第十四話 恋バナ
世界樹の挿し木畑の枠組みが完成し、土を入れて様子を見た後、挿し木を行う。
俺の二の腕くらいの長さの細い枝が等間隔に並んでいる姿はどことなく間抜けな光景だ。
「冬を越せるか?」
「半年前後あるから、どうにかなるとは思うわ」
リシェイと相談し、秋口に様子を見つつ成長の悪いモノを間引く事に決める。
「……アマネ」
不意に背後から声を掛けられて、慌てて振り返る。いつもは事務所の隅で膝を抱えているはずのテテンが立っていた。
「カッテラ都市から職人……」
「あぁ、到着したのか」
コクコクと小動物チックに頷いたテテンはリシェイの後ろに隠れた。
「むさい……」
さらっと酷いこと言ったな。
事務所に行きたがらないテテンは「あとよろしく」とだけ言って公民館に走って行った。運動不足のためかものすごく遅い。
あ、こけた。
リシェイはテテンを見送りつつ、事務所へ歩き出す。
「村の女の人とは会話できるみたい。男の人だとアマネが例外で他の人とは話せないようだけど」
「まだ村に来て五日だからな。燻煙施設ができれば特殊資格持ちって事で否応なく一目置かれるだろうし、リシェイもメルミーと一緒に気にかけてやってほしい」
「分かってるわ。それと、時々胸を見つめられることがあるのだけど、何か嫌な思い出でもあるのかしら?」
いや、無いと思うよ。興味があるだけで。
バードイータースパイダーの液化糸とじっちゃんの研究資料を渡したら喜びそうだな。
事務所の前には八人ほどの筋骨隆々男子が一列になっていた。事務所の中にはひときわ大柄な職人のまとめ役が待っている。
「お待たせしました」
「いえいえ、こちらこそ到着が遅れてすまんね。早速、仕事の話をしたいんだが、構わんか?」
職人のまとめ役が言うには、今年は雪の影響で点検が必要な施設が多くなり、仕事が立て込んでいるという。
あわただしく工事現場へ職人たちを案内し、設計図を見せつつ打ち合わせを行う。
「建材の類は共有倉庫かい?」
「えぇ、すでに発注をかけて続々届いている段階ですので、すぐに工事を始められます」
「そいつはいい。やはり、建橋家が村長やってると段取りが良くて助からぁ」
彼らを寝泊まりする公民館に案内した後、そのまま一階の共有倉庫から資材を出して工事が開始された。
すでに昼を過ぎていたのだが、あっという間に布基礎、土台、大引、根太と作業が進んでいき、床伏図を見ながらの作業が終わってしまう。
いくら様式がある程度定められている燻煙施設の建造のエキスパートとはいえ、神がかった速さだ。メルミーがぽかんと口を半開きにして眺めているしかないほど作業速度である。
日も暮れかけてきて、職人のまとめ役が今日の作業終了を告げる。
「あぁ、村長さんや。あんた、良い仕入れ先を知ってるみたいだな」
耐火用の板を拳でこんこんと叩きながら具合を見て、まとめ役が俺に声をかけてくる。
ワックスアントの蝋を接合材に、砕いた卵の殻とビーアントの甲殻を混ぜ込み、熱をかけて作る耐火合板だ。一定の基準が設けられており、摩天楼を始めとしたいくつかの都市で品質保証をされない限り市場に乗せられない特殊合板である。
品質保証で最低限の基準は確保しているとはいえ、良し悪しは当然ある。
俺はコマツ商会に製造元を指定して発注した。工事に間に合わせてくれたのはひとえにコマツ商会の腕があってこそだ。
「ヨーインズリーで建築家の事務所を構えていた頃から付き合いのある商会なんです」
「そうかい。大事にしな」
まとめ役が職人を引き連れて公民館へ向かっていく。今頃、公民館の調理場は何人かの女衆が集まって料理を作ってくれているだろう。
俺はメルミーと一緒に事務所に戻る事にした。
「燻煙施設も問題なく建築できそうだな」
「だね。後はランム鳥の飼育規模拡大に向けて人手を増やしたいところだけど」
「もう手が足りなくなってきてるもんな」
先日、ゴイガッラ村の村長から手紙が来て、飼育小屋の清掃が完了したためタカクス村で預かっていたランム鳥を引き取りたいと申し出があった。
冬が来るまでにゴイガッラ村の飼育小屋に慣れさせておきたいため、早めに運搬用のコヨウ車を手配するとの事だったから、十五日以内にはコヨウ車が来るだろう。
タカクス村としても、ランム鳥のヒナを孵化させるなら夏の終わりごろが良い。本来なら凍死の心配がない春先を待つのがベストなのだが、飼育規模拡大を急ぎたいのが本音だ。
そうなると、ランム鳥の飼育小屋の掃除やら何やらで人手が欲しい。
「遅くまで飼料用の畑の世話をしたり、マルクトにも無理させてるんだよな」
「溌剌としてるのが怖いけどね」
冬場に鍛え上げた体を惜しみもなく発揮して自分の持ち分とランム鳥用の畑を世話するマルクトは、働き者として一部の女衆に人気を博している。なんだかんだで機転も利くため、俺も頼りにしている。
事務所に到着すると、玄関前でテテンが膝を抱えて丸くなっていた。
「何してんの?」
「公民館むさい……」
はっきりものを言うようになったな。いい傾向なのだろうか?
「職人さんが大挙して押しかけちゃったもんね。部屋は離してあるけど、ダメだったか」
メルミーが困ったように苦笑する。
「しばらく事務所に泊まっちゃえば?」
「……いいの?」
いま、テテンの歪んだ笑みが見えた気がした。
「まて、勘違いしてるみたいだけど、事務所だからな? 本来寝泊りするところじゃないんだって」
いまでさえ、メルミーとリシェイは応接室、俺は作業部屋で寝泊まりしているのだ。行き場のない娘を寝泊まりさせに誘う場所じゃない。
扉を開けて入りつつ、中を手で示す。
「そもそも、この通り寝泊りする場所がないだろ」
「確かに、二人以上寝るのは厳しいね。作業部屋なら二人で寝れるけど」
「――聞き捨てならないわね」
机に今日の報告書を広げていたリシェイが会話に加わってくる。
ひとまずテテンも加えて応接室で話し合いだ。
「状況を整理しようか。応接室に二人、作業部屋に二人なら寝られない事もない」
「可能か不可能かなら、可能よね」
「だねー」
リシェイとメルミーが肯定し、作業部屋を覗いたテテンもコクコクと頷く。
テテンが俺たちを見回して、口を開く。
「偶数、問題ない」
「内訳を考えような。男一人と女三人、実質奇数だ」
おい、いま小さく舌打ちしたろ。聞こえたぞ。本性さらけ出してきたな。
「いや、三人もむしろアリ……」
天啓を得たみたいに言うな。
リシェイが頬に片手を当て、俺から顔をそむける。
「この中で誰がアマネと一緒の部屋に寝泊まりするか、というのが問題よね」
「いや、テテンが村の誰かの家に行けばいいんじゃないのか?」
「誰の家に行くのさ。メルミーさんは娘を嫁に出す父親の心境なんて味わいたくないよ」
「メルミーはテテンを何だと思ってるんだ」
しかし、メルミーの言う通り、テテンは村に来てまだ日が浅く、泊めてもらえる家がない。
「なら俺がビロースの家辺りに――」
「それは却下よ。いい機会だもの」
「え?」
俺の名案をリシェイがさらっと却下した。
なんの機会かって言われると、やっぱりそういう機会ですか。ここらで決着つけようと。
メルミーがリシェイを横目に見る。
「へぇ、ここで勝負に出ますかー」
「あら、自信が無いのかしら?」
「あるかないかで聞かれると……二人きりになるのは気まずいかなぁ。ねぇ、アマネ?」
ここで話題を振ってくるのかよ。
脳裏に五日前のヘタレやり取りが高速で流れ、顔が熱を持つ。
リシェイが眼を細めた。
「いつのまに……油断も隙無いわね」
リシェイは呟いたきり沈黙する。
メルミーはリシェイの出方を窺うように口を閉ざした。
気まずい静寂を破ったのはリシェイだ。
「なら、メルミーがアマネと一緒の部屋に寝ればいいわ」
「――うぇ!?」
さらりと譲ったリシェイの言葉に、慌てたのはメルミーだった。
リシェイは我が意を得たりとばかりに微笑む。
「どうしたのかしら? 願ってもない事だと思うのだけれど」
「あぁ、それは、ほら、ね?」
「何かしら? 分からないわ」
リシェイの奴、メルミーのヘタレ所を見抜いて攻めている。
攻守が逆転し、メルミーの視線が泳いだ。
口を挟まずに事の成り行きを窺っている俺も大概へタレである。
ちょんちょんと太ももをつつかれて、俺は視線を隣に向けた。
いつの間に近付いてきたのか、テテンがすぐそばにいる。
「リシェイお姉さま、かっこいい……」
お姉さま呼びになってる。
的確にメルミーの弱点を突いていくリシェイの攻め筋は鮮やかで、尊敬できる何かがある。人形のような綺麗な顔に浮かぶ人間味のある余裕の笑みがギャップを誘って、いつもの七割増しで綺麗に見える。やってることはあくどい。
同意を求めるように横目を向けてくるテテンに、俺は頷きを返した。
「メルミーお姉さま、かわいい……」
メルミーもお姉さま呼びなのか。
攻守逆転で右往左往しているメルミーの慌てっぷりは庇護欲をそそる何かがある。顔真っ赤だし。
再度、同意を求めるように上目づかいで見上げてくるテテンに頷きを返す。
「……で?」
でってなんだよ。どちらねらいですか、とか聞きたいのか。
「テテンも可愛いよ」
話を逸らすついでに不意打ちしてみた。
硬直したテテンが耳まで赤く染まる。
勝ったな。
「アマネ、いま耳を疑う言葉が聞こえた気がするのだけど」
「この状況でテテンを口説くのはさすがにないわー」
戦況が膠着状態に陥っていたリシェイとメルミーが、ちょうどいい落としどころを見つけたとばかりに絡んでくる。
「テテンと寝れば?」
「それがいいわね」
リシェイとメルミーの決定により、テテンの寝床は俺と一緒に作業室と定まった。
唖然とするテテンを残し、リシェイが寝具を取りに公民館へ、メルミーは夕食を作るために厨房へ消えていく。
唖然とした表情のまま、テテンが俺を見る。
「どうしてこうなった……?」
「これでそれぞれの貞操は守られたんだから、結果としてはよかったんじゃないか?」
「……何の話?」
テテンの目が泳いでいる。
「いや、女の子が好きなんだろ?」
「……なぜ、バレたし」
まさか、という表情でメルミーが消えて行った厨房を見るテテン。
「お察しの通り、メルミーにはもうバレてる。あまり気にしないらしいけど。リシェイも、うすうす勘付いてるんじゃないか」
「……養成校ではバレなかったのに」
テテンが親指の爪を噛んで悔しそうにする。
養成校は男ばかりだから、気付くとか気付かない以前の問題だったと思う。
「同級生の薄着は眼福だったか?」
「それはもう……はっ」
誘導尋問に容易く引っかかったテテンが慌てて口を閉ざした。だからもうバレてるから。
「まぁ、好きにするといい。無理やり襲わない限りは俺も特に何か言ったりしないから」
俺もメルミーを手伝おうかと腰を上げた時、事務所の扉が叩かれた。
寝具を持ってきて両手がふさがったリシェイが扉を開けてほしいと叩いたのかと思ったが、公民館までの距離を考えると早すぎる。
「どなたでしょうか?」
声を掛けながら玄関を開けると、見知らぬご老人が立っていた。八百歳をいくらか過ぎた辺りだろうか?
「カムツ村の村長をしております者です。ご相談があって参りました。タカクス村長、アマネ殿でよろしいでしょうか?」
「あ、はい。俺がアマネです。立ち話もなんですから、どうぞ中へ」
カムツ村ってどこだったかと脳裏に地図を思い浮かべる。タカクス村からだとカッテラ都市を挟んだ向かいにある村だったかな。
往復で五日以上はかかるはずの距離だ。けっこう遠い気がするが、どうしたんだ。
ソファを勧めると、テテンが厨房からお茶を運んできた。
「ど、どうぞ……」
愛想笑いをしようとしたのか、テテンはぎこちなく頬をひきつらせた。
「どうも、ありがとう」
歳の功か、カムツ村長は全く動じなかった。
「それで、今日はどういったご用件でしょうか?」
すでに日も暮れている。ここまで急いできたことは想像に難くない。
どんな緊急事態だろうかと身構えたが、カムツ村長の話はそれほどせっぱつまっている物では無かった。
「タカクス村に三年ほど疎開させていただきたいのです」
聞けば、今年の雪でカムツ村が乗っている世界樹の枝が傷んでしまい、これまで手を尽くしたがいよいよ危ない状況だという。
そのため、支え枝を用いた補強や専門の補修職人などを雇い、世界樹の枝を休ませるとともに回復させる三年の間、カムツ村の住人の疎開先を探してここに来たとの事だった。
「人数は?」
「十人です。他の者はここまでの道中で訪れた村に引き受けていただきました。ありがたい事です」
「十人なら、公民館の部屋が八部屋ほど空いてるのですぐに受け入れは可能ですが、お金などはどうなっています?」
「支度金を持たせてありますので、経済的にはご迷惑にはならないかと思います。可能なら、畑を都合していただければ、翌年からは自活できるとも思うのですが」
畑か。土がないんだよなぁ。
「土をこちらに持ってくることは可能ですか?」
「えぇ、それは問題なく」
土の運び込みが可能だから土地が余っていそうな村に声をかけて回ってたのだろう。
自活できるというのならとくに拒む理由もない。
「分かりました。受け入れましょう」
「ありがとうございます。これでようやく肩の荷が下りました」
カムツ村長はそう言って、肩の力を抜いて息を吐いた。
「疎開させた者は労働力として考えてくれて構いませんので。彼らも働いていた方が気がまぎれるでしょうから」
「それは助かります。いまはちょうど人手不足だったもので」
ランム鳥の世話は任せられないが、畑仕事は楽になるだろう。
三年間限定ではあるけど。
カムツ村長はメルミーが出してくれた簡単なツマミを食べながら、窓から覗くタカクス村を眺める。
「アマネさんはずいぶんとお若いご様子。私でよければ相談に乗りますが、何か困りごとはありませんか?」
疎開を受け入れたお礼のつもりだろうか。ありがたい。
「実は、ランム鳥の飼育規模拡大を考えているんですが、先ほども言った通り人手不足なんです」
「ランム鳥? あぁ、タカクス村はランム鳥を飼育しているんでしたね。臭いが全くしないから失念しておりました」
カムツ村長はそう言って、窓の外を見る。
「ランム鳥は臭い事で有名ですから、なかなか移住を希望する方もいらっしゃらないでしょう。まずはタカクス村そのものに好意的な印象を持ってもらうことが肝要かと思います。ランム鳥の悪臭があるとしても住んでみたい、そう思わせるような何かはありませんか?」
「……ランム鳥が食べられる?」
「いえ、他に何か」
「燻製にしたランム鳥が食べられるようになる?」
「……困りましたね」
「困りますよね」
他に何かないかなぁ。
言い訳すると、出来上がったばかりの村なもので、施設が充実しているわけではない。特産品だってない。だから求心力がない。
せいぜい、建物が新しいくらいだ。
カムツ村長と一緒に悩んでいると、部屋の隅に縮こまっていたテテンがボソッと呟く。
「……知名度が先」
テテンの言葉に、俺はカムツ村長と顔を見合わせる。
「ウチの村って、あんまり知名度ないですかね?」
「言いにくいけれど、そんなにないですね」
テテンに視線を向ける。俺とカムツ村長、二つの視線を受けてびくりと震えたテテンはおどおどしながら口を開いた。
「アマネから聞いて、初めて存在を知った……」
でも、ひきこもりだし、とテテンが付け加えてくる。
しかし、知名度がないのは事実なのだろう。何しろたった四年前に出来た村なのだから。
ずっとこの村に住んでいる俺やリシェイ、メルミーでは得られない情報だ。
カムツ村長がふと思い出したように話す。
「南に出来たアクアスという村はアユカとかいう珍しい肉があるらしいと聞いたことがありますよ。それに類するものはこの村にもありますか?」
「ないですね」
ケインズの村、アクアスは淡水魚であるアユカを徐々に売り出している。物珍しさも手伝って、世界樹の反対側のタカクス村にまで聞こえてくるほどだ。
カムツ村長は腕を組む。
「知名度を上げるのなら、最も効果的なのが催し物です。特に大会を開くのが一番いい。参加者を村に集めることができるのですから。しかし、タカクス村の宿泊施設が公民館しかない現状では得策ではないでしょう。となれば、手っ取り早いのは他所の大会に資金提供する事でしょうね」
スポンサーなら金を出すだけで知名度が買えるという事か。
しかし、先立つ物を捻出しないといけない。
ここからは運営次第なので、カムツ村長に相談するのは筋違いだ。
「資金提供ですか。カッテラ都市辺りですか?」
「一番近いですからね。後はサラーティン都市もそう言った催し物に熱心だと聞いたことがありますね」
サラーティン都市、建橋家のフレングスさんに弟子入りしていた間住んでいた事がある。確かに、度々何かの大会を開いていた。フレングスさんの教えに付いて行くので精いっぱいだったから参加はしていないけど。
「分かりました。みんなと相談してみます」
「老骨の知恵が役に立てたなら良かったですよ。それでは、私はこれにて失礼しましょう」
「あぁ、公民館にご案内しますよ」
「いえいえ、このまま村に帰らないといけんのです。コヨウ車もタカクス村の前で待たせてありましてね」
「そうでしたか。もう暗いですから、お気をつけて」
玄関まで見送って、お土産に備蓄してあるランム鳥の干し肉を渡す。
かれこれ三百年は食べていないと言って、カムツ村長は嬉しそうにランム鳥の干し肉を受け取ってくれた。
入れ違いに帰ってきたリシェイを手伝って、事務所に寝具を入れていく。
そのまま、メルミーが作ってくれた夕食を取り、就寝の運びとなる。
「あ、マジでこの配置なんだ」
作業部屋に敷かれた二組の布団を見て思わずつぶやく。
「何か文句があるのかしら?」
「いや、俺がビロースの家に泊まるって言う選択肢がさ」
「反省させるのにはちょうどいいでしょう。アマネはここに寝なさい」
いや、まぁ、決着が云々言ってるところに火種を投下したのは俺だから一方的に悪いのも俺なんだけど、テテンの評判を考えるとね。
「……男寄りつかなくなるなら、本望」
あぁ、さいですか。
「おやすみなさい」
「おやすみー」
リシェイとメルミーが口々に言って、作業部屋の扉をばたりと閉めた。
でも、これはどうなんだろう。
二人が俺に気があるなら別の女の子と一緒の部屋に放り込むってありえないと思うんだけど。反省を促すには効果的だとやられている俺自身が証言するところだけどさ。
二人の考えがいまいち読めないから踏み込むのを躊躇してしまうこの気持ちをヘタレというのでしょうか。
「うーん」
俺はさっさと布団にくるまるテテンに声を掛ける。
「なぁ、あの二人って俺に気があると思うか?」
「……なぜ訊く」
「他に訊けそうな相手がいないから」
テテンなら間違っても俺に恋心とかないだろうし。この子の恋愛対象が同性であることはまず間違いない。
テテンは黙考した後、布団から這い出した。
「コイバナ、こいや……!」
ぽすぽすと布団を叩くテテンの言葉に甘えて、俺は自分の布団の上に座る。
「あのさ、あの二人って俺が建築家時代から一緒にいる昔馴染みなんだよ。それまでそれらしい態度を見せてこなかったんだけど、村が黒字化してからああいう、気がある態度? ってのを見せてくるようになったわけだ」
「……ノロケか」
「いや、前提条件を話しただけだ。ただ、リシェイもメルミーもいまいち最後の一歩を踏み出してこないし――」
「男みせろ……」
「見せようとすると逃げるんだよ。この間もメルミーがさ」
本気で口説こうとしたら事務所から逃げられた話をする。
テテンはしばし黙した後、コテンと首を傾げた。
「……脈なし?」
「やっぱそうだよな。あそこで逃げるって事はさ、ようは俺からの告白なんか聞きたくないってわけだろ。それとも、もっと雰囲気のあるところで改めてやるべきなのかな」
「……この村で?」
さりげなくムードがないとディスられたけど否定できないのが村長としても男としてもつらい。
「それに、今のこの状況だ。好きな異性が別の相手と密室で一晩って、断固として阻止すべき案件だと思うんだよ。少なくとも俺は阻止する。んでもって告白る」
「決定的脈なし……負け犬め」
「やかましいわ。でもやっぱり脈ないのかなぁ」
「未練うぜぇ……」
「本音を隠さなくなってきたな」
「もうバレてるし……」
それでも口数が少ないって事は、そこは元からの気質なんだな。
俺とテテンのコイバナは朝まで続き、眠たい目を擦りながら窓から差し込む朝日を見た俺は思った。
俺は元引きこもりに何を相談しているんだろう、と。