表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャックの勇気  作者: 結縁
1/1

プロローグ

この作品にはいじめの描写があります。苦手な方は注意してください。

―三年前―

 朝、登校すると、上靴が靴箱の中から消えていた。仕方なく、靴下のまま教室へ行く。

 座ろうとした席の机には、油性マジックで書かれた『死ね』『キモい』『消えろ』などという罵詈雑言があった。

「…」

けたけたと聞こえてくる耳障りな笑い声を無視し、そのまま席に着く。他のクラスメイトは、こちらを全く見ようとしない。

 油性のマジックで書かれた落書きを、消しゴムで消していく。落書きの薄い跡が連日次々と重なって、机の色は黒ずんできている。

 それが、いつもの朝の光景だった。いじめっ子にとっても他のクラスメイトにとっても、あろうことか自身にとっても、それが日課になってしまっていた。

 悲しくないわけではなかった。ただ、反応するといじめっ子を喜ばせるだけだということを、理解していただけだった。


―現在―

 神無月結也(カンナヅキユウヤ)は、高校一年の後期から違う高校に転入することになった。奇しくもその高校があるのは、彼が中学一年まで暮らしていた町だった。

 諸々の手続きはすでに済ませていた。今日から学校だ。余裕をもって登校し、言われていた通り職員室で担任と落ち合い、教室へ向かう。その道すがら、担任が真面目な顔で、結也に話しかけてきた。

「神無月、私のクラスには、少々変わった生徒がいる。だが、大袈裟に驚いたり、茶化したりはしないでほしい。彼女にも、事情があるんだ。」

「…はあ。分かりました。」

 前もって釘を刺しておかなければならないほど、奇妙な生徒なのだろうか。結也はむしろ、どんな変人なのだろう、とわくわくしながら教室へ向かった。

 事前に担任から話を聞いていたのだろう。担任と結也が教室に入ると、立って喋ったり遊んだりしていた生徒たちが、すっと席に着いた

「今日からこのクラスの一員になる、神無月結也くんだ。中学一年生の時までは、この近くのM中学校に通っていたから、知り合いだというやつもいるかもしれないな。じゃあ、神無月、一言」

担任にそう言われるも、結也はぽかんと、教室の一角を見て固まっていた。

 そこにいたのは、ハロウィンによく見る、顔つきカボチャの巨大な張りぼてを被った、女子生徒だった。

「…神無月?」

「…え…っああ、えっと」

 あまりの衝撃に、自己紹介の間も、結也は上の空だった。席に着いてからも、ついつい目がいってしまう。

 我慢できず、休み時間、話しかけてくれたクラスメイトに訊いてみた。クラスメイトは親切にも、気さくに答えてくれた。

「ああ、ジャックのこと?」

「ジャック?」

張りぼてを被っているのは、どこからどう見ても―といっても、顔は全く見えないが―女子生徒だ。ジャックというのは、あだ名でも珍しい。

「おう、あだ名だよ、ジャック。あいつ、入学式もあれで来てたよ。…何か事情があるんだろうけど。」

「入学式も、って…」

絶句し、ちらりとジャックの方へ目をやると、カボチャの黒い目がこちらを見ていて、結也は慌てて目をそらす。

「ま、普通に喋るし、面白い奴だよ、あいつ。仲良くしてくれな。」

 そう言われてしまっては、あからさまに避けるわけにもいかない。

 好奇心も手伝い、結也は次の休み時間に、ジャックの席に近づいた。

「ジャック…だっけ。俺、転校生の神無月。よろしくね。」

ぐるりとこちらを向いたカボチャだったが、

「うん、よろしく」

と言った声は普通の女子で、その奇妙なギャップが、さらに不気味だった。

                       ☆

 放課後、様々な部活を見学した結也が、帰ろうとした時だった。屋上に、人影が見えた。

 大きなオレンジ色の頭で、すぐに分かった。ジャックだ。

―何してんだろ?

 屋上、という場所に一抹の不安を感じるが、ジャックが何かをしようとしている気配もない。やや気にかかったが、あの不気味なカボチャ頭に下から叫ぶ気にもなれず、かといってわざわざ屋上まで行く気にもなれなかった結也は、そのまま帰路についた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ