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世界樹の上に村を作ってみませんか  作者: 氷純
後日談

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第三十五話 停留所デザイン大会

「ヨーインズリーよ、メルミーさんがやってきたぞー」

「お、おう、いらっしゃい」


 メルミーのメルミーによるメルミーのための凱旋報告に、屋台のおじさんが戸惑いがちに言い返す。

 メルミーがおじさんに笑顔を向けた。


「どうも、どうも」

「こちらこそどうも、どうも。観光かね?」

「里帰りだよ。おじさん、コヨウのモモ肉の串焼きを二本頂戴」

「まいどあり」


 さっそく屋台のおじさんからコヨウの串焼きを買って戻ってきたメルミーが一本を俺に差し出してくる。


「めしあがれい」

「おう、いただきます」


 美味いな。乾燥キノコを粉末状にしてから串焼きにまぶしてあるらしく、キノコの香りがふわりと漂う絶妙な味だ。

 キノコを食べると虚の摩天楼ヨーインズリーに来たって実感がわく。特産品はこうでなくては。


「メルミーは実家に顔を出すんだろ?」

「そうだよ。リシェイちゃん印の特製ブレンドハーブ茶もお届けするからね。アマネはこのまま会場に行く? 時間がちょっと早いかもしれないけど」

「そうだな」


 今日ヨーインズリーに来た目的は停留所デザイン大会の結果発表と表彰式を見るためだ。

 タカクスに届けられた表彰式についてのお知らせの文面を思い出しつつ、ヨーインズリー雲上ノ層を見上げる。


「多分、ケインズももう来ている頃だろうけど、孤児院に寄ってから会場に向かうよ。メルミーは実家でのんびりしておくといい。俺も後で顔を出すって伝えておいてくれるか?」

「分かった。お養父さんたちに惚気話してくるから、アマネはのんびり来てね」

「顔を出した瞬間、店長さんに締め上げられそうだな」


 実家である木籠の工務店に向かって駆けていくメルミーを見送って、俺は空中回廊への階段を上る。

 それにしても、ヨーインズリーに来たのは久しぶりだ。

 特に様子は変わってないけれど、空中回廊や店舗などの一部が建て替えられていて、俺がここに事務所を構えていた頃と比べると少し新しくなっている。

 建物などが新しくなっているだけで道や空中回廊の配置が変わっているわけではないから迷う事もない。

 途中、リシェイの出身院でもあるヨーインズリー孤児院に立ち寄る。

 俺がまだ建橋家になる前に建て直した孤児院は変わらぬ佇まいのままそこにあった。中から子供たちの騒ぐ声が聞こえてくるが、もう俺やリシェイを知っている子はみな卒院しているだろう。


「ごめんください」


 中に声を掛けると、近くにいた十代半ばの女の子がこちらを見た。


「院長を呼んできてくれるかな? アマネが来たって言えば、多分わかるから」


 タカクスを出る前に手紙を送って立ち寄る事は連絡済だ。

 女の子は無言で頷くと院長室へ歩いて行く。何故だろう。扱いにくいけど仕事ができるタイプの子に見える。

 ほどなくして、女の子に伴われて院長がやってきた。立場上は院長の方が上のはずなのに、完全に女の子の方が格上に見えてしまうのは何故なのか。


「ようこそ。手紙は貰っているよ」

「無事に届いているようでよかったです。これはリシェイから、俺からはこれを」


 リシェイ特製ブレンドハーブティーの茶葉と、シンクの燻製胸肉をお土産に渡す。茶葉はそんなに数が多くはないけれど、シンクの方は子供たちが喧嘩しないように数を揃えてきたから結構な重量だ。


「こんなにいいのかい? シンクは高いだろうに」

「ヨーインズリーだと輸送費もかなり上乗せされますからね。タカクスで買えばそこまでの金額にはなりませんよ」


 それに、シンク関連の費用は俺のポケットマネーから出ている。つまりは原価で手に入れているわけで、高いとはいえ心配されるようなものでもない。

 しいて苦労と言えるのは、まとまった数を持って行こうとするとガチ泣きしたマルクトに追いすがられる事くらいだろうか。おこぼれを、おこぼれを、とうわ言のように口にしながら迫ってくるマルクトはたまに夢に出てくる。


「いまはヘロホロ鳥の家禽化に取り組んでいるので、成功したら送りますよ」

「ヘロホロ鳥か! あれは美味しいからね。実に楽しみだ。リシェイは元気にしているのかい?」

「えぇ、最近はちょっと仕事詰めなので心配ですが、元気にしていますよ」

「そうか。それはよかった。手紙だけだと分からない事も多いからね。仕事詰めに関しては、アマネ君が一緒に散歩の一つでもして気分転換を図ってくれ」


 笑いながら俺の肩を叩いて、院長は雲上ノ層へ目を向ける。


「デザイン大会の表彰式に出るのだろう? そろそろ行った方がいい」

「まだ、時間はありますけど?」

「雲中ノ層の空中回廊の一部を建て替え中でね。少し遠回りしないといけないはずだ。工事しているのは確か、雲中ノ層にある製薬所の辺りだね」

「あぁ、あの辺りだいぶ古いですもんね。分かりました。そう言う事ならもう向かった方がよさそうです」


 俺は院長に礼を言って、孤児院を後にする。

 雲中ノ層への橋を渡ったところ看板が出ていた。院長の言う通り、製薬所の近辺で建て替え工事が行われていると書かれている。

 少し遠回りするルートを選んで歩き出し、商店街に差し掛かった時、道の先に見覚えのある顔を見つけた。


「――ケインズ、土産でも選んでるのか?」


 商店街で乾燥キノコを物珍しそうに眺めていたケインズに横から声を掛ける。

 てっきりもう会場にいると思っていたから、ここで会うのは予想外だったけど、向こうも同じ気持ちだったらしい。俺の声に驚いたように振り返って、ケインズは相好を崩した。


「なんだ、アマネか。誰かと思った」


 ケインズはほっとしたように言って、店先に並べられている乾燥キノコを指差す。


「エトルに頼まれたキノコがどれか分からなくてさ」


 エトルさんは確か、ケインズのところの人見知りが激しい料理人だったっけ。

 記憶を漁ってエトルさんの顔を思い出しつつ、店先を眺める。ここは観光客向けの店で、キノコ類の他様々な乾物を扱っている。


「どんなキノコが欲しいんだ?」

「さわやかな香りがして、なんかピリッと辛いらしい」

「あぁ、あれか」


 我が脳内ではアンズタケ呼ばわりしている奴だ。正式名称は忘れた。

 俺は並んでいる乾燥キノコの中からマイタケのような形状の赤いキノコを取る。


「これだろ」

「本当か?」

「疑うなら店の人に訊けばいいんだよ。すみません、ちょっといいですか?」


 中に声を掛けると、八百歳くらいのおばあさんが出てきた。

 事情を説明して確認を取り、ケインズは晴れてお使いを果たす。

 なんだか、前世の幼い子供の後ろを追いかけまわして買い物の一部始終を撮影する番組を思い出した。


「おめでとう!」

「なんか馬鹿にされてる気がするな!?」


 拍手で祝福したのに、ケインズは不満そうにツッコミを返してくる。

 どうせ会ったのだからと、一緒に雲上ノ層へ向かって歩き出す。


「アマネも多分聞いてるだろうけど、応募総数が結構な数に上ったらしいぜ」

「雲上ノ層に建てると聞けば、気合も入るだろうしな」


 天楼回廊の停留所だから、完成すれば世界樹の各所から人がやってくる。そうなれば、設計者の名前は確実に広まるはずだ。


「会場の席がまだ空いてると良いけど」


 雲上ノ層への橋を渡りながら、遠くに見える会場に目を凝らしてみる。視力は良い方だけど、ここからだと人が入っているかは分からない。


「受賞者が立ち見してると、ちょっと格好がつかないしな」

「ケインズは自信満々だな」

「当然だろう。一位を取るつもりで応募してる」


 自信満々に胸を張るケインズに苦笑する。

 会場では整理券を配っていた。ケインズと連番の四十五番と書かれた整理券を貰い、会場内へ入る。

 どうやら席ごとに番号が振られているらしい。四十五番の椅子は端の方にあった。

 ケインズと並んで座りつつ、会場奥の垂れ幕へ視線を移す。


「かなり個性が出てるなぁ」


 魔虫に対する防衛能力などを加味して設計しないといけないためデザイン幅はそんなにないと思っていたけれど、垂れ幕に貼り出されているデッサンはどれも個性に溢れたものだった。

 中でも際立っている作品がいくつか存在する。


「あの上から三段目の右端、ケインズのだろ?」

「アマネは下から二段目の左端から五番目だね?」


 互いの出品作を見つけ出し、相手の表情から正解だと分かってハイタッチを交わす。

 百近い作品の中からでも見つけ出せるほど、俺達の出品作は際立っていた。


「――長らくお待たせいたしました。ヨーインズリー主催、天楼回廊コヨウ車停留所デザイン大会の結果を発表いたします」


 まだ席は埋まっていなかったが、壇上に上がった司会役が表彰式を始めた。おそらく、他の参加者は仕事で現場を離れられなかったのだろう。

 見回せば、会場には五十人弱の人間がいる。ケインズ以外に知り合いは発見できなかった。師匠のフレングスさんをはじめ、みんな忙しいのだろう。


「不在の人が入賞したらどうするんだろうな?」


 ケインズが不思議そうに空席を振り返りながら呟く。


「後日、表彰状を発送って流れじゃないか?」

「味気ないだろ、それ。事前に連絡でもして、表彰式の日程を調整してるのかな」

「それだと連絡をもらってない俺たちは表彰されないことになるんだけどな」

「じゃあ、違うのか」


 あっさりと前言を翻すケインズ。えらい自信である。

 話していると、司会役がポケットから眼鏡ケースを取り出して掛け、手元の原稿を読み上げる。


「応募総数二百三十件。選考外百四十七件という結果となりました。選考外とされた方の手元には理由をかいた総評が送られているかと思いますが、多くが魔虫の襲撃を想定していないか、襲撃に耐えうるものではない点が挙げられます」


 やっぱり、魔虫対策ができているかどうかが分かれ目になったかと納得しつつ、垂れ幕に貼り出された応募作を眺める。貼り出されているモノは全て選考対象の作品のようだ。


「評価項目は先ほど申し上げた通り、魔虫対策がなされている事、さらに各種施設が組み込まれている事、コヨウの臭気対策、美観などとなっております」


 司会が大ざっぱに説明したあと、舞台袖に合図を送る。

 すると、垂れ幕が引き上げられ、後ろから入賞作品らしきものの設計図が現れた。


「後ろに見えております作品が、本大会における三位入賞となりました。世界樹は西にあるトラミア都市からの応募者――」


 西のトラミア都市って言うと、ビューテラームの建築様式を色濃く受け継いでいる地域だったはずだ。

 しかし、舞台上で紹介されている応募作はかなり独特の外観をしていた。


「奇抜な外観ではありますが、内部構造は非常に理に適ったつくりをしていることが分かると思います。建物そのものはまるで丸太を四角く積み上げたような外観ですが、四方に対して監視警戒を行う事が出来るうえ、中央塔から各方面に対し援軍や物資支援を行える構造です。また、中央塔周辺には世界樹各地へ向かう辻コヨウ車を纏め、利用者が無駄に歩き回る必要がありません」


 司会が俯瞰図の中央付近を指示棒で指し示す。

 いわゆるロータリーであり、建物の中心部に存在している事から魔虫の襲撃時にも客を一か所にまとめやすい。四方の壁が日陰を作るため、雲上ノ層でも辻コヨウ車を待つ間直射日光にさらされることがないのも利点だ。

 外観はキャンプファイアーをするときの丸太の組み方、井桁組みに近い。並行に縦二本、横二本と積んでいくやり方だ。

 設計図から読み取れるのは井桁組みをかなり巨大な世界樹の枝で行うもので、内部をくりぬいて通行可能な空間を作りだす形らしい。世界樹の枝の粘り強さをそのまま防壁として活かす試みは面白い。

 井桁組みで壁面を作る関係で必然的に隙間ができるのだが、この隙間は魔虫甲材を縦に並べたこれまた巨大なブラインドで塞がれる。隙間部分からの魔虫の侵入を防ぐと同時に風通しを良くしてコヨウの臭気を外へ逃がす設計だ。

 ヨーインズリーが選ぶだけあって機能性に重きを置いているのが分かる選考理由を並べた上で、司会は眼鏡をクイっと持ち上げた。


「非常に素晴らしい設計ではあるのですが、惜しい事に、これを運用するための魔虫狩人の人数が多すぎるため三位入賞という形に落ち着きました」


 四角に配置された防壁に対して中央から人員を送るという形は、四方に常駐する戦力が一見して少なくすむように見える。

 しかし、問題は中央にロータリーが存在し、緊急時には中央に避難客がごった返す点だ。むろん、避難客を誘導する線が設計図にも書かれているのだが、誘導に従う客ばかりとは限らない。子供ならはぐれてしまってふらつく場合もある。

 運用する際には客が魔虫狩人の迎撃動線に紛れ込まないように人員整理する必要が出てしまうほど、避難客の動線と近いのが問題だった。

 また、司会は触れていないが、この設計には一つ見落としている点がある。


「あの外観だと、後ろの町と合わないよな……」


 ケインズが小さく呟く。外観的な美麗さを評価されているケインズとしては気になる点なのだろう。

 俺も同じことを考えていたため、頷き返す。


「個としては高い評価を受けると思うけど、独創性が強すぎて天楼回廊の理念ともずれてる。それでも三位なのはそれだけ個としては優秀だって評価だろうな」


 巨大な世界樹の枝の中をくりぬいて使用するという大胆な発想も面白いだけあって、他人事ながら残念に思う。

 舞台袖から係員が出てきて、三位の設計図が貼られた掲示板を横に持って行く。後ろから現れたのはケインズの設計図だった。


「こちらは南の摩天楼アクアスの創始者ケインズ氏より応募された作品です。実に勇壮な外観となっているこちらは二位の結果となりました。赤みを帯びた材であるミトナの木を基調とした寄木細工のような外観は様々な木材の色調を把握しているからこその配置が見て取れます。また、暗色の材と材の間には間隙を設け、魔虫の眼には発見しにくい狭間を作ってあり、魔虫狩人の攻防を一体化した作りとなっております」


 マジか。

 隣で腕を組み、ドヤ顔を決め込んでいるケインズを横目に見る。

 俺の視線を受けて、ケインズはにやりと笑う。


「発想の切っ掛けになったのはアマネが設計した空中劇場の廊下なんだけどね」


 そう言って、ケインズが頬を掻く。

 空中劇場は俺がタカクスを興す直前に作った、橋と一体化した建物だ。

 たしかに、空中劇場の廊下は全体を壁面で覆い、天井と床の近くに採光用のごく小さな窓をいくつも配置してある。中からも外からも、注意してみなければ決して気付けないほど小さな採光窓は、薄暗い廊下の先に存在する空を背景にした開放的な舞台を演出する一環だった。

 あの採光窓を換骨奪胎して、魔虫からは発見されにくい狭間を作ったのか。人の眼で見ても外観に影響しないよう、材の種類を考えて配置してある。

 しかし、これでも二位らしい。


「周囲との調和も良く、通気にやや難があるもののコヨウが使用する区画を限定する事で臭気が広がるのを防いでいます。魔虫の迎撃能力も十分に備えています。多様な木材を組み合わせるのも、世界樹全域を繋ぐ天楼回廊の停留所の一つとしてふさわしいと言えるでしょう」


 司会はケインズの設計をべた褒めした勢いもそのままに話を続ける。


「文句の付け所の無いものではあったのですが、これから紹介する採用案の方が優れていると判断されました」

「――え……?」


 ドヤ顔を決め込んでいたケインズが小さく呟いて、硬直する。

 司会が手を振ると、舞台袖に控えていた係員がケインズの設計図が貼られた掲示板を脇へどけた。


「――こちらが、今大会における最優秀作となります」


 そう言って司会が指し示したのは俺の設計案だった。


「北の摩天楼創始者アマネ氏によるデザインです」


 ケインズがべた褒めされた後に出されるとちょっと平凡に見えるのは、設計者としてずっと見続けてたからだろうか。

 そう思ってケインズをはじめ、会場の参加者たちの顔色を窺って見る。

 特に不満が上がる様子はないけど、何故これが最優秀なのかは分からないといった顔だ。

 会場の雰囲気を気にした様子もなく、司会は眼鏡の位置を直すなり説明を始める。


「まずは実利的な面から紹介しましょう。ツリーハウスの形状を取ったこの作品ですが、ケインズ氏も用いたコヨウに割り当てる区画の限定を建物の下にすることで、臭気対策を図りつつ通気性を確保。建物の下の日蔭であるため涼しく、コヨウが熱射病に掛かるのを防いでいます」


 司会は建物の下を指し示して説明し、次に建物内部へ移る。


「ツリーハウスの一階部分を待合所、休憩所として客を集中させ、有事の際には同じく一階にある避難場所へ速やかに移れるようにしてあります。避難場所からは緩い坂道が外へ続いており、火災等でも避難に支障をきたしません」


 ツリーハウスとして設計した関係上、建物が高所に存在するため迅速に外へと逃げ出せる避難経路が必須だった。また、魔虫に襲われないよう外に露出する形ではなく、格子状の魔虫甲材で側面と頭上を覆って避難客を守る形になっている。

 火災と同時に魔虫が襲ってくる事態に備えてのものだ。


「二階には喫食スペース、三階部分は宿泊所となっており、客の滞在時間に合わせた配置が試みられています。さらに、客と守備に当たる魔虫狩人の動線をほぼ完全に分離してあります」

「――マジか?」


 会場から戸惑うような声が上がる。

 ケインズが眉間にしわを寄せて設計図を睨み、口を開いた。


「本当だ。あの小さな建物の中でほとんど完全に分かれてる。アマネの設計だけあって実用重視だけど、ここまでやるか……。パズルとか得意だろ?」

「まぁ、苦手ではないな」


 お客さんが間違っても迷い込まないように。しかし魔虫狩人が少人数で迎撃に専念できるようにと考えた設計であり、四方の監視塔から各所への報告が迅速にできるよう伝声菅も通してある。

 司会の言葉が嘘でない事を設計図から確認した参加者たちから動揺が伝播していく中、司会は話を続ける。


「キリルギリを討伐したタカクスの創始者だけあって防衛能力が非常に高いのは先ほど説明した通り。では、外観ではどうか。これはケインズ氏にやや及ばないものの背後の町との一体感に優れ、同時にツリーハウスとして樹木を表に押し出しています」


 司会が辻コヨウ車が乗り入れる建物下の区画を指示棒で示す。


「ホストツリーの枝を癒合させ、連理の枝としたうえでアーケードの形にもっていく。生木ゆえの粘り強さを利用しながら木陰の涼しさを提供しつつ、調和の取れたデザインとなっています。特に、連理の枝が天楼回廊の理念に合致しているのが素晴らしい」


 ケインズの時と同じくらいのべた褒めである。

 しかしながら、参加者たちも異論は無いらしい。悔しそうには見えるけど、納得している様子が見て取れた。

 唯一悔しそうには見えないケインズが腕を組む。


「摩天楼到達に続き二連敗かぁ」

「あんまり悔しそうには見えないな」

「まぁ、あと九百年以上はあるんだし、次こそ勝てばいいかなってね。悔しいには悔しいけど、勝ったり負けたりの方が好敵手っぽくね?」

「あぁ、それは言えてる」

「――入賞者は壇上へお願いします」


 司会の人にばっちりと視線を合わせながら声を掛けられて、俺はケインズと一緒に立ち上がった。



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