第1章 第三幕
戦闘描写が、難しいなぁ。
この話で急展開を見せます。
結局、食べ盛りの二人が豚汁だけで済むわけがないので、色々食べ歩きをしていた次第で。年上の男の意地で俺が奢っていた訳で。明日のことを考えると少し懐が寂しくなる話で。
いろいろ食べ歩いている間、美沙希と話していたりしたが今日の妙に美沙希は落ち着きが無い様子だった。
家庭科部が紅茶とお菓子を出していて、そこに座ってくつろげるスペースがあった。そこでそのことについて聞いてみることにした。
「なんか今日はそわそわしているが大丈夫か?」
「え、あ、うん大丈夫」
「ならいいけど。お前部活とかで虐められたりとかしていないよな」
「なんで?」
「いや、ぬいぐるみのこととか……」
「大丈夫だよ。みんな仲いいから、心配しないで」
「そっか」
予想通りの返答ではある。本人が大丈夫って言っているなら大丈夫か。そう信じるしかない。
「そろそろ行くか」
だいぶいい時間になった。
「うん、そうだね」
俺たちは体育館で行う、吹奏楽部のステージ発表に行くために一度、外の渡り廊下に出た。
「あ、お兄ちゃんごめんちょっと待っててトイレに行ってくる」
「おう、わかった」
俺は返答を返し、校舎に戻った美沙希を見送った。
「ふう、吹奏楽部見終わったら帰るか……」
俺は一息つき空を見上げる。
「……何だありゃ」
空に非常に大きな魔方陣のようなものが浮かび上がっていた。
「キャアアアァァァァ」
何処からか悲鳴が上がる。それもそうだ。空が急に暗くなり禍々しい雰囲気を出し始め、空に浮かんだ魔方陣からは人の姿をしているが明らかにこの世の物では無い化物が生まれ出てきたのだから。
その怪物共は、手当たり次第に学校にいる人達を襲い始める。怪物どもは獣や中世とかにいそうな兵士の姿をしている。
俺は混乱していた。当然だろう、訳のわからない怪物どもが訳のわからないところから出てきて無差別に人を襲っているのだ。
「何なんだよこれ!? 何なんだよ!?」
逃げ惑う人たちをみる限りどうやら学校の敷地の外に出ようとしても壁のようなものに阻まれて、出ることができないようだ。
怪物に対抗しようとしている人も居るがあっさり返り討ちにあっている。
俺も逃げようと思ったが、一応美沙希にここで「待ってて」と言われている。動く訳にはいかない。しかしこのままでは見つかって襲われる。とりあえず俺は近くの非常階段の影に隠れた。もっとも見つかるのは時間の問題だろう。
「いやぁ! 誰かぁ助けてぇ!」
近くで声が聞こえた。そっと声の方に目を向けると怪物に襲われる寸前の女の子がいた。
「……くそっ……」
何とかしないと。しかし、恐怖が先行して身体が動かない。
一度、目をそらすがこれであの子が殺されたら、俺は一生後悔するだろう。俺は何のために格闘技をやっていた。俺は覚悟を決めて飛び出した。
「うおおぉォォォ!」
勢い良く飛び出した俺は怪物に全体重を載せて体当たりを決める。
「ラァァっ!」
上手く決まった。怪物は吹っ飛ばされる。怪物は人型ではあるが体格が人間それとは明らかに違った。身長は2m以上あるし、筋骨隆々だった。しかしとりあえず今のところは起き上がる様子はない。
「大丈夫? 立てる? 早く逃げな」
俺は地面に座り込んだ女の子に手を貸した。
「あ、ありがとう」
女の子は逃げていった。校舎の方へ逃げていった。とりあえず校舎の中は安全が確保されているようだ。無事で良かった。
「キサマァ、ヨクモ邪魔シタナァ?」
後ろに振り返ると俺が体当たりを決めた怪物が立ち上がっており、俺を標的に変えたようだ。周りを見ると何人かの怪物もこっちを見て、近づいてきた。恐怖心を振り切るために出した大声を出したのが間違いだったようだ。
恐怖で足がすくんで動けない。声をだそうにも全身が震えてしまいどうにもならない。後退りして逃げようとしても縺れて転んでしまう。
「あ、あ……。」
「シネェ!」
怪物が手に持っていた鈍器を振り下ろす。終わった。俺はもうここで死ぬ。
佳奈、兄貴、美沙希、親父ごめん。
「よくやった、流石俺の弟だ」
「えっ!?」
目を開けると怪物はまたもふっとばされていた。そして俺の目の前に経っていたのは――。
「兄貴!?」
「おう、お前の兄貴増岡翔だ!」
「な、なんでここに!?」
「話は後だ! とりあえず今はこの魔族共を片付けさせてもらう!」
そう言って兄貴は何か囁く。
「来たれ、黄龍牙。主のもとに……」
「兄貴……何を……」
一縷の望みも断たれた。こんな時に厨二ワードを囁く男に希望なんて持てない。
しかし俺のその認識は間違っていた。兄貴は両手を前に突き出す。それと同時に兄貴の手に何処からか剣が現れた。
「さぁ、いっちょやったりますかぁ!」
兄貴はその剣を威嚇するように軽く振り回す。そして横から襲ってきた先程吹き飛ばした怪物を一太刀で真二つにする。怪物は断末魔の悲鳴をあげるが兄貴は一瞥もしない。俺はただ見ているだけだった。死体はなくただ灰のようなものが残っているだけだった。
「兄貴は、い、いったい……」
「言っただろ、『異世界に飛ばされて勇者やっていた』って」
怪物たちは兄貴の存在に戸惑っている。
「キ、キサマハナニモノダ」
「てめぇらわかんねぇか? この『五行剣』のショウ=マスオカ様をよぉ!」
怪物たちはわからないようだったが、一人、豪勢な鎧を纏った怪物どものリーダーらしき存在が前に出てきて口を開いた。
「シ、ショウ=マスオカダト……。ナゼキサマガココニ」
「何故って、この世界が俺の故郷だからさ! てめぇら旧魔王派だな? こんなところまで来やがって……。潰させてもらうぜ!」
「グヌヌ。総員イケ!」
俺は完全に置いてけぼりである。怪物どもは徒党を組んで兄貴に向かってきた。そして兄貴も楽しそうにその大群に突っ込んでいった。
怪物どもの大群は兄貴の方に向かってきている。奴らの向かう方向の延長線上には俺がいるわけで。つまり――。
「おい、兄貴どこ行くんだよ! 奴ら、こっちに向かってきていんじゃねぇかよぉ! 俺はどうすりゃいいんだよォ!」
「行くゼェェェェ!」
完全に聞いていない。やっぱり駄目だったか。
「風よ! 全てを切り裂いて!」
何処からか声が聞こえた。すると風が吹き荒れ、そのまま怪物どもが何かに斬られていった。敵に突っ込もうとしていた兄貴も一瞬止まり周りを見渡す。
「クッ。魔術師カ」
怪物どもは完全にうろたえている。
よく見ると少し離れところに、緑色のフリルのワンピースに緑のとんがり帽子の少女が杖のようなものを持っていた。あの娘がいまの風を出したのだろうか。それにしてもどこかで見たことがある娘だ。しかし、俺の頭に思い浮かんだ人物があんな格好していると思いたくない。
怪物どももその娘のことを見つける。よく周りを見るとその娘と兄貴に怪物どもが目を奪われている隙に逃げ遅れていた人達が逃げている。今のうちに俺もともと隠れていた場所に逃げよう。
隠れた場所である非常階段からそうっと、外の様子を見ると戦闘が再開していた。兄貴は一人で怪物相手に一騎当千で、あの女の子を倒そうとした怪物は彼女の杖から出す風に返り討ちにあっている。
「ガンバレ、美沙希ちゃん!」
階段の上から謎の声が聞こえる。というかあの女の子はやっぱり美沙希か。認めたくなかったが、やっぱりそうか。
とりあえず非常階段の踊り場の手摺の上から声援を送っているあの『パータ』とか言うぬいぐるみの話を聞こう。やっぱりあいつ動いている。この際、俺にこの状況を説明してくれるならなんでもいい。
俺は階段を登り、謎のぬいぐるみを捕まえた。
「おい。お前、あれは美沙希か? 美沙希なんだな?」
「うわっ、お前何すんだよ! 離せよ!」
ぬいぐるみは暴れ出す。ぬいぐるみというより小動物だな、こいつ。毛むくじゃらだから毛玉でいいか。
「俺の質問を答えるのが先だ。つうかお前なにもんだ? 只のぬいぐるみじゃねぇな?」
人間というものは、あまりに訳がわからなすぎると怒りを覚えるらしい。俺ももはや恐怖を忘れ、目の前のぬいぐるみに怒りをぶつけている。
「そ、そうだよっ! あれは美沙希ちゃんだよぉ! 美沙希ちゃんは『ソーウィム』っていう魔法使いなんだ」
わけがわからないよ。
「ぼ、僕はブラウニーなんだ、それで美沙希ちゃんの手伝いをする妖精なんだ!」
「な、なんだそりゃ? 一体全体何なんだ? 魔法使い? 妖精? 頼む日本語喋ってくれ!」
「ちゃんとわかる言葉で説明したでしょ! それよりいいの? あいつらこっち見てるけど……」
気がついたら、確かに怪物どもがこちらを見ている。それどころか兄貴も美沙希もすっかり別のところで戦闘を始めている。しかも、空にいまだ浮かんでいる魔方陣から怪物どもが逐次投入されている。あんな大声で話していれば見つかるのは当然である。
「やべっ! 逃げるぞ毛玉!」
「僕はブラウニーのパータだ!」
俺はぬいぐるみを抱え、階段を降りて逃げ出そうとした。
しかし、怪物は既にすぐ近くまで迫っていた。
「糞っ!」
怪物どもはジリジリとこっちに迫ってきている完全に退路はない。
『伏せて!』
すると今度は、上空から声が聞こえてきた。少し機械を通したような声だ。俺はその声に従い、地面に伏せた。
「ムギュッ」
あの毛玉が下敷きになったがこの際無視だ。そして上から轟音と砂塵を巻き上げ、4mほどの白い二足歩行ロボットが降りてきた。また何か変なのが増えた。
『大丈夫? ……って遼?』
白いロボットはこちらを向いて話しかけてきた。いや、それより何故俺の名前を知っているのか。しかもよく聞き慣れた声だぞ。間違いない、朝も聞いた声だ。
「お前……佳奈か……?」
『えっ……あっ……ち、チガウヨ?』
「お前、俺の名前を呼んだろ。しかも俺がお前の声を間違えるとでも? 約束すっぽかして何してんだ佳奈?」
『うう……あの……その……ごめん……説明は後でするからちょっと待ってて』
そう言って白いロボット手に持っていた薙刀で周りの怪物どもを一蹴し、怪物の集団の方へ向かって行った。
「訳わかんねぇよ……。佳奈も兄貴も美沙希も……」
腹の下で何かもぞもぞ動いている。そういえばあの毛玉を下敷きにしたままだった。そのまま毛玉は俺の脇腹から出てきた。
「そういえばお前もいたなぁ。スマン」
「ふう……ひどい目にあった……。『五行剣の勇者』に『対未確認生物用強化装甲ヴァルキュリア』それに美沙希ちゃん。この三人ならなんとかなると思うけど」
なんか聞き慣れない言葉が2つほど出てきた。
「おい毛玉! なんだその……『ゴギョウのユウシャ』? ってのと『ヴァルキュリア』」? ってのは?」
「僕はパータだ! それにできる限り説明するからとりあえず今は安全なところに逃げない?」
それもそうだ。俺は毛玉を抱え、安全そうな場所を探した。