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世界樹の上に村を作ってみませんか  作者: 氷純
第一章  下積み時代
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第九話  木籠の町

「まさか本当に合格しちゃうとはねぇ」


 メルミーが事務所のソファにだらしなく座りながら呟く。

 呆れた視線をメルミーに注いだリシェイが俺に向き直る。


「建橋家資格の取得では最速記録よね?」

「今後まず塗り替えられない記録だろうってさ。ヨーインズリーも俺が今年受験してくるとは思ってなかったらしくて、今後は事前に人柄の調査を行ってから受験資格を認定する方針になるみたいだ」


 とはいえ、俺の試験成績は公開されていて、先輩にあたる建橋家さんたちも資格取得には十分な実力があると太鼓判を押してくれている。俺が建橋家になった事に文句を言う者は多分いないだろう。

 俺は旅支度をしながらリシェイ達を見る。


「実技試験で舞台になった町の開発計画だけど、五日後から工事を始めたいらしいんだ。メルミーは木籠の工務店とかの準備が整い次第現地入りしてもらえばいいとして、リシェイは俺と一緒にきてくれ」


 明日ヨーインズリーの事務所を出たとして、現地に到着するのが今から三日後、現地の視察をもう一度してから、住民を相手に説明会をして、それから――

 予定を組み立てているとリシェイが声をかけてきた。


「慌ただしいわね。お祝いとかしないの?」

「メルミーさんもお祝いの席に呼んでおくれよー」

「予定が詰まってるから、お祝いするとしてもこの仕事が終わってからかな」

「アマネは早死にしそうだね」


 メルミーが縁起でもない事を言っているが、今回はリシェイも窘めてくれなかった。

 元々、建橋家試験に合格した人はすぐに仕事に追われるのが恒例なのだ。俺に文句を言われても困ってしまう。

 準備を終えて、翌日早朝にリシェイと共に出発する。

 リシェイの分の荷物も筋トレがてら持たせてもらった。


「重くないの?」

「ちょうどいい。ここ最近魔虫狩りをしてないから体が鈍ってるんだ。筋トレだけでもしておかないと」

「ふーん」


 リシェイは興味深そうに俺の腕を見て、人差し指でつついてくる。


「硬い」

「専業で魔虫狩人をやってる人はもっとすごいぞ」

「そこまでになると、私はちょっと……」


 ほどほどが好きらしい。

 町に到着した俺たちを出迎えてくれたのは、この町の創始者さんだ。


「ようこそ。宿の手配はしてあります。急な仕事で申し訳ないね」

「いえいえ、仕事があるのは良い事ですから」

「ははっ働き者な若者だ」


 創始者さんに連れられて宿に到着する。失礼だが、町の大きさに対して不釣り合いに大きく立派な建物だった。

 観光業に力を入れるというわけではなかったはずだけど。

 不思議に思っていると、創始者さんが気を利かせて説明してくれる。


「観光客をある程度町の一部に集中させる事で、染料などの匂いによる不快感を抱かれないようにしているのだよ」

「あぁ、そう言う事だったんですか」


 創始者さんは「染料など」と言って誤魔化したが、実際のところは織物などを作る原料の毛、それを刈るコヨウの臭いを気にしているのだろう。人里へ大量に入れようものなら総顰蹙を食らうのがコヨウという生き物だ。

 コヨウ車などは小まめに毛を刈ったり洗ってやることである程度臭いを抑えているが、それでも車は箱馬車になっている。


「やはり、コヨウ飼いは必須ですか?」


 羊飼いならぬコヨウ飼いは、コヨウを連れて枝を渡り歩き世界樹の葉をコヨウに食べさせる飼育員である。コヨウは少々間の抜けたところがある動物で、枝から落下死してしまう事も少なくない。コヨウが落下しない様に監視する重要な仕事である。

 創始者さんは頷いて、宿屋の土産物屋を指差す。


「この町が主導で設立した基金で周辺の村と資金を出し合い、コヨウを買ってコヨウ飼いを雇っている。基金への供出金の割合で利益を分配する形を取っていてね。興味があるかい?」

「ゆくゆくは村を作りたいと思っているので、運営に関する話は興味があります」

「ほぉ、村を」


 創始者さんは楽しそうに目を細める。

 この町の創始者だけあって、色々な話が聞けそうだ。


「質問もおありでしょうが、まずは町の視察から始めて頂きましょう」


 創始者さんに案内されて町を見て回る。

 基本的に道は狭い。この町がある枝の幅はおおよそ四百メートル。道幅は最下層で五メートルが最大、空中回廊は幅三メートルで統一されており、現在第二層まで住居が作られている。

 大通りから頭上を仰げば高さ七メートルほどのところに空中回廊が見えた。大通りを挟む住居は二階建て。その上に別の住居が建てられており、二階建てアパートのような構造だ。二階廊下と空中回廊が一体化しており、交通の便も悪くはない。

 ただ、空中回廊の道幅三メートルというのは案外狭い。高さ七メートルのところにあるから端を歩くのに恐怖心が出るため、通行人が歩く実質的な幅は二メートルほどなのだ。大荷物を担いでいる者がすれ違うのは難しい。


「コヨウ車が通るのは最下層の大通りですよね。交通量は事前調査と変わってませんか?」

「ヨーインズリーが実施した交通量調査との差異はほとんどありませんよ」

「とすると、渋滞しやすい地点はこの先ですか」


 道の先、大通りが交差するその場所に到着して周囲を見回してみる。

 試験の前にこの町に来て聞き込み調査などをしたが、改めて見てもここは渋滞が発生しやすい構造になっていた。

 交差する大通りの高低差があったために、交差地点に向かって坂道になっているのだ。

 加減速がしにくいコヨウ車にとって、交差点まで減速しながら坂道を下った直後の上り坂は車を引くコヨウの負担が大きい。

 コヨウは動物であり、疲労も覚える。坂道を登り切れずに足を止めてしまうという苦情は事前に聞いていたし、実際に目の前でも荷物を満載したコヨウ車が坂を上り切れずに足を止めてしまっていた。


「すみません、ちょっと手伝ってきます」


 俺は創始者さんに断って、足を止めてしまったコヨウ車の下へ駆け寄る。

 荷車を引かせていた御者らしき若手の商人が焦った様子で後方のコヨウ車に頭を下げ、自分の車を後ろから押す。

 俺は若手の商人の横から荷車に手を掛け、坂を上るように押し込む。


「助かります!」


 若手の商人が俺に礼を言いながら、額に汗を浮かべて荷車を押す。

 二人がかりで後方から押したことで荷車が徐々に動き始め、坂道を登りだす。

 どうにか坂の頂上まで来て、若手の商人は俺に頭を下げて御者台に飛び乗り、先を目指してコヨウ車を進め始めた。

 俺は坂の下を見る。


「やっぱり後続は坂の下で足を止めるか」


 交差点の手前で止まっていたコヨウ車が若手の商人が先に進んだのを見届けて動き出す。

 ある程度の加速をつけてからでないと坂道を登り切れない可能性があると判断して、坂の手前で止まっていたのだろう。

 坂を上ってきたリシェイと創始者が交差点を見下ろす。


「ここはまだましな方でして。コヨウ車で水を運ぶ場合はさらに重量がある分、下り坂の頂上からでなければ動けません。人力で運ぶための空中回廊も日照の関係で大通りを横切れない地点があり、交差点で足を止めさせる要因になっております」


 創始者の言葉を聞き、リシェイが広げてくれた地図を見る。

 改善すべき渋滞発生地点は三つ。重要性はワンランク下がるものの改善すべきと判断される渋滞発生地点が二つ。今後の町の発展を考えれば整備が必要な交通の要所が三つ。他は無視していい範囲だ。

 試験を通った時の計画書そのままで工事するが、住民の了解を得るためには説得も必要になる。道幅を広くするような再開発であれば周辺の建物を取り壊さなければならず、そこに住む住人の了解を得なくてはいけないのだ。


「さて、どう説得したものか」


 交通量の調査結果などデータを提示する準備はすでにできている。あとはそれを分かりやすく説明し、改善が必要なことに納得してもらうための話術が今求められている。


「渋滞発生時はもっと怒声が飛び交ったりするかと思ってたんですけど、案外静かですね」

「普段はもっと騒がしいですよ。特に、この町に不慣れな御者が二人続いた場合などはちょっとした騒ぎになります」


 創始者さんが説明してくれたところによると、今回は坂を登れなかったコヨウ車が一台きりで、しかも俺が後ろから押すのを手伝った事で早く坂を上り切れたため誰も騒ぐところまで行かなかったらしい。


「では、交通渋滞の解消に伴い騒音の解消が行える点を強調しましょうか。他にも何か利点を説明したいところですけど、この交差点の場合は水の汲みだしが楽になるってことくらいかな」


 この交差点を避ける形でロープウェイが通る計画になっているため、それを使えば水の汲みだしが楽になるのだ。

 もう少し規模の大きな町であれば貯水施設から直接水道管を内包した空中回廊を通す事もあるけど、この町の場合は水汲みを人力で行っている。

 メンテナンスの問題で空中回廊の中に水道管を通すには維持費がかかるため、この町の収入では維持管理が難しい。

 リシェイが地図を畳みながら口を開く。


「一番の問題はロープウェイで景観を損ねる可能性よ。説得できるの?」

「利便性でゴリ押しできない事もない。空中回廊よりも影ができないからね。ただ、普段目に付くところにロープが張られていると気になるだろうとは思う」

「つまり、説得する方法は考え中?」

「まぁ、そうだね」


 空中回廊よりも視界に占める面積は少ないのがロープウェイの特徴だ。しかし、空中回廊とは規模が違い過ぎて、細いロープが逆に鬱陶しく感じる可能性は否定できない。

 ロープの張り直しもできるし、近隣住民の了解が得られなかった場合を考えていくつかの路線を計画書に記載してもいる。

 第一案から第二案、第三案と下っていくごとに迂回ルートで距離が延長されるため、経費がかさんでしまうけど。


「住民の了解であれば、こちらで取りつけましょう」


 そう口を挟んできた創始者さんは町の一点を指し示す。


「これからこの町の重要な産業となる染色に必須となる事を説明すれば、住民了解を得るのはたやすいですから」

「そうなんですか? 町の住民全員が染色に携わるわけでもないでしょう?」

「町の利益の多くは住民全てに還元する。この方針で運営してきた実績と信用があるのです。他の町がどうかはわからないけれども、儂はこの方針のおかげで住民からの信用を勝ち得ていると思う。まぁ、見ていなさい」


 創始者さんは俺の肩を叩いて、町の住民を集めているという公民館へ足を向けた。

 その背中はとても自信満々で、立派に見えた。

 大通りを進み、この町の公民館である青いマンサード屋根とつる植物を象った美麗な窓格子が特徴的な建物に入る。

 二階建てらしい事は外から見て分かったが、一階部分の天井は高めになっていた。理由は俺たちが通された講堂にあった。

 すり鉢状に設けられた座席群と、すり鉢底辺の演壇。その後ろには大きな町の地図がある。必要に応じて天井から布を垂らし、議題に沿った資料の提示が行えるように設計されているようだ。

 いまは俺が提案した再開発計画の資料が布に貼り付けられ、天井から下げられていた。


「君たちはそこで待っていなさい。儂からみなへ先に説明しよう」


 町の創始者は俺とリシェイに舞台袖で待つように言って、演壇へ上がって行く。

 緩やかな、落ち着き払った動作で演壇に立った町の創始者はすり鉢状の座席に座る聴衆を見回す。総勢七十名はいるだろう。この町がまだ小さな村だった頃から住み、創始者と苦楽を共にしてきた古参一族の代表者だ。


「――会議を執り行う」


 厳かな声で創始者が宣言する。それだけで、講堂内の空気が心地よい緊張に支配された。創始者と古参の面々が互いの信頼の下に醸成する緊張感だ。


「すでに聞いている者もいるだろう。町の再開発についてだ。再開発の要旨は渋滞の解消とこの町の基幹産業へ育てる事で決定されている染色事業の安定した発展に不可欠な水の供給。本件はヨーインズリーによって行われた建橋家資格取得試験において最終課題として提出された計画書の中から最優秀と判断した物に沿って行われる。その計画書こそが皆の前に掲げられている布に張り出されている、これだ」


 創始者が演壇の後ろにある布に張られた計画書を手で示す。


「機能美のある良い計画書だと儂は考えている。改善すべき点にもすべて解決策が示されており、発展自由度も極めて高い。それは本案が空中回廊ではなくロープウェイによる水の運搬経路を提案しているためだ。しかし、張られたロープが景観を損ねる可能性について指摘されている。また、通りの幅を広げることによる現在の住居の建て替えや移設が必要となっている。そこで、住民各位の了解を取り付ける必要がある」


 創始者は言葉を区切って講堂内を見回した。


「議題は三つ。一つ、本再開発計画の可否について。否とあらば理由を述べてもらう。二つ、ロープの展張の可否を判断してもらう。三つ、住居の建て替えと移設に関して君たちの意見を求む。発言者は挙手を」


 創始者が良く通る声で挙手を促すと、数人が手を挙げた。

 創始者は老若男女の区別なく、講堂の右端から順に発言者に許可を与えていく。

 右端にいた初老の女性が静かに席を立ち、発言する。


「議題の三、住居の建て替えと移設に関して発言いたします。第三区十字路に面する住居に住む一家は現在妊婦がおります。悪阻もあり、環境の変化や工事の音で影響が出る可能性がございますので、第三区に関しての再開発は工事時期を後半に回していただきたく思います」

「そうか。二人目ができたのか。めでたいな」


 創始者が笑うと古参達から暖かな笑い声が聞こえ、すぐに元の緊張を取り戻す。


「第三区の工事時期を後に回すこと、了解した。次の発言者」


 創始者が水を向けると、二百歳ほどの比較的若い男が立ち上がる。おそらくは一族代表として出席しているのだろう。


「議題の二、ロープの展張の可否に関して質問いたします。落下時の対策についてはどうなっているのでしょうか?」

「ロープの落下に関しては被害が出ないように展張経路を選定している。ロープウェイに使用する木籠の落下に関しては仮設の落下防止ネットで対応する。この落下防止ネットはロープウェイを稼働する朝方にその都度張るため、景観を損ねる要素としては考慮しなくてよいと判断している」

「納得いたしました。議題をロープウェイの設営ではなくロープの展張としたのは、日中はロープウェイを稼働しないためですね?」

「その通りだ」

「納得いたしました。では、ロープの展張に賛成いたします」


 若い男は最後に賛成を表明して静かに着席した。

 その後も司会者であり責任者でもある創始者へ質問し、議題について煮詰めていく。わき道にそれる事もなく、丁寧な会議風景だった。

 意見が出尽くしたところで、創始者が三つの議題について決定を下す。


「議題の一、再開発計画は可決。議題の二、ロープの位置は変更なし。議題の三、住居の建て替えと移設については一部変更有り。会議を終了とする。みな、ご苦労だった」


 創始者が閉会を宣言する。

 俺は服の袖を引っ張られてリシェイを振り返った。


「出番がなかったわね」

「みたいだな。これが信用のなせる業なんだろう」


 これから村を作る身として、参考にさせて頂こう。




 町の工事は計画通りに滞りなく進めることができた。

 職人たちが気心の知れた木籠の工務店などから派遣されていた事も大きい。

 建物をあらかた建て終えて、ついにロープウェイの整備を始める段階に至る。


「木籠の工務店ってロープウェイの設営もできるんですか?」

「何度もやってる。木籠の工務店だぞ。橋の建設前に渡したりするロープウェイが店名の由来だ。まぁ、町中に設営するのは初めてだが」


 木籠の工務店の店長さんと話しつつ、ロープウェイの設営風景を眺める。

 俺も事前におさらいしてきたが、実際に設営するのは初めてだ。

 バードイータースパイダーと呼ばれる巨大な蜘蛛の巣をばらして得られた糸を撚り合わせて作った丈夫で太いロープを渡し、そこに人や物が乗るための木籠を設置する。

 木籠はメルミーが作った物だ。仕事に特徴がないだとか平凡だとか言われるメルミーだが、俺の設計に合わせて町の景観を極力損ねないように木籠をデザインしてくれた。空飛ぶ小船といった風情の木籠は誰でも思いつく発想ながら丁寧な仕事ぶりがうかがえる。

 木籠の工務店の店長さんが眉を顰める。


「相変わらず、特徴のないつまらん仕事になっちまってるな」

「そうですかね。確かに個性はないですけど技術的には高い水準ですよ」

「技術なんてのは仕事を続けてれば身に付くもんだ。職人ならもう一歩、これが俺の仕事だって胸張って並べられるような特徴がないと大成できねぇよ」

「娘さんには相変わらず厳しいですね」

「血が繋がってねぇんだ。技術くらい繋げてぇだろうがよ」


 そう言えば、メルミーは孤児院から引き取ったって言ってたな。

 ロープウェイの試運転を始めているメルミー達を見ていた店長が不意に俺に視線を向けた。


「アマネ、村を作るってのは本当か?」

「今日明日って話ではないですけど、作るつもりです」


 答えると、店長さんは腕を組んでしばし考えた後、メルミーを指差す。


「メルミーを連れてっちゃくれないか。村に職人の一人もいないんじゃまともに家も建てられねぇだろ」

「良いんですか?」

「メルミーの仕事を評価してくれる奴に付いてった方が職人としても幸せだろう」

「そう言うもんですかね」

「そう言うもんだ。あ、女として幸せにするってんならきっちり挨拶に来いよ」


 結婚する気はいまのところないなぁ。

 建橋家としての仕事も始まったばかりだし、あと百年は独身のまま仕事に打ち込んでいたい。

 百年という数字が自然と出てくるあたり、俺もこの世界の価値観に染まってきたらしい。

 ロープウェイが正常に動作するのを確認していると、町の創始者さんがやってきた。


「アマネ君宛てにヨーインズリーから手紙が届いているよ」

「ありがとうございます」


 ヨーインズリーからの手紙か。特に予定とかなかったはずだけど、新しく依頼でも入ったのだろうか。

 最年少建橋家という真新しさで話題にはなったが、経験の浅さも同時に広まっているため俺を名指しで依頼してくる人はいままでいなかった。

 この町での実績が広まれば少しは依頼も舞い込むかとは思うのだが、いましばらくは魔虫狩人をしていよう、そう思っていたのだ。


「どれどれ」


 手紙の封を切って中身を読む。

 内容は、ヨーインズリー主催のデザイン大会への招待だった。建築家、建橋家の双方を対象とした大会らしい。


「おぉ……」


 大会の最優秀賞の賞品を見て、思わず声を漏らす。

 最優秀賞の賞品はデザインした村を実際に起こす際にヨーインズリーから補助金が出るというものだった。


「リシェイ、ちょっとこれ見てくれ」


 右手を振ってリシェイを呼び、手紙を見せる。

 リシェイは碧眼を見開いた。


「参加するのは当然として、開催期間を考えるとここから直接向かう必要があるわね。旅費はどうしようかしら?」

「この町開発で得た利益を使えば問題ないだろう」

「まぁ、ね。帰って仕事がなかったら魔虫狩り決定だけど」


 事務所の会計役であるリシェイが言うならそうなんでしょう。俺の頭の中の帳簿も同じことを言ってるし。

 今回の町開発は建橋家試験の最終試験も兼ねたものだったため、扱いとしてはヨーインズリーからの派遣になる。あまり利益が出る仕事ではないのだ。

 甲斐性がなくて泣ける話である。

 もっとも、村を作るための資金として積み立てている資金もあるため、一概に貧乏とも言えなかったりする。

 俺たちの話を聞いていた創始者さんがロープウェイの完成を見届けて俺を見る。


「では、町の開発も済みましたし、書類を交わしてすぐに会場へ向かうと良いでしょう。コヨウ車も回しますよ」

「慌ただしくてすみません」

「アマネ君が働き者なのは知ってるからね。応援してるよ」


 創始者さんに快く見送られて、俺たちは町を後にした。



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― 新着の感想 ―
雇用される子羊ーーコヨウ、、? こんな感じに主人公が最強じゃない(というか現地の人の頭がいい)バランス感覚すごいすき。 結局こう言うふうにできるのが自分の建築関係の知識にある程度自信があるからなんだ…
[一言] 落下対策ネット張らずに動かす現場猫が発生しそうだなぁ…
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