第5話 確認
VR映像が終わり、気が付くと、俺は噴水の置かれた広場にいた。
着ている服は、キャラメイクの時と変わっていない。粗悪な革でできた、シャツとズボンのようなものだ。
視界の上側に、2本のバーが見える。上にある緑色のものがHPで、下にある青色のものがMPを示しているそうだ。どちらも満タンで、安心する。最初からこの辺が削れてるような鬼畜ゲーは、さすがにやりたくないもん。
数値で見たい場合は、メニューからステータス画面を開くんだっけ。
右手の人差し指を立てて、ピクピクとさせる。賢斗によれば「小文字のm、メニューのmを書いてるんだよ」というこのジェスチャは、万国共通、どんなVR機器も対応している、メニューを開く仕草だ。
もちろん、この『エインヘリヤル・オンライン』も例外ではない。「アイテム」や「ステータス」、「ヘルプ」などと文字が書いたボタンが、目の前に表示される。青空の下でも立体投影ディスプレイみたいなインターフェースで操作ができるのは、VRならではという感じがするな。
まずは、ステータス画面を確認しておこう。
【名前】ナンコウ
【クラス】魔術師
【所持金】1000エン
【ステータス】
HP81/81
MP135/135
【装備スキル】(装備枠:5)
<陰陽道> Lv.1
<書道> Lv.1
<符製作> Lv.1
<魔力強化> Lv.1
<所持数拡張>Lv.1
【所持スキル】
なし
【取得可能スキル】▽展開する
SP 1
魔術師クラスを選んだこともあるだろうが、HPは低く、MPは高くなっている。本当に攻撃力とか防御力とかは表示されないんだね。ディスプレイゲームと違って、ゲームの中で生きてるみたいな感じだから、まあそれもありかもしれない。
通貨単位は、「エン」なんだ。国産ゲームって感じがして、いいと思います。
スキルも、ちゃんと設定した通りになっているな。自分で選んだとはいえ、戦闘力が皆無そうなラインナップを見ると不安になってくる。
まあ、なんとかなるでしょ。
SPというのは、「スキルポイント」の略。βまでと違い、新たにスキルを取得する時は、これを消費するそうだ。取得可能スキルのところを展開したら、さっきも選択肢にあったスキルがずらーっと出てきた。
初期の1ポイントは、とりあえずは貯めておこう。今、スキルを取得したところでどうせ装備できないし。
ステータスを閉じて、今度はアイテムウィンドウを開いてみる。
三列の表が、目の前に出てくる。ところが、表には何も文字が書いていない。半透明のウィンドウを通して、広場の噴水がきれいに見える。
バグか?
運営に問い合わせた方がいいのかな。
いや、違うわ。
俺が何もアイテム持ってないだけじゃないか、これ。始めたばかりだから、当然といえば当然だが。
気を取り直して、今度は装備画面を開く。
ナンコウ
【武器】 なし
【頭装備】 なし
【胴装備】 初心者のシャツ
【腕装備】 なし
【腰装備】 初心者のズボン
【足装備】 初心者の靴
【アクセサリー】 なし
画面を見てはじめて、自分が靴を履いていたことに気がついた。意識には全然上っていなかった。これまた、質の悪い革で作られている。
画面に戻り、「初心者のシャツ」のところをタップすると、装備の詳細が表示される。
【胴装備】初心者のシャツ
冒険者稼業を始めた者が、まず最初に身につける防具。
非常に簡素なつくりをしている。
え? これだけ?
あの……ほら、ファンタジーだとよくある、ステータス補正の表示とかないの?
ゲームの「ヘルプ」機能って、序盤しか使わないよね。すなわち、今だ。
ということで、ヘルプの内容から、装備に関する内容を探し出して読む。
ふむふむ。ステータス補正値が表示されないのは、「少しでも、プレイヤーの皆様に、現実に近い形のミッドガルドの世界を体験していただくため」だそうだ。せっかくのVRなんだから、数値こそパワー! みたいな感じにはしたくないってことかな。なるほど。
考えてみれば、ステータス画面ですら、HPとMP以外表示されないんだもんな。当たり前か。
とはいえ、ここまでやっても、インターネットで「解析班」とか呼ばれてる人たちは、解析しちゃいそうなのが怖いところ。俺はあんまり数値とか仕様にはこだわらないタイプだから特に気にしないけど、賢斗みたいな理論派の人には、大変そうなゲームだ。
メニューには、「フレンド」の項目もあった。
開いてみた。
リストの、「フレンド:0名」という表示に心が折れて、すぐ閉じた。
よし。メニューの使い方はだいたいわかったぞ。今までやってきたVRゲームと、そう大きな違いはない。
さて、次は、細川とか賢斗とかとの待ち合わせ場所に向かわなければならない。
初期の地点でいいんじゃないの? と賢斗に聞いたら、βですら混んでたから、正式サービスでなんて絶対無理、と言われてしまった。確かに、この広場、見渡す限り、人、人、人である。待ち合わせは不可能に近い。
とりあえず、マップが表示されるように、メニューから、設定を変えてみる。
半透明のウィンドウが出てきて、街の地図が見られるようになった。どうやら、今俺がいるこの街は「エットの街」というらしい。中央の白い点が、俺のいる位置を示しているのだろう。白点の光る場所には、「噴水広場」と名前がある。そのまんまだな、おい。
賢斗が待ち合わせに指定したのは、広場から北の方に歩いた、「貸倉庫」の前。冒険者ギルドが管理していて、持ち切れないアイテムを預けることができるんだって。最序盤はアイテムが持ち切れなくなることなんてまず無いから、ここの前なら空いてるだろう、とのことだ。
えーと、北は……あっちか。人を避けつつ、歩いていく。しっかし、VRの中だと、地図を見たりするのに端末を手で持ってなくてもいい、っていうのは、すごい楽だなあ。早く現実世界にも実装してほしいよ。