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世界樹の上に村を作ってみませんか  作者: 氷純
後日談

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第四話  二人の摩天楼当主

 応接室に集まったのは、タカクス代表の俺とリシェイ、アクアス代表のケインズとカラリアさん、さらに東の摩天楼ヨーインズリーの創始者一族現当主パルトックさん、ビューテラームからは同じく創始者一族現当主のダズターカさん、計六名。


「この場を設けてくれて感謝するよ、タカクスさん」


 パルトックさんがそう礼を述べる。

 筋骨隆々という言葉がよく似合う大男だ。身長は二メートル超えてるんじゃないだろうか。

 六百歳ほどだと聞いているけれど、針金のように硬そうな黒髪に大きな栗色の瞳も若々しい。

 俺と同じく建橋家の資格を持ちながら、大工仕事や周辺都市の相談役など幅広く活動している人だ。影響力が俺とは段違いだけど。

 パルトックさんの隣に座っているダズターカさんは、パルトックさんとは対照的な容姿をしている。

 身長は百八十センチくらい。柔らかそうな金髪の優男だ。鎖骨が見える丸襟の白シャツがやたらと似合っている。

 見た目とは裏腹にチャラい人ではないらしい。熱源管理官の資格を持ち、独自に開発した絵画技法、焼き絵は世界的に高評価を得ているほどの芸術家としての一面も併せ持つ。

 気後れするぐらい才能のある人たちだ。

 ケインズと視線を交わしあって、先にお前が口を開けよ、と互いに場を譲る。

 最終的にはここがタカクスであることを踏まえて俺から自己紹介をすることになった。


「タカクス創始者、アマネと申します。本日は遠路はるばるお越しくださり、ありがとうございます」

「堅い話は無しにいたしませんかね。ようやくのとこ、パルトックの跳ね返り以外に立場を同じくする同志ができたんですから、距離を置かれてしまうと寂しい」

「ダズ、オレをダシにするのは止めろ。まぁ、同意見ではあるな。堅苦しい挨拶は抜きにしよう。我々は、新たな摩天楼の誕生を祝福しに来たんだ。気を使わせちゃあ、本末転倒ってね」


 ダズターカさんとパルトックさんが気負いなくそう言って、無礼講だ、無礼講、と二人で続ける。


「腹を割って話さんと、進む話も進まない。酒を飲みながらでもいいくらいだ」

「まだ昼間ですよ?」

「夜なら良いって事か? よし、言質取ったぞ」


 そういう話だっけ?

 とはいえ、あまり緊張する必要はないらしい。パルトックさんたちがわざわざ態度を崩して雰囲気を良くしようとしているのだから、流れに乗るべきだろう。

 どんな話をしていいのか分からないけど。

 話題に悩んでいると、パルトックさんは俺の腕を見て自らの顎を撫でる。


「アマネ君は鍛えてるんだな。腕相撲でもするか?」

「また唐突ですね。魔虫狩人の修行は続けているので鍛えてはいますけど、力持ちって訳じゃあないですよ」


 ビロースの方が腕力ではよほど優れる。俺はあくまでも速射重視で、引く力はさほどでもないからだ。


「まぁそう言わずに、遊びだと思って」


 ほれ、とパルトックさんが机に右ひじをついて、腕相撲に誘ってくる。


「では、よろしくお願いします」


 俺も同じように右ひじをついて、パルトックさんと手を組んだ。

 ちらりと横目でケインズを見ると、ダズターカさんと話をしている。建橋家時代にはビューテラームに事務所を構えていたケインズとダズターカさんは顔見知りらしく、アクアスを興してからの話をしているようだ。


「それじゃあ、始めるぞ」


 パルトックさんの声で、右腕に力を込める。

 組んだ右手は、微動だにしなかった。


「おぉ、なかなかの力だな。感心、感心」


 軽い調子で褒めてくるパルトックさんの右腕を信じられない思いで見る。まさか小揺るぎもしないとは思わなかった。

 舐めてたわけではないけれど、建橋家で大工で運営アドバイザーなパルトックさんが相手だから、なんだかんだで勝てると思ってた。


「ダズの奴に倣ってこちらも世間話と行こうか」

「この状態で、ですか?」

「なんだ、もう音を上げるのか? 根性ないな」


 パルトックさんがちらりと俺の隣を見る。そこにはリシェイが座っているわけで。

 リシェイの前で諦められるわけない。さては分かってて言っただろ。


「……続けてください」

「おうともよ」


 パルトックさんが大仰に頷いて、続ける。


「建橋家の試験ではこちらの無理を聞いてもらって悪かったな」

「え?」


 建橋家の試験でパルトックさんに会ったりはしてないはずだけど。

 首をかしげると、パルトックさんは言葉足らずだったことに気付いたのか、補足してくれる。


「試験結果の公表に同意してくれただろう。あれのおかげでさして混乱もなく試験を終えることができた。こちらの不手際だってのに、すまなかったな」

「あぁ、あの事ですか。結果的には、俺も助かりましたよ。合格した後に仕事がちゃんと持ち込まれたのも、試験結果の公表で俺の実力が正確に知れ渡ったからですし。おかげで、身の丈に合わない仕事が舞い込んできて必死になる、なんてこともなかったですから」

「あれだけの好成績を出しておいてよく言うなぁ。年齢二桁が出す成績じゃなかったぞ」


 呆れたように左手で頭を掻いて、パルトックさんが思い出したように右手に力を込め始める。


「無理を聞いてもらったお詫びにタカクスへは色々と手を回したんだが、あんまり効果はなかったな。大概はタカクスが自己解決しちまう」

「いえいえ、都市への昇格とかを後押ししてもらえて助かりましたよ」

「それは別件だろう。新興の村の件があったから、タカクスに力をつけてもらわないとならなかったんだ」


 難儀な義理堅さである。


「それはそうと、粘るなぁ」


 パルトックさんが右手を見て、呟く。

 俺も意地になってる自覚があるけど、腕相撲は机から直角九十度の位置で硬直状態になっていた。

 パルトックさんが喋っている間は呼吸のタイミングが計りやすく、力が僅かに抜けた時を見計らって徐々にこの位置まで立て直したのだ。

 パルトックさんも形勢が揺り戻した理由には気付いているようで、心底感心したように組んだ右手を眺めている。


「んじゃあ、とっておき」


 ふっと、パルトックさんの手から力が抜けた。

 突然の事に、俺はパルトックさんの右手を机に激しく打ち付けてしまわないよう咄嗟に力を抜く。

 その瞬間、パルトックさんが全力で右手に力を籠め、俺の右手を机に叩きつけた。


「えぇ……」


 ありかよ、今の。狡い。


「柔よく剛を制すってな。昔の魔虫狩人の言葉らしいぞ」


 したり顔で語るパルトックさんを見ると抗議するのも男らしさに欠けるような気がして、泣き寝入りである。

 力を入れ過ぎた右腕を軽く回して柔軟体操をしつつ、俺はため息を吐いた。

 ちょうど、ケインズとダズターカさんの話も一段落ついたようだし、本題を切り出してもいい頃合いだ。


「それで、パルトックさんたちがこの祭りに直接やってきたのは、どういった用事あっての事なんですか?」

「用件ってほど明確な理由があるわけでもなくてな」


 パルトックさんが頭を掻いて口ごもる。

 後を引き継いだのはダズターカさんだった。


「嬉しかったので居ても立ってもいられなかった、と言うだけの話ですよ」

「嬉しかった?」


 ケインズが首をかしげておうむ返しに問う。

 ダズターカさんは頷いて、


「まずは摩天楼の地域的な役割について話しておきましょう」


 ダズターカさんはそう言って、用意されていた水を一口飲み、続けた。


「ある程度は知っているかと思いますが、摩天楼は周辺地域のまとめ役であり、牽引役であり、意見の調整役でもある。その役割の性質上、どこかの町や都市に肩入れするのは好ましくない。摩天楼化した当時の当主であればそこまで神経質になる事もなかったでしょうが、我々の代ともなると友人と呼べる相手は同じ摩天楼の創始者一族に限られてしまう」


 ダズターカさんは隣のパルトックさんを見て、ため息を吐いた。


「こんなのでも、友人にならざるを得ないくらいに寂しい立場でしてね」

「こんなんで悪かったな。一緒に風呂入ったり、寝たりした仲だろうによ」

「子供の時分の遠い昔話ですね」

「偉く距離のある言い方するなぁ。時空単位かよ」


 ポンポンと辛口を叩きあっているところを見るに、仲が悪いわけではないようだ。

 それに、おおよその事情も分かった。


「つまり、俺やケインズと顔合わせをして、同じ摩天楼の創始者一族同士で仲良くなる機会を作ろうというのが、今回の来訪理由って事でしょうか?」

「有体に言えば、その通り。アクアスはまだ摩天楼ではありませんが、橋架け自体は開始していますから含めても構わないはずです」


 ダズターカさんの言葉に、パルトックさんが同意するように大きく頷いた。

 摩天楼同士で交友を深めるのは良い事だと思うし、こちらとしても否やはない。

 ただ、本当にそれだけなのか、とも思う。

 俺の疑問を表情から読み取ったのか、ダズターカさんが苦笑する。


「無論、仕事上の目的がないわけではありませんよ。しかし、我々が直接タカクスへ足運んだ理由の大半が新たな友人を祝福するためだというのも事実です」


 つまり、酒を飲もう発言も冗談ではなく案外本気で言ってたりしたのだろうか。


「その、仕事上の目的と言うのは?」

「アクアスの摩天楼化記念祭と同時に初の摩天楼会合を開こうと考えていまして、その調整です」


 東西南北に摩天楼ができたため、今後はタカクスとアクアスがそれぞれ北と南の意見調整などを行う事になる。その引継ぎなどを話し合う会合になるらしい。

 今までヨーインズリーとビューテラームが受け持っていた役割を分ける形だ。


「特に、世界樹北側は雪揺れの被害なども多く、東西とはやや生活環境が違うため意見の調整に手間取ることが多かったので、摩天楼タカクスの誕生は非常に助かります。北側に住んでいないと分からない事も多いでしょうから」

「つまり、タカクスに住む俺たちが世界樹北側の代表として摩天楼会合に出席するんですか?」


 荷が重い気がする。

 事前に市長会合とかで緊密に北側の各都市や町と連絡を取って意見を固める必要がありそうだ。

 俺はケインズを見る。


「アクアスの摩天楼化はいつ頃になる?」

「天候の問題もあるから正確には言えない。まぁ、二年かそこらかな」


 つまり、準備期間は二年か。妥当といえば妥当かな。


「それじゃあ、二年後をめどに調整しておくとして、今日のところはタカクスでくつろいでください。まだお酒は出せませんが、お茶菓子などはいかがですか?」


 俺が水を向けたことで、ちょっとしたお茶会が始まった。

 もっとお堅い人たちだと予想していたけれど、案外気さくで今後も仲良くできそうだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] ことわざ的に過去にもいたのか、もしくは同じ答えに辿り着いたのか気になりますねぇ。
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