55話
遅くてごめんなさい。
体育祭と文化祭が近づくにつれて周りの空気がどんどん変化しているここ最近。
長い学園生活の中にある数少ない大きなイベントだからでは無く、一生の思い出になるよう楽しむためでもなく、ただ、1つの目標に向かってほぼ全員の心が1つになっている。
マジ萎え。
「最低君、もう1度」
「僕に指図するな」
「全然違います」
「僕は自分の信念で行動している。お前にとやかく言われる筋合いはない」
「ダメです。もう1度」
「いい気になるな!目障りなんだよ!僕の前から消えてしまえ!」
「全然ダメです」
「僕はお前のように図々しくて能天気で馴れ馴れしいやつが大嫌いだ。だから………後は任せた」
「勝手に任せないで下さい。もう1度」
「お客様、お出口はあちらです」
「入店したばかりのお客様に言う言葉ではありません。もう1度」
「どうしてこうなるんだよ!」
「はい、もう1度」
ミーたん俺に恨みでもあんの?当たり強くない?
「春君、調子どう?」
「バカなっ!」
「………うーん、良くないって事?」
堪えたか。つまらん。
「………怖いのだろう?また拒絶され傷つくのが怖いのだろう?」
「春君?意味がわからないけど?」
「僕も同じだった。最後に残されたのは、自らを隠す仮面だけだった」
「ん?仮面付けてないでしょ?」
「だが、忠告なら出来る。恐れるな真子!その先にこそ、お前の求めるものがある!」
「ミーたん、お願い」
「はい、最低君。もう1度」
「僕から言えるのはたった1つだけだ。自分の心に正直になれ」
「春君めっ!」
チッ、逃げやがった。キッチン班から逃げてきやがったくせに。
「最低君、そろそろちゃんとしてほしいんですが」
「時間がないのだろう?余計な事を考えているヒマがあったら足を動かせ」
「意味がわかりません。はいもう1度」
「仲間の事を考えられんやつが英雄などになれはしない。決してな」
「なる気はありません。………はぁ、これ以上ふざけるならこちらにも考えがあります」
「文句があるなら、やる事をきちんとやってから言うのだな」
「美優たんに言いつけます」
「なんとでも……言うがいい……僕は自分のした事に一片の後悔もない。例え何度生まれ変わっても、必ず、同じ道を選ぶ……」
「ミーたん呼んだか?」
「ミュウちゃん違う!仕方なかったんだ!ポ◯モンはダメだって言うから!だからリ◯ンなんだ!んでこの格好してたらやるしか無いじゃん!?つまり仕方ないじゃん!?俺悪くないじゃん!?嫌いにならないで!!」
「なに、気にする事は無い」
「美優………好きだ」
「ぬぉぉぉぉぉぉ!!闇の炎に抱かれバカなっ!!」
「ぐほぉぁ!!この、僕が……」
「はぁ、もういい加減言う事聞いてください」
いや、玉が、俺の、王の力が………
「デコ助、お前なんでそれなんだよ。顔はともかくサイズ全然違うだろ」
「数年後の坊ちゃんっていう設定」
「つうかお前マジで接客すんの?」
「アホだよな。こっちのコックは料理じゃなくて地獄しか作れないだろうし」
「私と雛がいるからご心配なく。最低君はご自分の仕事に集中して下さい」
「それよりミュウちゃんエプロンかわいいね。結婚しよ」
「無理」
「ポニテもぐぅかわだよ!ちゅき!」
「キモ」
「美優ぐぇ!」
「しね」
ガードが固ぇ!僕には……無理だ……
「にしてもそっちは文化祭に力入れてんだな。こっちは体育祭だからしんどいんだけど」
「そうなんです。私達のクラスは運動が得意な方が多いので、こちらを重点的に。ですが、共通する問題点君はこのように」
「ふひっ、ミュウちゃんきゃわわ、ふひっ、ふひひっ」
「なるほど、勝ったな」
「甘いな。俺はミュウちゃんのクラスに入り浸ったらどうなるかな?」
「あたしが速攻で追い出す」
「ふっ、出来るかな?」
「はる、おねがい」
「はい喜んで!」
「美優たん、その調子で真面目に練習させるように言ってもらえません?」
「やれ」
「イエスマム!」
「………心配です」
ちゃんと返事しとるやん。
「ミーたんっ、またパイ子が暴走してりゅ!たちけてっ」
「あぁもう〜、すぐ行きますからとにかく手を止めさせて下さい。美優たん、失礼します。最低君はしっかり練習するように」
「ミーたんふぁいとっ」
「サッキーナイス!ミュウちゃん、2人っきりだね。…………え?戻るの?」
めっちゃガン無視するやん。一応手振っとこ。
っしゃ!振り返してくれた!激かわ!
「春、調子どう?」
「お前が話しかけるまで絶好調だった」
「だろうね。で、残念なニュース、俺が春の練習の監視役に抜擢されたよ」
「ミーたんめ、あとで生意気なデカパイ拝み倒してやる」
「そんなだから色々言われるんだろ」
ちゃんとコスプレ喫茶らしくなりきったんだがな。ダメなら執事喫茶に変えろよ。
「ほら、とりあえずどんな感じかやってみてよ」
「お前の方が接客なんか出来ねぇだろ」
「春よりマシだって。ほら、やってみてよ」
「チッ、んなら手本見してやんよ。らっしゃっせぇ!!お客様何枚様ですか!?空いてるテーブル席どぅぞぉ!!」
「それ絶対喫茶店の接客じゃないでしょ」
「ご注文はお決まりですかぁ!?醤油大盛り2丁!!はい喜んでぇ!!」
「うちのメニューにラーメンは無いからな?」
「逆に何ならあんだよ。おにぎり?トースト?ポテチ各種とか?」
「……………検討中らしい」
役割分担変えろよ。バカしかいねぇのかよ。
そもそもの発端は真子だった。
最初はこいつも軽い気持ちで提案したらしい。
だが、猛や俺のコスプレ見たくない?という軽いジャブを入れただけで、ほとんどの女子が荒れた。荒れに荒れた。
独身担任の後押しのせいで勢いが加速。
結果、野郎の接客、家事がまともに出来ないやつが大半の女子が裏方という地獄絵図が完成。
「一応聞いとくけど、他のやつは出来んのか?」
「それが、運動部に入ってるやつがほとんどで経験あるやつはいないんだ」
「終わったな。全員ダブりとか笑えねえな」
「………そんな怖いこと言うなよ」
マジであり得るからこそお前も目を逸らしてんだろ。
授業を潰して1月も前なのに体育祭や文化祭に向けて練習や作業をさせられたり、どいつもこいつも必死に取り組んでいるのには理由がある。
どちらも成績を付けられるというクソ。
体育祭は単純に勝てば成績アップ。
文化祭は更にクソ。生徒はもちろん、一般で来た奴にもアンケートを取り、その評価に点を付けられる。
飲食系は売り上げまで付けられる上に、調査員を送り込むというクソ徹底。
更に、ステージイベントでも点を付けられる鬼畜っぷり。
毎年恒例、ミスターグランプリ、ミスコンテストなんかは点数の振り幅がデカく、バンド、コントや漫才、ダンス、劇なんかも全て評価対象。
「つまり、お前のミスグリと真子のミスコンに全てが懸かってるな」
「………出るの俺じゃないんだよね。ミスコンも」
「寝てるからって俺にするなんてアホな事してねぇよな」
「してないよ。出るのは山岡君」
誰か止めてやれよ。トラウマ植え付ける気か。
「んじゃミスコンは順当にいってミーたんか」
「いや、違う」
「サッキーか?見た目はぶっちぎれるかもしんねぇけど、なんだっけ、なんかあるだろ」
「アピールタイムってやつだね。あとは歌うらしいよ」
それをアピールに突っ込んでやれよ。考えたやつどんなフェチだよ。
「あといけるやつなんでD子くらいだろ。ユーマちゃんの魅力をわかるやつなんかいねぇぞ」
「春が知らないだけだろ。望月さんが出るんだよ」
「…………あ、あぁ!あいつな!」
「はいはい」
「一応聞くだけ聞いとく。2組は誰だ?」
「足立さんらしい」
「絶対負けたぁぁぁ!!絶対ぇ見に行くぞぉぉぉぉぉ!!」
「あ、ごめん。別の足立さん、足立瑠璃さん」
「んじゃどうでもいいや」
「足立さん、あ、美優さん曰く2組で1番かわいいらしいよ?」
「あっそ」
「ホント極端だな」
ミュウちゃん以外はモブだろ。常識だぞ?
「なら見に行ってみようよ。どうせ練習なんかしないでしょ?」
「どっちもメンドイ」
「足立さんを見に行くっていう程で、足立さんを見ればいいだろ?2人とも文化祭の裏方らしいから」
「それを先に言えばっきゃろぉ!行くぞ変態王!ゴムの貯蔵は充分かぁ!?」
「変な事は絶対言うなよ。俺まで変なやつ扱いされるんだからな」
もう遅いってまだ気づいてないのか。ハッピーなやつだな。
「瑠璃たそ!瑠璃たそ!瑠璃たそ!出来た!食べて!食べて!食べて!」
「もう、美優が作ったのは美味しいけど、もうお腹いっぱいで入らないよ?」
「うぅぅぅぅ、だめ?」
「だーめ。でもありがとうね?」
「やたー!やったっやったっやっ………………何見てんだてめぇ」
「み、美優が、俺の、俺の嫁、な、何故だ!俺という旦那がいながら!俺とそいつのどっちが大事なんだ!?」
「瑠璃たそ、越えられない壁、ゴミ、お前」
「は、春!?しっかりしろ!」
もう、終わりだ………俺の人生、おーわた。はいおーわた。
「こ、小山君?どうしたの?あ、えと、美優に会いに来たんだ」
「え?あぁ、それもあるけど足立さん、えと、瑠璃さんにも会いに」
「えぇ!?あ、あの、よ、用事でもあった?あ、ちょっと待って!み、美優、美優、変なとこ無い?大丈夫?」
「瑠璃たそは完璧。最高。大好き」
「よ、よしっ、ありがとっ。こ、小山君っ?私にどんな用事?」
「えと、春がミスコンに出る人を見てみたいって。それだけなんだけど」
「……そ、そっか。あぁ、はい。それで、その人が?」
「おいデコ!てめぇ瑠璃たそを待たせんな!ぶっ飛ばすぞ!」
「あ、足立さん、優しくしてあげて」
「立てハゲ!」
「…………」
「おいこら!聞いてんのか!?」
「…………」
「チッ、あたし特製のパンケーキ様を食わしてやる。早く起きれ」
「…………」
「美優?大丈夫?かなり落ち込んでるんじゃない?」
「…………デコすきぃ〜」
「…………」
「ヤバイ!?ヤバイヤバイヤバイ!ノッポ!どうしよ!?どうすんの!?」
「………………あ、暴れない事だけ祈ろうか」
俺を爆弾扱いすんな。お前らには心が無いのか。優しく慰めろ。
「んで、こいつが「おいハゲころすぞ」瑠璃たそだかなんだかか?」
「あ、あはは、足立瑠璃です。初めまして」
「口に気を付けろよハゲ。てめぇが瑠璃たその名前呼ぶ事すら禁忌だからな?」
「ふーん、へー、ほー」
「春、失礼だぞ」
「まぁまぁだな」
「しね!」
回避。俺は今とてつもなく機嫌が悪いのだ。
「あの、春さ「立花」あ、ごめんなさい、立花さんはどうして私に会いに?」
「まぁまぁのツラ見に来ただけ」
「しね!」
「断る」
「うぅぅぅぅ、しね!」
「断る」
「る、瑠璃たそにあやまれぇ」
「チッ、謝罪代行、とっとと土下座して靴舐めろ」
「そんなのになった覚えはないし、謝罪の形が酷すぎる」
「チッ」
「あはは、あの、謝罪とかは別に大丈夫です。まぁまぁなんで」
「あやまれっあやまれっあやまれっ」
「すまん◯」
「それやめろ!」
「お噂通りの人ですね……」
「瑠璃たそに何言ってんだぼけ!」
謝ったのに怒られるって萎え。どうしろって言うんですかね。
「んで瑠璃たその特技は何。手コ◯?足コ◯?特技ってくらいだから喉輪◯めくらい出来るよな?」
「失礼のオンパレードやめろ。アピールは特技以外にもあるだろ」
「んじゃ必殺技か?って事はス◯トロレベルだよな?臭ぇからやるなよ?」
「デコ、ごめんて。本気で怒ってる?ごめんね?ごめんね?」
「別におこじゃないし?怒る理由無いし?」
「つまり立花さんは嫉妬してるって事?」
「べ、別に!?俺が1番ミュウちゃん愛してるし!?俺が1番愛されてるし!?嫉妬の意味わかんねぇし!?」
「おい、春」
「うわ、わわわ、美優すっごい真っ赤」
くっ、可愛すぎる!ドチャクソ可愛いぞぉ!!
「美優、かわいい」
「ば、ばかっ」
「春君、私は?」
「……………………なんでいんの?」
「隣、私たち使ってるからね?」
「春、だから止めたのに」
……………全然止めてませんねぇ!!
瑠璃たそと猛に笑顔で見送られ、真子にいっぱい怒られました。物理で。
「春君、この状況どう思いますか」
「俺が初めて皆に本気でお願いしたい事がある。事件だけは起こさないでくれ」
「た、立花に言われたくない!」「変態のくせに!」「性犯罪者はあっちいけ!」「スケベ!」「最低!」「社会のクズ!」「立花のくせに!」
おっとっと、散々な言われようですね。でもせめて泣きそうな顔でディスんないで。
真子に引きずられてキッチン班に誘導されたのだが、見てわかるくらい荒れてる。教室の中全てが。
文化祭用に学校に申請を出すと用意してもらえるキッチンがあり、そこで調理をしていたらしいのだが、キッチンどころか、調理器具や床まで全てがグチャグチャ。
料理は100歩どころか何歩譲ってもいいくらいしょうがない。
でも片付けは違くね?掃除は違うよな?お前ら汚してないと生きていけない人種なの?くらい荒れてる。自分らにもあらゆる汁をぶっかけたくらい汚ねぇし。
「た、立花くぅん、助けてぇ〜」
「サッキー、味見して腹壊したか?」
「それは大丈夫ですっ」
「立花………助けて……」
「ユーマちゃん、まー君が文化祭来てくれるんだろ?頑張れんだろ」
「うぅ、もう、限界……」
なるほど、まー君パワーはだいぶ前に使ってしまったんだな。まだ3限なんだけど。
「ハルちゃぁぁぁぁん、遅いよぉぉぉ」
「おぉう、ヒナちゃんもグロッキーだな。というか全員やられてんな。試作食いすぎとかか?」
「そーなんだけどぉ、メンタルのがピンチなのぉ」
「つまり、ほぼ無限に食えるであろう運動系の野郎どもですら拒否する異物しか作れないため、自分らで処理してしにそうだと」
「あったりぃ」
捨てたら減点だもんな。マジでバカじゃね?
「最低、君、練習、どうし、うぷっ」
「ミーたん、もういいんだ。こんなバカな事はやめるんだ。はっきり言おう。無駄」
「春君、私たち、どうすればいいの?もう、何も思いつかないよ………」
「お前らさ、なんで頑なにこっちやりたがってんの。コスプレ恥ずかしいとかって理由で豚になるのは構わねぇけどよ、お前らなんか見ねぇよ」
『……………………』
「成績が本気でどうでもいいならこれでいいけど、何に自信あってコスプレしないで豚の餌作ってんの?」
「は、春君、ちょっと、キツイ」
「お前はまぁセクハラ防止でこっち、ってのはわかる。サッキーはそれでもあっち、ヒナちゃんとミーたんはこっち、ユーマは女子受け狙ってあっち。これ妥当だよな?他の奴らは出来るやつだけこっち。出来るやついるか?いねぇよな?」
『……………………』
「わかったら日々自分らの飯作らされてる運動部と変われ。実際にケツ触られたら交代してもいいぞ。そんな奇跡を起こせるならな」
この日、俺はほぼ全ての女子に嫌われた。が、正論でもあったので悔し涙を流す事しか出来なかったらしい。なんかごめん。




