プロローグ
全8話の小話です。
「真緒。平気そうか?」
――電話ってなんて素晴らしいんだろう――と、ここ最近何度思ったことだろう。
例え距離が離れていたとしても、息遣いまで聞こえるとすぐ近くに居るような錯覚を覚える。
もちろん今はテレビ電話なんてものもあるから、顔を見ながら話すことは出来るんだけど。
通話料もバカにならないしね。
それに、テレビの画面越しに顔が見えるのも確かにいいとは思うけど、目を粒って話をしている方が、すぐ横に居てくれるような錯覚が起きるのは…私だけなのかな?
「ん〜微妙…かな。そっちは?」
「俺の方も…微妙だな…」
そろそろ昴と会えなくなってからひと月近く経つ。
事の経緯は簡単。
会社命令で、昴が出張中だからだ。
どちらかというと付き合ってからずっと出張が言い渡されなかったのが不思議なくらい、ウチの会社は出張が多い。
昴の部署の人間なら三月に一度は出張が言い渡されるのが普通だが、本社の手が足りなかったという理由で昴まで外に出すことが出来なかったらしい。
パリっとしたスーツの似合う見た目通りで、仕事もバリバリこなすから聞くところによるとかなり重宝されてるらしい。
どんな時でもカッコいいけど、スーツ着るといつもより三割増ぐらいでカッコよく見えるもんだから、会社でもかなり人気がある。
もちろん社内恋愛禁止だからか猛烈なアタックを掛ける人などはいないけれど。
それでも付き合い始めは誰かが昴の事狙ってるらしいって聞くだけで気が気じゃなかった。
今ではそんな事ないけどさ。
「今年は諦めるしかないかぁ〜」
ちなみに。
今話しているのはクリスマスを二人で過ごせるかどうかって話。
で。
18日の時点で昴は出張が長引きそうだっていうし、私は私で年末に掛けて仕事多過ぎて手が回らず、残業続きな訳で…。
とてもじゃないけど、出張先に会いに行けるような状態ではない。
付き合い始めたのが年始の1月5日だから、実はまだ二人でクリスマスを迎えたことは無い。
付き合った時から『今年のクリスマスは一緒に』って言ってたから、かなり残念なことではあるけど…。
「ん〜無理すれば時間あけられそうだから…どうにか時間空けて帰ろうか?」
どうやら昴も同じ気持ちで居てくれるみたいで、それがすごくうれしい。
自然ににやけてしまう顔は…昴には見えてないから…まぁいっかw
会いたいのは確かだけど…でも。
「無理しなくていいよ〜。昴のことだから今も無理してるんでしょ?
声疲れてるしさ。時間空けられるなら休んだ方が絶対いいってっ!
クリスマスなんて毎年毎年くるんだし…ね?」
『強がり』。
以外の何者でもないけど。
それでもやっぱり。
無理して身体壊されるよりは…と思ってしまう。
ふと思い出す。
元彼とはこれが原因で別れたんだっけ。
こうとると物分りがいいように思えるらしく、『俺の事本気じゃないんだよ』って。
最後に言ってたっけ。
あれが…クリスマスのひと月ぐらい前だから、11月後半ぐらいだったかなぁ。
「いいのか?あんなに楽しみにしてたのに…」
「よく…は無いけど…でも、仕事だし。…わがまま言うほど子供じゃないよ」
仕事だといわれて「はい、そうですか」といえるほど大人でもないけど…。
いつまでも駄々をこねてしまうほど子供でもない。
先々月に私が風邪を罹患した時。
そばに居てほしくて、仕事だとわかっていても部屋から出て行く彼を見るのが嫌で。
仕事に出て行こうとする彼の手を握りながら、『行かないで』と言った事があった。
もちろん我侭だとは解っていたし、仕事があるから無理だろうということも解ってはいた。
でも、それを聞いた彼はすぐに会社に電話をし休む旨を伝え、休暇をとった。
あの時は…さすがにビックリした。
愛されているんだと思う反面、もう我侭は言わないようにしようと強く思った。
そのあと3日間、仕事が溜まりに溜まっていつも終電で帰っていた彼を見ているから余計に。
学生の時は我侭いいまくっていたけれど。
今こういえるのは、きっと自分も仕事をしているからかな。
「真緒になら我侭言われても構わないのに」
「…バカw」
別にクリスマスは今年だけじゃない。
来年も、再来年もその次も、その翌年だって同じようにやってくる。
彼はそこにいる。
私のすぐ近くに。