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その1

 白、黒、白、黒。

 白が一つ、ポン、と増える。ポン、ポン、ポン、黒が白に変わる。

 ポン、さらに黒が増える。ポン、ポン、ポン、ポン。白が黒に変わる。

「あーっ」

 白と黒の服に身を包んだ女性が後悔するように呻く。

「ひかりはオセロ、弱いよな」

「いえ、旦那様が強すぎるんです」

 うーん、と盤面を見つめる、メイドが目の前にいる。

 ここは岐阜県某所。小さな村のさらに外れにある別荘地。僕と僕の家に仕えるメイドであるひかりは、この小さな家に住んでいる。

 山の中にポツンと立っているこの家のリビングで、僕とひかりはオセロに興じていた。家の裏を流れる川の音が聞こえてくる。梅雨の晴れ間にしては暑く、夏の足音を感じる。開け放った窓から、木々の香りを吸い込んだ風が入ってくる。ひんやりとした風が僕の着物を通り抜けて、非常に気持ちがいい。

「そろそろ、終わりにしようか」

 ポン、と黒い駒を置き、挟まれた白い駒を裏返す。盤面はいよいよ黒で埋まりつつあった。もうそろそろ、お茶の時間では、と思うが見える場所には時計がない。

「はい、参りました」

 ひかりは深々と頭をさげた。

「旦那様、そろそろお茶にしましょうか。何がいいですか?」

 そういいながらひかりは立ち上がる。ロング丈のスカートが揺れた。てきぱきとオセロを片づけてゆく。

「任せるよ」

 小さく溜息をついて天井を見上げた。今は消してある電球がわずかに揺れながらぶら下がっている。

 ここにきてもう一ヶ月ほどになる。この田舎で過ぎる時間はあまりにもゆっくりだ。

 ひかりはカウンターキッチンでお茶の準備をしているようだ。彼女にはこの家での一切の家事を任せている。私がしなくてはならないことは何もない。

 

 何もしなくて良いのだ。


「そう、なにも……」

 言いかけたところでひかりがお盆にグラスと器を二つずつ乗せて戻ってくる。

「お待たせしました」

 今日のおやつはクリームブリュレとアイスティーだ。注ぎたてのアイスティーの中で、氷がからり、と音を立てた。

 何も問題はない。何も。暑さのせいか、ぼんやりとした感覚で思いながら、アイスティーを飲んだ。喉を通る冷たさが、なんとも心地よかった。

お疲れさまでした。いかがでしたでしょうか。今後も続きますように。

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