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その2

 コトリ、ポトポト。引き戸の向こうから物音と、足音が聞こえる。

 朝だ。まだ窓の外は仄明るい程度だ。山に挟まれているこの家の立地では、日が昇っている時間は少々短い。

 私は布団から起きあがるとそばに畳んである着物を着る。掛けてある帯から柔らかい兵児帯を巻く。

 まだ少し眠さを頭に抱えたまま引き戸を開ける。リビングでは、メイドであるひかりがキッチンで朝食を作っていた。温まったフライパンから、ほんのりと油の香りがした。

「おはようございます、旦那様」

「おはよう」

 既にテーブルに置かれている紅茶を、日課通りに飲む。程よく冷めた紅茶の香りを吸い込みながら少しずつ目を覚ましていく。

「もうすぐ朝食の準備ができますから、お待ちください」

 そう言われて私は椅子に掛けて待つ。リビングの窓から空を見る。少し朝もやが出ているのだろうか、うっすらと空がぼやけて見える。今日も晴れそうだ。

 私がぼんやりとしている間に、二人分の朝食が並ぶ。土鍋で炊かれた玄米と、枝豆いりの卵焼き、茄子の浅漬け、冬瓜のすまし汁。今日も良い食事だ。こんなにも手がかかっていることに、引け目すら感じてしまう。

「「いただきます」」

二人で手を合わせて食事に感謝をする。

澄まし汁も、卵焼きも、漬物も、そして、米も。優しい味付けだ。

 二人とも食事を終える頃には外は明るくなってきていた。

「「ごちそうさまでした」」

 手を合わせて食事を終える。

「この後、どうなさいますか? 私は着替えて峠のふもとの村まで少し買い物に行きますが」

 ここに来て一カ月と半月になる。梅雨の明けた七月の始め、ここ二週間ほどは、ひかりは家を離れて買い物に出ることも度々ある。そのたびに私は留守番をしていた。今日も私は家で待っているつもりだ。

「私は、家で待ってるよ」

 顔を洗い、歯を磨く。少し陽を浴びながら読書でもしよう。

 寝室から、キャンプ用の折り畳みの椅子と文庫本を持ち出す。家の外にある広い庭。川の音が今日も家の裏から聞こえてくる。

 庭にはひかりが手入れしている畑がある。私はそれらを眺められる位置に椅子を広げた。森のある山に囲まれているせいか、ここは都会の家よりもずっと涼しく、空気も澄んでいる。川の音や蛙、鳥や時として獣の声が聞こえることもある。

「旦那様、それではいってまいります」

 家から出てきたひかりが小さく頭を下げて、歩いて行った。ブラウスに長いひだのあるスカートで、気品のある姿がとてもよく似合っていた。

「いってらっしゃい」

 後姿に小さくつぶやいた私は、椅子に深く腰掛けて文庫本の表紙をめくった。


お疲れさまでした。いかがでしたでしょうか。感想など、お待ちしております。気が向かれました方はぜひ。

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