29話
「皆さん、それではこれから、調理実習を始めます。準備はよろしいですね?」
という先生のありがたいお言葉へのレスポンスが弱すぎる。やる気だしなよ男子〜。
我が校名物週一お料理教室。
うちの高校では家庭科の教科書を速攻で終わらせて、実習と称して昼飯を作らせる嫌な風習のようなものがある。
その理由として、どいつもこいつも飯作れないから仕込んでやっかぁ、というムカつくクソ事情。
今の校長の嫁が元々飯作れなかったっていう説もある。
「先週も言ったように、今日はカレーを作ります。簡単ですね?では各班毎に調理を開始して下さい」
「よし!立花!始めようぜ!」
「黙れハゲ。俺は食う専門だ」
「いややれよ。秋さんも言ってるだろ。働かざるもの?」
「食わせてやっかぁ」
「違う」
なんでだよ!母さんはこう言いながら俺の口にぶち込んでくるぞ!
各班5人体制で組まされる事になり、俺、猛、ハゲプラス知らない奴2人で構成されている。
知らんのはハゲの連れらしい。
「よ、よろしくな?」
「おい、山岡、大丈夫か?」
「何緊張してんだよ。ったく」
うざい。気持ち悪いからやめろ。お前は他人だ。
「お前ら誰」
「お、おい。クラスメイトだろ」
「知らん。名乗れボケ」
「ひ、ひでぇ。青木雄介だよ」
「は?何番目?」
「4番目の青木だよ」
「チッ」
「なんでだよ!」
わかりにくいんだよ。キモい。
俺のクラスには青木5人、青山4人、赤木5人いる。
そのせいで小山の猛が出席番号21。さ行がいなくて次に俺。この学校おかしい。他のクラスは異常無いしな。
「俺は2番目の赤木だよ。赤木和雄」
「4と2な。多分覚えた」
「絶対忘れるだろ」
「お前覚えてんのかよ」
「ユッケとカツオって呼んでって言われたから覚えられたよ」
「今日カレーだぞ?隠し味とかいらねぇよ?」
「春、そろそろまたハブられるぞ」
今に始まった事じゃねぇだろ。お前だってハブられるからな。
というか俺らより心配な奴らがいるだろ。
チラッと確認してみよ。
「お姫っ。今日はよろ〜」
「うん。えっと、Dさん?よろしくね?」
「あーしもよろちくび〜」
「三上さん、そういうのやめてね。私そういうの好きじゃないから」
「えー?たっちゃんよりマシくない?」
比較するな。俺は怒られながらぶっ込んでんだ。
「はいはい。とりあえず役割決めよう」
「ショタやる気満々じゃん?」
「その呼び方やめろ!」
「えー?だってハルちゃんがそう言ってるじゃん」
こっちに投げるな。視線もこっち来なくていいから。女の子、中指やめな?
「春、春、大丈夫かな?」
「仲はそこまで悪く無い。後はギャルズがどこまでの手練れかってだけだな」
「なんだよ2人して。なんかあんのか?」
「黙れハゲ。野菜切れ。ビビンバは肉、磯野は米やれ」
「呼び方おかしいだろ。俺は?」
「お前はルー割ってろ。そして監視」
「あー、了解」
「いやよく無いだろ。立花もなんかしてくれよ」
黙れ磯野。米が嫌なら野球でもしてこい。
監視を続けようとしたいると、恐る恐るビビンバが俺に人参を渡してきやがった。作り笑いが引きつって怖い。わかったからやめろ。
仕方なく、洗剤とタワシでガシガシ洗う。
「ちょ、春!洗剤使うなよ!バカか!」
「アホか。うちはこうだ。嫌なら俺だけで食うから。あっちいけダークマター製造機」
「もう焦がしたりしてないって!」
「た、立花?大丈夫か?」
うるせぇハゲ。お前の包丁捌きを心配しろ。ジャガイモなんてすぐ終わるだろ。
「うわぁ、立花やば」「やっぱ男子だよね」「洗剤って。小山君かわいそ〜」「うち絶対無理だわぁ」
うわダル。こっち見てないで自分のやれよ。お前らの女子力の方が心配だろ。
人参さんを綺麗に洗ったので、頭を落として乱切り。一応ちょい大きめで切りましょう。うちはゴロゴロカレーなんで。
「うわ!春!皮!皮剥けよ!」
「立花!?ちょ、おいおい!」
「うっさい。俺じゃなくて自分の手元見ろ。ハゲまだ芽ぇ残ってんだろ。ビビンバ肉デカすぎ。磯野は米洗いすぎ。それ砕けて白くなってんだろ」
「え?おぉ、マジだ。ごめんな」
「で、デカいか?いや、でも「切れボケ」わ、わかった」
「立花?話逸らしてもダメだぞ?ミスはちゃんと認めろよ?」
「お前と一緖にすんなハゲ。お前のせいで病院送りは勘弁だぞ。猛、ハゲと代われ」
「え?あ、うん」
「は!?俺は!?」
「鍋と器の準備しろボケ」
俺の事言ってるヒマねぇだろアホ共。言わんけど手ぇ洗ったの俺と猛だけだぞ。お前らがちゃんとしろ。
順調に人参さんを切りながら、もっかいお姫ーズを見てみる。
……………サ、サッキーさん?お米は洗剤で洗わないよ?あ、Dに注意された。セーフ。
ユーマは慣れてないだけっぽい。タマネギ切るのおせー。手でやる方が早いレベル。
ウド危ねぇ。肉を叩き切ろうとしてんぞ。まぁD子に止められるよな。はぁ?って顔で返してるけどな。
肝心の真子ちゃんは目が合った。俺のマネして人参を切ってる。手元見ろバカ。また指切んぞ。
「おい春、ジャガイモ終わったぞ」
「遅い。他は?」
「ご、ごめん。タマネギまだ」
何目を抑えてんだ磯野。息止めてやれ。だが指示される前に切った事だけは褒めておく。
「肉はいいぞ」
大きさバラバラ。デケェっつってんだろ。
「よっしゃ!とりあえず切れたやつぶっこむぞ!いいよな?」
「なんで先に水ぶっこんでんだバカ。煮詰める気かボケ。いつ食う気だハゲ」
「え?わ、悪りぃ。…………準備オッケー!」
「よしわかった。お前片付け担当」
「え!?なんで!?」
戦力外。黙って代われ。
ビショビショの鍋に火をかけて、一応水分を飛ばす。んで油ひいて温め、サイズバラバラの肉、野菜各種を炒めます。野郎共見てないで使ったもん片せ。
火がまぁ通ったと思うので水投入。弱火に切り替え後は待ちましょう。
「猛、アク取り。他のヒマこいてるバカ共はとっとと使ったもん片せ」
「お、おう」
「立花他のは手際いいな」
黙れ磯野。カツオのタタキにするぞ。
「確かに。でも人参はなぁ?」
殴るぞビビンバ。唯一言う事聞かないお前は後でしばく。
「………春、大丈夫?」
「何がだマヌケ。それアクじゃねぇから」
「え?いや、でも、今日の春おかしいし」
「お前らと一緖にすんな」
猛は必死こいて浮いた旨味をすくってポイしてくれてる。バカ。
「でも、洗剤で人参洗ったり皮剥かないし、アクも、ほら」
「チッ、洗剤の裏読んだ事ねぇのか?書いてんだろ」
「は?…………ホントだ。書いてる」
食器用の大体の奴は食材洗えるって書いてんだよバカ。知っとけ。
「んじゃ人参は?なんで?」
「あの皮食えるからな。市販のやつも食えない皮1枚剥いて売ってんだよボケ。ちなみにお前らがシコシコ剥いてた皮が1番栄養ある」
「マジか、アクは?」
「自然と一ヶ所に固まったヤツ。お前が必死に取ってたの旨味成分」
「マジか!立花すげぇ!」
「お前らみたいになんでもかんでも親任せにしなきゃ誰でもこんぐらい出来るっつの。むしろ良く俺にあれこれ言えたな。クソの役に立たないカス共」
「春言い方」
図星はやめろってか。こんぐらい言わなきゃこいつらも、俺をバカにしてたリョウリトクイとかほぞいてる女子共もわからねぇだろ。
「ハルちゃんやるねー。あ、サッキーネコさんのお手手だよ」
「わ、わかってりゅ!」
サッキーさん、包丁持つ手がプルプルしてる。もうお芋さん皮無いよ?細かくするだけだよ?
ウドは未だに肉切ってる。包丁は引いて切るんだよ。押し付けてどうする。
真子は頑張ってタマネギ切ってる。はいはいお目目痛いねー。耐えろ。
ユーマは洗い物して待ってる。こっち見てグッ、とかいらないからバッドだから。
「春、ルーいつ入れる?」
「チッ、好きな時に入れれば?」
「う、うん。でも今じゃないんだよね?」
「具が柔らかくなったら入れろボケ。わからなきゃ今から10分したら入れろ」
「了解」
鬱陶しい。お前本当に毎日自分の飯作ってんのかよ。余り3人はやる事無ぇみたいに駄弁ってるし。お前ら食器も準備しとけよ。
「ミーちゃん、お肉は押すんじゃなくて引いて切るんだよ?こう」
「おお!やっと切れた!やるじゃん!」
お前がやれてないじゃん。何目線?
「お姫、大丈夫?」
「だ、ダイジョブ〜。切れたよ〜」
「そんじゃ、お鍋に材料入れてこっか。ユーたん準備オッケー?」
「おう!立花のマネしてっから大丈夫だ!」
モロクソ人頼み。そんなんじゃ正志に余計嫌われんぞ。
やっとこ他の奴らに近づいてきたな。他の奴らもとっくに煮込んでる。なんぼか茶色いし。
こっちもルーを突っ込んでまた煮込む。飽きた。
「はい皆さん出来ましたね。それでは、食べていいですよ」
「いただきまーす」「………カレーだな」「普通にうまいな」「さすがカレー」
でしょうね。よっぽど変なのぶち込まなきゃ味は大体一緖だろ。
「お、おいしい……」
「よく出来たな。私ら」
「サッキーが洗剤で洗ったの見た時終わったと思ったもんねぇ」
「ご、ごめんなさい…」
「あーし今日でしぬかと思ったもんね」
「ウチはミーちゃんの手か指が終わるかと思ったけどね」
上段からの包丁振り下ろしは衝撃だったもんな。よく生きていたな。
「…………うまい」
「変じゃない……普通だ」
「人参がうまい。良かったわ〜」
「うん。問題無くおいしい」
「………変な味すんな。お前らシコった後ちゃんと手洗ってねぇだろ」
「やめろ!」
「洗ってるっつの!」
「そ、それお前だろ!」
「いや、俺自分でとかしねぇから。お前らと違って」
「ぐは!」
「うぐぅ!」
「がは!」
「春、そんな事言ってると更に嫌われるよ」
全然問題無いね。あ、ごめん真子さん睨まないで怒らないで首シュッてやるジェスチャーやめて。
片付けをアホ共にやらせて終了、洗い方くらい知っとけボケ。
全員無事。
真子のところも問題無かったようだ。病院送りが出るとばかり。
「春君出来たよ!」
「だいぶ怖かったけどな」
特にジェスチャー。震えた。
「ハルちゃん上手だったね〜。お嫁ちゃんが苦労しそ〜」
「ご、ごめんね春君!ちゃんと出来る様になるから!」
「こういう時大体ミュウちゃん思い出すよね。飯うまいんだよ」
「むぅ、………ちゅうしよっか」
「帰ってからな」
「やた!」
「むっ、ラブい。いいな〜、彼氏、というか愛されたい。サッキーとかミーちゃんは見てても何ともないけどお姫強烈だなぁ」
「ウドなんか風俗嬢みたいだから。俺ならチェンジ」
「ウチも。でも山岡的にありっぽいね」
乳さえあれば何でもいいんだろうな。ただ聞いてもない事言いに来ると殴りたくなる。我慢して蹴ってるけど。
「んで、お前はどうした。最近どっかでこそこそしてるけど」
「な、なんだよ。何もしてないぞ」
「嘘つけ。もしかして正志のケツの写真見ながら便所で「してねぇよ!」家では?」
「し、してません!」
怪しいだろ。何かしこまってんだよ。
「ところでDさん、いいの?咲と小山君のところ行かなくて」
「うーん。今は文字通りお休みかなぁ」
「問題児しかいない班で疲れてるもんな。サッキーとウドは特に怖かった」
「うんうん。注意した時の2人のなんで?って顔は暫く見たく無いかな」
当たり前の様に問題行動するもんな。返しも大問題。
「ふむ。ならご褒美に放課後は猛を好きに使っていい券をあげよう」
「マジ?サッキーおこじゃない?」
「洗剤ぶち込んでキレ無かったお前におことかすげぇアホだろ。さすがに今日は文句言わねぇ」
「私からも言っておくから大丈夫」
「いいの?お姫はサッキーの味方だと思った」
「私は恋する者の味方だから!キリッ!」
口で言うのな。あとそんな顔にはなれてない。
「サッキーカモン」
「…………何?」
「春また変な事言うつもりだろ」
前振りにしか聞こえない。
「今日は猛をDに使わせる。問題無いな」
「む、むむ、む、……ありません」
「いやそれ俺には聞かないの?」
「お前は喜べ。良かったな、料理が得意な女の子と仲良くて」
「ふふふ、もっと褒めてもよいのだぞ」
「かわいい、気がきく、優しい、適度にエロい、完璧だな。俺の彼女とか友達に言いたいくらい」
「あう。頑張ります」
「…………ま、負けないもん!」
「ふっ、サッキー、もはや埋まらない差なんだよ。諦めろ」
「むぅ、…………頑張ります」
勝った!サッキーに勝ったぞ!今日は赤飯や!
「でも猛きゅんが他に何かあるならそっち優先でいいよ?」
「え?いや、あのー」
「サッキーさん、今日はどうする?作戦会議するか?」
「お願いします」
「猛、聞いたな?ヒマならD子の相手しろ」
「わ、わかった。えっと、いいかな?」
「もち!あ、下着どうだっけ」
「そ、それはダメですぅ!許可してません!」
サッキー必死だな。オタクの敵であるギャル相手と高を括るからそうなるのだよ。
「サッキー、敗因はわかるな?」
「女子力の差だと思います」
「乳以外なんもねぇもんな」
「う、うるしゃい!」
「ふっ、情け無いオッパイさんだ。ノッポがD子に行く気持ちが手に取るようにわかるな」
「むむむむ〜。でもミュウだって真子ちゃんに負けてるじゃん!」
「咲、本人達目の前にいるから」
「オッパイさん、あたしは勝負に勝って、試合に負けただけだ。実質あたしの勝ち」
「本人目の前!負けてないもん!」
すまん真子。今はお前を見れないよ。
「とりあえず、料理教えて下さい」
「急だな。んで、お前何してんの」
「いや、私も教わりたいな〜って」
「別にいいけど、ユーマちゃん最近何企んでんの。危ない事してねぇよな?」
「するかアホ!友達に年下の子と付き合ってる奴がいるんだよ。ちょっと話聞きに行ってるだけだって」
なるほど。少しは正志に気を使うことが出来るようになるかもしれないと。不安しかないが。
「おい真子」
「今忙しい。美優アイテム使っていいよ」
「おー」
そんなだから負けてるって言われんだぞ。サッキー見習え。
この後は危険人物Sを必死にレクチャーする羽目になった。ミュウちゃん笑いすぎ。具材使い切るほど失敗すんな。




