表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の上に村を作ってみませんか  作者: 氷純
後日談

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

157/188

第三十話  旅は道連れ

 上水道の整備も終わり、ヨーインズリー主催の停留所デザイン大会で入賞するべく現地視察へ向かう事が決定した。

 久しぶりの長旅である。往復で十日ちょっとと見積もっているけど、冬までには何とか帰って来れるくらいだろうか。

 と旅程を含めて計画を話したところ、リシェイが難しい顔をした。


「心配だから誰かがアマネについて行った方がいいと思うのよ」

「思い起こされるよね。メルミーさんたちが結婚に踏み切ったあの雪揺れ」

「……奴は、とんでもない物、オトしていった。お姉さまたちの心です……」


 テテンはそれ言いたいだけだろ。それと、雪揺れが落としたのは雪であって、リシェイ達をオトしたのは俺だから。

 テテンと睨み合っていると、リシェイが困り顔をする。


「私は事務所で停留所デザイン大会の応募受付をしないといけないし、メルミーはどう?」

「冬仕事用に家具の注文を受けてたから、メルミーさんは仕事しないとだよ。ヨーインズリー方面に向かう行商の人をつかまえて一緒に行ってもらうとか?」

「そうなると、帰りが問題よ。雪が降るとしたら帰りの道中だもの。行きの安全確保はそこまで問題じゃないわね」


 そこまで話し合って、リシェイとメルミーの眼がテテンに向けられた。


「冬用の燻製作りは終わっているのよね?」

「む? ……うむ」

「……いえ、ダメね」

「足手まといにしかならないよねー」

「む!?」


 予定が空いていても体力的な問題で俺の足を引っ張ると判断されたテテンがやや納得いかなそうな顔をした後、ふっと笑みを浮かべ、俺に対してドヤ顔を決める。


「留守は、お任せ……」

「斬新なほえ面だなぁ」


 テテン的には勝った事になるのか?

 どうしようかと話をして、結局は一人で行くことになった。


「それじゃあ、お土産も買ってくるよ」

「干しキノコとかいいわね」

「分かった。探してみる」


 席を立って全員で玄関に向かい、リシェイ達に見送られて俺は自宅を出発した。

 目的地は東だが、一度第三の枝を南に向かってカッテラ都市を経由した方が結果的には近道になる。

 上水道の整備を進める傍ら組み上げてきた草案を頭の中で立体的に描きつつ、俺は足早に現地へ向かった。




 雪にも雨にも降られずに現場に到着し、俺は周辺を見回す。

 雲上ノ層の枝だけあって見晴らしが良い。ヨーインズリーが配布した資料に載っている測量データとの齟齬もなさそうだ。

 ヨーインズリー主催のデザイン大会というとワックスアントが巣を作っていた枝で開催された事もあった。あの時は結構な混乱があったから、調査は念入りに行ったのだろう。

 枝は大きな隆起もなく、平たんだった。天楼回廊を敷設する関係で波打っていない枝を選んだのだろう。端の方から雲中ノ層にある町との距離を目測しつつ、頭の中にある草案を修正していく。

 ちょっと人手が欲しいな。町との直線距離を正確に知りたい。

 俺は枝の上を見る。

 同じような参加者たちが声を掛け合って三人以上のグループを作り、測量していた。ケインズがいればちょうど良かったんだけど、まだ来ていないのか、それとももう訪れた後なのか、姿はない。

 適当に声を掛けようと思った時、横合いから声を掛けられた。


「アマネさん、奇遇ですね!」


 俺の事を知っているらしいその人物の顔を見て、判別がつかずに服装へ視線を移す。魔虫狩人なのはわかるけど、こんな人居たっけかな。

 仲間らしい魔虫狩人が三人、俺と目が合って頭を下げてくる。

 四人組の魔虫狩人――


「あぁ、雪虫狩りでタカクスの近くまで来て遭難した四人組の素人!」

「その節はお世話になりました」


 ぺこりと頭を下げる四人組。

 タカクスがまだ村だった頃に吹雪の中遭難していた連中だ。俺とビロース達で捜索に出たり、雪虫の狩り方を教えたりした。

 そう言えば、あの時もヨーインズリーの魔虫狩人ギルドから来たって言ってたな。


「デザイン大会参加者の護衛依頼でも引き受けてきたのか?」


 俺は枝の上にいる参加者たちに混ざって周囲の警戒に当たっている魔虫狩人たちを見ながら、四人組に質問する。


「そうです。ヨーインズリーの魔虫狩人ギルドから声を掛けられて、依頼を受けたんですよ」

「そっか。一人前として認められたって事だな」


 あの四人組がねぇ。

 しみじみしてから、ふと思いついて四人組に質問する。


「ヨーインズリーの魔虫狩人ギルドは今回の停留所を始め、天楼回廊にどれくらいの警備員を配置するつもりか聞いてないか?」

「後でギルドの方に問い合わせれば詳細が分かると思いますけど、人数についてはほとんど白紙ですよ。一応、幹守りと一緒で数人ずつ派遣する形になるって噂が流れてるくらいですね」

「やっぱりその形に落ち着くか」


 幹守りとは、魔虫の中でも空を飛ぶことのできない種類が幹を上ってやってくるのを防ぐために配置される魔虫狩人たちを指す言葉だ。

 幹を上ってくるのは飛べないだけあって重量級であったり、単純に大きかったり、毒毛を備えていたりと厄介な種類も多い。これらを水際ならぬ幹際で食い止める重要な役割だ。基本的に、弓の腕と共に魔虫についての広範な知識を有していると判断される魔虫狩人が持ち回りで担当する。俺も何度かやったことがあった。

 天楼回廊の警備も同様に持ち回りで担当するのなら、停留所の防衛機能は動線も含めてきわめてわかりやすいものが求められるし、腕が多少悪くて魔虫の接近を許そうとも魔虫狩人が安全に狙撃できる狭間(さま)も考えなくてはならない。

 まぁ、元々複雑な防衛方法を取り入れるつもりもなかったけど。相手は魔虫だし、基本的に突っ込んでくるだけだ。キリルギリのように音で威嚇攻撃をしてくるような種類もあまりいないし。


「参考になった。これからもがんばれよ」

「はい。何か欲しい魔虫の素材とかあったら依頼を出してください。取ってきますから。まぁ、アマネさんなら自力調達しちゃいそうですけど」


 そう言って、護身用に持ってきていた俺の弓をちら見する四人組。


「何しろ、キリルギリを討伐しちゃうようなタカクスの創始者ですし……」

「俺一人の功績じゃないぞ」


 むしろ、功績としてはギルド長が一番だと思う。


「ところで、警備に戻らなくていのか?」

「いまは休憩時間なので、大丈夫です。あとは今日の夜間警備を担当して、明日ヨーインズリーに引き返すって感じで予定を組んでます」

「暇なら、測量を手伝ってくれないかな? 無理なら、他を当たるけど」


 たむろしている建築家たちを横目で示してから頼むと、四人組は快く引き受けてくれた。

 魔虫狩人の彼らは測量方法など知らないため細かく指示を出してヨーインズリーが公開している資料と照らし合わせていく。やはり、今回はワックスアントの巣があったりはしないようだ。

 測量している内に、キリルギリ討伐戦に参加したタカクスの創始者がいると噂になったせいで非番の魔虫狩人がぞろぞろやってくる。ちょうどいいので測量の仕方を知っている変わり種を中心にグループを編成してデザイン大会参加者の建築家たちの測量を手伝ってもらいつつ、キリルギリとの戦いについての質問に適宜答えていく。


「――次はどこの手伝いに行けばいいですか?」

「――キリルギリの音の大きさはどれくらいです?」

「――ここで測量班の編成をしてくれるって聞いたんですけど?」


 いつのまにか、俺の周囲には人だかりができていた。

 キリルギリ戦について話を聞きに来た魔虫狩人、測量の手伝いとして並ぶ魔虫狩人や建築家、様子を見に来た職人、測量の手伝いを求める大会参加者の列。

 測量が終わったというのに帰り支度を始められない俺は三つの列を処理していく。

 ようやく測量もあらかた終わった頃、四人組が欠伸を噛み殺しながらやってきた。


「お疲れ様です。測量はいい小遣い稼ぎになりました」

「大事になってしまって悪かった。まさかこんなことになるとは」

「名前が売れて信用が付いてくるのも、良い事ばかりじゃないって学べた気分ですよ」

「忙殺されるからな」


 というか、これはもう今日は帰れないな、と俺は暮れなずむ空を見上げてため息を吐く。

 このまま夜番をするつもりなのか、四人組が俺の周りに座った。


「ところで、さっきみんなで話してたんですけど、タカクスの博物館にキリルギリの標本が飾られてるんですよね?」

「あぁ、魔虫狩人が世界樹の東西南北からやってきて観察したり、学者がスケッチしていったり、いまでも結構にぎわってる。キリルギリ以外の魔虫の標本もあるから、ビューテラームの絵師がスケッチの練習に来たりもしてるし、世界樹北側だと魔虫狩人ギルドの新人研修の一環でツアーも組まれてる」

「凄い事になってるんですね……」


 常時かなりの人数が行き来している。キリルギリの集客力もすごいが、特別展示の指輪も負けてない。タカクスの職人で魔虫甲材を加工できる者が模造品を作って販売したところ土産として買っていく客が続出した。

 状況を話すと、四人組が顔を見合わせて情けない顔をした。


「見に行っても入れないですかね」

「なんだ、博物館の見学をしたかったのか?」


 訊ねると、四人組が揃って頷く。

 俺はタカクスを出発するときに心配していたリシェイ達の顔を思い出し、四人組に提案する。


「なら、タカクスまで俺の護衛をしてくれるなら、朝に開館前の博物館へ特別入場させてやるよ。護衛依頼料は博物館への特別入場と、四人に鉄貨百枚ずつ。道中で狩った魔虫の処理は四人に任せるって条件でどう?」

「いいんですか!?」

「あぁ。雪虫狩りに失敗してからの話も聞いてみたいしな」

「ありがとうございます」


 四人が立ち上がって一斉に頭を下げてくる。帰り支度をしていた建築家たちや魔虫狩人が興味を引かれたようにやってきた。

 また大事になる予感……。




「――それで、この人数に膨れ上がったの?」

「まぁ、そんな感じで」


 リシェイが呆れの視線を向ける先、俺の背後には四十人ほどの魔虫狩人と建築家たちがいた。


「一人じゃ心配だとは言ったけど、こんな人数にしなくても」

「博物館への特別入場は四人だけだって言ったんだけど、観光目的らしくてさ」


 ほとんどはこの機会に俺から話を聞きながら道中を楽しんでタカクス観光をするのが目的なのだ。

 大会前にタカクスの独特な建築物を眺めて英気を養うとかなんとか。魔虫狩人は建築家の護衛として付いてきて、冬到来と共に四人組がかつて失敗した雪虫狩りをしようという心づもりらしい。

 ちなみに四人組もリベンジに燃えている。今回は四人だけできっちり雪虫を仕留めてセーターを作ると道中で意気込んでいた。

 博物館には雪虫の標本もあるから作戦を良く練ってほしいものだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アマネさん有名人!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ