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 ぐらり


 急に頭が揺れた。軽い吐き気を飲み込むと、徐々に頭がはっきりとして来た。鈍い頭痛が襲う。眠いからだ。そうだ、私は帳台で眠っていたはずだ。


 無理矢理に瞼を上げると、周りはまだ暗く、夜は明けていないようだった。暗さに慣れてきた目に、少納言の顔が映った。私の目線よりも下に。おかしい、私は少納言を見下ろしている。


「さぁ、私と一緒に行きますよ」


!?源氏の君の声!源氏の君が私を抱きかかえている!


「姫様を・・・姫様をどうなさるおつもりですか!」


少納言が必死に追い縋るのも気にせず、源氏の君は私を抱いて、足早に部屋を後にする。異変に気付いた桂と犬君も、少納言の後からついて来る。


 状況を飲み込めないまま、私は源氏の君の車に乗せられた。


「明日は宮様が姫様をお迎えにいらっしゃる日ですのよ!姫様を連れて行かれては困ります」

「お父君のお邸へ行かれては、なかなかお会いすることも叶わなくなるじゃないか。まぁ、心配だったら、誰か一人ついて来ればいい」


少納言が、昨日縫い上げたばかりの私の衣を引き掴んで、車に乗り込んだ。私は少しほっとしたが、不安でいっぱいの顔をして、ひし、と身を寄せ合い立ちつくす桂と犬君の姿が目に焼き付いて胸が苦しかった。


 車の中では、源氏の君が何かお話しされていたけれど、全く耳に入らず、ずっと少納言の手元の辺りを見ながら、行く先も分からぬ奇妙な時を過ごした。車は夜の暗闇の中を進み、やがて、大きな邸の中へと入って行った。


 私たちは、広く、がらんとした部屋にぽつんと座らされた。暗闇の中で呆然と座っているしかない私たちの周りには、源氏の君の指示で、次々と調度が設えられてゆき、私は、帳台の中に入るよう、源氏の君に促された。


 ここがどこなのか、これからどうなるのか分からない恐怖の中で、一人で帳台の中に閉じ込められるのは適わない。


「あの、少納言と一緒ではいけませんの・・・?」


なんとか絞り出した必死の懇願は、帳台の中で小さくこだまし、すぐに消えた。帳を上げて、源氏の君が入って来たのだ。私は最早、静かに泣くことしかできなかった。


「これからは、私と一緒に寝ましょうね」


源氏の君にがっしりと体を引き寄せられ、眠るように言われたが、涙が溢れ、瞼を閉じているのはつらかった。でも、目を開けて、源氏の君のお顔を見るのは恐ろしく、ただじっと、目を閉じて時が過ぎるのを待った。

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