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世界樹の上に村を作ってみませんか  作者: 氷純
後日談

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第五話  内輪のお祝い

 お祭りも二日目に突入し、パルトックさんとダズターカさんの両名がそれぞれの摩天楼に帰った日の夜、じっちゃんたちがやってきた。

 そんなわけで、雲上ノ層の我が家の側で月を見ながらの宴会となった。

 ちなみに現在、雲中ノ層には霧が立ち込め、雲下ノ層は曇天模様である。こんな時くらい雲上ノ層住人の特権を満喫するべきだろう。そうだろう。


「単に自慢したいだけだろうが」


 フレングスさんに頭をぐりぐりとやられてツッコミを入れられる。

 おっしゃる通りです。

 バーベキュー風にコヨウやランム鳥の肉、野菜を焼きながらの立食形式で宴会が始まる。


「生きてるうちに新しい摩天楼が出来上がるとはなぁ」


 しみじみと呟く木籠の工務店店長が天橋立の方を眺める。


「村作りから協力していた身としては妙に感慨深いもんだ」

「公民館作りから協力してもらってますもんね」


 木籠の工務店には事あるごとにお世話になりっぱなしだった。

 木の杯を傾けながら、フレングスさんが俺を見る。


「職人の方はまともな腕の持ち主も多くなってきてるんだろう?」

「メルミーを始め、家を建てたりするくらいの職人は増えてます。橋も、雲下ノ層でなら架けられると思います」


 霧が出たりする雲中ノ層で作業するとなると、今の腕では工期が気になるくらいだろうか。

 木籠の工務店の職人なら多少霧が出ても作業は続けてしまうけど。


「クーベスタ村の出身者もか?」

「あらは目立ちますが、メルミー達の指導の下でなら大丈夫です」

「上出来だな。今後はほとんどタカクスが自力でやっていけるわけだ。摩天楼ならそうでなくちゃな」


 満足そうに店長とフレングスさんが頷く。

 摩天楼なら、か。

 病院を始めとした施設もかなり充実しているし、空中市場などを利用する目的で定期的に足を運んでくれる人たちも増えてきた。

 観光地としての性格はそのままだけど、着実に世界樹北側の生活に寄与していると思う。


「摩天楼として、他に何が足りないとかってありますか?」


 摩天楼ヨーインズリーに工務店を構える店長なら何か気付く事もあるかもしれないと思い、水を向ける。

 店長は腕を組んでしばしの間思案すると、何かを思いついたらしく腕組みを解いた。


「産院だな」

「産院ですか」


 今のところはカルクさんの診療所や元キダト村の診療所で妊娠が発覚し次第、産婆をケーテオ町から呼んだり、こちらから出向いたりする形を取っている。

 確かに、タカクスの中に産院があれば仕事への影響を最小限にすることができ、妊娠しても安心だろう。

 タカクスの人口が少ない上にこの世界では子供が授かりにくいからまだ必要性を感じていなかったけれど、言われてみれば必要かもしれない。


「診療所を開いてくれているカルクさんたちも出産には立ち会えますけど、やっぱり女性の産婦人科医がいた方がいいですよね。見つかるかな……」

「すぐには見つからねぇだろう。需要を見越して医者を志す娘も多いが、知識と技術が伴わなければならない仕事だ。一人前と認められるまでに百年単位で時間がかかる」


 店長の言う通り、医者は育てるのに時間がかかる。カルクさんのところで修行中のケキィもまだまだ一人前とは言えない。


「取り掛かるなら早い方がいいって事ですね」


 後でリシェイやカルクさんと相談して募集広告を打つ事にしよう。

 段取りを考えていると、フレングスさんが肩を組んできた。


「仕事の話はどうでもいい。それより、摩天楼を作った以上は後継者が必要だろう。どうなんだ、その辺」

「まだ結婚して十年経ってないんですから、子供は早すぎますよ」


 そりゃあ、できたらうれしいけど。


「まだ立派に父親を務められる自信が無いですね」


 前世でも子供はいなかった。本格的に未知の領域なのだ。

 世界樹の上に住んでいて今更未知も何も無いものといえば、それまでだけど。


「そんな自信を持ってから子供作る親なんざいないだろうよ」


 意外なことに、木籠の工務店の店長から弱気なお言葉を貰った。

 俺は首を傾げつつ、訊ねる。


「メルミーを孤児院から引き取った時も、自信はなかったんですか?」

「薄情に聞こえるかもしれないが、そんな自信はなかったな。仮にあっても、二、三日で崩れるだろう」

「そんなもんですか」


 難しく考え過ぎなのだろうか。

 ふと、赤ん坊だった俺を拾ったじっちゃんはどうなんだろうと思い、振り返る。

 ランム鳥のレバーを食べながらフレングスさんの奥さんであるサイリーさんや木籠の工務店長の奥さんと話をしていたじっちゃんは、俺に気付いて首をかしげる。

 串に残っていたレバーを食べながら一人歩み寄ってきたじっちゃんは、レバーを食べ終えると左手の親指と人差し指でわっかを作り、そのわっかに串を通して出し入れするジェスチャーをする。


「男三人集まってコレの話か?」

「ちげぇよ。できた後の話だよ」

「ピロートークか。重要じゃな」

「そっちでもねぇよ! さらに先の話だっての。十月十日後だよ」

「おうおう、ようやく話が見えてきた」


 じっちゃんは串を指先でピンと弾く。串は放物線を描きながら用意してあったごみ箱へ音も立てずに入っていく。


「ちょいと留守にして遠距離恋愛感を募らせた上でひょっこり顔を出し、再会を喜び旧交を温めてからベッドへ、と言う流れじゃな」

「なんでやる事しか頭にねぇんだよ!」

「何を言う。再会した直後にベッドへ誘うようながっつき男ではせっかく募らせた遠距離恋愛感が台無しじゃろう。やりたい時にやれない、だからこそ燃え上がるんじゃろう」

「そんな豆知識に興味ないっての!」


 ツッコミ疲れてため息を吐き出すと、じっちゃんは腕を組んで口を開く。


「しかし、子供か。まだ兆候はないんじゃろ?」

「ちゃんと話題に気付いてんじゃねぇかよ……」


 やっぱりからかってやがったよ、この爺。

 気を取り直して、俺はじっちゃんに問いかける。


「俺を拾った時って、親としてやっていける自信とかあった?」

「ないな。アマネこそ、子供としてやっていく自信があって生まれてきたわけでもなかろう。お互い様じゃ。周りに助けてもらえば、どうとでもなる」

「それでいいのかな」

「当たり前じゃろう。この摩天楼も、アマネ一人で作ったわけではあるまい」


 そう言われると納得である。

 しかしながら、と俺は自宅周辺を見回す。


「ご近所さんもいないんだよな」

「……ふむ、これは確かに二の足を踏むところじゃな」

「いや、やることはやってるんだけどね」

「それでこそ、儂の息子じゃな」

「――アマネ、とりあえず殴らせろ」

「店長、唐突になにするんですか!?」

「うるせぇ」


 拳骨を降らせてきた店長に抗議するも、聞き入れられなかった。

 理不尽だ。

 俺を一発殴ってすっきりしたのか、店長は周囲を見回す。


「だがまぁ、アマネの言う通り殺風景に過ぎるな。摩天楼になったばかりだから仕方ないとは思うが、引っ越ししようって奴はアマネ達以外に居なかったのか?」

「やっぱり、他の枝との行き来が難しいのが問題になってて……」


 雲中ノ層とをつなぐのは天橋立だけで、買い物に行くため空中市場を目指すならさらに雲中ノ層から雲下ノ層へ降りて第三の枝から第四の枝へ二重奏橋を渡らなくてはいけない。

 買い物するにもやや遠く、買った物を持ち帰ろうにもまた長い道のりを歩く必要があるのだ。

 ウチはケナゲンが頑張って荷車を務めてくれるし、俺たち自身が若いからテテン以外は特に苦にしてないけど、利便性を考えれば移住に二の足を踏むのも当然だろう。

 店長さんが思案顔で雲中ノ層を見下ろす。とはいえ、雲海に閉ざされて様子はうかがえない。


「水流エレベーターは設置できないのか?」

「ちょっと難しいですね。雲下ノ層の第四の枝から直上にある雲中ノ層の枝ならできそうですけど、雲上ノ層の枝の利便性にはあまり効果がないです」

「すると、コヨウ車くらいか」

「そうなります。いまは開発しているところですね」


 アクアスから改良コヨウ車の設計図を買い取っていること、これを参考にメルミー達で開発している事を伝える。

 とはいえ、まだ正式発表ではないから雲上ノ層に住人を呼び込むのは難しい。

 それまで口を閉じて考え込んでいたフレングスさんが口を開く。


「先に天橋立に喫茶店か何かを誘致した方がいいだろうな。気温が高くなってくると、どうしても雲上ノ層から客足が遠のく。天橋立は並木道になっている分、他の摩天楼の雲上ノ層と比べてはるかに有利に喫茶店を運営できるだろう」

「水分補給ができる場所って位置づけですよね。熱中症の予防にも必要だと思うので、募集は出してます」


 いまだに応募してくる人はいないけど。

 パン屋で働いている元ヒーコ村の女の子とかにも声をかけては見たんだけど、反応は芳しくない。


「当たり前じゃな。雲上ノ層への途上に喫茶店を開いても、今のところ利用客として見込めるのがアマネ達だけなんじゃから」

「やっぱりそうだよな。となると、単体で集客力のある商品が必要になるのか」


 卵巻みたいなやつだな。今もって、タカクスの料理を出す店では鉄板料理としてメニューに並んでいる。女性客の呼び込みに一役買っているんだとか。


「昔からアマネは誰に教わるでもなく料理が出来とったからな。何か考えてみればいいじゃろ」

「じっちゃんも料理上手だからな。一緒に住んでいればなんとなく覚えるよ」


 最初は前世地球の食材がないから料理なんてまともにできなかったけど、じっちゃんを見てたら食材の味とか配分とかが分かったのだ。

 遠くでリシェイがサイリーさんに詰め寄られているのを横目に見つつ、俺はじっちゃんに質問する。


「こっちで一緒に住まない?」

「嬉しい話じゃが、レムック村が気にいっとるからな」

「そっか」


 そう言うだろうとは思ったけどさ。

 じっちゃんは年の割に色々と元気だし、あんまり心配はしてない。


「孫ができたらまた呼んどくれ」

「おう、そうす――痛っ!」


 じっちゃんに応えようとしたら、店長に背中を叩かれた。



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