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世界樹の上に村を作ってみませんか  作者: 氷純
第二章  村生活の始まり
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第九話  好敵手

 初黒字化を祝う食事会の翌日、畑仕事から戻った俺は事務所に客の姿を見つけた。


「カラリアさん?」


 ケインズの懐刀、カラリアさんだ。眼鏡をかけ、前髪を伸ばしてもなお隠しきれないつり眼を気にしているのも相変わらずのご様子。

 カラリアさんの応対をしていたのはリシェイだった。一緒に事務所へ戻っていたはずのメルミーの姿はない。

 俺たちの事務所、いわばホームグラウンドだというのに居心地悪そうにしていたリシェイは、俺を見てほっとしたように息を吐いた。


「ケインズさんからの手紙を預かってきたそうよ」

「ケインズから?」


 最後に会ったのはケインズの村の候補地を選定した時だ。その後送られてきた手紙で村を作ったことまでは聞いていたが、その後どうなったのかまでは知らない。

 近況報告の手紙だろうか。

 カラリアさんが立ち上がり、俺を真正面から見つめてくる。ちょっと怖い。


「村長ケインズより、手紙を預かって参りました。こちらです」


 差し出された手紙を受け取り、封を切る。


「近いうちに遊びに行きたいって、そんな時間の余裕があるのか?」


 タカクス村なんてようやく初黒字化を達成したところで、これから忙しくなるところだというのに、ケインズの村は村長が長期で不在にしても大丈夫なくらいに安定した経営状態なのだろうか。

 俺はカラリアさんに向き直る。

 手紙を届けてくれたのはカラリアさんだ。当然、中身も知っているだろう。

 しっかり者のカラリアさんが止めなかったのだから、ケインズの村は村長不在でもやって行けるのだと納得するほかない。


「ケインズがやって来るなら歓迎するよ。見ての通りの小さな村だから、歓迎すると言っても細々とした物になるけどね」

「ケインズなら気にしないでしょう。アマネさんと話したがっているだけですから、相手をしてあげてください」


 ペットの遊び相手を頼むような口調である。

 手紙の返事を書いて、カラリアさんに渡す。


「では、届けてもらいますね」

「……届けてもらう?」


 カラリアさんが持って帰るんじゃないのか。

 疑問に思った時、カラリアさんは事務所を出て裏に回った。

 窓から裏を確認すると、一台のコヨウ車が止まっている。行商人にここまで乗せてきてもらったようだ。

 女商人とは珍しい。

 世界樹の枝のうねりのせいで道のアップダウンが激しい場所も多く、行商人はよくコヨウ車を後ろから押して坂を上る事があるため力が必要なのだ。必然的に体格の優れた男が多くなる。

 カラリアさんから手紙を預かった女商人さんはコヨウ車を操って南へ向かって行った。

 俺の隣にリシェイが立つ。表情は少々物憂げだ。


「カラリアさんはケインズが来るまで公民館に泊まりたいそうよ」

「ここでケインズの到着を待つのか。公民館の部屋の準備は?」

「メルミーがやってくれてる。応対してくれないか頼んだのだけど、カラリアさんはまじめそうだからパスって」


 実にメルミーらしい。

 リシェイは困ったようにため息を吐いた。


「カラリアさんの事は私に任せて、アマネはいつも通りに仕事をしていてね。ケインズさんが来たら仕事どころではないでしょう?」

「仕事と言っても、そう何かあるわけでもないよ。だから、困ったときは何時でも声をかけて」

「ありがとう。ちょっとカラリアさんに村を案内してくるわ」


 リシェイはそう言って、事務所を出て行った。

 俺は事務所の椅子に座り、机の上に置かれた資料を手に取る。

 ランム鳥の飼育を担当しているマルクトからの報告書だ。過去一年分のランム鳥の産卵数を表とグラフにしたものや、飼料用のトウム等の在庫、消費量などが書かれている。

 最後に備考として、今後一年分の管理計画について話したいから会議の場を作ってほしいと書かれていた。

 会議の前に管理計画の打ち合わせをマルクトとやった方がいいかな。ランム鳥は今年も数を増やしていきたいから、飼料なども消費量が増えていくはずだ。

 ランム鳥は重要な資金獲得手段だけあって、慎重に増やしつつ動向を見極めたいところである。

 カラリアさんをリシェイに任せきりにしておくわけにはいかない。早いうちに仕事を片付けて援護に行くとしよう。

 張り切って仕事を進めていると、メルミーが外から事務所の窓を通じてそろりそろりと中を覗き込んできた。


「メルミー、何してるんだよ」

「さっき行商人さんが帰って行ったから、カラリアさんも帰ったのかな、と思って確認を」

「しばらく公民館に泊まるそうだ。いまはリシェイが村を案内してる」

「事務所にいないならいいや。ただいまー」


 生真面目恐怖症のメルミーはどうあってもカラリアさんと顔を合わせたくないらしい。

 玄関に回り込んで中へ入ってきたメルミーがソファに腰を下ろす。


「このメルミーさんを撤退させるとは、なんと見事な」

「してやられた風に言うなよ。真面目な空気が嫌で逃げだしただけだろ」

「だってさー。疲れちゃうじゃんさー。まだ朝なのにさー」


 疲れるのは同意だ。

 どうも、カラリアさんは威圧感がある。本人は別に威嚇しているつもりはないだろうけど。

 リシェイとは違った意味で、俺もカラリアさんはちょっと苦手だ。

 ただし、俺の苦手意識はあくまでも先入観あってのもので、リシェイの場合は妥協した自分を見せたくないという理由がある。

 リシェイの覚悟が決まるまでは俺がサポートするべきだろう。

 そんなわけで、俺は残りの仕事をさっくり終わらせて立ち上がった。

 いつの間にかお茶とクッキーを用意していたメルミーが立ち上がった俺を見上げて首をかしげる。


「まったりしないのかい? メルミーさんとお茶しようよー」

「魅力的な提案だけど、リシェイの援護に回ってくる」

「行ってらー。メルミーさんは役に立たないから待機してるよ」


 リシェイとカラリアさんの関係など知らないだろうし、メルミーを連れて行っても混乱するだけか。


「行ってくる」


 クッキーを齧りながら手を振るメルミーに見送られて、俺は事務所を出た。

 村を紹介すると言っても、現在村で見る価値のある施設なんてほとんどない。

 重要性などを考慮して紹介するルートを選ぶとすれば、ランム鳥の飼育小屋を始めにランム鳥の飼料を育てている畑、次に村の住人が食べる作物を育てている畑と続き、最後に公民館に足を運んでカラリアさんが寝泊まりする部屋に案内する。リシェイの事だからこの流れだろう。

 部屋に案内してそれで終わりって事はないはず。多分、世間話がてらに近況報告をする。

 そこまで考えて、俺は時間を確認した。


「公民館に到着した頃かな」


 出遅れてるな、と思いつつ、足早に公民館へ向かう。

 場合によっては会話を遮ってリシェイを事務所に連れ戻すことになる。手ごろな理由を考えておこう。

 公民館に到着すると、玄関ホールに面した警備員室から声がかかった。


「リシェイさんと客人なら、食堂にいますよ」

「ありがとう」


 警備員室にいたビロースの仲間の魔虫狩人に言われるまま、食堂へ足を向ける。てっきり部屋に案内していると思っていたから意外だ。時間的に、どんなに早くてもまだ部屋に案内できてはいないはずなのに。

 食堂を覗くと、リシェイとカラリアさんが向かい合って座っていた。

 なんだか、声をかけにくい空気だ。食堂へ足を踏み入れるのも躊躇われる。

 まごまごしていたら、カラリアさんの視線がこちらに向いた。


「アマネさん、申し訳ありませんが今は二人きりにしてください」


 先手を打たれた。

 カラリアさんの言葉で俺に気付いたリシェイが苦笑気味に振り返る。


「私からもお願い。廊下に立って、誰も来ないように見張っていてくれるかしら。すぐに済むわ」

「事情は分からないけど、頼みは分かった」


 納得はいかないけど、リシェイの様子を見るに心配する事でもなさそうだ。

 この短時間に一体何があったんだろうと思いつつ、俺は廊下に佇む。

 朝のこの時間に食堂へやって来る者はいない。朝はみんな自宅で食べているのだ。

 体感時間で十分ほどして、食堂からリシェイとカラリアさんが出てくる。

 笑顔で握手した二人はその場で別れた。

 二階の客室へ向かうカラリアさんを見送って、リシェイがこちらに歩いてくる。


「部屋に案内しなくていいのか?」

「さっき、部屋の前までは行ったの。だから大丈夫よ。何かあったら警備員に相談すればいいとも言っておいたわ」


 帰りましょう、と促すリシェイと並んで、事務所に歩き出す。

 リシェイの横顔を見る。


「なんか、機嫌よくないか?」

「そうね。いい気分よ」


 食堂での二人を見た時にも思ったけれど、カラリアさんと何かあったのは確実か。


「何があったのか、聞いてもいい?」

「そうね……」


 リシェイは頬に手を当てた後、いたずらっぽく笑って俺を見る。


「秘密にしておくわ」

「凄く気になるんだけど」


 無理して聞き出すようなことでもないから諦めるしかないけど。

 くすりと笑ったリシェイは俺と歩幅を合わせながら、口を開く。


「そうそう、アマネが作る摩天楼を隣で見ることにしたわ」


 その言葉だけで何があったのか、おおよその見当が付いた。

 俺はリシェイに笑顔を返し、手を差し出した。


「よろしく頼むよ、相棒」

「こちらこそ、よろしく」


 俺が差し出した手を取るリシェイはそう言って笑った。



 ケインズは、俺が返事の手紙を出してから二十日ほどで到着した。

 二十日間、カラリアさんは公民館の書庫でリシェイがまとめた歴史本を読みふけり、ほとんど表に出てこなかった。そんなカラリアさんもケインズを迎えに出てきている。七日ぶりくらいにカラリアさんの顔を見た気がする。


「アマネ、久しぶりだな!」

「ケインズも元気そうだね」


 四年ぶりに会ったケインズは、空白の期間を感じさせない明るさで挨拶してくる。


「突然ごめんな。カラリアも一度呼び戻そうとしたんだけど、リシェイさんの歴史本を読みたいからって駄々をこねられちゃってさ」

「駄々などこねてはいません」

「そうだな、駄々をこねたって言うより脅してきたもんな」


 ケインズが前言を撤回すると、今度はカラリアさんも否定しなかった。駄々をこねられた方がましな気がする。


「それより、村を見せてくれよ。あれとか、アマネの設計した公民館なんだろ?」


 早く中を見せろよ、とせっついてくるケインズを公民館の中に案内する。

 玄関を潜ってすぐの吹き抜けを見上げたケインズが口を開く。


「廊下の屋根を高く見せたいから差し掛け屋根にして建物の片側に屋根の頂点を寄せたのか」

「そういう事。二階の客室はロフトに荷物を収納できるようになっている」


 今夜は宿泊するらしいから、後で使い方も説明することになるかな。

 ケインズはふと思い出したように一度玄関を出て、公民館の玄関横の壁などを確認してから戻ってきた。


「そう言えば、この村って何て名前なんだ?」


 一度玄関を出たのは公民館の壁に名前の入ったプレートか何かがかけられていると思ったからか。


「タカクスだ。ケインズの村はアクアスだったっけ?」

「そう、アクアス」


 公民館の一階を案内しながら、ケインズの村であるアクアスの状況を聞く。


「住人は六十人、経営は二年目から黒字でそのまま黒字額が毎年増えてる」

「すごいな。タカクス村はこの間、四年目にしてようやく黒字化したよ」

「候補地の選定の時にアマネが教えてくれたんだろ。ミッパを育てればすぐに黒字化するって。その通りにしただけだよ」


 育てるのに水を大量に使うミッパで黒字化を狙う案は俺が確かに提案したのだけれど、住人六十人を抱えて黒字化に持って行ったケインズの手腕はやはりすごい。


「肉類はどうしてる? タカクス村の場合、無視できなくなってランム鳥を育てるんだけど」

「ランム鳥!? どこでそんなの育ててるんだよ。村に入ってから全然臭いがしてないぞ?」


 ランム鳥の悪臭はケインズも知っているらしい。

 タカクス村の飼育小屋は研修の甲斐もあってほとんど臭わないのだ。黒字化に貢献してくれた行商人も臭いがしない事を驚いていた。

 後で飼育小屋を見せることを約束しつつ、アクアスの蛋白源の話を聞く。


「ミッパとの物々交換で肉類を手に入れるようにしてるんだ。市場を持ってるワラキス都市やガメック都市も近いから、市場にミッパを持って行くついでに他所の村や町から来た人と交渉して物々交換をしたのが始まりかな。一年くらい続けてたら直接村長が訪ねてきてくれて、ミッパとコヨウ肉の物々交換を定期的にやらないかって誘われたんだ」


 コヨウは秋から冬にかけて内臓に負荷がかかり、貧血になりやすいらしい。子コヨウの出産が重なると母コヨウと共に栄養失調で死ぬ可能性も高くなる。

 そのため、貧血予防と解消に効果のあるミッパを安定して輸入したいその村長は、コヨウ肉との物々交換を申し出たとの事だった。

 この物々交換のおかげでアクアスは定期的にコヨウ肉を手に入れ、蛋白源の確保を可能とした。


「その手があったか」


 しかし、ランム鳥を購入する前に知ったとしても真似は出来なかっただろう。タカクス村は輸出品が野菜しかなかったのだ。それも、付近の村や町で栽培している種類だけである。


「僕らとは逆になるけどさ。アマネ達もランム鳥でどこかの村に物々交換を持ちかけてみたらどうだ?」

「今すぐ欲しい物もないから、考えておくよ」


 それに、物々交換するとしてもランム鳥をもっと増やしてからでないとすぐに村の資源が枯渇する。


「それより、アユカはどうしたんだ?」


 ケインズの隠し玉である淡水魚、アユカ。

 ミッパの栽培に水を大量消費している状態ではアユカの養殖ができないのではないだろうか。


「あぁ、そのことなら心配いらない」


 俺の心配を笑い飛ばしたケインズは続ける。


「養殖は続けてる。数もかなり増えて、今は三十尾ずつ入った生簀が五つあるんだ。数を増やして飼育した場合にどうなるのかはまだ手探りで、研究しつつ慎重にな」


 お土産に燻製にしたアユカを持ってきたという。アクアスで燻製にした物ではなく、近くの村に頼んで作ってもらった試作品らしく、味の感想も聞きたいという。

 食べる前から美味そうだと思っている俺の感想が当てになるかは分からない。


「ミッパの栽培に必要な水は?」

「僕の村には池が二つあるからね。片方をアユカの養殖に、もう片方を農業用水として活用してるんだ」


 現在、ケインズの村であるアクアスはミッパを中心とした輸出業で黒字を出しつつ、アユカの研究を行っているという。

 世界樹の上にあるこの世界では魚食の文化は馴染みがないため、徐々に浸透させているとの事だった。

 公民館の二階にある部屋へケインズを案内し、荷物を置いてからランム鳥の飼育小屋へ連れて行く。


「カラリアはもう見たのか?」


 ケインズが声を掛けると、カラリアさんは小さく頷いた。

 初日にリシェイが飼育小屋に案内したようだ。


「無臭、とはいきませんが、話に聞くランム鳥の悪臭は全くしませんでした」

「凄いな。アマネ、何か秘訣でもあるのか?」

「研修を受けてきて、その通りにやっているだけだ。まだまだ真似している段階だよ」


 これから、俺たちなりに改良を加えながら、飼育のノウハウを教えてくれたゴイガッラ村と情報交換をしていくのだ。

 ランム鳥の飼育小屋が見えてくると、ケインズはすぐに越屋根に気が付いた。


「風向きに合わせて換気してるのか」

「それもある」


 建橋家資格を持っているケインズは一目で見ぬいてきた。というか、資格を取ったのは俺よりも先だから先輩にあたるんだよな。

 飼育小屋を越屋根にする理由なんて、換気と採光くらいしかないのだし、家を建てた経験があればすぐに気が付くか。


「ちなみに、最初の飼育小屋は東西に通気口を設けた切妻屋根だったんだ。これは建て直した方」

「わざわざ建て直したのか。気合入れてるんだな。でも、飼育小屋にするには費用が掛かったろう?」

「初期投資だと思って涙を飲んだよ」


 半端な物は作れないからな。

 それに、前の飼育小屋もおが屑の保管庫として活用されている。

 飼育小屋の中に入ると、ランム鳥が見知らぬ人間に気付いて騒ぎ出す。


「うわぁ、うるせぇ」

「ランム鳥なんてこんなもんだよ。それに今はまだましだ。朝方の縄張り主張なんかこの倍はうるさい」


 会話ができるだけマシだと思って欲しい。

 もっとも、飼育小屋は防音対策をしているので外までランム鳥の鳴き声が響かないようになっている。越屋根にする費用よりもはるかに金がかかったのがこの防音対策だ。


「村長、お客さんですか?」


 飼育員のマルクトが飼育小屋に併設された管理人室から顔をのぞかせる。


「あぁ、アクアス村の村長、ケインズだ」

「カラリアさんの上司の方ですね。どうも、こんにちは」


 マルクトはケインズに挨拶すると、飼育小屋の中をうろちょろしているランム鳥を眺める。


「突然、騒ぎだしたので何事かと思いましたよ」

「騒がせてすまない。村を案内しているところだったんだ」

「いえいえ、何か質問があれば受け付けますよ」


 マルクトがケインズに水を向ける。

 ケインズは物珍しそうにランム鳥を眺めていたが、質問していいと言われて顔をすぐにマルクトに向けた。


「臭いの対策とかどうしてるんだい? 飼育小屋の中に入ってもそんなに臭いがしないし、かなりびっくりしてるんだけど」

「炭を撒いたり、小まめな掃除や適温に温めたぬるま湯を置いてランム鳥に水浴びをさせたり、日光浴をさせたりですね」


 どれも飼育研修で培った事である。

 色々と話を聞いたケインズは、面白そうにランム鳥を見ていた。

 カラリアさんがケインズの右そでを摘まみ、ちょいちょいと引っ張った。


「アクアスでのランム鳥の飼育は無理です。アユカで手いっぱいですので」

「あぁ、そうか。そうだよな」


 取り入れるつもりだったのか。


「一朝一夕にどうにかなる物でもないし、利益を出すとなるとかなりの数を揃える必要がある。アユカと両立させるのは難しいだろうな」

「アマネもそう思うのか。なら、素直に諦めようかな」


 納得した様子のケインズを見て、カラリアさんが俺に小さく会釈する。俺からも止めたことに感謝しているらしい。

 ランム鳥の飼育小屋を出て、村の住居を一通り見せた後で事務所に案内する。

 ケインズは満足そうな笑みを浮かべていた。


「アマネの村もうまく回ってるみたいで安心したよ。好敵手はこうでないとな」

「まだ回り始めたばかりだけどね」

「アクアスと違って水が豊富な訳でもないんだ。四年で黒字は快挙だろ」


 そこはまぁ、少し胸を張れるところだ。


「今度、アマネもアクアスに来いよ。案内するからさ」


 ケインズの提案は非常に魅力的だ。またアユカが食べたい。塩焼きで。

 リシェイが俺の左袖をちょんと引いて、上目づかいに睨んできた。


「ようやく軌道に乗ったところなのだから、長期不在は許可できないわ」

「だ、大丈夫だって。今日明日の話でもないんだから」


 アユカはしばらくお預けのようだ。



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