第三話 素材の売却
農地の確保を行ったものの、実際にこれらの世話をするとなると問題が浮かび上がってきた。
「人手が足りないな」
取水場から木壺に一杯の水を汲んでくるだけでも重労働だ。
俺は水で満たした二つの木壺を天秤棒で担ぎつつ、小走りに公民館に向かう。
並走しているビロースが頷いた。
「公民館の使用分で平均一日二十五壺、畑の水やりを合わせると六十ちょっとか。雑草抜いたりの世話も含めてギリギリだぜ」
早朝に全員で一斉に取水場へ向かい、木壺を天秤棒で運んで三往復。リシェイやメルミー達女性陣は非力なため、木壺に一杯の水など運べないから男性は四往復程している計算になる。
「何か対策を打たないと」
「息が切れてんぜ。無理してしゃべんな」
ビロースに指摘され、口を閉ざす。
現在の畑の面積では村人全員分の食糧生産を行えないとリシェイが試算していた。
だが、その狭い畑に水やりをするだけで手一杯な状態だ。畑を広くするなら人手も増やす必要がある。
水汲みを終わらせると一足先にリシェイやメルミー達女性陣が畑に水をやっていた。
肩を回して筋肉をほぐしつつ、水遣りに加わる。
水遣りも終わって公民館の宴会場こと食堂で体を休める頃には空に日が昇っていた。
「朝食の当番誰だっけ?」
「マルクトたちじゃないかな」
朝食作りは当番制。完全な分業制にした方が食材の管理なども楽なのだが、農業の方で人手が必要なのと、仕事量が偏って不満が出る可能性を考慮してのことだ。
それでも、当番に俺とリシェイ、メルミーが入っている日を多くして村のみんなには体を休めてもらう日も多い。リシェイは実質的にできた料理を運ぶか洗い物をするだけなので、調理は俺とメルミーがすべて行う形だ。
「メルミー、寝癖が付いてる」
「なおしてー」
覇気のない声で机に突っ伏しているメルミーの頭を撫でるように寝癖を直す。しつこいなコレ。
リシェイが櫛を持ち出してメルミーの寝癖を直し始めた。
メルミーの髪を梳きながら、リシェイが俺を見る。
「いまはまだやることも多くないけど、虫でも湧いたらその始末もする必要が出てくるわ。人手を増やすか、貯水施設を作るかしないと」
「貯水施設は無理だ。金がない」
「やっぱりそうよね。いまは貯金を切り崩して赤字を穴埋めしているのだし」
となれば、人手を増やすことになる。
農繁期だけ人を雇うという方法がとれればいいのだが、畑の拡大にはどの道人手が必要だ。何人か男手があればなおいい。
問題となるのは資金だが、それもこの間の魔虫討伐で得たビーアントの甲殻やバードイータースパイダーの糸などを売却すれば捻出できる。
「カッテラに行って、魔虫素材の売却と人手集めをするしかないな」
「火の車ね」
「まだ一年目だからな」
どうにかこの一年で村を運営していくだけの設備は整えたいところだ。
「リシェイも来てくれ。メルミーは留守番な」
「え、なんで?」
「リシェイは会計係、メルミーはこっちで拡張用の畑を作る係だ」
「行きたかったなぁ、カッテラ都市。あ、みんなにも聞いてお土産とか買って来た方がいいよ」
メルミーの提案に頷く。みんな疲れているし、お土産があれば少しは気分も持ち直すだろう。
朝食を済ませてから、俺は食堂の前に出てみんなの視線を集める。
「カッテラ都市で魔虫の素材売却を行い、人手を募る事にした。素材の運搬を手伝ってくれる人はいないかな?」
「ビロースさんはダメなのか?」
村人の一人から声が上がる。ビロースの怪力はすでに村人の間でもネタにされるほどだから、素材の運搬という力仕事にはうってつけと考えたのだろう。
だが、ビロース本人から待ったがかかった。
「村長のアマネがいない間、ここが魔虫に襲われた時に指揮を執るのが仕事だ。ここからは動けねぇよ」
「そういう事だ。それに、ビロースと俺が抜けると、男性全員が毎日の水運びで往復回数を一回ずつ増やす事になると思った方がいい。そしたら朝の水やりがずれこんで村が回らなくなる」
「それは確かにまずいな」
村人も納得したところで、カッテラ都市に行ったことがない者を二人抜擢して、付いてきてもらう事になった。
善は急げと、共有倉庫に保管してある魔虫の素材を取りに向かう。
今後使いそうなものはそのまま保管しておいて、ビーアントの甲殻、バードイータースパイダーの糸と液化糸を使った高級建材などしばらく利用しそうにない素材を箱詰めする。
「それじゃあ行こうか」
荷物を担いで公民館のみんなに見送られながら歩き出す。
俺とリシェイに一組の夫婦という男女四人の旅だ。カッテラ都市までは徒歩で二日かかる。
途中に村もないため、野宿することになるだろうと簡易テントも持ってきていた。
「村長はコヨウ車を買おうとは考えないんですか?」
往復四日の旅だけあって、暇をつぶすためか夫婦の旦那の方が声をかけてきた。
「コヨウの維持費を考えると当面は必要ないね。今回カッテラ都市に行くのだって魔虫の素材を売却するためだけど、安定して魔虫を狩れるわけでもない。農作物を輸出できるようになってから購入を考えた方がいいと思うんだ」
「それもそうですね」
羊に似た家畜であるコヨウは世界樹の葉を食べる動物だ。一頭だけならそこまでの手間ではないが、購入費を考えるとしばらく使う必要のないコヨウなど穀潰しと変わらない。
無駄使いはしません。
「ただ、行商人がコヨウを預ける厩は近いうちに建てようと思ってる」
「公民館からは離すんですよね?」
奥さんが心配そうに訊ねてくる。
「コヨウって臭いが強烈ですよ? 行商人が連れているのなら商品に臭いが移らないようによく手入れされているとは思いますけど」
「あまり離し過ぎても預ける側が心配するだろうから、風向きとか厩の構造を考えて対応するよ」
当分は、村に行商人が来ても一人か二人。コヨウも三頭から五頭がせいぜいだろう。
「コヨウで思い出したけれど、服も買わないといけないわね」
リシェイがふと思い出したように言う。
移住希望者は衣類なども持ってきているけど、リシェイが言っているのは作業着の事だろう。
これから村人総出で畑作りやら何やらの作業が続くため、丈夫で長持ちする衣類は買っておいた方がいい。
孤児院の出身者などは持ち込み衣類も最低限だから、場合によっては支給が必要だろう。
「出費がかさむなぁ」
「魔虫素材を高く売りつけないといけませんね」
ぼやいた俺に、旦那さんが悪戯っぽく笑いかけてきた。
今回の目的地であるカッテラ都市は世界樹の北側においてそこそこの大きさを持つ都市だ。
「あちこちから湯気や煙が上がってますね」
珍しそうに旦那さんが市入り口から都市内の様子を眺めて呟いた。
雲下ノ層に四本、雲中ノ層に二本の枝を有するカッテラ都市。しかし、この都市は建物ではあまり有名な物がない。橋も同様である。
建築家や建橋家がエリートと目されるこの世界において、ある程度の大きさを持つ町や都市などはランドマークとなる建物の一つや二つは有しているにもかかわらずだ。
それというのも、カッテラ都市はほかの都市や町とは異なる事情を抱えているからである。
「カッテラ都市には熱源管理官の養成校があって、世界樹で最も火を扱うとも言われている都市なのよ」
リシェイが旅行ガイドよろしく夫婦に説明する。
熱源管理官とは、火気の取り扱いに注意が必要なこの世界において、恒常的に火を燃やす設備に必ず一人常駐させなければならない職業人の事だ。
俺が持つ建橋家資格と双璧をなすと言われる難関の試験を突破しなくては名乗れず、騙れば建築家資格同様に極刑があり得る専門資格でもある。
「カッテラ都市は燻製品がとてつもなく美味い都市としても有名なんだ。村のみんなへのお土産も燻製品にしようかと思ってる」
「ランム鳥があるといいわね」
都市の市場を歩きながら、店先を覗く。
この世界における鶏的立ち位置のランム鳥を売っている店は見当たらなかった。
「ないですね」
奥さんがリシェイと顔を見合わせて頬に手を当てる。
リシェイは市場を振り返り、諦めたようにため息を吐いた。
「仕方ないから、コヨウの燻製もも肉で手を打ちましょう」
元来た道を引き返して市場の中へ。リシェイが眼をつけていたらしい燻製屋の前で足を止める。
軒先にぶら下がるのは飴色をしたコヨウの足や、腸詰めだ。この店だけ見事にセピア色をしていて、燻製の香りが漂っている。
それにしても、厩を作る前にこんな形でコヨウにかかわることになろうとは……。
「いらっしゃい。何をお求めで?」
店の主らしき男が出てくる。首には厚手のタオルを掛け、上半身は盛り上がった筋肉を誇張するように薄手の生地のタンクトップ。営業スマイルにしては暑苦しい笑顔にきらりと白い歯が光る。
六百歳くらいだろうか。
「ウチの燻製は全部手作りですよ。味は保証しますぜ」
よほど自信があるのか、腰に手を当てて自慢げにふんぞり返る。
燻製を手作りできるって事は、この人も熱源管理官の資格持ちか。
「……あの人、熱源管理官ね」
「道理で暑苦しいわけだ」
夫婦がひそひそ話している。
熱源管理官はとにかく暑苦しいというステレオタイプがまことしやかに囁かれているのは知っているけど、店の主を見る限りではあながち間違っていないようだ。
「コヨウの燻製もも肉をください」
「甘い方と辛い方、どちらにする? 値段は変わらないぜ」
燻製に甘いとか辛いとかあるのか。
「燻液にトウムを使ってるんですか?」
リシェイが訊ねると、店の主は大仰に頷いた。
「おうよ。燻液も手作りの本格品を安値でお届け。この剛毅さがウチの売りなんでね。試食するかい?」
筋肉の塊みたいなデカイ体格からは想像もつかない機敏な動きで小皿に乗った燻製肉を八切れだしてくる。甘い方と辛い方が四切れずつだ。
「頂きます」
一切れずつ食べてみると、予想以上に違いがはっきりしていた。
トウム由来の甘さと辛さがはっきりと区別をつけているのだ。
特に辛い方は俺好みだった。前世で鶏のももの燻製にわさびをつけて食べた時の事を思い出す。燻製の香りと辛さが混然一体になって爽やかに喉の奥へ落ちていくこの感覚は病み付きになりそうだ。
酒が欲しくなる。
「どうだ、美味いだろう? なぁ、うめぇだろう?」
俺たちの反応を見て、店の主がニカリと笑う。俺も笑顔で返した。
「辛い方を十人分、甘い方を十三人分でお願いします」
「おうおう、偉く剛毅な買い方するな、兄さん。おまけしといてやるよ」
「おじさんも豪快な売り方するね」
互いに褒め合いつつ、燻製肉を購入して店を後にする。
魔虫素材もあってなかなかの大荷物だ。
「早くギルドに行って荷物を減らそうか」
かなり重いし。
そんなわけで、俺たちは魔虫狩人ギルドに足を運んだ。
「ギルド員です。魔虫素材の売却をしたいのですが」
魔虫狩人ギルド員の証明になるメダルを掲げると、受付がすぐに会計を呼んでくれた。
会計に案内されたギルドの倉庫で持ってきた素材を広げる。
「こちらの甲殻、ずいぶんと状態が良いですね」
「こちらから襲いに行ったので、余裕を持って狩れたんですよ」
ビーアントの甲殻は綺麗に磨いてあり、すぐに加工へ移れる状態だ。数も九匹分と多く、まとめて売りに出せるのも大きい。
「玉貨六枚でどうでしょうか?」
にっこりと笑う会計に、俺たちと一緒に荷物を運んできてくれた夫婦が顔を見合わせる。玉貨なんて普通に暮らしていれば何枚も見ることがない貨幣だから、十分だと思ってしまったのだろう。
俺は会計に笑い返す。
「冗談が上手いですね」
「いえいえ、冗談抜きですよ」
「試してますか?」
「何のことでしょう?」
この会計、俺が若いとみて大量狩りしたことがないと予想して足元見てるな……。
ビーアントの甲殻は状態が悪い場合でも砕いてワックスアントの蝋に混ぜ込み、研磨剤にしたりもできる汎用性の高い素材だ。必然的に需要も多い。
どんなに状態が悪くてもビーアントの甲殻が九匹分なら玉貨七枚からが相場だ。砕いて使えるため、状態に左右されず価格が安定する。
だが、コンサートホールなどでの反響板として利用できるほどまったく傷がないビーアントの甲殻となればそうそう出回る物ではない。
在庫が十分でも目の前に出されたら必ず買えと言われるくらいの代物だ。
「カッテラ都市はビューテラーム方面の都市とも取引があると思ってきたんですが」
「えぇ、取引はありますよ。それがビーアントの甲殻と何か関係が?」
リシェイがニコリと笑って口を挟んでくる。
「ビューテラーム北方のトラミア都市は、創始者の一族が代々ビューテラームの建築家養成学校へ学びに行くためその建築様式の影響を強く受けているとされています。ビューテラームの建築史は言い換えれば湖と滝からもたらされる湿度との戦い。建物の建て替えが流行する時期があり、その中で変遷し、洗練されて今のビューテラームの姿となりました。しかしながら、ビューテラームの影響を色濃く受けたトラミア都市は湖や滝を持たないため建物の建て替え流行が起こらず、都市を散策するだけでビューテラームの建築史を一望できるとされるほどさまざまな時代の様式の建物が並んでいます」
リシェイの長広舌に絶句したギルドの会計。まぁ、気持ちは分かる。
リシェイはギルド会計に隙を作ったと見るや、俺に場を譲った。
俺はギルド会計が復活する前に畳みかける。
「そのトラミア都市が、ビューテラーム建築史から脱却すると看板を掲げてコンサートホールを作るという話があるんですが、ご存じないですか?」
「……聞いていますが」
「まとまった数の反響板、欲しくないですか?」
ビーアントの甲殻を手で示し、用途を反響板に限定する。より高く売れますよというアピールであり、ギルドが買わないなら直接商会に持ち込んでやるぞという脅しでもある。
ギルド会計が苦笑した。
「とても欲しいですね」
「玉貨十五枚でどうでしょう」
「ギルドの利益がなくなりますよ」
「他にも在庫があるなら抱き合わせで利益を出せるでしょう?」
「あぁ、はい。試すようなまねをしてすみませんでした。降参です。玉貨十五枚で手を打ちましょう」
「毎度あり」
俺はリシェイとハイタッチを交わす。完全勝利である。
ギルドの会計が帳簿を付けつつ、他の素材はどうするのかと聞いてくる。
「バードイータースパイダーの液化糸を利用したこちらの高級建材はここで売りたいと思っています」
「ほどほどの値付けをお願いしますよ」
「玉貨三枚でどうでしょう。同等の品質の物が七倍の量、村に保管してあります。それをまとめて売りたいんですよ」
「玉貨三枚……そちらの村へ引き取りに行けばよろしいですか?」
「そうですね。送料はギルド持ちで」
「分かりました。買い取りましょう」
ギルドの会計が倉庫番に声をかけ、代金を持って来させる。
俺とリシェイを見た会計がペン先で頭を掻いた。
「素人さんじゃないですよね?」
「魔虫狩人兼建橋家兼タカクス村長です」
「右の会計です」
「どえらい肩書だなぁ。市場価値にも詳しいわけだわ」
素が出てますよ。
代金が運ばれてきたため、枚数を確認してから契約書を交わす。
「この後は何か用事がありますか? 一緒に食事でもどうです?」
ギルドの会計に誘われたが、無駄使いもできないので首を横に振る。
「村の人出を募りに来たんです。今回の素材売却はその費用捻出の一環ですね」
「なるほど。では、孤児院かどこかの商会へ?」
「農業従事者が欲しいので、孤児院ですね。そこから伝手を辿って募集をかけてもらうつもりです」
「そうでしたか。では、素敵な方に巡り合えるよう祈っております」
婚活に行くわけではないんだけどね。
会計に見送られながらギルドを後にし、カッテラ都市の孤児院に向かう。
赤いギャンブレル屋根が特徴的な孤児院で院長に話を通す。
「農業ですか。募集人員は何名でしょう?」
「四人ほど欲しいです」
「男手ですか?」
深く頷く。力持ちがいるととてもうれしい。
院長さんは過去数十年分の名簿を出してきてくれた。二百人近い名前が載っているそうだが、大半は他所へ働き出ているらしい。
それでも、自分の畑を持っていないとか、独立するだけの技術は身に付けたけど行く場所もないとか、そう言った相談を度々受けては名簿の備考欄に記載してあるらしい。
俺たちのように村へ移住者を募る者が訪ねてきた時に対応するためだそうだ。
「すぐに紹介できる者が五人、他に四、五人あてがあります」
「一通り面接したいので、顔を合わせる事は出来ますか?」
「明日に五人なら。他の者については二日ほどかかるかもしれません」
「構いません。どうかよろしくお願いします」
孤児院長に頭を下げて、面接する許可を取り付ける。
翌日、翌々日と面接し、畑を持ちたいと意気込んでいる四人を連れて俺たちはタカクス村への帰路についた。
「――おかえり!」
タカクス村に帰り着いたのは夜だったが、まだ起きていたメルミーが出迎えてくれた。
「後ろの人たちが新しい移住者さんかな?」
「そうだ。部屋は四つ必要なんだが、空いてるか?」
「ビロースさんたち狩人組が警備員室で寝泊まりして、私とリシェイがアマネの部屋で寝泊まりすれば問題なしだよ。ビロースさんたちの許可は取り付けてあるから、後はリシェイちゃんがどうするかだけだね」
メルミーがリシェイに視線を向ける。
リシェイは俺を横目でちらりと見た後、顔をそむけた。
「……私もアマネの部屋に泊まるわ。メルミーと二人きりにしておけないし」
「三人かぁ。それはそれで」
「あなたね……」
リシェイが胡乱なモノを見るような目でメルミーを見る。だが、メルミーはリシェイの視線などお構いなしに移住者を部屋に案内し始めた。
案内をメルミーに任せて、俺は宴会場こと食堂に顔を出す。
ビロースがハーブ酒を飲んでいるところだった。
「おぉ、帰ったか。畑の拡張は済んでる。そういえば、アマネはまた土入れを見逃したな」
ゲハハ、と大笑いするビロースの向かいに腰を下ろす。
「こちらも、首尾は上々だ。明日話すが、魔虫の素材は玉貨十八枚で売却できた」
「ぼってきたなぁ。十五、六枚がせいぜいだと思ってたぜ」
「生き字引がいるもんでね」
リシェイが会計を動揺させた功績が大きい。俺は最後にトドメを刺しただけだ。
ビロースに酒を注いでもらい、一杯煽る。リキュールらしいきつめの酒だがハーブの香りと甘さが程よく馴染んでいる。
「公民館も手狭になってきたし、明日から本格的に住居の建設を始める」
「人手が増えても忙しさは変わらずか」
「住居がないと人手も増やせないからな。ここががんばり時だ」
俺はビロースとグラスを合わせ、明日に向けての景気づけに一気に煽った。