」
自分達の今の服装は、普通ならば船で着る服装だった。指定が無かったら暁は、ジャージを着ていた。その方が走りやすくそれに寒くない。
「それは、提督がこっちの方が、花があるらしいからです」
「あの人がぁ?それは無いわ...」
「でも、いいこともありますよ」
そう言って皐月が指を刺した方を見ると、そこには港町の人達が応援していた。
「この声が聞けるのは、この服装だからこそだと思います。だって、ジャージだとわからないじゃないですか」
「この前は、お菓子をもらえたよ♪」
この時、暁は司令がこの服装で走らせている本当の意味だけは、気が付いた気がした。
六人は、港町を一周し鎮守府まで戻ってきた。玄関では、前田が汗拭き用のタオルを持って立っていた。
「お疲れー」
暁と夕日は、何か頭にきた。
「ハイハイ、ちゃんと汗を拭きよ♪」
なぜか嬉しそうだ。暁と夕日は訳が分からなかった。
「どうかされましたか?」
皐月も気になったので質問をしてみた。
「いや~午後から、艦隊同士の模擬戦だってさ~」
「「はい?」」
暁と夕日がはもる。
「どこの艦隊とするのですか?」
皐月が質問をする。
「第二軽空母戦隊。やったね、さっちゃん!航空ショーが、見れるよ‼」
その飛行機の落し物がなければ嬉しかったのにと、六人は思った。
午前中は、二人揃って座学の授業に出た。そこで歴史や兵器の事を学ぶのだ。それが終わると昼食をサッサと食べて、桟橋に急いだ。そこには、久しぶりに見る乗組員と大きな二隻の船がいた。船の名前は、白鷲と蒼鷺。どちらも正規空母だ。艦橋と煙突が一体化したアイランド型の艦橋が特徴的だ。乗組員は、模擬戦の為に模擬爆弾や魚雷をせっせと積み込んでいた。
「それじゃ、頑張ろうね」
「そうだね。頑張ろうね、お姉ちゃん♪」
暁と夕日は、ここで別れ暁は白鷺に、夕日は蒼鷺に乗り組んだ。
暁が、艦橋に上がるとそこには既に砲雷長や航海長などのそれぞれのリーダーがいた。
「久しぶりだね。」
「そうでもないよ。というか、一日ぶりだよ。」
「うそぉ...」
鎮守府に来るまで、ほとんどこのメンバーで過ごしていたので、感覚が狂っていたらしい。
「そういえば、今回の模擬戦の艦隊司令は、暁ちゃんだよって連絡が来ていたよ。」
そう一人が暁に伝えた。
「頑張れ♪」
「うん、頑張らなくちゃ」
暁が気を引き締めていたら準備完了の報告が来た。
「よし、全艦両舷微速!港をでるよ」
そう言うと了解の返事があるのと同時に、艦隊はゆっくりと港を出た。
空は、よく晴れていた。これから模擬戦になるとは思えなかった。暁は、約三十分前に偵察機を飛ばさせていた。そして、いつ見つけても大丈夫なように、飛行甲板には零式艦上戦闘機21型、九九式艦爆、九七式艦攻が並べられていた。蒼鷺の方も同様だった。二隻の空母の周りには、対空用の駆逐艦が六隻、念の為の重巡洋艦が三隻いた。
「対戦艦隊見つからないね」
突然、夕日から無線で話しかけられた。夕日は、とても暇そうだ。
「まぁ、機動艦隊同士の戦いは、こんなものだよ。」
あきれながら暁は答えた。
「しかし、相手の艦隊名、戦隊って、ついてましたよ」
皐月が、突っ込んだ。他の船から無線越しに笑い声が聞こえた。だがしかしそこに割って入って、敵艦隊発見の報が入り、全員切り替えて、それぞれの役割をこなしていった。
艦載機を見送っから15分後。艦隊から見て9時の方向に黒いものが点々と見えた。
「もう戻ってきたの?」
夕日がそんな事を言った。しかし、よく見ると自分達の航空機の標識ではなっかた。
「対空戦闘開始‼」
暁は、慌てて全艦に通達した。すぐさま機銃や高角砲の持ち場の人が弾を放った。空は、たちまち黒くなった。しかし、そんなことにひるまず相手の艦載機は、海面を這うように突っ込んで来る。何機かは落とすことができたが、残っている艦載機が航空魚雷や爆弾を落としていった。大きな水柱が何本も立った。暁は、自分の船を守るために、右に左に、前に後ろにと、航海長に命令を出した。しかし、何発かは船に当たった。そして、爆弾や魚雷を落とした飛行機は母艦に戻るため反転して飛んで行った。
「被害報告‼」
すぐさま被害を確認した。
「護衛艦隊全艦損害軽微です。」
「お姉ちゃん、こっちは損害皆無だよ。」
あんなにも激しかった攻撃なのに、幸いにも損害が皆無に等しかった。なので、暁はとても安心した。
白鷲の艦隊が攻撃を受けているその頃、第一次攻撃隊は敵艦隊を発見した。相手も同じ様に対空砲火をしたので空が真っ黒になった。艦攻は、海面を這い、艦爆は、更に高度を上げた。そして、艦攻から攻撃を仕掛けた。暁と夕日の航空隊は、とても練度が高いので、海面すれすれを飛ぶことが出来た。対空砲火が、ほとんどこなっかった。そして、魚雷を次々と投下した。ほとんどの魚雷が相手の船に命中し、一撃で轟沈判定の船まで出た。そこに追い討ちをかけるように対空砲火が薄くなった所から、ほぼ垂直に艦爆が降りてく。狙うのは、軽空母三隻、爆弾をそのまま投下した。そして、飛行甲板に次々と着弾した。
偵察機はそんな戦場の遥か高くを飛んでいた。
「第一次攻撃隊、攻撃成功。第二次攻撃の必要なし」
そう母艦に、連絡をした。
気が付けば、もう夕方だった。二つの艦隊は、仲良く帰港した。最初の模擬戦から三回も仕切り直しでしたので、ほとんどの人がへとへとだった。
船を接舷して暁は上陸し、ホッと一息ついた。それにしても何で自分たちの航空隊は、あんなにも強いのか分からない。
「おーい、今日は、ありがとうね!」
遠くに、今日の演習相手が手を振ってこちらに歩いて来ている。その後ろ辺りには、その人の姉妹らしき人が歩いていた。
「こちらも、ありがとうございました!あのーお名前は何ですか?」
「あー、私は、峯井せりな」
「なずなです」
「すずなだよ」
「三人そろっt」
「それよりも、あなた達の航空隊は、とてもお強いですねー」
せりなが何かを言おうとした瞬間に、なずなが割り込んだ。
「何であのようなことが出来たのですか?」
暁が知りたいことをなずなが聞いてきた。
「私にも分からない」
暁は、苦笑いをしながら答えた。
「お姉ちゃん、お腹すいたから食堂に行こ」
そう夕日が、暁に言った。
「じゃ、行こうか。せりなさんたちも行きませんか?」
二人だけだと、寂しく感じたので、誘ってみた。
「それなら、行かせてもらうよ」
「その後に、みんなで温泉に入りましょう」
「行こ♪」
彼女たちも乗り気だったので、嬉しっかった。
「話の中で、強さの秘密を見つけてやる」
「いや、だーかーらー、私も知りませんって」
そして、五人は、鎮守府に戻っていった。いや、後ろに皐月たちがいたので九人は、鎮守府に歩いて行った。
夕日が、差し込む司令の部屋。そこに、司令官と山本がいた。
「これが、今回の演習結果です。」
山本が、書類をわたした。司令は、その書類を一通り目を通した。
「予想以上の結果だ。これなら、彼女たちの力を使えば勝てる」
山本は、彼女を配属した提督の意図が見えた。司令官は彼女たちの力を乱用することがないことを願った。
「よし、彼女たちを一週間後に、出撃させる」
「司令、それは...」
山本は、言葉が続かなっかた。
どうも、八咫烏です。第三話を読んでいただきありがとうございます。
やっと紹介から離れて、物語を進めることが出来ました。
ところで、もうすぐクリスマスですね。皆さんは、どのように過ごされる予定ですか?自分は、例年同様クリぼっちだと思います。まぁ、どちらにせよ良いクリスマスを迎えましょう。それでは、次話でお会いできることを楽しみにしています。