表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウワサの日常ジジョウ!  作者: 影林月菜
第5章~まさかの家庭訪問! 晴汰の苦労の日々の事情! これ大丈夫…?~
14/29

事情13 晴汰と朝食の出来事

 次の朝。俺が階段から降りた後、真っ先に洗面所へ向かった。よく見ると、寝癖はいつもより酷く鳥の巣のようだ。その上宿題のせいで夜更かしをしたためつい大きな欠伸(あくび)をしてしまった。

 「晴汰、昨日遅くまで起きてたの?」

 真希姉貴は俺が階段から降りた後にちらっと振り向いたが、すぐに視線を外しておかずを弁当箱に詰めた。

 「何でもねーよ」

 俺の発言で辺りは一瞬だが凍りついた。場を見回すと、同じく真希姉貴と朝食の準備をしている亜希姉貴と和室で登校準備に取り掛かっている優汰が冷たい目で見ていた。と言うより亜希姉貴は睨みつけていると言った方が正しいだろう。

 やべっ、昨日の夜の会議で暴言は禁止されてるんだっけな、ここで…。すっかり忘れっちまったよ。真希姉貴は?俺のことどう思っt…。よかったー!見てねぇ!

 俺が真希姉貴の様子を確認したところで、軽く咳払いをしてから言い直した。

 「あっ、何でもね…じゃなくて何でもないよ」

 「…そう。ならいいけど」

 真希姉貴は俺に見向きもせず全員分の目玉焼きを作り上げた。

 「紗希ー、健汰ー、真里さーん、ご飯だってよー」

 状況を察した優汰が和室の出入り口から叫んだ。それに反応した真里兄さんと健汰が洗面所から現れた。

 「真希ママー、今日のご飯はー?」

 健汰が早速席に着いてまだかまだかと待ちわびている。

 「今日は目玉焼き。夕食のメニューはまだ決まってなくて」

 「大変だったよ真希、紗希ちゃんが俺の言うこと聞いてくれなくてさ…」

 それを聞いた真希姉貴はやれやれとため息をついた。

 「はぁ…、またか。紗希は今度何の()(まま)言ってたの?」

 「また?」

 「うん。紗希はいつもっていうわけじゃないけど、寝起きとかはうるさくなることがあってね…」

 「なるほど。さっき『顔を洗って』って言ったら紗希ちゃんが嫌々言っててね…」

 俺はちらっと廊下を覗くと、ちょうどその時に紗希がむすっとした様子でこちらに歩いて来た。

 「真希姉貴ー、紗希も来たぞ」

 「晴汰、そこにつっ立ってないで麦茶注いで!」

 紗希が来たことを知らせただけなのに何でか怒られた。まぁ無理はない。平日の朝(と言っても祝日は別であるが)は大抵このようにバタバタしている。早朝は5時頃に起こされては『洗濯物干すから寝間着脱げ』だの『宿題終わってないなら今やれ』だのと結構うるさい。正直言ってこの生活リズムを改善して欲しい。俺だってもうちょっと寝たい(とか言ってるけど実際は布団で寝間着を脱いだ後私服に着替えてから二度寝をしている)。

 「では皆揃ったところで、いただきます」

 「ねぇ、今日の夕食どうすんの?食材は?」

 俺が味噌汁に手を付けようとした時、亜希姉貴が口を開いた。

 このように、朝食の時間は食べながら夕食のメニューを決めるのが我が家のルールである。ただ、ここは貧乏なのでいちいち弟妹のリクエストばかり応えるわけにもいかない。その場合は真希姉貴があらかじめ冷蔵庫の中身を確認してから俺達に報告する。それからリクエストを聞いて出来る限りの食材で夕食を作ることになってる。こんなルールが始まったのは多分俺の祖母ちゃんが死んでからだったような気がする。

 そう言えば今日の夕食メニュー決めるの誰だったけ。

 「う~ん…。今日は人参、豆腐、さやえんどう、卵、小松菜、あと昨日の残り物かな」

 真希姉貴はメモを片手にご飯を箸で摘まんだ。これだけ聞けば俺達の生活がどれだけ酷く貧乏であることかお分かりだろうか。

 「紗希、ステーキがいいんだけど」

 待て待て!流石にそれは無理だ!肉なんて一言も言ってなかったぞ!しかも何でちょっと高級のやつをチョイスするんだ!

 「何言ってんの紗希。あと今日メニュー決めるのは紗希じゃなくて健汰だよ」

 ぴしゃりと言い放った優汰に対して紗希はまた機嫌を損ねた。

 優汰(お前)そんな冷たい目で言わなくてもいいんじゃないか…?しかしよく覚えていたな、健汰が担当だなんて。

 「やだやだ!!ステーキったらステーキなの!紗希の言うこと聞けよ!」

 「紗希!朝から騒がない!昨日メニュー決めたからいいじゃん!また来週好きなおかず聞いてあげるから!」

 始まった、紗希の我が侭が。しかも真希姉貴もうるせーよ。

 真希姉貴と紗希が起こした争いのせいでいい意味で賑やか、悪い意味で迷惑の状態へと変化してしまった。いつもは俺が仲裁をするはずだが、汚い言葉遣いを禁止されている今止めても何も変わらないと判断し、しばらくスルーすることにした。

 「ほらほら、真希落ち着いて…紗希ちゃんも!」

 誰も止めないので真里兄さんが仲裁に入った。状況を察した真希は我に返り、ずっと握りしめていた箸を置いて麦茶を飲み干した。対して紗希は黙って目玉焼きの白身の部分を口に運んだ。

 とりあえずは酷くならずに済んだが、この沈黙は何なんだ。朝はいつも喧嘩をしていても賑やかで黙る日なんて滅多になかった。今日に限ってこのどんよりとした重い空気の中で過ごさなきゃいけないのか。いくら何でも俺はこの中で耐えるのはきつい。

 時間をちらっと見ると、7時15分。登校の時間までにはあと15分しかなかった。しかも今日は俺が日直の日だということを今思い出した上に、支度をしたい。頭の中では今そのことしか考えることしか出来なかった。

 「…僕、ハンバーグが食べたい…」

 こんな空気の中で健汰がぼそっと呟いた。

 「そうか…。豆腐ハンバーグなら作れそうかもしれないわ」

 食材を記憶していた亜希姉貴が食器を片付けながら席を外した。

 健汰と亜希姉貴のお陰で少しずつであるが、場の空気が和んでいった。ひとまず安心した俺は残っているおかずを一つ残らず食べ終えた。それから急いで登校準備に取り掛かった。

 「いや~、さっきのはヒヤヒヤしたぜ。全く紗希は何を考えているんだかな~。我が侭もいいとこだぜ」

 すると誰かが俺の方に手を置いた。振り返って見ると優汰が俺の顔を近付けて冷たい視線で瞳を覗き込んだ。

 「…わかった、わかったよ!そんな目で俺を見んじゃね…見ないでくれ…」

 危うく言葉遣いを間違えるとこだった。

 昨夜の会議のせいで優汰は余計に良い仕事をするようになった、と薄々思った。

 時間を見れば7時半を回っていた。支度を終えた俺は入学してからずっと背負い続けている青のランドセルを右肩に掛け、颯爽と玄関を飛び出した。

 「行ってきまーす!」

 「待ちなさい晴汰!忘れ物確認は!?」

 真希姉貴がすぐに俺を呼び寄せた。仕方なく外玄関まで戻ることにした。

 こっちは急いでるってゆーのに!

 「そんなのね…じゃなくてないぞ!ちゃんと確認したし!」

 「じゃあこれは?」

 真希姉貴の後ろからリコーダーを出した。ふと思えば昨日の夕方に課題である「マイ・ボニー」という曲の練習をしていたんだったっけ。けど幸い今日は音楽の授業はないので持参する必要はないのだ。

 「それはいらない!とにかく俺はもう行くから!優汰!早く行こうぜ!」

 真希姉貴の忠告を無視した俺は一目散に小学校へと走り出した。家門を抜け出してからわずか5秒程、緑のランドセルを背負った優汰が俺の後を追いかけてくる。

 「ちょっと…早い…よ…待って…」

 微かに聞こえた優汰の声には耳も貸さず、そのまま走った。正直に言うと、昨夜からの俺はストレスが溜まってて機嫌が悪い。

 早く今日のことを友に愚痴りたい。イライラを1秒でも早く晴らしたい。

 そう思いながら学校へと向かった。



 家を出てから20分。俺と優汰は入学してからずっと通い続けている水蓮寺小学校(すいれんじしょうがっこう)に到着した。

 水蓮寺小学校は全校児童約360人弱と水蓮寺市内の小学校の中では恐らく一番少ない方だが、開校してから66年くらいは経っていてやや古めである。

 これと言った特徴はあまり無いが、強いて言えばグラウンドが他の小学校より広いと言うところだろうか。グラウンドには真希姉貴が在学していた頃にはぐるぐる滑り台やジャングルジム、運低などと遊具は豊富であったが、卒業する頃にはほとんどの遊具が撤去されて今は鉄棒と普通の滑り台、砂場程度となって面白みがなくなっている。俺が低学年の時はまだ面白い遊具があったので、沢山外で遊んだ記憶は今でも残っている。

 校舎は中央校舎、東校舎、西校舎と別れていて、現在何回も改築されている部分もあるが昔(特に東校舎)はオンボロだった気がする。2階のベランダの手すりや柵は錆びていて剥がれ落ちている箇所が多く、中央校舎に通じる階段なんかもかなり錆び付いていた。

 西校舎は元々使われていたであろう時計が既に動かなくなっている。これは真希姉貴が入学したときはとっくに使われておらず、時間はずっと5時10分を差したままである。

 学校の風景の説明はさておき、俺は優汰と別れて西校舎へと入って行った。靴は左右逆になっているにも関わらず下駄箱にしまい、3階にある6年1組の教室に駆け込んだ。時間を見れば7時55分を回っていた。

 「よう晴汰、今日は早くねーか?」

 黒板前に立っている少々肥満型の男子が俺に話しかけてきた。

 「よう諏訪(すわ)。何書いてんだ?」

 片手に白チョークを持っているこの男、諏訪洸介(すわこうすけ)は俺が4年生からの長い付き合いで良き理解者である。坊主頭をしていて、身長は俺より低めだがこの年で言うと平均くらいである。学力はなかなか良い成績を誇っており、毎回試験で世話になっている程である。

 そんな諏訪が思い出しているように説明し始めた。

 「今日の2時間目に図工があっただろ?それが山下(やました)先生突然の体調不良で来れなくなったんだってよ」

 「へぇ~…。あの山下先生が?」

 山下先生とは隣の教室である6年2組の担任教師であり、主に図工や体育などを得意とするやや熱血系の男性教師だ。ここの学校に来て4年なり、これまでに休んだことのないのは当たり前だと思っていた。が、今日に限って体調不良とは珍しいことである。

 「うん。何でも虫垂炎じゃないかって一部は噂になってるみたいだぜ?」

 「そうなんだ。んで、その2時間目はどうすんの?」

 「慶野(けいの)先生によると図工は潰れて音楽がこの前休んだ分になるんだってさ」

 その言葉を聞いて一瞬背中が凍りつき、顔色は徐々に青ざめた。

 まさかまさか…。有り得ねえよな…?

 「ちなみに月曜にやった課題のテストの続きをやるってよ」

 最悪だー!何てこった!リコーダー家に忘れてきちまったよ!あんなに練習したのに…全て水の泡かよ!

 俺が絶望するのには死亡グラフが立つということだ。何が言いたいかというと、俺の担任教師である慶野先生は忘れ物をした、寝坊等の理由で遅刻をした、先生にちょっかいを出すなどの行為を表すととても切れる。要は短気である。その行為をした人は先生が出す課題をこなすことが出来れば許すという条件が多いが、酷い場合は廊下に立たされる始末である。

 何でこの時に限って俺の担任教師がヒステリックババアなんだ!

 「マキシマムサンダーうる晴汰」

 ちょうど教室から入って来た男子が俺に声をか掛けて来た。

 「うっせーな何だよ!てかその名で呼ぶんじゃねーよ!」

 「悪ぃ悪ぃ、弟が来てんぞ」

 優汰が?一体何の用だ?

 教室の外を出てみると、優汰が息を切らしながら膝を抱えていた。

 「どうした優汰?」

 「これ…はぁはぁ…真希姉に頼まれて…ゴホッゴホッ…」

 差し出したのは間違いなく俺のリコーダーだ。俺が知らない間、真希姉貴が優汰に渡したんだな。

 「おう、ちょうどよかったぜ。2時間目音楽に変わっちまってな~」

 すると優汰が冷たい目で見始めていた。

 「ここではいいけど、家ではその言葉はやめなよ」

 今度は弟に説教された。ここでも叱られる始末かよ。

 「何何~?何の話だ~?おっ、ゆーちゃんじゃーん」

 教室からさりげなく諏訪がニヤニヤしながら現われた。どうやら俺らの会話を盗み聞きしていたらしい。

 余談だが、諏訪と優汰の仲はいろんな意味で呆れる程良くお互いに『コウさん』、『ゆーちゃん』と呼び合っている。

 「あっ、どうも」

 諏訪に気付いた優汰は慌ててお辞儀をした。

 「お前、いつから居たんだよ…」

 「え~?さっき来たけど?」

 何て白々しい誤魔化し方だ。

 諏訪に突っ込みたいとこだったが、とりあえず止めることにした。

 「コウさん、実は昨夜にこんなことがあってd」

 「わー!優汰ご苦労さん!もう用無いなら早く教室戻れ!」

 これ以上諏訪の前で恥はかく訳にはいかない。この時俺の中には兄としてのプライドが剥き出しになっていた。

 「はいはい。今度から気をつけてよね」

 そう言って優汰はつまらなそうに教室前から立ち去った。

 俺が大きなため息をついた後に教室に戻った。

 「朝っぱらから疲れるぜ…」

 あまりの脱力さに重い体を下ろしながら席に着いた。

 「なぁ晴汰、昨日の夜何があったんだよ?」

 相変わらず諏訪のニヤケは止まらなかった。深呼吸を数回した後、仕方なく諏訪に昨日と今朝の出来事について話した。話の途中でも諏訪はニヤニヤしていたが、終わった時にはケタケタと爆笑していた。

 「笑い事じゃねーよ!家の中ではクソ辛いんだぜ!?」

 「ハハ…すまん…。いつ聞いてもお前の家族の話は面白くてよ…あぁ~腹痛ぇ~…」

 どこが面白いのか俺にはさっぱり理解出来ない。

 そこでもう笑うのはやめろと言ったが、さっき程ではないが笑いは止められなかった。すると諏訪が右手で口を押さえながら言い始めた。

 「なあ、今日暇か?」

 「あぁ…一応…」

 何故だか胸騒ぎがする。俺の鼓動がだんだんと早くなっていく。

 そこで俺は察した。嫌な予感がする。

 「学校終わったらお前の家に遊びに行っていいか?」

 やっぱり来たかー!

 「何でだよ」

 目的は何となく悟っていたが、ここはあえてはぐらかすことにした。

 「何でって、もちろんお前が家に居るときの様子を見たいだけだよ。特に兄弟と話してる時な」

 「断る」

 「あるぇ~、いいのかな~?」

 諏訪のポケットからレシートを取り出した。一体何のつもりだろうか。

 無表情からいかにも悪人顔の表情に変え、続けて言った。

 「これ、何だか分かるか?この前遊んだときに俺が奢った駄菓子代だ。確か全然お金持ってなくて俺が全額払ったはずだが、覚えているか?」

 「いや…あの…」

 「忘れたとは言わせねーよ?まだ全額150円返してねーことも。そうだ、このことお前の姉さんにチクろう。それが嫌だったら金返してもらうついでに家に遊びに行くってこともあるけど?」

 何なんだこの脅し方は…。確かに駄菓子の件は返すつもりだけど、ついでが遊びに行くって…。

 昔遊んでた時はそんなこと全然言わなかった奴なのに、いつからこんなSになったんだ?

 とりあえず拒否権はなさそうだったので、仕方なく家に誘うことにした。他に手はあったかもしれないが、考えても選択肢はなかった。約束を交わした後、ちょうど朝の会が始まる予鈴が学校中に響き渡った。

影林月菜です。5月23日~30日までの間、サブタイトルと内容を大幅に変更しました。

話の流れとしては1人のキャラの立場になって語っているような感じで、物語の流れとしてはそんなに変わりません。ただし、一部がカットされている所や新たに加わった台詞もあります。

本当に勝手ですいません。面白く読んでいただけるだけでも幸いです。

あと出来れば初投稿から読んでいる読者の皆さんは修正前後の感想を頂ければと思っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ