事情9 真希と交際疑惑
次の日。あたしと猫目君はいつものようにギリギリの時間まで学校に着き、教室の中へと入った。
すると1人の男子が2人を見て唐突に叫んだ。
「来たぞー!お似合いのカップルが来たぞー!」
その台詞のせいでクラスの男子全員と女子の一部があたし達を冷やかし始めた。2人は唖然とし、その場から1歩も動けなかった。何故なら2人が教室に入ると間もなく囲まれてしまったからである。
「なぁキャット、いつから飯野さんと付き合い始めたんだ?」
「はい?何の話か全然わかんないんだけど…」
猫目君…。丸園君の質問に対してすごく冷静だな~…。口調が柔らかいのは変わらないな…。
「真希、最近委員長と一緒に登校してるみたいだけど、いつからそんなに仲良くなったの?休み時間も帰りも一緒だし」
うあ~…墨村さんしつこい質問してくるー!「実はマジで付き合ってるんだ」なんて言ったらアウトだし、ここは誤魔化して…。
「あああ…あれはたまたまだよー!」
「キャットアイって最近学食じゃなくて弁当だよなー!それ飯野さんに作ってもらったのか?」
まてまてまて!小亘君それはダメでしょう!
完全に交際質問ラッシュ状態になり、とうとうあたしの怒りは達してしまった。
「言っとくけど、あたしと猫目君は」
「付き合ってるのは本当だよ」
猫目君の言葉で一同が静まった。
「ね…猫目…君…?」
思わず動揺し始め、頭の中が混乱してしまった。すると猫目君はあたしの肩を抱き寄せ、続けてクラス全員に説明した。
「実は俺、去年から真希が気になってね、それでつい最近かな~…告白したの。そんで真希と付き合い始めて1週間くらいかな~。その日から真希が作る弁当はすごく美味しいからいつも作ってもらってんだ」
猫目君ってばー!何ややこしいことペラペラと…!
「これで納得するだろ?」
猫目君がクラス全員にドヤ顔を見せ付けていた。が、あたしは当然納得もいかず少々イライラしていた。
「お前ら席着けー!」
担任の玉川が入って来たところで、一同は席に着き始めた。あたしは猫目君に小声で疑問をぶつけた。
「ちょっと猫目君!何であんなこと言ったの!?」
「それしか方法がなかったんだ。そこは謝る、ごめん。けど、完全に怪しまれるよりいいでしょ?俺が全部考えた嘘だから」
いやいや。一部本当のこと言ってたから。弁当あたしが作ってるのは事実だし。
あたしは渋々と理解したところで朝礼が始まった。
昼食の時間になると、あたしの元に他クラスの友達である鬼崎杏奈がやって来た。杏奈は1年時にあたしと同じクラスであり、目は小さく一重で髪は茶髪、あたしよりやや長髪のショートヘアーをしている。そんな杏奈が甘えるように昼食を誘った。
「マッキー、今日も一緒に食べよーよー」
「いつもの事だろ?言われなくても行きますよ」
あたしが弁当をバッグから出して食堂へ行こうとすると、猫目君と共に行動している梅村君がやって来た。
「飯野さん、今日俺らと食べないか?」
「俺ら?」
「ほら、キャットとか小亘、丸園とかもいるから。ちなみに拒否権はないよ?」
え~…、なんか誘われちゃったよー!猫目君と一緒に食事って…!今日に限って嫌な予感がする…。
「どうすんの?マッキー」
杏奈に問い詰められてるし!?断りたいけど…ここで逃げられないし、諦めよう…。
「…構わないよ」
今朝の尋問の続きについて質問される覚悟を決めた。食堂に移動している際、杏奈があたしに小声で話しかけてきた。
「何で梅村がいるの?チョーキモいんだけど」
またこれだ。杏奈は去年から表裏の感情がむき出しで甘ったれてるところは変わらない。
「やめなさい。聞こえちゃうから。ここで言うもんじゃないでしょう」
「だって本当の事じゃん。ムカツクんだけど」
あたしは杏奈の悪口に対して受け流したが、杏奈の不満は少々爆発していた。
「はぁ…」
あまりのくだらなさにため息をついてしまった。食堂に着くと、あたし達は席を確保した。
「飯野さんと委員長はごゆっくりどうぞ。俺らは学食注文してくるから」
丸園君達はあたしと猫目君を残して注文しに行ってしまった。
「猫目君、ずっと思ってたけど、何で梅村君達も一緒に食べることに?」
「やっぱり今朝の尋問のせいでね。梅村がさ『今朝の続きを聞かせて貰うからな。拒否権はないぜ』って言ってたから」
「マジか!?逃げなかったの?」
「そりゃ逃げたよ。でもあっさり捕まっちゃってね」
猫目君も諦めている模様である。
「うわ~…ヤバいな~…。下手したら同居してるなんてバレたらもう終わるな…」
うっかり脱力してしまった。猫目君が優しい笑顔でこう答えた。
「大丈夫だよ。事実を言わなければ何とかなるよ。真希も何とか誤魔化せば平気だよ」
あのねぇ猫目君、いい顔で言ってるけど脳内はものすごく暗いよ…。もうねダークだから。
「キャット、俺らが注文してる隙に仲良く内緒話か?」
「遼、早かったな~。今日はいつものカレー定食じゃないのか」
猫目君は返答しながら弁当箱を開けた。ちなみに遼とは、丸園君の名前である。
「カレーは飽きたからな。ハンバーグ定食にしたよ」
「マッキー、委員長と付き合ってるってガチの話!?」
日替わりランチの1つである焼き鮭定食をテーブルに置いた杏奈が早速あたしに質問した。
「話突っ込むねー…。まあそうだけど?」
対するあたしは何事も動じず弁当箱を開け始めた。
「飯野さんって何でキャットと付き合うようになったの?」
梅村君の一言で尋問が始まった。
「そうねぇ~…、やっぱ…」
出て来ねぇー!どう誤魔化そうとしても答えが見つからぬ!でも本当のこと言ったらますます話がややこしくなる…けど…!
「やっぱり何?」
丸園君が問い詰めて来た。
完全に真実を言ってしまえばもうお終いだ。けど半分くらいなら…。
「やっぱり…優しいトコとか、数学とか出来るし…」
ここで『かっこいい』なんて言ったら精神的に死ぬし、猫目君に誤解されるかも…。
「マッキーって委員長のことかっこいいと思うの?」
杏奈ー!!その質問はやめろー!
「どうなの?マッキーさん」
杏奈しつけー!答えるしかねーのかよ!
「た…確かにあたしより背は高いし、スタイルもいいし…かっこいいと思うよ」
気がつけばつい口を滑らせてしまったあたしは絶望してしまった。
終わったー!!何であたし本音言っちゃってんのー!バカじゃん!!
念のため猫目君を見たが、無表情でそのままおかずを食べていた。
え?動じない…だと…!?
「キャットって飯野さんのどこに惹かれたの?」
今度は丸園君が猫目君に質問した。
「うーんとね、すごく優しくて料理も出来るし…あと~…めちゃくちゃ可愛いとこかな?」
……!?
猫目君の答えに衝撃を受けたあたしは、あまりに言葉が出なくなってしまった。
…本音か!?それ本当に言ってんの!?それはオーバーじゃないの!?うわ~…どうリアクションすればいいのやら…。
あたし以外の皆は猫目君の答えに思わずゲラゲラと笑い始めてしまった。
「キャット!お前マジか!」
「本当だよ、小亘。俺が嘘言ってたら真希と付き合ってないし。てか落ち着いてよ…」
皆…何で猫目君のことで笑ってんの…!?
猫目君が慌てて止めようとするのに対し、あたしは周りが笑っているのを見ていられず、ついに立ち上がって憤慨してしまった。
「いい加減にして!猫目君が真剣に答えてるのに、笑うなんて酷いよ!可哀想でしょ!?」
あたしの怒りをぶつけられてしまった4人は笑うのを止めて静まった。
「あ…ごめん…。ついムキになっちゃって…アハハハ…」
我を忘れていたことに気がつき、笑い誤魔化した。
笑ってるけど、取り返しのつかないことをしちゃったかな…。
「笑って悪かったな。飯野さんってキャットのこと大切に思ってるんだな」
小亘君は焦りながらあたしに謝罪した。
「ふぇ!?そそそ…そんなことないって~…」
顔が赤らんでしまい、席に座り黙ってしまった。
「マッキー、顔赤くなってるー」
杏奈の冷やかしに反論しようとしたが、あまりの恥ずかしさに何も言えなかった。
てゆーか、この話を聞いてて今まで突っ込まなかったんだけど、内容的にガールズトークになってないか、これ。男子もいるけど雰囲気がね。
予鈴が鳴るまでしばらくは尋問は続いたという。