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月夜のピカリ

 原動機の音が倉庫の扉の入口まで来たのが、察さなくとも2人はすぐにわかった。

 いつ扉を蹴破られても、もうおかしくない状況の中、少女は恐怖で物凄い身震いしていた。その震えが少女の背中にあるバレーボールを入れる金属カゴをガタガタと揺らしていた。

「ばっ、お前! 音が出てるだろっ!」

『ご……ごめ……なさい……』


 少年はその涙目の少女の顔を見て、勢いで抱き締めてしまった。

「あっ、わ、悪い……」

 少年は慌てて、少女から離れた。しかし、少女も決して、否定せず、安心した様に答えた。

『うぅん……ありがとう……。ちょっと嬉しかった……かも……』

 少女は少し照れた様子であった。身震いもおさまり、安著の様子が伺える。



 しかし、先ほどの金属カゴの音が聞こえた様で扉を開けようとする音が聞こえたが、事前につっかえ棒で扉を押さえていた為、そう簡単には開かなかった。

 すると、原動機の音が徐々に離れてった。奴がこの場から離れたのだろう。しかし、油断すると開けた瞬間に襲われる可能性があるかも知れないと思った少年は敢えて、この場に止まる事を選んだ。

『なんで外に出ないの……? 今なら門に向かう事も出来るのに……?』

「んじゃぁ、今そこのつっかえ棒外して、外に出るか? 俺はごめんだね……。そこを開けて、目の前に奴がいたとしたら……。それだけでもうゾッとする……」

『うっ……確かにそうだね……』

 そうして、2人は一致団結し、その場に止まる事に決めたのだった。


「なぁ、ところでさ……」

 突然、少年が少女に問いかける。

「今日って、何日だ……?」

 とても、唐突な質問だった。しかし――

『今日? そんなの……あれ……? 今日って何日だっけ……?』

「じ、じゃぁ、曜日くらいはわかるだろ!? 俺、今日、ほぼ寝てたから、日付も曜日もカレンダーも見てねぇんだよ……」

『男子ってだいたいそうよねぇ』

 少女は小馬鹿にする様にクスリと笑った。

「い、良いから言ってくれよ! お前は起きてたんだろ!? 女子は頼りになるし、しっかりしてるからなぁ~。絶対、見てないなんて事はないよな~?」

『ちょっと! 人にプレッシャー与えないでくれる!? ちゃんと見てるわよ! え~と……』

 彼女は考える様に黙り込んだ。

「お、おい? まさか……覚えてないなんて事は……ないよな……?」

 不安そうに少女へ問いかける。

『う、うるさいわね! ちゃんとわかってるわよ……ゎかって……』

 少女の声が徐々に小さくなり、不安の表情を浮かべているのに、彼は気付いた。

「だ、大丈夫か……? おい……?」

 少年の問いかけに反応して、少女はゆっくりと少年の方を向き、不安と恐怖の眼差しで言った。



『……日にちと曜日が……わからない』



 その日の夜……

 倉庫の細い隙間から入ってくる月夜の光が不安と恐怖の表情を浮かべている少女の顔を照らしていた。


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