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第13話 草原

 さて、ようやく準備が済んだ。

 我々パーティが、エットの街から出る時が、とうとう来たのだ。


 街の内と外を隔てる門までやってきた。ここを越えれば、モンスターが出てくる。

 たくさんのプレイヤーが、初めて経験する「VRMMORPG」の戦闘に胸を高鳴らせて、次々と門へ吸い込まれていく。

「さて、行くか」

 先頭に立ったうさみんが、振り返って言う。

「俺たちの冒険の、始まりだ」

「おおー!」

 みんなで拳を振り上げて、声を合わせた。

 


 右手に握りしめるは、ルーキーの筆。

 身に纏うのは、初心者装備(ボロきれ)

 (アイテムポーチ)に隠すは、全財産をはたいて購入した、火の呪符と水の呪符、各1枚。


 ナンコウの冒険が、今始まる。

 待ってろよ、モンスターども!


 * * *


 人の流れに沿って歩いていき、門に近付くと、ウィンドウがポップアップした。

 「はじまりの草原」と書いてある。門を出たところにあるフィールドの名前なのだろう。

 名前の下には、ワールドマップ上での位置と、主に出現するモンスターが表示されている。



  ・レッサースラッグ

  ・グリーンモンスター



 んんん?

 どっちのモンスターも、名前から姿が想像できない。

「なあ、スラッグってなんだ?」

 こういう時の、俺の行動は決まっている。うさみん知恵袋に頼ってしまえばいい。

「英語で『ナメクジ』を意味する言葉です、ナンコウさま」

 あ、その前にリリーさんが教えてくれた。

 ……え? ナメクジ?

「『ファンタジア』のゲームでも、序盤はでっかいナメクジが出てきてただろ? あれと一緒だ」

 ファンタジアってのは、今使ってるヴァーチャルグラスのひとつ前のモデルで、VR世界でRPGが楽しめるようになった、画期的なやつだ。

 確かに、あれで最初に出てきたのもナメクジだったな。動きが遅いから倒しやすいんだけど、ゲテモノ耐性がない人はゲーム開始早々あんなものを見せられて大変だったらしい。

「グリーンモンスターってのは?」

 まさか、野球場の外野の壁みたいにそびえ立つモンスターだったりしないよな。

「ああ、それはな……フィールドに出てみればわかるよ」

 いつの間にか門のすぐそばまで来ていた俺たちは、そのまま人波に押し流されていき、街の外へと第一歩を踏み出した。


 読み込みでもしたのか、一瞬だけ視界が真っ白になってから、すぐに草原が眼前に広がった。

 これが、「はじまりの草原」か。

 俺たちパーティが立っているところは、土が露出しており、道のようになった部分がずっと向こうまで続いている。道から外れたところには、膝丈くらいの草がびっしりと生えていて、地面を直接見ることはできない。ところどころにツツジくらいの大きさの低木が生えた茂みが見えるが、全体的に見通しのいい、平坦な地形だ。

 それにしても、プレイヤーが少なすぎないか? 見える範囲には、ぎりぎり数えられるくらいのプレイヤーしかいない。平日に、そこそこ有名な公園にピクニックに行ったら、こんな感じじゃないだろうか。

 街の中があれだけごった返していたんだから、フィールドはもっと混んでいそうだと思ってたし、なんなら、ポップしたモンスターを取り合うくらいのことを覚悟していたんだけれど。

「人が、少ないですね」

 カーレイルも、俺と同じことに気付いたようだ。

「ああ、あんまり人が多すぎてもトラブルの種になるだけだから、ランダムで振り分けられてるんだよ」

「振り分ける?」

 人を振り分けるって、どういうことだ。

「あーっと、これと同じ草原がサーバー上にはたくさんあって、それぞれにパーティが配置されるんだ」

「つまり、並行世界(パラレルワールド)ってことですね!」

 目を輝かせて、こんなことを言い出すカーレイル。なるほど、そういうことか。

世界樹(ユグドラシル)を通って、幾多の並行世界(パラレルワールド)を渡り歩く冒険者たち(エインヘリヤル)……かっこいいです!」

 ゲームシステムまで中二病的に解釈しちゃうのかよ。カーレイル、お前はすごいよ。


「ところで、敵の姿が見当たりませんね」

 さっそく弓と矢筒を取り出して戦闘態勢に入っているリリーさんが、辺りを見回している。

「ここは『道』なので、出てこないです。っと、ちょっと失礼」

 そう言うと、土の部分を外れて草むらに入っていくうさみん。

 しゃがみこんで、何かをむしっている。

「それは?」

「薬草だよ」

 実体化している状態のアイテムの詳細を見たいときは、まばたきを3回、だったか? ……確かに、薬草らしい。食べるとHPが10回復する、と出てきた。

 うさみんはというと、尚もしゃがんだまま、何本か草を抜いている。


 俺も採取できるのかな。足元を見ると、似ている形の草がある。

 掴んで、引っ張ってみる。


 抜けない。

 ちぎれない。


 『おおきなかぶ』状態になっている俺を見て、うさみんが笑い出す。

「ああ、ナンコウはできないぞ。採取するには対応した生産スキルか、<素材採取>スキルが必要だからな」

 つまり、うさみんは<調合>スキルがあるから、ポーションの材料として薬草が採取できる、ということらしい。あと、採取できるものは、その上に青い三角形が出て見えるそうだ。

 青い三角形かー。

 周りを見回す。たぶんないけどね、って、あれ?


 背丈の低い木の横に、青い三角形が浮かんでいる。

 三角形の下にあったのは、なにこれ、枝?


 拾い上げる。


 拾えた。



【アイテム】木の枝

はじまりの草原に生える木の枝。

折れやすいので、武器としては使えない。



 武器に使えない? じゃあ、何に使うんだよ?

 拾ってしまった以上、捨てるのもなんだかなあ。とりあえず、ポーチにしまっておく。


「それで、敵はどこにいるのでしょうか」

 うさみんが薬草を回収し終わった頃を見計らって、リリーさんが声をかける。この人、クールそうに見えて意外と戦闘狂だったりするのかな、もしかして。

「道を外れて歩き回ってると、そのうちどこからともなく湧いてくるんだよ。ほら、あんな感じに」


 そう言ってうさみんが指差す先にあったのは、俺たちの身長と同じくらいにまで成長した雑草。

 葉っぱは手を広げたくらいの幅があって、それが、明らかに、辺りを吹く風とは無関係に蠢いている。


「ようこそ、『エインヘリヤル・オンライン』の世界へ」

 アイテムウィンドウを選んで長い槍を取り出すと、それを緑の小山に突きつけるようにして、彼は俺たちに紹介する。

「あれが、この世界最弱のモンスター。『グリーンモンスター』だ」

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