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 目が覚めたら、いつの間にか、私はお兄様の膝に寄り掛かっていた。


「あ、お帰りなさいませ、お兄様」


私は慌てて涎を拭って顔を上げ、お兄様の優しい目を見て、ほっとした。ここ(、、)たちは、少し離れたところで、きちんと居ずまいを正して控えている。そして、じっと静かに、お兄様と私の様子を見つめている。


「ね、お兄様、帳台に入りましょうよ」


四人の視線が刺さるようだったので、私はお兄様を帳台へ誘った。お兄様はおかしそうに笑って、私を帳台へ連れて行く。


「お兄様、物語を聞かせて」


「紫上は物語がお好きだね。じゃあ、とある深窓の姫君の物語にしようか。あるところにね、由緒正しいお家柄の姫君がいらっしゃったんだ。でも、姫君の父宮様が亡くなられてしまって、広いお邸には訪れる人も絶えて、姫君は、草の生い茂る荒れたお邸で、ただお一人、琴だけを友として、寂しくお暮しなんだ」


「まぁ、おかわいそう。どなたかが助けて差し上げるの?」


「そうだね・・・ある男が、姫君の噂を聞いて、姫君のもとに通い始めるんだけど、姫君は大層恥ずかしがり屋で、お歌一つ返して下さらない。男は、もう望みは無いのかと、姫君のことを諦めてしまおうと思い悩むんだ」


「まぁ、そんなのだめよ。姫君お一人で、これからどうお暮しになるの」


お兄様がくすりと笑った。


「紫上は優しいんだね。いや、しっかりなさっていると言った方がいいかな。暮らしのご心配をなさるなんて」


つい、姫君と自分とを重ね合わせて、本心が出てしまった。明日の暮らしの心配などというものは、あまりに泥臭く、この華麗な場所には相応しくなかった。


「まぁ、紫上がそんなに気に掛けられるのなら・・・」


お兄様は、ごろりと横になった。


「男は姫君をお救い申し上げることに致しましょうか」


私は、寝転んでいるお兄様の顔を見下ろした。


「あら、お兄様がお作りになった物語でしたの」


お兄様は、私の顔を真っすぐに見てほほえむ。


「私は物語など作らないよ。私の周りには、こんなに美しくて面白いものがあるというのに。あぁそうだ、もうすぐ尼君の喪が明けるね。綺麗な衣を作っておくからね。それに、そろそろお化粧も始めないとね」


お兄様の指が、私の唇を撫でた。


「紫上の唇は、紅など差さなくても、紅くて綺麗だね」


ここの紅がまだ残っているのかと不安になり、慌てて身を引こうとしたが、お兄様に体を引き寄せられ、唇を重ねられた。


「私の紅が、紫上の唇に移ってしまったよ。やはり、紅を差すと一層綺麗だね」


お兄様は満足そうにほほえむ。私は紅に濡れた唇を開き、呆然とお兄様を見ていた。


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