第1章 第零幕
ここ1年半から一ヶ月前にかけて俺――増岡遼の人間関係は大きく変わった。
特にこの三人は顕著な変化を見せた。
まずは、兄貴だ。
10年以上行方不明だった兄貴がひょっこり帰ってきたのは一ヶ月前。本人は「異世界にぶっ飛ばされて、勇者になって世界を救ってた」なんて言っている。はっきりいって電波な話で俺は信じていない。本人かどうかすら疑わしかったが、俺と兄貴だけしか知らなかった思い出がある以上本人なのだろう。それでも幼い頃俺にとってヒーローだった兄貴が帰ってきたのは非常に嬉しい。
行方不明になっていた間の経歴は一切わからない。少なくとも日本に居なかったのは確からしい。今はまるで失った11年を取り戻すかのように遊んでいる。一見ニートだが、最終学歴が小卒なのだ。親父や親戚は仕方ないと思っている。俺は甘やかすつもりはないが。
お次は俺の後輩の女子中学生。只の後輩だと思ったらかなり懐かしい顔だった。
こいつは幼い頃、親父の仕事場だった病院に遊びに行ったときに出会った病弱な少女だった。彼女と再会したのは約1年半前のこと。中学の先輩後輩という形だった。
最初に出会ったとき彼女は病院のベッドの上で寂しそうに外を見ていた。当時、兄貴が失踪して一年ほど経ったころの俺に親父が遊び相手になってくれれば、と会わせてくれたのはいまだに覚えている。そのときは妹ができたようなものだった。
その娘が退院してからはすっかり会わなくなったが。そんな彼女もすっかり元気になり、去年、俺が卒業した中学でまだ中学生をやっている。いまでも俺の妹分として、いろいろ遊んだりしている。
最後に俺の幼馴染の女。
隣の家に住んでいるあいつは結局、県でも有名な私立の女子高に特待生で入学した。
特待生は寮で暮らさなきゃいけないらしいが、学校が休みならば基本的にいつでも実家に戻っても良いらしく、週末になるとよく帰ってきている。
あいつと俺は物心がついた頃から一緒にいた。兄貴は行方不明、母親は家出、親父は仕事で朝早くからいない俺にとって、毎朝起こしに来てくれていたのは有りがたかった。因みに合鍵を渡したのは親父だ。そんな幼馴染がいわゆる「イイトコ」の学校に入ったのは正直、俺も嬉しい。だが俺より成績の低かった彼女が俺の通う高校より偏差値の高い学校に入れたのは未だに謎だ。
この三人は俺の知らないところで三者三様にとんでもない秘密を抱えていた。できることならその「秘密」は「秘密」のままにして欲しかった。しかし、時間の問題だったのだろう。俺はこの二日間で起きる出来事によりその「秘密」を知ることになる。そしてその秘密とともに「今、世界中で何が起きているのか」「それにより世界はどう変わっているのか」ということも俺は教えられた。
正直、只の高校生である俺はそんなことを知らされてもどうしていいのかわからない。
ただこれだけは言える。俺は自分の取った選択に後悔はしていない。
俺は主役になんてなりたいとは思わない。