白昼夢1
白昼夢―真昼に見る夢。またそのような非現実な空想。
それは己の深層心理の中にある何かを白昼の中で認識することに違いない。それは超現実的であり、神仏を思い起こさせる。そして、あるときはその中で将来への光を見出すこともあるだろう。
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昔々、緑の深い山中に初老の僧が庵を結んでいた。
髪の毛はボサボサ、髭も生え放題、眼は死んだ魚のようだった。蚊が腕にとまっても血を吸っていても叩いたり、追い払ったりもしない。ただ生きる屍のようにぼうっと座って、日々を過ごしていた。
この僧、名を五常と称しているが、僧になる前は佐衛門という名を持っていた。
佐衛門は貧しい百姓の七男坊として生まれた。幼い頃に戦場で父が死に、受け継ぐ田畑が無かったため、十二歳になると仕事を求め各地を放浪した。時には瓜を売って歩き、時には農家で奴隷のように働いて何とか命を繋いでいた。ボロボロの衣服を着て、浪児として、いつもペコペコに腹を減らしていた。
折も折、日本は戦国時代のまっただ中だった。
あるとき豊かに反映している城下町があると、同じく放浪している仲間から噂を聞きつけ、その城下町にやってきた。
その城下町では、様々な物品が行きかい、至る所で商人が生活の物のあれこれを売っていた。佐衛門の生まれた貧しい村とは大違いだった。佐衛門は一文無しだったから、持っているものといったら、竹で作った水筒にいれた、近くの湧き水を汲んできた水のみだった。
さて、これからどうしようと思案して道端に座り込んでいると、立派な馬と一人の家来を連れた武者が佐衛門から少し離れた場所で馬を繋いで休んでいた。
その日はとても暑い日で、武者はしきりに「喉が渇いた」とつぶやいていた。
佐衛門は勇気をだして、その武者に近づいた。そして「近くの泉で汲んで来て湧き水ございます。お武家様に飲んでいただきとうございます」と声をかけた。
武者は一瞬、驚いた様子であったが、佐衛門が進めた湧き水を「では遠慮なく頂戴する」とごくごくと喉を鳴らして飲んだ。
武者は「うまい」と一言言った。そして、「お前はまだ若いようだの」と尋ねてきた。「十四でございます」と答えた。
武者は少し思案して、「お前の身なりは貧相だが、なかなか賢そうな顔をしている。どうじゃ、わしの屋敷で働かぬか」と言ってきた。こうやって、この武者に拾われた。
しばらくはその武者の家で雑用などをしていた。
武者は佐衛門のことを気にかけてくれたのか、いろいろなことを話してくれた。
この城下町が賑わっている理由は、お城のお殿様の政策のおかげで、民が豊かに暮せているということなど、様々なことを話してくれた。




