ストロングとウィーク
ストロングは『強い』という意味です。
少女のツンでデレなやり取りを終えて、少年は照れながらも少女に指示をした。
「え、えっと……お前は引き戸を開ける準備を頼むな……? 俺は奴が入ってきた時の為に反対側で身構えておくからさ?」
『ぅ、ぅん……。あんたが危なかったら、後ろから援護するから……。』
「逆にお前が危なかったら、俺が助けてやるからな?」
『当たり前……でしょ……。助けてよね……?』
ツンデレ全開の少女に少年は内心悶えていた。しかし、長く悶えている暇もなかったので、深呼吸して落ち着く事にした。
「よ、よしっ! じゃぁ、行くぞ?」
唯一、1本残っていた木製バットを大きく振りかぶる態勢で待ち構える。
『開けるよ……? 居ても居なくても……振りかぶってよね……?』
引き戸を開ける準備は整った少女は不安そうに最終確認をする。
「まかせろ! じゃぁ、開けてくれ……」
『わかったわ……』
少女はつっかえ棒を外すと2人で掛け声を掛け合った。
「『ぃち……に……の……さんっ!!』」
無意識に2人の息は合っていた。その意識をしていた訳ではなかった。
そして、掛け声と同時に引き戸が開き、思いっきり、力を込めた木製バットを振りかぶった。
……バキッ!
引き戸の前には誰も居なくて、空振りしたバットは倉庫の出入り口にぶち当たり、木製バットが折れて、持ち手以外がそのまま倉庫の外へ水平に飛んでいってしまった。
「痛っつぅう……! なんだよ……? 誰もいないのかよ……。くぁああっ! しっびれたぁああ!」
『だ、大丈夫……? 怪我はなさそうだから、良かったけど……。出入り口が歪んじゃったわ……。』
かなり強い力で振りかぶったので、木製のバットにも関わらず、鉄を大きく歪ませていた。
「あ~ぁ……唯一の木製バットも折れちゃったし、使い道がなくなっちまったよ……」
『あんたが心配するとこはそこなのね……。そうじゃないでしょ! 引き戸の出入り口がすごく歪んでるのよ!? これじゃ、また逃げ込んでも……閉める事ができないわ……』
少女は悲しそうな顔で俯く。しかし、少年が言い放った前向きな一言で少女の心が揺らいだ。
「お前、またここに逃げ込むつもりだったのか? ここを出たら、門まで突っ切るって言っただろ!? いきなり諦めてんじゃねぇぞ!?」
『ふぇっ……!? ぁっ……ぅ……ぅん……。ごめん……。逃げ場がなくなって、弱気になってた……』
「よしよし、お前は俺が守るって、約束したからな。少し弱いところを出しても大丈夫だぞ?」
『ぅ、ぅん……。あんたになら………………相談できそう……』
少女は最後に聞こえない程度に呟いた。
「んっ? 何か言ったか?」
『な、何でもない……!? は、早く行くわよ!』
「あ、あぁ……? わかったぜ……」
少年は分からないまま、少女と一緒に出入り口を出た。
そして、原動機を持った何者かは、先ほどの折れて吹っ飛んできた木製バットを顔面にもろで喰らった為、気絶していたが、少年と少女はその事を知る由もなかった。
ウィークですが「週」ではなく『弱い』という意味です。