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Episode 4: 2817年10月 休日はジェラートのように

 休日というものは、訪れるまでは長く、そしてその時になってみれば短く感じてしまうものである。


 それはいつの時代でも変わることのない、普遍的な事実であろう。




 ある晴れた休日の朝、ハル・ウォードンが身支度を整えているところへ、ペトラ・ヨハンソンが眠そうに目を擦りながらやってきた。


「おはよ。珈琲は?」


「おはよう。と言っても、もうお昼に近いんだが。珈琲は、そろそろ起きるだろうと思って淹れてあるから。朝食はテーブルの上」


 そう言って、ハルはテーブルの上を指差す。トーストに、スクランブルエッグとサラダが並んでいる。


 ハルとペトラは、共同生活をしていた。そう聞くと恋人のような関係にあると想像してしまうが、実際はそんなことは全くなかった。いわゆるシェアハウスというもので、リビングは共通だが、鍵のかかる個室でプライベートゾーンは完全に分かれている。このシェアハウスの家賃はペトラが払う代わりに、家事の一切はハルに任されていた。代わりに、というよりも、実際はハルしかできないと言った方が正しいのだが。


「いつもありがと。今日はまた仕事探し?」


「残念ながら、まだ仕事はクビになってない」


「本当に? 割と長持ちじゃない? 今は何の仕事してるんだっけ?」


「警備員。こき使われてる」


「そりゃあいい。社会不適合者でも、それなりに社会に貢献できることを見せつけてやりなさい!」


「どっちが社会不適合者なんだか」


 ミューズに来て以来、ハルは仕事を転々としていた。仕事の内容は問題なかったのだが、何かにつけて義眼であることを理由に解雇されることが続いていた。体の障害が機械によって改善されているとはいえ、普通と違うというだけで差別をされてしまうのは、いつの時代も変わらない。


 一方、ペトラはというと、自由気ままな生活をしていた。一日中寝ているときもあれば、ふらっと出て行ったきり数日帰ってこないこともあった。ハルは、ペトラの素性が怪しいのは出会った時から分かっていたが、家賃を払ってもらっている以上、深く追求することはしなかった。そもそもハルは、彼女にあまり関心がなかった。


 身支度を終えたハルは、鞄を肩にかけた。


「じゃあ、ちょっと用事があるから出かけてくる」


「外に出かけるなんて珍しいじゃない。いつも休みは本を読んでるくせに」


「まぁ、仕事先の知り合いとちょっと」


「もう女を作ったのね」


「いや、そういうのでは」


「じゃあその知り合いって男?」


「……女だが」


「やっぱりね。でもだとしたら、もうちょっとマシな格好しなさいな」


 ジーパンに黒いシャツを羽織り、サングラスをかけたハルを、ペトラは物言いたげに眺めている。もっとも、そのサングラスが義眼を隠すためのものであることは、ペトラも理解しているのだが。


「だから、別にそういうのではないって。じゃあ、そろそろ行ってきます。夕飯までには戻るから」


「今日の夕飯は何?」


「ペペロンチーノの社会不適合者風」


「美味しくて社会に戻れなくなりそうね。じゃ、行ってらっしゃい」


 家を出たハルは、最寄りの駅へと向かった。博物惑星ミューズでは、真空列車(チューブ)と呼ばれる高速列車が発達している。博物惑星ミューズは、その性質上、数多の展示地区を高速で移動できることが必要不可欠だった。そうでなければ、見学者は展示物よりも車窓を眺める時間が長くなってしまう。それに人手不足もあって学芸員が少数しかいないため、問題があった時にすぐ対処できなくなってしまう。


 そこで採用されたのが真空列車(チューブ)である。その名の通り、トンネルの中に円筒形の列車が入った構造をしている。このトンネル内部を真空状態にすることで空気抵抗が無くなり、中の列車は高速で移動することができるという代物だ。これにより惑星の反対側にも一時間程度で移動することが可能である。


 真空列車(チューブ)に乗ったハルが向かったのは、第十七学芸課のオフィスがあるライムシティである。この都市は、学芸員たちが生活するために作られており、多くの学芸課がオフィスを構えている。こうした学芸員都市は、他にも幾つか建造されている。


 真空列車(チューブ)の時間の都合で早めに到着したハルは、駅前の噴水広場へと向かった。そこが彼女との待ち合わせ場所だった。


(やはり少し早かっただろうか)


 ハルは辺りを見回してから、どこかで時間を潰そうかと思ったところで、ベンチに座りながらこちらへ向かって手を降っているソニアが視界に入った。


 ソニアは小走りで近寄ってきた。それまでハルは濃紺の制服姿しか見たことがなかったから、ソニアの私服姿は新鮮だった。


「すみません、待たせてしまって」


「いえいえ。さっき来たばかりですから。じゃあ行きましょうか」


 今日、二人がこうして出かけることになったのは、ダ・ヴィンチ事件で助けてもらったお礼がしたいと、ソニアがハルを食事に誘ったからだった。ハルも初めは断っていたが、「食事がダメなら何か高価なものを」とソニアが言い出したので、渋々承知したのである。とはいえ、ハルがソニアを迷惑がっているということではなかった。ハルは、ただ単に休みの日は家の中でゆっくりしたいだけなのである。


 繁華街を並んで歩きながら、ソニアはハルに尋ねた。


「お休みの日は、よくこちらに来られるんですか?」


「いえ、あまり休みの日は外に出ませんから」


「そうなんですか。意外ですね」


「意外ですか?」


「なんとなく、ジムで体を鍛えたりしているのかなって思ってました」


「私はそんなに真面目じゃないですから。それはミス・スウィフトの勘違いです」


「その呼び方は、できればやめて下さい。ソニアで良いですから」


「すみません。慣れてなくて」


 もう何年も他人を親しく呼ぶことなどなかったのだから無理もない。そうして苦笑いを浮かべるハルの横顔を、ソニアが珍しそうに眺めていた時だった。


「うわっ!?」


 ちょうど向かい側からやってきた紳士の肩が、ソニアとぶつかってしまった。その拍子にソニアのバッグが落ち、中に入っていた物が散らばった。


「す、すみませんっ!」


「いやいや、私は大丈夫だから。それよりお嬢さん、荷物が」


 慌ててソニアは散らばった物をかき集めた。


「大したものは入ってませんから大丈夫……って、あれ?」


 辺りを見回すソニア。


「どうかしましたか?」


「あの、ヘアピンが無くって。花の飾りがついているんですが」


 その時、ハルが小さな動く影に気付いた。


「もしやあれでは?」


 指差す先には、一匹の黒猫。青い首輪をしており、その口には花飾りのついたヘアピンが咥えられている。


「あれです!」


「分かりました。ここで待っていて下さい」


 ハルは黒猫を捕まえようと駆け出した。しかし黒猫は歩道を歩く人混みに紛れ込んでしまい、なかなか居場所が分からない。義眼のせいもあるのだろう。人々の脚の隙間から、艶々とした毛並みの黒猫がしなやかに歩いているのが見えても、次の瞬間には見失ってしまうのだった。かろうじてそれを追っていたハルだったが、やがて姿を見失ってしまった。


 仕方なくハルは元の所へ戻った。


「すみません。捕まえられませんでした」


 申し訳なさそうに頭を下げるハルの眼には、心惜しそうに笑みを浮かべるソニアの顔が映っていた。


「いいんですよ。ただの髪飾りですから」


 そこで先程の紳士が口を開いた。年頃は四十前後に見えるが、ベージュのジャケットの下には柄物のYシャツを着ており、しかも金髪をオールバックにしているせいか若々しさが感じられた。


「申し訳ないことをしてしまったね。私の名前はノトロブ。ここは一つ、私に猫を捕まえる手助けをさせてはくれないかな?」


「そこまでして頂かなくてもいいですよ。本当に大したものではないので」


「いや、それでは私の気が済まないんだ。ところで、そこの君」


 紳士はハルに視線を向けた。


「そのサングラスの奥を見せてもらえるかな? 義眼なんだろう?」


 意外な言葉に、ハルは驚いた。


「彼女から聞いたのですか?」


 しかしソニアは首を横に振った。


「私はアンドロイド技師なんだ。義体も私の得意分野でね。義体を付けている人は見れば分かるのさ」


 ミューズには、展示地区の住人として多くのアンドロイドが運用されているため、アンドロイド技師も大勢動員されており、学芸員都市に居住している。日々アンドロイドの修理・点検の依頼が舞い込む様子は、さながらアンドロイドの医師のようだと言われている。


 ハルがサングラスを外すと、ノトロブは義眼に小型ライトを当てて、詳しく観察し始めた。


「サザンクロス社製、正規品だ。不具合も無い。アダプタは十年式。良い物を使っているね」


 そこでノトロブは観察をやめると、彼の鞄から何かを取り出して、ハルに向き直った。


「君、私の作った義眼の試作品を使ってみないかい? アダプタは適合しているから、よく見えるようになるはずだ。そうすれば猫を捕まえやすくなると思うのだが、どうだろう」


 その技師らしいゴツゴツとした手で、無菌チューブに入った義眼を見せる。


「でも義眼はどれも同じですよね? 結局、健常者のレベルには達しないのであれば、変えてもあまり意味は無いかと」


 それを聞いたノトロブは、鼻で笑った。


「技術者を舐めてもらっては困る。科学は、すぐに普及するものではない。私が開発したこの義眼もその一つさ。騙されたと思って試してみると良い」


 そう語るノトロブの眼に、嘘は無いように見えた。決心したハルは、コクリと縦に頷いた。


「では換装しよう」


 ノトロブは鞄からボタンのような丸い小型の機械を取り出し、ハルの左眼の横に接着させた。機械のランプは赤色に光っていたが、数秒するとピッという電子音とともに緑色へ変わった。それからボタン型機械のスイッチを入れると、ハルの左眼から内側のアダプターに押し出されるようにして義眼が姿を現した。それをノトロブは手早く試作品に取り替え、再びボタン型機械のスイッチを押した。アダプターが縮むとともに、新しい義眼がハルの左眼に収まった。


「……!?」


 義眼との神経接続が復活した時、ハルはそのクリアな視界に驚いた。左の掌を見ると、細かい皺を一本一本はっきりと捉えることができた。


「……見えてる」


「それは上々」


 当然だというように、ノトロブは笑みを見せていた。


 そこでソニアが道の向こうを指差して言った。


「あそこにさっきの猫がいます!」


 ハルが目を遣ると、花壇で丸くなった黒猫は、長い尻尾を振ってくつろぎながら髪飾りを戦利品のように咥えていた。


「今度こそは捕まえますから、待っていて下さい」


 ハルはまた駆け出した。近付いた所で、気付かれないように慎重に距離を詰めた。手を伸ばせば届くところまでハルが忍び寄ったその時、黒猫は敵の気配を察知したように跳ねて逃げ出した。


 だがハルも逃がす訳にはいかない。後ろから黒猫を追いかけて、人気の少ない路地へと入った。あちこちの角を曲がり、見知らぬ建物の敷地の中や、建設予定地など、四方八方へと逃げる黒猫を、ハルは懸命に追った。


 そうしているうちに時間は経ち、夕暮れが近づきつつあった。


(早く捕まえねば)


 ハルがそう思いながら狭い路地に入った時、道の先に行き止まりが見えた。レンガの塀によって行き先は塞がれている。


(これは運が良い)


 ハルがそう思ったのも束の間、黒猫は傍にあった窓の縁へ飛び乗ると、さらにレンガ塀の上へと乗り移り、次の瞬間には塀の向こうに姿を消してしまった。


(最悪だ)


 ハルは肩を落とした。


 ところが、である。その時、ハルの眼に信じられないものが映った。それはレンガ塀の向こう側、本来ならば遮られて見えるはずのない黒猫の姿であった。ハルはその眼を疑った。いや、その新しい義眼を疑った。


(もしやこれは新しい義眼のせいか? あの男は、俺に何を渡した?)


 だが今は、素直に喜んだ方が良い場面だった。黒猫は、追っ手を撒いたと思ったのか、塀の向こうの木箱の上でくつろぎ始めていたのである。ハルにとっては好都合だった。


 走った勢いそのままに跳躍すると、ハルの体は陸上選手のように塀を飛び越えて、そのまま黒猫の元へと一直線に降りていった。さすがに黒猫に逃げる隙は無かった。ハルが着地した瞬間には、黒猫はハルの腕の中であった。




 ハルが黒猫を連れてさっきの場所へ戻ると、そこにはソニアしかいなかった。


 早速、ハルは取り返した髪飾りをソニアに手渡す。


「どうぞ」


「ありがとうございます。すっかりお世話になってしまいました」


「いえいえ。そう言えば、ノトロブさんは?」


「急用があるからと言って帰ってしまいました。これを置いて」


 ソニアが見せたのは、チューブに入った古い方の義眼だった。


「そうですか。貰った義眼を返そうと思ったんですが」


 しかしハルの話をソニアは聞いていなかった。ソニアの興味は、黒猫に移っていたのである。大人しくソニアに頭を撫でられている様子からして、黒猫はソニアに懐いたようだった。


「可愛い猫ちゃんですね」


「ソニアに懐いてるみたいですし、飼いますか?」


「そうしたいところなんですが、宿舎で動物を飼うのは禁止なんです」


「この猫、模造生物だから大丈夫ですよ」


「えっ!? この子、ロボットなんですか?」


 まるで本物の動物のような動きをする模造生物は、アンドロイド技術の発達の賜物である。餌は電気だけでトイレも要らないため、実用化が進んでいる。


「でもどうして分かったんですか? どこかにスイッチがあるとか?」


 自らソニアの腕の中へと移ってきた黒猫を抱えながら、ソニアは尋ねた。


「いえ、中身を見たので」


「開けられる場所があるのですか?」


「実は、透視ができるようなのです、この義眼」


 何を言っているのか分からないという表情でソニアはハルの顔を見たが、その真剣な表情から冗談ではないと悟ったようだった。


「……それはつまり、色々なものが透けて見えると?」


 ソニアは、体を横に向けて前を見せまいとしながら言う。


「いや、常に見えているというのではないので安心して下さい。見ようとすると透けてくる感じです」


「そうですか。それならいいのですが」


 半信半疑ではあったが、ソニアは納得したようだった。


「しかし、すっかりランチの時間を過ぎてしまいましたね。今回のお礼も兼ねて、このあとディナーはいかがですか?」


「ぜひ、と言いたいところですが、同居人に夕食を作らないといけないので遠慮させて頂きます」


「それなら仕方ありませんね。……そうだ、あれはどうでしょう?」


 そう言ってソニアが指差す先にはジェラート屋があった。


「お礼はまた改めてしますが、せっかく来たのですから食べていきませんか?」


 ハルは遠慮しようとしたのだが、それよりも早くソニアはジェラート屋へと走って行ってしまった。


(随分ここで待たせてしまったから、あそこのジェラート屋が気になったのだろうか)


 そう考えると断るにも断れず、ハルはソニアの後を追いかけた。




 ジェラート屋のベンチで、二人はジェラートを頬張った。なめらかな舌触りとともに、ジェラートの程よい甘さが口の中に広がる。


「今日は、すみませんでした。私が早く捕まえなかったばかりに」


「良いんですよ。キティとも出会えましたから」


「キティ?」


「この子の名前です。首輪に書いてありました。飼い主とはぐれたか、棄てられたのかもしれません」

 ソニアの膝の上でジェラートを欲しそうに眺めているキティを、ソニアは優しく撫でてやった。


「一つ聞いてもいいですか、ソニア?」


「どうぞ」


「あの髪飾りは、本当は大事な人から貰ったものなのではないですか?」


 一瞬、ソニアの瞳が曇ったようだったが、それはすぐにかき消された。


「その眼で心まで見透かされてるみたいですね。まぁ、間違ってはいませんが。どうして分かったんですか?」


「あの花はフリージアですよね。花言葉は"信頼"。だから誰かからの贈り物かなと思っただけです」


 しかしソニアの表情には、物悲しげな雰囲気が漂っていた。


「当たり。だけど、はずれです。あの花は確かにフリージアです。でもこれを贈った人物が意図していた花言葉は違います。それは"期待"です」


「"期待"? 良い意味ではないですか」


「そうかもしれません。でも私はそうは思いません。だって"期待"って身勝手じゃないですか? 実際に自分でしているのは口先だけで、後は他人に丸投げしているだけなんですよ。命令と変わらないじゃないですか。私はそれが嫌なのです」


 途端にスイッチが入ったように喋り出したソニアは、まるで普段とは別人のようだった。


「その贈り主は?」


 半ば確信的に、ハルは尋ねた。


「父です。高校三年の時に渡されました。そして卒業後は自分の秘書として働いて、ゆくゆくは議長の座を継げ、だなんて言うんですよ。習い事も四六時中やらされて、通う学校も勝手に決められて、それでも私は我慢してきたんです。でも流石にあの時は、私も堪忍袋の緒が切れてしまいました。それで大喧嘩して、家を出て、気付けばここまで行き着いてしまいました。今でも一応お目付け役はいますけど、あれ以来父とは顔も合わせてません」


「でも、髪飾りはいつも持ち歩いているんですね」


 その言葉に、ソニアの頬が赤らむ。


「あぁ、いえ、今日はたまたま鞄に入っていただけですから。本当に」


 ソニアの心は、誰から見てもすっかり丸見えであった。ハルの顔には、笑みが浮かんでいた。


「笑わないで下さいよ!」


「いや、そういう意味じゃないんです。ソニアの話を聞いていたら、私の過去も大したことではないように思えてきてしまって、それで笑っていたんです」


「へぇ。良かったらハルの話も聞かせて下さい」


 ハルはジェラート片手に遠くを眺めながら語りだした。


「私は、かつて軍の特殊部隊にいたのです。悪を退治することが正義なのだと、あの時は信じていました。しかし暗殺組織のアジトを制圧する時に、同僚だった私の恋人を私のミスで死なせてしまいました。その時にこの眼も負傷しました。それで軍を辞めてからは、傭兵として各地を渡り歩きました。今思えば、死に場所を求めていたのかもしれません。でも縁あってこの惑星へ来て、気付けば猫を追いかけて、美味しいジェラートを食べているんですよ。そう考えると、あまり思い詰めてもいけないのかもしれません。人生なんとかなる、と言ったら無責任ですが」


 それをソニアはしみじみと聴いていた。


「ハルは強いですね。私も見習わないといけません」


「そんなことはありません。ソニアも十分強い人ですよ」


「そうでしょうか……あっ、ジェラート溶けちゃいますよ!」


 ハルの半分ほど残っていたジェラートは、もはや形を留めなくなっていた。


「おっと、いけない。でもソニアだって」


 見れば、ソニアも四分の一ほどになったジェラートが溶けかかっていた。


「ちょっともったいないですね。そうだ、今度またイタリアの展示地区に行ったらジェラート食べましょうよ。イタリアは本場ですから、きっと美味しいですよ」


「それは名案ですね。ぜひ」


 学芸員都市ライムシティの夕陽が、二人を照らし出していた。




 夜、帰宅したハルは、リビングのテーブルの上にうつ伏せになっているペトラを発見した。


「……ただいま」


「ご飯」


 ペトラは顔だけをハルに向けながら、もう餓死寸前だと言わんばかりに睨みつけた。


「ごめん。今から作るから」


 早速、調理の支度にとりかかったハルが、ふと振り返った。ペトラは、またテーブルにうつ伏せになっている。


 その左脚の中身は、やはり機械義足であった。

お読み頂きありがとうございます。


本作にしては珍しい、息抜き回ですかね。あまり息抜きになってませんが。


ノトロブの名前の元ネタは、モンティ・パイソンの「死んだオウム(dead parrot)」というスケッチ(コント)です。


それとハルの左眼が義眼なのは、「コードギアス」の影響以外の何物でもありません。


気付かれているかもしれませんが、そもそも本作は「コードギアス」を参考にしている部分が多いです。アバントークとか、ストーリー展開とか。黒猫キティもそうですし、仮面を被った正義の悪党というのもそうですね。探せばまだあるかと。


ちなみに髪飾りの方はタイバニのオマージュです。


では。


葦沢


2016/09/25 初稿

2016/12/25 第二稿

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