三ヶ月後。
「どうでしょう、レイさま!」
目を輝かせて、あの日出会ったケーキ職人がレイの前にケーキを差し出す。
ただ生クリームを積み上げて、飾り付けとけばいいんだろ、とばかりに果物を盛ったケーキを献上したのが三ヶ月前。
ケーキ職人の腕は、みるみるうちに上達した。
今差し出されたケーキには、高く盛られた生クリームはどこにもいない。
ホールの縁になだらかな曲線を描いて存在している。
ナパージュで艶を出した木いちごは、まるで宝石のようだ。
「不合格」
「ええ!?」
「中に果物詰め込み過ぎ。今はいいけど時間をおいたら形崩れるぞ。入れればいいってもんじゃない。適量って言葉を知らないわけじゃないよね?」
「すいません」
「あと、来月は恋人達の祝いがあるって聞いたけど、何するの?」
「え? ……何もしませんけど」
ケーキ職人が目を丸くして平然と言ってのける。
日本で言うバレンタインにあたるこの日を逃して、いつ儲けるつもりなのか。
他店ではチョコやクッキーのプレゼント包装をしているというのに、このケーキ職人は、いかに盛るかにかけている。
レイが目を離すと、すぐに生クリームの塔を建てるのがいい証拠だ。
「一年間の計画表立てて。イベント月には最低でも二週間、期間限定メニューを取り入れること。稼ぎ時だろ? みすみす手放すには惜しい」
「そ、そうですね!」
何にしようかなと言いながら空中を見て首をかしげる。
その頭を、レイが思い切り叩いた。
「お前の脳内で決めるな。紙に書けよ! 他の皆にいちいち説明して回るつもりか」
「なるほどー」
「なるほどじゃない!」
ふざけるな、という怒声が響くケーキ屋「銀の魔女」
レイは世界を救うことはなかったけれど、とあるケーキ屋の未来は救った。
余分なものをそぎ落とすって難しすぎる……。
ということで、小野チカでした!