その4
「旦那様、もうすぐですよ」
峠道にポツンとたたずむ小さな家が見えてくる。がたがたと揺れる軽自動車の助手席は、どうにも寝心地が悪い。
私も、三カ月もの生活で変わってしまったか。どうにも広い空間ときれいな空気、そして人の居ない環境が恋しくなってきた。日本の第三首都から自動車で二時間。昨日はホテルに泊まりだった。
都市部へ出ればうまく眠れなくなると思っていたが、それもなくすんなりと眠りにつくことができた。ひかりはそれを褒めてくれた。
私はその夜良くない夢を見たが、それも久しぶりに都市部へ出たことへの緊張によるものだろう。
少なくとも数日であれば私はひかりの助けを借りて、都市部へと戻っても問題はなさそうだった。
主治医は「うまくいっているようで安心した、だがこれで慌てることは無いように。君はいつでも戻ってこれるからもう少しゆっくりしていて問題ないだろう」と助言してくれた。
説明が遅くなったが、私がわざわざ都市部に出て主治医とあってきた理由について話そう。私が通っているのはある精神科だ。それもストレスやそれによる心的外傷を専門とした比較的名の知れた病院だ。
ある診断を頂いてから私はこの小さな家に、ひかりと住むことになった。いや、隔離されたといってもいい。ひかりは私の生活を助けるという名目もあったが、どちらかといえば、監視役としての役割が大きかった。もうめっきり台所には入っていないが、台所の棚にはしっかりと施錠されている。
包丁はもちろん、箸やフォークなどといった鋭利な食器は勝手には取り出せなくなっている。
機械類がほとんど置かれていないのも、時計の針やスピーカーの小さな機械音を出さないこと以外にも、私の行動からリスクを排除するため、という理由もあった。
事実上、あの家は私専用の隔離病棟として機能しているのだ。
居心地そのものは悪くないし、むしろ最善とも言える処置だろう。
果たしてこの状態をいつまで続けるのか、という疑問を抱いているうちは、私はまだあの家にひかりと二人暮らしのままだろう。
「旦那様、着きましたよ」
ひかりが車のドアを開けてくれる。懐中時計、携帯電話そしていくつかの鍵。この家の数少ない機械。それらはひかりのポケットの中に入っている。
「ありがとう」
日の光を浴びる。いい気分だ。ここでは人より動物の存在の方が多く、そして機械よりも自然の音の方が大きい。
大きく息を吸い、風を感じる。まだ暫く、私はここにいた方がよさそうだ。
ひかりとのんびりここで暮らすのも、悪くない。
お疲れさまでした。いかがだったでしょうか。「小さくなった僕の世界」、秘密のほとんどが明かされました。
私だってこんな風にメイドさんと隠遁生活したい!!!!!




