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世界樹の上に村を作ってみませんか  作者: 氷純
後日談

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第二十四話 上水道整備計画

 俺はリシェイとメルミー、テテンと共にタカクス全域の地図を囲んで、宣言する。


「それでは、タカクス上水道整備事業相談会を始めます」

「はい! はい! メルミーさんから早速意見があります、議長殿!」

「なにかね、メルミー君」

「会議名を、タカクスに水通しちゃうぞ計画相談会に改めたい!」

「すでに片付いた案件を蒸し返さないように。では、気を取り直して」


 俺はタカクスの地図を指示棒で示しながら説明を行う。


「現状の説明から始める。タカクスは雲下ノ層に四本、雲中ノ層に二本、雲上ノ層に一本の枝を有する状況ながら、雲中ノ層第二の枝は現在人が住んでいない完全未開発の枝となっている」


 雲下ノ層第四の枝にある水力エレベーターで行き来できるこの枝は現在、タカクスでも最大の許容重量を誇る。水源となる貯水槽などを設置するならこの枝が妥当だろう。


「また、考慮すべき点として雲上ノ層第一の枝は水源となる貯水槽が設置できない。取水場であれば水を得ることもできるけど、水量は大したことないから効率が悪い」


 世界樹の枝を植樹してその巨大な葉に朝露を溜める取水場は、雲上ノ層の低湿度ではうまく機能しない。雲上ノ層は今まで通り水屋に頼むしかないだろう。


「各枝が必要とする水量だけど、リシェイから説明を頼む」


 バトンパスすると、リシェイは資料を取り出して地図の上に乗せた。


「まずは雲下ノ層から。人口の七割以上が雲下ノ層に集中しているから、早急な対策が必要よ。各枝について説明すると、第一の枝は耕作地を中心に豊富な水を求めている。採油植物のルイオート温室やランム鳥の飼育小屋もあるし、燻製小屋もあるこの枝には貯水槽も設置されているわ。緊急性はそこまで高くないけれど、ランム鳥の数がキリルギリ襲撃前の水準に戻る前に対策を打っておきたいところね」


 ランム鳥の数が増えれば水不足に見舞われかねないって事か。

 第一の枝には孤児院や公民館などの施設が存在している。他にも民家がいくつもある。

 リシェイが資料をめくってから、地図上の第二の枝を指差す。


「第二の枝は早急な対策が必要よ。当初から住宅街として都市計画を進めていたから安定した発展をしているけれど、高層化が始まって水の供給が追い付かなくなってるわ。あらかじめ立てていた都市計画を変更する必要はないけれど、工事を急がせた方がいい。メルミー、空いている職人を回せるかしら?」

「いまあそこの工事している人たちってクーベスタ村の職人を受け入れてくれてる工務店だよね。だから工事に遅れが出たのかな」

「報告が上がっているけれど、クーベスタ村の職人のせいではないそうよ。タカクス学校の子供達が工事現場に入り込む遊びをしているみたい」

「その対策も必要になりそうだね」


 第二の枝は二段構造になった住宅街だ。下段には商店街や倉庫、品種改良などを行う研究用の実験農場などがある。上段はタカクス学校の他、生徒の宿舎や下宿先が存在している。

 他にも、シンクの飼育小屋、ローザス一座の宿舎と稽古場なんかがある。

 リシェイの説明が次に移る。


「第三の枝はタコウカ畑と高級宿、料亭、タカクス劇場が軒を連ねるデートスポットになっている。人口はそこまで大きくないけれど、タコウカ畑に水を供給する設備が貧弱で効率化した方がいいと思うわ。この枝の最大の懸念材料がタカクス入り口広場の存在よ」

「……屋台、多い。火事の危険性、あり」


 テテンが熱源管理官としての意見を述べてくる。

 タカクス入り口広場はカッテラ都市とを繋ぐ街道の接続地点であり、日中は大道芸や屋台で賑う。ちょっとしたイベントも行うため、人が集まりやすい傾向のある場所だ。

 防災街区整備もしてあるし、防火水槽も設置しているけれど、テテンから見ると足りないようだ。


「……あの規模、だと、消防隊、必須」

「消防隊は確かに必要ね。お客が多すぎて、回転率重視で慌ただしく店主が動き回る屋台もおおいから、火事が発生しやすい状況よ」

「屋台店主たちの意識改革と防災訓練の義務化も必要そうだな。さしあたって消防隊の詰所と消火用の水槽設置を急ごうか」


 消防隊そのものはすでに組織化してあるけれど、まだ規模が小さい。消防隊員の募集と訓練も行って行かないと。

 リシェイが雲下ノ層第四の枝を指差す。


「第四の枝は今年の水力エレベーター設置のおかげで水量が豊富よ。水力エレベーターの排水がそのまま農場へ供給されるから何も心配はいらないわね」

「そこでメルミーさんから意見があるんだよ」


 メルミーが右手を振りながら発言を求める。

 先ほどの議論後退の発言もあって、大丈夫だろうか、とリシェイに心配の目を向けられつつもメルミーは口を開く。


「湯屋の改装もして規模が大きくなったから、周辺の家との距離が以前と比べて近くなっちゃってるんだよ。出火した時に類焼の恐れがあるから、防火水槽の新規設置が必要だと思う。できれば、付近の家の住人に引っ越ししてもらった方がいいくらいだね」

「……気に、なってた」


 メルミーの懸念をテテンが追認する。

 タカクスの人口増加に伴って改装増築した第四の枝の湯屋は、キダト村時代から存在しただけあってかつては周辺の家との距離も程よく開き、類焼しないようになっていた。

 しかし、メルミーの言う通り増築で建物が大きくなった為、隣家との距離も狭くなっている。魔虫甲材の塀を設けるなどの対策は取っているものの、タカクスの人口増加が続いている今、さらなる増築も十分に有り得る未来だ。今のうちに動き始めた方がいいかもしれない。

 別の枝に湯屋を開業してもらうのも手ではあるけれど、熱源管理官も必要になるからすぐには無理だ。今ある設備を増築する方が行政側としては簡単である。

 湯屋の親父さんに相談した方がいいな。


「それで、雲中ノ層の話に移るけれど、良いかしら?」


 リシェイが資料をめくりつつ、会議メンバーを見回す。異論がないことを確認すると、話を続けた。


「雲中ノ層の二本の枝についてだけど、第一の枝は魔虫狩人ギルド、博物館、テテンの燻製小屋があるものの、基本的にはアマネ考案の和風建築物の住宅区になっているわ」


 俺が考案したって言うと語弊があるけど、地球の事を知らないリシェイ達にはわからないから仕方がないか。

 リシェイが雲中ノ層第一の枝の地図に描かれた住宅区を指先で丸く囲む。


「今後も住人が増えることが予想されるわね。湿度の問題はあるけれど、和風建築の風通しの良さが評価されているけど、畳はちょっと不評ね。手がかかるから」


 やっぱり畳は不評ですか。日本でもリノリウムやフローリングにお株を奪われていったくらいだもんな。

 ちょっと落ち込んでいると、メルミーが苦笑しながら背中を撫でてくれてた。おい、テテン、ことさらに同情するような目を強調して精神抉ろうとするのは止めろ。しかも口元笑ってんじゃねぇか。

 リシェイも苦笑しつつ、話を続ける。


「住人の増加が予想される以上、間違いなく高層化していくこの枝に限界荷重量を圧迫する貯水槽の設置は望ましくないと思うの。いまはそれだけ覚えておいて、第二の枝について先に説明させてもらうわね」


 対策についての話を後回しにして、リシェイが雲中ノ層第二の枝について話を展開する。

 とはいえ、第二の枝は水力エレベーターが接続されているだけで貯水槽以外には何もない枝だ。話すことはそう多くないだろう。


「上水道整備計画から話が逸れるように聞こえると思うけれど、ひとまず最後まで聞いてね。雲中ノ層第二の枝は未開発地域で支え枝もない状態よ。吊り下げられている水力エレベーターが限界荷重量に影響しているけれど、総量で見れば大したことはない。そうよね、アマネ?」

「その通りだ。水力エレベーターをこの枝が支えているけど、限界荷重量にはまだまだ余裕がある」


 俺が質問に答えると、リシェイは一つ頷いて話を進める。


「雲中ノ層第二の枝について早急に開発しなければならないのは道路網よ。水力エレベーターを使って雲下ノ層から雲中ノ層に上がってきても、そこから別の枝に行くことができない今の状態は宝の持ち腐れと言えるわ。そこで、雲中ノ層の枝二本を橋で繋げるべきだと思うのだけど――」


 リシェイは一度言葉を切り、宙に指先でくるりと円を描く。ちょっと得意げな顔なのが可愛い。


「ここで話を上水道の整備計画に戻すわ」

「ほう、それで、それで?」


 メルミーの相槌にリシェイは微笑みつつ、雲中ノ層第二の枝を指差してから第一の枝へ線を描く。


「限界荷重量に大きな余裕があり、水力エレベーターの稼働に安定的に豊富な水が必要で、必ず貯水槽を設置しなければいけないこの第二の枝から、第一の枝への橋に上水道を内包する事で、第一の枝に水を供給してしまいましょう」

「――水路橋か!」


 確かに、水路橋を設置してしまえば一石二鳥だ。

 水路橋とは、谷などを越えて水を運ぶ水道を通した、人の通行も可能な橋だ。

 熊本県の通潤橋などが有名どころである。


「問題は周辺の湿度対策だな」


 水路橋は水路内部の泥などを洗い流すために放水するから、周辺の湿度が上がりやすくなる。この世界で枝と枝の間に架けた橋ともなれば、放水口から放出された水はあたかも滝のようになり、雲下ノ層へ霧でも吹きかけたような影響を及ぼすだろう。

 俺自身、前世で観光に行った通潤橋のそばでぬかるみに足を取られた事があるし。この世界だとぬかるみはまず存在しないから、影響してくるのはカビやコケだろうな。

 とはいえ、カビもコケも対策についてビューテラームに習えばいいか。

 俺はリシェイの提案に賛成する。


「いいね。予算等も考えて設計しておくよ」

「お願いね。工事開始は来年になると思うけれど」


 これで雲中ノ層についての話は終了だ。

 残りは雲上ノ層だけど……。

 リシェイが雲上ノ層に関する資料を出す。紙一枚のペラペラ具合である。


「雲上ノ層に対策は必要ないけれど、天橋立に取水場を設置する方法で水の運搬効率を高める案を出しておくわ。天橋立への喫茶店誘致と並行して進めていくつもり」

「分かった。それじゃあ、この冬に最優先するのは第二の枝の水道工事になるな。冬が過ぎて雪の心配がなくなり次第、雲中ノ層に水路橋を架ける」


 方針を決定して、異論がない事を確かめる。

 異論はなしとみて、俺は各人に仕事を割り振って水路橋の設計をするべく作業部屋に向かった。



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