表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

第10話 財力

 RPGの基本といえば、なんだろう。

 武器と防具を装備して、敵キャラクターとの戦闘に勝利して、そのキャラクターから得たアイテムを使って、更に強い装備を作って……その繰り返しが、RPGの、ロールプレイングゲームの、基本にして真理だと、俺は信じている。

 ところが、この基本を破るような方法が、世の中のゲームには存在してしまっているのだ。


 すなわち、課金。


 リアルマネーを生贄に捧げることにより、ゲームを有利に進めるアイテムや装備が手に入れられる、小遣いの限られた学生にとっては、禁断の行為だ。

 この『エインヘリヤル・オンライン』においても、「課金」の概念は、一応存在する。課金したからって、そんな爆発的に有利になるわけでもないんだけど。コストパフォーマンスもそんなによくないし。

 例えば、「サービス開始記念! スタートダッシュパック」なんてものがある。

 お値段は3000円もするのに、初期装備よりちょっと強い武器と、ちょっと強い防具、それから、そこら辺のお店で売っているレベルのポーションとちょっとしたドーピング薬がいくつかずつ入っているだけだ。


 なんで俺がこんなことを知っているかっていうとね。

 カーレイルが、この「スタートダッシュパック」を購入済みだったんですよ。しかも、きっちり4人分を。




 そのことがわかったのは、自己紹介のすぐ後のことだった。

 無事に盟友の契り(フレンド登録)を交わして、さて、この後はどうしようかというところ。

 カーレイルが、おずおずと申し出る。

「あの、せっかく集まったんですから、このまま最初のフィールドに出てみませんか?」

 胸の膨らみの前で手を組み、若干の上目遣い。俺とうさみんを殺しにきているとしか思えないよ。

 と、彼女の方を見た時、違和感を覚えた。

 彼女の防具、妙に洗練されたデザインじゃないか?

 革が素材になっているのは俺の着ているものと一緒だから、今まで気が付かなかったのかな。

 ボタンとかポケットとかついてるし、ナイフが差せそうなホルダーもある。気になってリリーさんの方を向くと、彼女も同じ物を着ていることがわかった。

「それはいいんだけど……その前にひとついい?」

 もしこれが男女格差だったら、消費者庁にクレーム入れてやる。

「カーレイルとリリーさんの装備、なんで俺のより、ちゃんとしてるの?」


「課金装備だからだよ」

 俺の疑問に答えたのは、カーレイルではなくうさみんだった。

「『スタートダッシュパック』に入ってる、ルーキー装備一式だ」

「よくご存知ですね、うさみんさん」

 カーレイルが、課金を認める。

 そっかー、お嬢様だもんなあ。課金に抵抗なんてないよなあ。

「やはり物事、最初が大事なので。ああ、そうでした」

 何かを思い出した様子のカーレイル。

「せっかく、この世界での冒険をご一緒させていただくので、ナンコウさんとうさみんさんの分も購入しておいたんですよ。リリー、お願いします」

「はい」

 リリーさんが虚空を何度かつつくと、俺の目の前にウィンドウが表示された。



【リリーさんからのプレゼントがあります】



 なんでそこで、人に課金装備を贈るという発想が出てくるのか。俺にはわからないよ。

「あのさ、カーレイル。俺、ヴァーチャルグラスも回線もカーレイルにやってもらって、その上課金装備までもらっちゃったら……」

 お返しができるものなんて、なんにもないよ。

「俺だってもらう理由がないんだけど……ぶっちゃけ、装備はβで使ってたやつの方が強いし」

 うさみんも困り顔だ。

「いいんですよ。もし皆さんが気にされるようなら、ミッドガルド(この世界)を冒険する中で、カーレイル・ヴァルキュリアを助けていただければ、それで十分です」

 天から舞い降りてきた使徒のような、全てを赦します、という顔で、そんなことを言われてしまうと。俺もうさみんもプレゼントを拒否することなんてできず、「ありがとう」と一言口にするのがやっとだった。


 かつて、ディスプレイ上で行われていたようなネットゲームでは、アイテムを貢がれる女性は、(ヒメ)と言われたそうだ。

 ならば、アイテムを貢がれる男性はなんだろう?

 ヒモか。



 受け取ったプレゼントを開けてみる。

 「ルーキーの武器券」、「ルーキーのシャツ」などのルーキー防具、後はポーションとATKアップの薬が5本ずつ出てきた。

 「武器券」をタップして、詳細を見てみる。使用すると、装備スキルに応じて武器がもらえるらしい。俺、戦闘系のスキル入れてないけど何がもらえるんだろう。

 使用してみる。



【武器】ルーキーの筆

書の道を極めんとする者が、まず持つ筆。

墨をつけると、文字を書くことができる。



 ええー?

 筆って、武器か? 筆使って、モンスターを殴れと?

 いや、あれか。もしかしたら、人の背の高さくらい大きいのかもしれない。昔のゲームであったじゃん。イカになってインクを飛ばし合うやつ。あれくらい。

 装備してみればわかるはずだ。メニューを開いて、【武器】のところに筆をセットする。


 OKボタンを押した次の瞬間、俺の手元には、持ち慣れたサイズの筆が現れていた。

 軸と頭とが、ちゃんとある。毛は白い。

 完全に、筆だ。俺が部活動でよく使う、毛筆に間違いございません。


 ……こんなので、本当にモンスターと戦えるんだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ