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世界樹の上に村を作ってみませんか  作者: 氷純
第四章  町と呼ばれて
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第十二話 タカクス町の冬支度

 秋口、俺はリシェイと共に町全体の冬支度を行うためタカクス町の第二の枝に来ていた。

 タカクス町第二の枝は、事務所のある枝の隣、矢羽橋を渡った先にある。

 現在、住宅街として機能しており、畑もそこそこの面積が用意され、枝の上の人口を十分に支える収穫量がある。

 当然のように、第二の枝の住人はほとんどが農業を営んでおり、秋も深まった収穫時期になるとにわかに忙しくなる。


「豊作ね」


 リシェイが収穫量を記載した紙を見ながら呟く。


「品種改良の成果かしら?」

「いや、まだ効果は出てないと思うな」


 ランム鳥品種改良種シンクの成功を受け、農業経営者が独自に品種改良を始めているけれど、まだまだノウハウが足りていないため成功の兆しはない。

 個別にやっていて統制を取る者がおらず、データの共有もされていないからまだまだ時間がかかると思われた。

 俺がまとめ役になりたいところだけど、最近は町長としての仕事が忙しすぎて手が出せない。せめて、冬を越して春が来ればもう少し自由が利くはずだから、その時に考えるとしよう。


「豊作の理由は多分、天候のおかげじゃないかな」

「今年は暖かかったものね」


 雨も多く、色々と助かったものだ。


「貯水槽の設置の願いもでているけれど、どうするの?」

「貯水槽か。第二の枝には必要だよな」


 住宅街を支える畑を持つだけあって、水の需要は大きい。

 荷重量にも余裕があるし、今の内に整備しておいた方がいい施設なのも確かだ。


「冬場は無理だけど、春になったらすぐに作ってしまおう」

「分かったわ。掲示板に貯水槽設置の知らせを張っておかないといけないわね。まずは場所の選定かしら?」

「そうだな。鉄貨五十枚もあれば作れるから、予算は心配しなくていい」


 市場建設で余分に準備していた世界樹製木材が余っているから材料費は掛からない。職人への手当だけで十分だろう。二日もせずに完成するし。

 貯水槽で一番のネックはその重量で、計算して建てないと一気に限界荷重量を圧迫する。

 この第二の枝は今後も住宅街兼農地として拡張していくつもりだから、限界荷重量に配慮しつつ貯水槽を作ることになるだろう。


「支え枝はしなくてもいいのかしら?」

「第二の枝はまだまだ余裕があるから大丈夫だよ」


 第二の枝の収穫量をまとめ終わり、地域のまとめ役から冬支度に不足がないかを聞き取った後、俺たちは矢羽橋を渡って第一の枝に戻った。

 第一の枝には公民館、事務所、ビロースの宿、教会と孤児院、治療院、燻煙施設、ランム鳥の飼育小屋、ランム鳥の特別施設、タコウカの研究所となった旧事務所の他、タカクス町がまだ村だった頃から住んでいる住人達の家と畑がある。

 買い物はできないものの、タカクス町の主要な施設が建つこの枝は正真正銘の中心地だ。そのため、やることは非常に多い。


「まずは畑だな」


 俺を始めとした事務所のメンバーやビロース達村の初期メンバーである古参の住人の畑に関してはすでに収穫量を聞いてある。毎年の事なので、彼らが自主的に紙にまとめて事務所へ持ってきてくれるのだ。

 そのため、俺たちがこれから向かうのはサラーティン都市孤児院の出身者を始めとしたメンバーの畑である。

 畑に赴くと、紙に収穫量を記録していたラッツェが足音に気付いて顔を上げた。


「町長! 申し訳ありません、まだ記録の途中で……」

「今日中に出してくれればいいよ。その様子なら、午後にはまとまるだろうし」


 ラッツェは、過剰ではないけどどうにも気弱なんだよな。

 俺はリシェイと一緒にラッツェの作業を手伝う。


「ついでだから聞いておくけど、タコウカの研究はどう?」

「全然だめですね。色を決定する遺伝子が白と黒、赤と青と黄、の二組あって、赤青黄の三色に対しては同時発色を促す遺伝子があるようなんです」

「白と黒が対立遺伝子なのか?」

「そうです。白優性の対立遺伝子です。三色組は複対立遺伝子ですね。黄色が劣性で、赤と青に関しては優劣がないようです。白黒と赤青黄の遺伝子は双方に優劣がないため、三色組の色を白っぽくしたり黒っぽくしたりするようですね」


 研究が進んでいるのは確かだけれど、狙った色を出すのはまだ難しいという段階らしい。

 着実に前に進んではいるからか、ラッツェの表情も暗くはなかった。


「厄介なのが特定の色を抑制する減色遺伝子で、こちらはまだ存在を確認しているところです」

「そんなものまであるのか」


 蚕か何かの繭の色がそんな感じだったような。うろ覚えだからいまいち思い出せない。

 ラッツェからタコウカ研究の進捗状況を聞き終えて、俺はリシェイと共に飼育小屋に向かう。反対方向にある燻煙施設に関してはテテンが昨日、燃料の消費量や冬の間の必要量などを記載した資料を提出してくれているから行かなくても構わない。


「町長、お待ちしてましたよ」


 膝の上に大柄なランム鳥を乗せたマルクトに出迎えられ、苦笑する。


「特別施設の方にいると思ってたよ」

「γ系統を愛でたい気分だったもので」


 愛でたいという感覚がすでに分からん。

 ツッコんだら負けよ、とリシェイに耳打ちされて頷く。


「飼育記録の提出は出来るか?」

「机の上に揃えておきました。特別施設の記録も揃えてありますよ」


 毎度の事だけあって準備が良い。

 マルクトの提出する資料は詳細で見やすく、このまま事務所の書棚に突っ込んでもいい出来だ。


「タマ五郎衛門を撫でていきませんか?」

「その膝に乗せてる奴か?」


 仰々しい名前だな。


「つつきを始めようとする他のランム鳥を蹴り飛ばして仲裁する、頼れる兄貴分なんですよ」


 マルクトに撫でられながら鋭い目を向けてくる貫録に溢れたタマ五郎衛門。

 リシェイがマルクトの提出した資料をめくり、タマ五郎衛門の記述を探す。


「γ系統とβ系統を掛け合わせた実験個体の三世ね」

「あぁ、気性が荒いくせにあまりおいしくないっていう、実験中止になった計画か」


 確か、四世まで様子を見て今年の半ばに実験を中止したはずだ。

 マルクトが悲しげな表情で頷く。


「そうです。このタマ五郎衛門は三世最後の一羽なんです。βγ交雑種は大型化する傾向にあり、気性が荒いために喧嘩の仕方も派手だったのですが、このタマ五郎衛門が仲裁するようになってからは飼育小屋にも平穏が訪れていました。いわば、功労者なんですよ。……大事に食べないといけません」


 タマ五郎衛門がびくりと身を震わせたように見えた。


「βγ交雑種は野性味の強い臭みが特徴でして嫌いな方も多いのですが、上手く脂を落としてハーブ塩を振りかけるとこれがなかなか――」

「マルクト、その辺にしてやれ」


 自らを撫でるマルクトの手つきの変化に不穏な気配を感じたらしいタマ五郎衛門が羽根先をぴくぴくさせている。まるで飛べない自分の無能に絶望しているようだった。

 飼育記録は貰ったので、俺はタマ五郎衛門の未来に同情しつつ飼育小屋を出た。

 リシェイが飼育小屋を振り返り、ため息を吐く。


「適性があるのは間違いないのよね」

「ありすぎて困るくらいだ」


 主にランム鳥たちが。

 少し離れたところにある公民館を素通りし、治療院に向かう。

 タカクス町の人口は現在千人、医者のいない付近の村から患者がやってくることもあるため、治療院の需要はかなり大きい。

 キダト村の物よりも設備が新しく規模もやや大きいため、利用者も多かった。

 治療院は丸屋根の二階建て。治療院長であるカルクさんの希望で台形を横倒しにしたような形をしており、短辺にある玄関をくぐるとすぐに待合室となっている。

 待合室は台形の斜面の大窓から取り込んだ光で非常に明るく、白塗りの壁は清潔感に溢れている。床は杖を突きやすく滑りにくい複雑な木の組み方をしてある。木板の向きがてんでバラバラなため、上手く引っかかる作りなのだ。

 硬めの座面と背もたれの椅子もカルクさんの注文で揃えてある。座り心地は悪くないものの、あまり長く座っていたいとは思わない絶妙な硬さだ。治療院の待合室で駄弁る輩への対応策らしい。


「カルクさんはいるかしら?」


 リシェイが受付の看護師の女の子ケキィに訊ねる。治療院設立と同時にカルクさんが孤児院で募った医師見習いの一人であり、現在は治療院のお手伝いだ。


「いま、あかぎれに効く軟膏を貰いに来た患者さんの相手をしてるから、もうちょっと待っててください」


 冬支度で漬物用の野菜を洗ったりするからあかぎれの患者が出てるらしい。

 ケキィがリシェイの手を見る。


「リシェイさんは大丈夫なんですね?」

「……水仕事はあまりやらないから」


 料理をできない事を知らないらしいケキィから目を逸らしつつ、リシェイが答えた。

 そうこうしている内に、台形の治療院で言うところの長辺にある病室の一つからカルクさんが出てきた。ちなみに二階部分はカルクさんの住居と薬の保管、製造を行う部屋だ。


「おや、どうかしましたかね?」


 カルクさんは訊ねた後で壁にかかった暦を見て、一人納得する。


「あぁ、冬支度の確認ですかな?」

「そうです。薬や備品で足りない物はないかなと」

「一通りそろっているよ。最近は孤児院の畑で採れた薬草も頂けるから、ずいぶん助かっていてね」


 カルクさんの言葉にケキィが胸を張る。


「私が育ててるのが一番大きく育ったんだよ。アマ兄もみる?」

「ケキィ、あれはもうすり潰して軟膏にしちゃったんだよ。すまないね」

「えぇ! 先生、明日にするって言ってたじゃん」

「備蓄が心もとなかったんだ」

「それならしょうがないけど、一声かけてよ」


 むくれるケキィに笑いかけながら、カルクさんは二階に上がり、薬品の在庫管理票を持ってきた。


「消毒用アルコールが少し足りないね。あとは――」


 在庫管理票を広げながら、カルクさんが不足している物を挙げていく。

 一覧表を作って、十日以内に手配する約束をして治療院を後にした。


「治療院への補助金を少し増やした方がいいわね」

「人口が増えたからな。医者もあと一人か二人は欲しい所だ」


 手が回らないわけではないけれど、許容限界は見え始めている。


「市場が機能し始めて、市販薬が出回るようになったけど、医者は不可欠だもんな」

「孤児院の定期健康診断もあるし、カルクさん、無理してないと良いけど」

「医者の手配に関しては備考に書いといて」


 リシェイが頷いて、手元の紙にペンを走らせる。

 その足で向かったのは教会だ。

 今年最後のブライダル事業が昨日終わった為、いまは大掃除中らしく孤児たちが箒や塵取り、雑巾を持ってあちこち走り回っている。

 箒でチャンバラごっこをしていた男の子たちが俺とリシェイを見て逃げ出した。


「――はい、捕まえました」


 逃げ出した先で狙ったように腕を広げていた司教のアレウトさんが男の子たちをとっ捕まえる。


「ちゃんと掃除をしなさい。箒はぶつけ合う道具ではありません」

「はーい」


 捕まった男の子たちはアレウトさんに諭されて素直に掃除を始める。

 男の子たちから視線を俺たちに向けたアレウトさんが会釈して歩いてきた。


「お疲れ様です。冬支度のお話ですね?」

「えぇ、食料品など、不足はありませんか?」

「問題はありません。結婚事業の方が大変順調ですから、不足があれば教会の資金で購入できるほどです。それとは別件で少しお話を良いでしょうか?」


 リシェイが首をかしげて先を促すと、アレウトさんは続ける。


「ケーテオ町の孤児院が資金難だそうで、玉貨一枚の支援をしたいのです」

「分かりました。運営費から出せますか?」

「えぇ、当教会はかなり余力がありますから」


 まぁ、道の整備も終わったおかげで二、三十日に一度は結婚式が開かれているから、かなりの儲けは出てるんだよな。

 新興の村でカップル成立。まだ村の中に教会がない。どうせなら有名どころで同じ新興のタカクスの教会で結婚式を開こう。そんな流れになってるらしい。

 おかげさまで、タカクス教会は独立運営ができている上に他の町の教会や孤児院に運営資金を融通する事もできる、と。


「ヨーインズリーの教会を出るときにも云われましたが、世界樹北側でタカクス教会は重要な立場になりますよ」


 アレウトさんが嬉しそうに笑う。

 子供達の健康状態などの話を終えて教会を出ると、今度はビロースの宿屋に向かう。


「ビロース、どんな調子だ?」

「わりぃ、町長、夜にしてくれ」


 昼食らしき物を一階の食堂スペースへ運んでいくビロースがすれ違いざまに言う。


「忙しそうね」

「昨日の結婚式のお客さんが団体で泊まってるんだったか」


 食堂をちらりとのぞいてみると、二十人ほどの男女が談笑しながら食事をしていた。半分はキダト村側の宿に泊まっていた客のはずだ。

 お昼を食べた後で故郷の村へ出発するから、ビロースの宿で先に合流したらしい。


「夜にした方がいいな」

「そうね。夜に話をするだけの体力が残っていると良いけど」


 ビロースの宿を後回しに、俺はリシェイと連れ立って二重奏橋を渡り、第三の枝へ行く。

 第三の枝はタカクス町の入り口広場、タコウカ畑、カップル向けの宿屋と料亭が存在する。

 カッテラ都市への道が通じている入り口広場には焼き鳥、卵巻などのタカクス町発祥の料理やオルテアートなどのこの世界独自の料理を出す屋台がいくつも出ている。周辺の村や町からカッテラ都市へ冬支度前の買い出しに向かう客が昼食代わりに買うため並んでいる姿がいくつもあった。


「凄いな」

「一か月の稼ぎが玉貨一枚に届く事もあるもの。外からの観光客がほぼ必ず通る広場だから、外からのお金を大分落としてくれてるの」

「ありがたい限りだな」


 広場とは反対のタコウカ畑に視線を向ける。

 まだ日も出ているため光を発していないタコウカが奥の方まで一面に咲いている。葉の色にも統一感がないため、かなり細かいモザイク模様だ。


「植え替えを指示した方がいいわよ」

「みたいだな……」


 タコウカの発色遺伝を早いところ解明しないと、余計な手間がかかって仕方がないな。

 カップル用のちょっといいお店や宿の方にも顔を出して不足がないかを訊ね、旧キダト村方面へ二重奏橋を渡る。

 見えてくるのは旧キダト村と空中市場だ。

 四角い空中市場には旧キダト村への日照の関係でいくつかの吹き抜けが開いており、二重奏橋の上から見ると吹き抜けに差し込む光がヴェールのようになっていた。


「旧キダト村のパン屋さんから焼き立てパンの香りが市場に届くから、市場の休憩所になってる喫茶店ではパンの売り上げ額が大きいそうよ」

「さもありなん」


 空中市場はアーチ型の屋根を持つ空中回廊が繋がっており、転落防止の手摺りはシンプルな網目の開いた魔虫甲材の板になっている。

 二重奏橋を渡り切って到着したのは第四の枝こと旧キダト村。

 元キダト村長の下に顔を出し、冬支度の進捗状況と市場ができたことで苦情などが発生していないかを聞く。

 元キダト村長は、カッテラ都市の司教さんが好きそうな渋いお茶を飲みながら、俺たちの質問に笑顔で首を横に振った。


「苦情は来ていないよ。むしろ逆だ。感謝の言葉が届いている」

「感謝ですか?」

「ずいぶん賑やかになったからね」


 しみじみと言って、元キダト村長は窓から空中市場を見上げた。


「市場でいろいろと物が手に入るようになったから、みんなもずいぶん楽になったと言っているよ。遠方に修行や勉強に出て、こちらに戻るかを悩んでいた息子や娘世代の内にも何人か、戻ると決めた者も出てきた。やはり、市場ができたり、二重奏橋ができたりと便利になっているのが決め手になったようでね」

「そうなんですか」


 まだ住民名簿への登録要請が来ていないから知らなかったけど、身内同士ではタカクス町になった旧キダト村へ戻る旨を伝えている若者がいるらしい。

 二、三百歳くらいの世代にも様子見に一度戻ってくるという者が何人かいるそうで、旧キダト村は久々に息子や娘、場合によっては孫に会えると喜ぶ住人がいるという。


「湯屋の拡張をしたいという話が出ていてね。息子も戻って来るそうだから、運営は問題ないようだ。春ぐらいからどうにか工事できないかね?」

「人が増えてきましたからね。冬の間に相談して、拡張工事に取り掛かりましょう。場合によっては新規で作った方がいいかもしれません」


 衛生面を担保する重要な施設だから、許容量に注意していきたい。

 色々とお話をしてから、元キダト村長と別れて空中市場に向かう。

 緩い坂になった空中回廊を上ると、十字路になった空中回廊に到着する。まっすぐ行けば商店区画、右が衣類が並ぶ露店区画、左へ行けば手工芸品の露店区画だ。


「衣類の方から見て回ろう」

「そうね。ぐるりと一周してから商店区画に行く道順でいいわ」


 衣類の露店区画は当然ながら冬物を扱う店が多かった。さらにその先の食品区画も冬の間食べられるような日持ちのする野菜や干し肉、燻製品が多い。

 露店区画同士は空中回廊で接続されているため、市場全体の面積の割に下の旧キダト村へ落ちる影は少ない。露店そのものにも不便にならない程度に採光用の吹き抜けがあり、旧キダト村の日照を奪わない様に極力配慮してある。

 四つの露店区画を巡った後、俺たちは商店区画に向かった。


「混んでるなぁ」

「はぐれそうね」


 ヨーインズリーのコマツ商会やカッテラ都市の商会からの出店がある上、タカクス町の土産物屋ではシンクの肉も取り扱っているため、かなりの人でごった返していた。


「リシェイ、手を出して」

「子供じゃないわよ?」


 そう言ってはにかみながら出されたリシェイの手を握り、人混みの中を進む。

 目的地は商店区画のまとめ役をしているテグゥールースの店だ。

 ちょうど、客が昼食を食べるために引いたタイミングで店に入ると、心地よく疲れた感じのテグゥールースが歓迎してくれた。


「ようこそ、町長。いや、なんか新鮮ですね。アマネさんを町長って呼ぶのは」

「行商人をやってた頃からアマネ村長とかアマネ町長って呼んでくれてたじゃないか」

「あの時と違って町の住人になったんだなって実感を持って呼ぶのが新鮮なんですよ。あ、冬支度の話ですよね?」


 テグゥールースはカウンターの奥にある自宅スペースから来店者数などを記録した紙を出してくる。


「見たり聞いたりはしてきましたが、そもそも冬支度さえ初めての経験な物で、不備があったら申し訳ないです」

「初めからちゃんとできる奴なんていないさ。ここで確認させてもらうよ」


 リシェイと一緒に提出された記録を確認する。

 必要なことはきちんと書かれている。売り上げについてもかなり詳細に記されていた。


「大丈夫よ。むしろ良くできてるわ」


 リシェイが太鼓判を押すからには本当によく書けているのだろう。

 この手の専門的な書類は町ごとに様式が違っているのが常だから、テグゥールースにとっても初めての事ばかりだったろうに。


「なにか問題は起きてたりする?」

「そうですね。問題というわけではないのですが、市場への来客総数を計測してほしいですね。各月の半ばだけでも構わないので調査して、仕入れの参考に公表してくれると助かります」

「分かった。キダト地区の人たちに相談して、やってみよう。空中回廊の利用者数も知りたいから、ちょうどいい」


 一度、各通りの使用状況などを計測しておきたいとは思っていたのだ。

 さすがに今年の内に人を雇って計測方法を学んでもらって現地投入するのは難しいから、来年からの計測になるだろう。

 一通り話をしてテグゥールースの店を出た俺は市場の喫茶店へ入る。


「けっこう疲れるな」

「町も大きくなったから、しかたがないわよ」


 キイチゴに似たミノッツのジャムが乗ったパンケーキにフォークを入れながら、リシェイが窓の外の空中回廊を行きかう人に視線を向ける。


「町の規模以上に、人が多いのよね」

「観光業、結婚事業に市場の開設、周辺から人がやってくる理由が多いからな」


 住民名簿に記載されている人口は千人だけど、外からの人で常時一割から二割、人口が増えていると思っていい。


「これで後は旅芸人の一座が拠点にでもしてくれたら、もっと人が来るわね」

「旅芸人か。劇場とかのイベント施設は作ってないから、入り口広場で芸を披露する事になりそうだ」


 観光業などで外からの金銭を呼び込みつつ、タカクス町の中には畑やランム鳥の飼育小屋があるため食料品を輸入する必要がないから上手く金銭が町の中で回っている。

 市場の開設に伴い、タカクス町を拠点としてケーテオ町を始めとしたいくつかの町や村にも金銭が循環するようになり、経済が回り始めている。

 そんな様子が今回の冬支度を通した調査で浮かび上がってきていた。



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― 新着の感想 ―
まずい。リシェイとアマネがいちゃついてるとモヤモヤしてきた。メルミー!前ちょっと名前間違えててすまん!
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