第9話 友達
細川の、いや、こう呼ぶのはもう失礼か。
カーレイルの自己紹介が終わって、次は俺の番、なんだけど。
俺も中二風にやった方がいいのかな? 我が名は楠公。今は亡き楠木正成公の遺志を継ぎ、この世界に参集した! みたいな?
ただ茶化してるみたいになっちゃうか、それは。普通にやろう。
「どうも、ナンコウです。リアルネームは水江薫です」
あ、そうだ。まずはお礼をしないと。カーレイルの方を見て、言う。
「今回は、カーレイルの、香織のおかげで、このゲームをサービス開始当日から遊ぶことができました。ありがとう」
あれ? 俺、なんか変なこと言った?
なんかみんな、静まり返ってるんだけど。カーレイルなんて、下向いちゃってるし。
まあいいか。続きを話そう。
「クラスは魔術師、取得スキルは<陰陽道>、<符製作>、<書道>、<魔力強化>、<所持数拡張>」
ここまで言うと、うさみんが俺ににじりよって、一気にまくしたててきた。
「<陰陽道>がメインって、お前、正気か? あのスキルって、物理メインの戦士がサブで魔法攻撃通すために取得するもんだぞ? コストが馬鹿にならないし。それに他のスキルも戦闘性能がないやつばかりじゃねえか。特に<所持数拡張>とか、序盤には絶対必要ないし。もう少し考えてキャラメイクやり直してきた方がいいぞ。今ならまだ間に合う」
こいつ、俺の構成、最初と最後しか聞いてなかっただろ。そこは考慮済だっての。
「<符製作>と<書道>があれば、材料代だけで、安く呪符が作れるらしいじゃないか。大丈夫だろ」
「お前なあ、<符製作>って、βで俺も試してみたけど全然うまくいかなくて、100回くらいはチャレンジしてやっとLv.1の呪符ができたゴミスキルだぞ? 掲示板でも、Lv.2を完成させた奴が神扱いされるレベルの……って、そうか!」
ぶつくさ文句を言ってきたうさみんも、気付いてくれたようだ。
「お前書道部だったな。忘れてたわ」
ばつの悪そうに頭を掻いたうさみんが、続けて一言。
「正直、ナンコウのやり方は、自分では絶対にやろうとは思わないけどな。理解はできる。がんばってくれ」
半分諦められてしまっているような気もするけど、まあ、わかってくれたようで、なにより。
「ナンコウさんのスキル、面白いと思いますよ、私は」
カーレイルは、楽しそうに、こんなことを言ってくれた。
「全部テンプレートに従うのだっていいですが、従わない自由だって、我が主神・オーディンは与えてくださっていますよ」
リリーさんはというと。
「お嬢様に迷惑さえかけなければ、私は構いませんよ」
迷惑、多少かけちゃうことになるかもしれないんだよなあ。許してくださいお願いします。
「これで自己紹介終了か。一応タンクもヒーラーもいるし、色々と不安はあるけど火力もあるから、パーティ自体は成立してるな」
βテスト経験者が成立してる、と言うなら、たぶん成立しているんだろう。クラスとかスキルとか、別に相談しながら決めたわけじゃないから、役割に被りとかが出てこなくてよかったと思う。
さて、この後は。せっかくのRPGなんだし、早速狩りに行きたいなあ、俺は。
「あ、そうだ。フレンド登録しておこうぜ。このメンツで集まる機会多いだろうし」
今までソロのVRゲームしかやってなかったから、その発想はなかったわ。さすがβテスター。
「フレンドになると、何ができんの?」
ヘルプ開いてもいいんだけど、面倒なので賢斗に聞いてしまう。
「ログイン状況の確認とか、テキストメッセージでのやり取りとかだな。経験上、どこか集合する時に便利」
さっきまではこっちの世界での容姿がわからなかったとはいえ、集合するだけで色々なことが起きたからな。冷静になってみると、女子の手を握って相手の名前を書くってなんだよ。ロマンチックかよ。
「どうすれば友情の確立ができるのですか?」
カーレイルが、首を傾げて問う。
「メニューの『フレンド』のところから、申請飛ばしたり、申請の許可が出せたりするよ」
なるほどね。
右手の人差し指をピクピクさせてメニューを出し、「フレンド」を選ぶ。
早速、「フレンド申請受信」の横に、2という数字が出ている。
開いてみると、うさみんと、リリーさんからの申請だった。うさみんはいいとして、リリーさんもやっぱり仕事が早いね。
もちろん、許可をしておく。
ひとつ戻って、カーレイルに申請を送ろうとした瞬間。彼女が、俺の方を見つめていることに気付いた。
「ナンコウさん、盟友の契りを交わしましょう!」
「盟友」という言葉をことさらに強調して、嬉しくてたまらないといった様子だ。
「ああ」
俺の指がウィンドウのボタンを押して、彼女の元にフレンド申請が届く。すぐに、彼女の細い指が、俺からは見えないボタンを押す。
「不束者ですが、これからどうぞよろしくお願い致します」
フレンド:3名
ついさっきまでは「0」だった表示が、「3」になって。
やっと、『エインヘリヤル・オンライン』の、世界初の「VRMMORPG」のプレイを、本当の意味で始められたような気がした。
難産でした……




