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「死んだ者が生き返るというのは、ある物だろうか」
食事が終わった後、ディクストがいきなり言いだした。
「ないね」
はっきりとハディスは言い切った。
「そんな魔法があったら、使い手はとっくの昔に教祖になって自分の国でもおっ建ててるさ」
魂の存在は魔学で証明されている。だが、死んだあとその魂が消えるのか、あの世とやらに移動するのか、はたまた真っ白に漂白されて新しい胎児の体に入るのか、それはまだ証明されていない。それすら分からないうちはとても蘇生の魔法など編みだされないだろう。
「でも、なんでいきなりそんな事を?」
「娘を傷つけたのが薄汚い賊だと言ったな。私もその顔を見た。村のレストという者だった」
「レスト?」
確か、あの狂った婆さんの孫がそんな名前だったはずだ。
領主はハディスが驚いているのにも気づかず夢中で続けた。詳しくその時の事を語るうち、また怒りがぶり返してきたらしい。テーブルの上に置かれた手が硬く握りしめられ、震えている。
「ああ、そうだ。一度狩りに出かけたとき、立ち寄った村で私の世話をしたのが奴だったからな。見間違えるはずはない」
ファルナに斬りつけた後、賊はすぐに窓から逃げ出したという。
「もちろん私は事件があったあとすぐに村へ訪れて、レストを探した。だが、レストはもう数週間も前に死んでいるというではないか!」
「何かの間違いだろ?」
思わずハディスは聞き返していた。
「私も最初は疑っていた。だが、ディールはわざわざレストの墓を暴いてくれたよ。中には腐りかけたレストの死体が入っていた。奴には見間違われそうな双子の片割れどころか、兄弟もいないらしい」
(わざわざ墓まであさったのか……)
どれだけ賊を憎んでいるのかとハディスは少し呆れた。
娘を傷つけられた父親というのは皆こんな風になるものなのだろうか?
「捕えられなかったのが悔やまれる。もしもつかまえていたら、賊の家族もろとも張りつけにしてやるのに」
もちろん、いくら領主といっても法ではそんな事が許されるはずがない。けれどこのような田舎では法などあってないような物だ。もし早めに賊が捕まっていたら、村に来たハディスは見せしめとして張りつけにされた死体何体かに迎えられていただろう。
「まあ、なんだ。犯人が見つかるといいな」
ハディスは適当にそういってごまかした。
「なんだかおもしろいことになってきましたわね、ハディス様」
リンクスはイスにチョコンと座っていた。テーブルの上には、皿に乗ったパンがあり、リンクスは前足で器用にそれをちぎって口に運んでいた。
案内された客室には、今ハディスとリンクス以外誰もいない。リンクスはようやくゆっくりと食事をすることができたというわけ。
「ああ。死人がよみがえってきて強盗を働いたってか。最初に領主が呪いだなんだ言ってきたのは、この異常さからの連想だろう」
ディクストと村人達、双方の言い分が正しいとしたら、泥棒事件の数週間前に死んだレストとやらはキレイな姿で生き返り、城に侵入し物を盗み、フィルナに斬り付け、また腐乱して墓に戻ったことになる。
そして村人達は、墓に戻ったはずの男を探してもっか山狩り中だ。これ以上カオスな状況なんてそうそうお目にかかれない。
「これからどうします?」
いたずらっぽくリンクスが聞いた。
「どうするもこうするも、村に行くしかねえよ。このままじゃ気になってしかたない」
「『好奇心は猫を殺す』といいますわよ」
「なに、ヤバいことになったらとっとと逃げればいいのさ。どうせこっちは身軽な旅人なんだから。それに、もうなんとなく見当はついた」
ハディスはニヤッと笑った。