4話
朝だ。 朝は、いつもなら清々しい気分で起きている。 だが…目覚めが悪い。
それは、昨日あの紙のせいである。 あれは、想像を絶するものだった。あれはいったいな んだったんだろう…。あれも鉄矢の言っていたひとつの 愛情表現なのだろうか?
愛情表現ってあんなのだったかな…? ちらりと、窓の外を見る。
今日もいつもどおりの光景だ。 彼女は、奏の姿は見当たらない。
俺は、ベッドから起き上がり、とりあえずいつもどお り顔を洗い歯を磨き制服に着替えリビングへと向かっ た。 リビングにはすでに朝食が並べられている。 白いご飯と味噌汁にハムエッグ、サラダだ。本当にい つもどおりの朝食だ。
「あら? 今日は早いのね?」
「ちょっと、寝付けなくって。それよりも父さんは?」
いつもなら、テーブルで新聞を読んでいる父さんの姿 が見当たらない。
「今日は仕事の都合で早めに出て行ったわ。もう、急に がさごそ音がするからびっくりしたわ」
「そうなんだ。大変だな、父さんも」
それからは、母さんと一緒に朝食を食べた。食器は、 俺が洗った。いつも母さんにばかり任せられないから な。たまには親孝行というものをしてみるのもいいだろ う。
食器を洗い終わり、濡れた手をタオルで拭いていると きだった。
ピンポーン、とインターホンが家に鳴り響いた。 こんな朝早くから誰だろう? その音に母さんがいち 早く対応した。俺は、時間を確認して、もう少しか…と 思いソファーに腰掛ける。
「息子~」
「……なんだよ、その顔は…」
何故か母さんはニヤニヤしながら、俺のことを呼んで きた。 あの顔…昨日も見たような…。
「かっわいーい、後輩ちゃんがお向かいに来ているわよ ~」
「…わかったから、その顔をやめてくれ」
溜め息をつきつつ、俺は鞄を持ち玄関のほうへと歩いていく。 にやついた母さんを無視し、玄関に立っている後輩、 桜井奏に話しかけた。
「今日も来たのか。別に毎日来なくてもいいのに。朝起 きるの大変だろう?」
「いえいえ。先輩と一緒に登校できるんですから、これ ぐらいはへっちゃらです!」
にっこりと、微笑む。 本当に俺のことをまだ好きでいるのかな? 断ったの に…。内心ではどう思っているんだろう?
「そうか…。でも、あまり無茶はしなようにな。倒れたりしたら心配するから」
「そのお心遣いでわたしは元気百倍です! でも、もし 倒れたりしたら…先輩に介抱してほしいです…えへへ」
なにを妄想しているのか、いやんいやんと顔を真っ赤 にし恥ずかしがっている。 しかし、こんな会話をいつまでも続けているわけには いかない。背後で変な目を向けている母さんから逃げる ために!
「か、奏? そろそろ学校に行こうか?」
「はっ! そ、そうですね。すみません、勝手に舞い上 がっちゃって…。それでは遅刻しないように行きましょ う」
「うん」
逃げるように俺は玄関でた。 奏はとことこと俺に続く。背後からは「いってらっ しゃ~い」という母さんの声。
あの声は楽しんでいる。まったく鉄矢といい母さんと いい…こっちは大変なんだぞ…。 とまあ、そんな辛気臭い顔をしていると心配してくれ る奏。
「どうかしましたか? なにか悩みでも?」
「あ、いや。何で無いよ。ちょっと寝不足なだけだか ら」
「そうなんですか。なにか悩みなどがあったら、わたし に相談してください。あまり力になれるかどうかはわか りませんが…それでも! 先輩のためになにかしたいん です」
「ありがとう」
心配してくれるのは嬉しい。本当の気持ちだ。 だけど、言えるはずも無い。悩みのほとんどが心配し てくれている奏本人だってことを…。
★
昼休み。それは学生にとっても社会人にとっても至福 の時間。 空腹に耐え、やっとのことでおいしい昼食を食べるこ とが出来る。俺は、今日も母さんが作ってくれた弁当を 片手に鉄矢の下へ移動した。
「鉄矢。一緒に食べようぜ」
「お、いいぞ。お前には聞きたいことが山ほどあるから な」
「実は俺もお前に聞いてほしいことがあるんだ…」
「ん? なんだよ、その見てはいけないものを見たかの ような顔は?」
まさにそのとおりです。 さすがは親友。わかっているじゃないか。俺は、向か いの席の椅子を引っ張り、席に座る。
弁当箱を開き、とりあえずはいただきます。 卵焼きをひとつ口に運び、そして口を開いた。
「…実はさぁ…昨日奏を迎えに行ったときにさぁ…」
「おぉ! さっそく俺の聞きたいことを! で! で! どうだったよ?」
興味津々で聞いてきているが、これを話したときの鉄 矢の反応が楽しみだ。 俺は話した。奏が書いたであろうあの文章を。
その話の途中から、鉄矢は焼きそばパンを食べるのを やめていた。 そして、全てを話し終わった。
「どうだ? 聞いた感想は?」
「……それは本当のことなんだよな?」
「あぁ、間違いない」
「…宗助 そうすけ 。その話が本当だったとしたら…奏ちゃんは、おそら く…」
「おそらく?」
一息ためて、鉄矢は…、