第1話
瑠璃と一緒に街に来た俺は、ブラブラしつつ怪しげな店に行ったり、茶葉を売ってる店に行ったりと主に瑠璃の趣味に付き合っていた。
「ん~♪
良い香りたにゃ~♪」
「…俺にゃ何がなんだかさっぱりだけどなぁ…;」
「ゆぅちんは気にせんでい~よ~?
あたしゃ~自分の趣味~押し付けたかぁ~ねぇ~し~♪
あ、これは腹に効くやつだ~!こっちは~頭痛かにゃ~?」
「ふーん…そっちのは食い過ぎた時に効くとか書いてあるな?」
「ん~?きょ~みある~?こいつは~味も美味しいし
~香りも良いから~ふつ~に飲むのにも~おすすめだぜ~?」
「う~ん…良いのか?
ほしい茶葉とかあったんじゃねぇの??」
「んふふ~良いんよ~今回は迷い過ぎて~決めらんなかったし~ちょ~ど良かったぁ~。
じゃあマスタぁ~、今回は~これにするぅ~♪」
「ハイよ。
毎回思うが君達は見ていて安心する位に仲が良いねぇ。
茶葉も真剣に選んでくれるからこちらとしても売りがいがあるよ。」
茶葉屋(?)のマスターはそう言ってニヒルな笑みを浮かべながら瑠璃が指差した茶葉を袋に詰める…
まぁ、何か恋人になった瑠璃とは幼馴染みの延長、みたいな遠慮の無い距離感になったからな。
今じゃ本物の幼馴染みより幼馴染みっぽい気安さだ。
…それまでは只の知り合い程度に認識していたはずなんだがな。
全く…瑠璃には敵わねぇな…
その瑠璃は何時もの怪しい笑顔で、両手を頭の後ろで組みつつモジモジと分かりやすく照れてやがるが…
「ん~ふ~ふ~♪
そりゃあ~あたしと~ゆぅちんの~仲だからなぁ~♪」
「ええ、瑠璃は俺の大切な彼女なので。」
だから俺も瑠璃の頭に手を置いて答えた。
それを見たマスターは微笑ましいものを見たって表情をしている。
「そうか…染々思うけど、同じ恋人同士でも君達はこの前来た二人組とはえらい違いだな。」
「…二人組~?」
「もしかして、やたらイチャつく爽やか美男子とふんわり美少女ですか?」
「……いや、君達と違って、茶葉を選びに来たと言うより、ここに来る事自体が目的みたいだったみたいだが…何だかよそよそしかったな。
青井君の紹介らしいけど…その反応からすると彼等とは友達じゃないのかい?」
やっぱり勇悟と美夏かよ…
ってか瑠璃があからさまな不機嫌に…
「…みかみー(※緑川美夏の事)はともかく、エセ爽やかは只の鬱陶しい知り合い。」
「そう言えばこの前、瑠璃(無口モード)にやたら勇悟が話し掛けてたよな?
後で俺の方に『青井さんって照れ屋さんだね!』とか訳わかんねー事言ってきたし…瑠璃はひょうきん者だろ。
その時にここの事を聞いたのか。」
「………アレの事?
…あぁゆう、(人の気持ちや本質に気付かないどころか理想を押し付けてくる様な)アホ、あたしはどうでも良い。
………こっちは(そんな奴の相手をして、)大好きな悠希と過ごす為の貴重な時間を無駄にしたく無いってのに。
…………そんな奴、こっちから願い下げ。」
「…ハァ…瑠璃?」
何か、無口モードが出ちまってんな。
だが、俺が肩を掴むと何時もの怪しい笑顔なひょうきん者になった。
「…あ。
んふふ~♪だからあたしゃ~どんなに外見が良い奴より~機敏な奴~特にあたしの事分かってくれる~あんたが好き~♪」
「ハイハイゴチソウサマ。」
「んふふ~♪
ますたぁ~も~嫁と仲が~良いでしょ~?」
「まぁね。
あ~っ!何か嫁と話したくなってきたなー…。」
…っと、タイミング良く店の扉が開いた。
うん、多分マスターの奥さんだな。
“特性:噂をすれば”な人だし。
「ただいま♪あらあら、お客さん?
いらっしゃい♪」
「あ、マスターの奥さん、お邪魔(?)してます。」
「やっほ~よっちぃ~♪」
「何時ものルリちゃんに彼氏さんね♪
どう?今日は良い茶葉、見付けれたかしら?」
「お~!
ゆぅちんが~気になった奴に~してみた~!」
「あらあら♪
本当にルリちゃんはユウキくんにぞっこんLOVEね♪」
(ぞっ…“ぞっこんLOVE”って死語じゃね…?;)
「うん、好き~♪
ゆぅちん大好き~♪」
「っ!?///」
くっそ…にこにこと良い笑顔で言いやがって…流石に今のはキイタぞ…ストレートだなコイツ…
俺の反応を見た瑠璃は満足そうにニヤニヤする…
何か、本当にコイツには敵わねぇな…
「ん~ふ~ふ~ふ~ふ~♪
じゃ~あたしらは~これで~♪
はいお金~!」
「あらあら♪毎度ありがとね♪」
「…ハァ…;
まぁ、また来いよお二人さん。」
「う~い♪」
「はい。」
店を出た俺達は、次の店…と言うかある意味今回のメイン目的地である薬の材料が売ってる店に来た。
っても何も怪しいものは無い。
何せここは―――
「ま~た来たよ~じぃちゃ~ん。」
「おやおや…また薬の材料かな?」
「そ~薬草とかハーブとか買いに来た~。」
「市販薬は要らないのかい?」
「ま~…個人で使う分にゃ~自分で作れっからな~。」
「ほほ…そうかい。」
―瑠璃の祖父が経営する薬剤店だからだ。
瑠璃はお爺さんと喋るのに夢中になっていて暇になった俺は店内を見回し―――――
【惚れ薬!?~信じるか信じないかは貴方次第!!~】
―――――訂正、カ エ ル の 親 は 当 然 カ エ ル で し た 。
何だよ惚れ薬って…;
まさかコレ、フラグじゃないよな…?;
「ほほ…その薬が気になるかの?婿殿。」
「いや、瑠璃はまだ嫁じゃないですよ。」
「“まだ”、ね~…んふふ~♪嬉しいにゃ~♡」
「悪いかよ!大学卒業して就職して生活安定したら役所行くぞこの嫁候補がッ!!///」
「ん~ふ~ふ~ふ~ふ~♪
よろしくぅ~!未来の旦那様~♪」
蕩ける様な笑顔で抱き着いてきた瑠璃につい“カッ!!”となった俺は瑠璃を抱きすくめる…うゎあ…小さくてもやっぱり女の子は柔らかい…
ってそうじゃねぇしッ!!
「っ!?
おう、絶対逃がさないからな!?
勇悟何かに渡してたまるかよッ!!」
「あたしも~あんたみたいな~ゆ~りょ~物件~逃がさないぜぇ~?
外堀~埋めまくるぜ~?内側から~攻め落とすぜ~?」
「あぁだったら埋めて見せろや!!
なんなら俺の両親に会わしてやんよ!!
当然テメェの側でじっくり観察してやるからなぁッ!!
こっちも両親説得してテメェの外堀埋めて逃げれなくしてやんよッ!!」
「ん~ふ~ふ~ふ~ふ~そりゃあ~楽しみだにゃ~?
あたしの家族は~き~びし~じぇ~?
まぁ~あたしも~あんたの良さ~アピ~ルして~手伝うけどな~?未来の旦那様~!」
「自ら埋めて行くスタイルかなら望むところだ俺の嫁!!」
「ほほ…覚悟は決まっておるようじゃのぅ?
よいよい、主なら孫娘も安心じゃて。
それはそうと、どうなのかの?
気になるか??え?」
「くっ…;」
話が逸れねぇ…;
この爺さん手強いな…
後、何気に早速1つ外堀埋めれちまってね?
とりあえず逃げ場なし!?
諦めた俺は瑠璃から離れつつ素直に認めた。
「…まぁ…興味はありますよ。
使いたい相手は居ませんけど。」
「え~?
あたしは~?」
「瑠璃は既に俺に惚れてるから使っても分からねぇだろ…?;」
「そうでもないぞぃ。」
「えっ?」
にこにこと笑う爺さんは惚れ薬を一瓶手に取り、俺の手に握らせる。
「実を言うとコイツは所謂“媚薬”でな、相手を興奮させて“既成事実”を作ってしまおうって事なのさね。
未来の婿殿になら1本差し上げよう。」
「そ ん な も の を 孫 娘 の 彼 氏 に 持 た せ ん な や 。」
「え~?
でもあたし達~避妊してるにしても~散々ヤってるから~今更じゃね~?」
「ほほ…若いのぅ。」
「瑠璃は自分の祖父に何報告してんだよ!?///」
「ん~?
でも~遅かれ~早かれ~恋仲なら~ヤるっしょ~?」
「あぁうん瑠璃に恥じらいは期待してないけど止めて!?;」
「…ベッドの中の悠希も、あたしは、好きだよ///」
「無口モードで恥ずかしげに言えば良いってもんじゃねぇよ!?」
「や~ん!らんぼ~は~げ~し~い~♪」
「あ…うん…もぅ良いや…;」
俺は瑠璃の肩を掴んで揺さぶったがむしろ喜びやがる…;
コイツはコイツで幼少期の経緯からかスキンシップが大好きだからな。
とにかく、逃がしてくれないならせめて反撃するか巻き込んでやる…!
「…ベッドの中の何時もより大人な瑠璃も俺は好きだぞ。
勿論、その時の妖艶な表情もな。」
「うにゃっ~!?///
あ~あれは~違うからぁ~!///
あぅ~違わないけど~あれも~あたしだけど~///」
あ、やっぱ自分に振られるのには弱いんだな。
面白いくらいに狼狽する瑠璃を見てニヤニヤしてたら、何故か爺さんは呆れ顔になっていた。
「ところで、仲が良いのは結構じゃが、そうゆうのは自分の部屋かワシら身内の店だけにしてほしいのぅ。」
「…スミマセン;」
「まぁ、他人にそれだけ甘える孫も珍しいがのぅ♪
ほほっ、良いものを見れたわい!!」
「さいですか…;」
―しかし次の瞬間にはうってかわって朗らかに笑っていた…;
どうやら茶化したかっただけみたいだな…;
が、更に真剣な顔に変わった。
「…黒崎殿。」
爺さん…いや、瑠璃の祖父はいまだに俺の腕に抱きついて蕩けている瑠璃をチラリと見やると、再び俺に視線を戻す。
「ワシの孫は、見ての通りの銀髪に碧眼…およそ“普通”とはかけ離れた見た目じゃ。
それだけでなく、異常に背が低い。
それ故にのぅ…昔から…特に中学校時代は奇異の目で見られておった。」
「…らしいですね、瑠璃からも聞いてます。」
「うむ…じゃからのぅ…孫には友達と呼べる者は居らんかった。
故に孫は…感情を閉ざした。
“道化になる”それが孫の処世術じゃった。
何をされても、何を言われても、それを逆手に笑いを取るのが、孫の…処世術じゃった。」
「…。」
確かに瑠璃は、勇悟の前や、嫌な事があると無口になるが、それ以外の時は基本的に“笑顔”を浮かべて、“普通の言葉”で喋っている。
俺の側に居る時は独特の間延びした口調や身ぶり手振りが加わるが、それ以外では…『青井さんって悩みがなさそう』と言われる位にへらへらしているんだ…。
決して泣かず、弱音を吐かず、恨み言も、怒りもしない。
まぁだからこそ俺は、勇悟の前でだけ無口キャラになるのは『勇悟の攻略対象だからだ』と思い込んでいたんだけどな。
その理由は、『隠しきれない位に嫌いな相手だから』だったんだが。
瑠璃曰く『勇悟からは名状しがたい変な気配がする』らしいが、その正体は、恐らく『相手に好意を向けさせ、自分の理想の人物にさせるナニか』だと俺は思っている。
人一倍周りの人間の感情に敏感な瑠璃だからこそ、“そんな気配”に…“自分が望む相手の姿”に変貌させる勇悟の存在に不快感を覚えたのかも知れない。
後、瑠璃は『あんたみたいな~あたしに~偏見ねぇ人が~居なかったら~あたしも~弱った心に~つけこまれて~呑まれてた~無口が~でふぉに~なってたかも~』とも言っていた。
きっと俺は『勇悟は敵だ』って意識が強いから効かないのだろう。
…或いは、何か他に理由があるのか…。
「だけどのぅ、去年からは変わった。
孫は、自分から言ってきたのじゃよ。
『学園は楽しい』と、『友達ができた』とな。
それだけでなく、半年程前からはもっと幸せそうにしておったぞぃ?」
「…文化祭、ですね?」
「うむ。『初彼と初祭』だと張り切っておったわい。
流石にあれには驚いたぞぃ?
まさかあの孫に彼氏なぞ…とな。」
「ははは…まぁ、この通り変わり者ですがね。」
「ほほ…ワシは孫が幸せそうならそれでよい…とは言わぬぞ?
主のその性格なら、孫を不幸にするとは思わぬから託すのじゃ。」
「はは…;
最初から信用されてるのも案外重いですね…;」
「ほっほっ…ワシの目に狂いが無ければ、孫に付き合えるのはお主の様な者だけじゃろう。」
「…(!)んにゃっ~!
おじいちゃ~ん~!?///」
「おぉ、どうした、瑠璃。」
「あたしが~ふわふわ~な~間に~ゆぅちんに~変なこと~言うなぁ~!///」
「安心しろ瑠璃、お前が変人なのは今に始まった事じゃねぇからwww
「ゆ~う~ち~ん~?」
「…ワリィ、何か空気に耐えられなくて茶化したかっただけだ。
安心しな爺さん、孫は俺が守るから。
その為なら、俺は悪にだってなる覚悟だからな。」
今の話しで決意した。
俺は、もう勇悟から逃げない。
瑠璃を幼馴染みの二の舞には…させない。
俺は瑠璃の手をとって、そう心に誓った。